ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
グランセル地方編(7/20 第37話修正)
第四十一話 地底に潜んでいた脅威 ~“輝く環”破壊指令~
<グランセルの街 遊撃士協会>

クローゼの真意がわからない部分があるものの、エステルとヨシュアはエルナンに事件解決の報告をした。

「お疲れ様でした。ですがもう少し手際良く解決してもらいたいものですね」
「ごめんなさい」

力量不足を指摘されたエステルはガッカリした顔で謝った。

「ですが、エステルさんとヨシュアさんが依頼人の気持ちを大切に考えようとしようとする姿勢は強く感じました。正遊撃士になってもそれ忘れずに頑張ってください」
「はい!」

エルナンが穏やかな笑顔を浮かべてエステル達に言うと、エステルは力いっぱい返事をして、ヨシュアと顔を合わせて嬉しそうな笑顔になった。

「そんな依頼人の意向を大切にできると信頼できるエステルさんとヨシュアさんに頼みたい仕事があります」
「な、何ですか?」

真剣な表情になって話し掛けてきたエルナンにエステルは身構えて聞き返した。
エルナンの仕事の依頼とは、クルツとカルナが遂行中の遺跡の探索の仕事だった。
遺跡は魔獣の数が多く、奥も深そうなのでエルナンは応援の遊撃士を送り込んで早めに解決しようと考えたのだ。

「でも、そういう話ならあたし達よりもシェラ姉やグラッツさんのような強い遊撃士も居るんだし……」

エステルが遠慮がちに答えると、エルナンは淡々とした口調でエステルに尋ねる。

「おや、エステルさんは自信が無いんですか、それではこの仕事は他の方に任せましょうか」
「い、いえ、是非やらせて下さいっ!」

慌ててエステルは話を打ち切ろうとしたエルナンを引き留めた。
エステル達が仕事を引き受けると確認したエルナンは、さらにエステルの目を見つめて念を押す。

「良いですか、これから話す内容は他言無用ですよ。特にエステルさんは声が大きいので街中でヨシュアさんとこの件について話したりしないでください」
「はい、分かりました……」

注意をされて、エステルは引きつったごまかし笑いを浮かべながらエルナンに答えた。
まずエルナンはエステル達に大聖堂に居るケビンとリースを迎えに行ってクルツとカルナと合流するように言った。
遺跡の奥にあるのは七耀教会の伝承に伝わるものらしいので、信頼の置ける教会関係者に協力を依頼したとエルナンは説明した。

「ケビンさんとリースさんは僕達も何度かお会いしてお世話になっていますけど、重要な話を任せられるほど信用できる方なんですか?」
「ええ、レナさんから信頼できる方だと紹介されましたし、カラント大司教の信用も得ているようですよ」

不安そうなヨシュアの質問にエルナンが答えた。

「母さんに相談したの?」
「ええ、リベール王国の遊撃士で最も頼りになるのはカシウスさん達ですからね。こちらも頼り続けてはいけないと思うのですが、後継者などが居たら心強いですね」

エルナンがそう言ってエステル達に思わせ振りな視線を向けると、エステルは顔の前で手を振って否定する。

「そんな、あたしが父さんを越えるなんて無理よ!」
「あれ、準遊撃士になるための試験を受ける日の朝なんか、たくさん功績を上げて越えてやる、とか言ってなかったっけ?」

ヨシュアはからかうようにエステルにツッコミを入れた。
エルナンも心なしか面白そうにエステルとヨシュアのやり取りを見ているように思えた。

「あの時は、父さんの苦労をまるで解ってなかったのよ。準遊撃士になって支部の推薦状をもらうのが大変だとは思わなかったし」
「そうだね、僕も軽い気持ちで遊撃士に憧れていた部分もあるかもしれない」

エステルがため息をついてそうつぶやくと、ヨシュアも同意してうなずいた。

「だいたいさ、父さんを越えるって言っても大きな戦争や事件が起きてくれないと功績の立てようがないじゃない」
「エステルさん、その考えはいけないと思いますよ」

エステルのぼやきを聞いて穏やかだったエルナンの表情が変わった。
そして厳しい表情でエステル達に向かって話し続ける。

「ましてや人々の血が流される革命など起こってはいけません、絶対に」
「ご、ごめんなさい、エルナンさん、言い過ぎました」

エステルが青い顔をして謝ると、エルナンも自分が熱くなりすぎたことに気がついて表情を和らげる。

「いえ、こちらの方こそ。話がすっかり横道に逸れてしまいましたね」
「それで、父さんや母さんはどうして依頼を引き受けなかったの?」

エステルが尋ねるとエルナンは苦笑しながら答える。

「レナさんは生誕祭でどのように露店の食べ歩きをするか、カシウスさんと作戦を立てるのに忙しいらしくて。戦争を止めた英雄の方は常人と違いますね」
「いや、そんなワガママを許しちゃう周りの人達の方がどうかしてるんじゃないの?」

エステルはあきれ顔で感心でするエルナンにツッコミを入れるのだった。



<グランセルの街 西区画 大聖堂>

エルナンはそれ以上エステルとヨシュアに詳しい仕事の内容は大聖堂で聞くように言い含めて遊撃士協会から送り出した。
エステルとヨシュアが大聖堂を訪ねると、ケビンが街の子供達に囲まれていた。

「ケビンさんは相変わらずすごい人気ね」
「うん、僕もケビンさんに会って神父様のイメージが変わった気がするよ」
「おや、どうなされました?」

入って来てケビンの様子を眺めているエステル達にカラント大司教が声を掛けた。

「あたし達、エルナンさんに言われてケビンさん達を迎えに来たんですけど」
「なるほど、あなた達が……では、こちらへお越しください」

エステルが用件を言うと、カラント大司教は真剣な表情になってエステル達を奥の部屋へと招き入れた。
静まり返った部屋の中で、カラント大司教はゆっくりとエステル達に話し始める。
遺跡探索の依頼人はアリシア王母である事。
グランセル城の地下深くには、封印区画と伝えられている古代文明時代の遺跡があると、リベール王家には伝えられている。
その遺跡には“輝く環”と言う世界を揺るがす大いなる力を秘める秘宝が眠っているとアリシア王母はかつて父王から聞いた。
しかし、アリシア王母は“輝く環”の話を自分の娘である現王妃や義理の息子であり現国王であるユーディス王には伝えていなかった。
特に富国強兵策を推し進めるユーディス国王が“輝く環”の話を知ったらそれを軍事利用とするのではないかと心配だったのだ。
だが、これから帝国や共和国と平和関係を長く維持していくためには将来の戦争の火種が存在してはいけない。
そう考えたアリシア王母は遺跡を調査し、可能ならばその“輝く環”を消し去ってしまいたいと決意した。
そしてアリシア王母は以前より信頼していたカラント大司教に相談を持ちかけた。
カラント大司教は七耀教会の総本山であるアルテリア法国に報告せずに、国家権力に捕らわれず民間人の安全を目的とする遊撃士教会に依頼することを提案した。
リベール王国を含めてどこの国の軍隊にも秘宝を渡せば戦争が起きると思ったため、自国の軍部にも“輝く環”の事を知られるわけにはいかない。

「そんな大変な依頼だったなんて……」
「うん……」

カラント大司教の話を聞き終えたエステルとヨシュアは深いため息をついた。
しかし、カラント大司教は怖気づきそうになったエステル達を励ますように優しい笑顔で声を掛ける。

「失敗を恐れていては成長しません、きっとエルナン殿やシスター・レナもあなた達を信じてこの依頼を託されたのでしょう」
「はい、精一杯頑張ります」
「あたしも」
「良い表情になりましたね」

ヨシュアとエステルが強い決意を瞳に秘めて答えると、カラント大司教は嬉しそうに穏やかに微笑んだ。

「司教さん、入るで」

エステル達が話しているとケビンがドアをノックして入って来た。
そしてリースも続けて入って来てドアを閉めた。
ケビンはエステル達の姿を見ると嬉しそうに声を掛ける。

「遊撃士協会から応援がくると司教はんから聞いとったけど、エステルちゃん達やったか」
「あたし達じゃあまり頼りにならないかもしれないけどね」
「そないなことあらへん、エステルちゃん達なら安心して背中を任せられるで、そうやなリース?」
「はい、お願いしますね」

エステルを励ますように言ったケビンの言葉に、リースはエステル達を見つめて穏やかに微笑んだ。

「お待ちしている間に、エステル殿とヨシュア殿に依頼の内容は話しましたよ」
「それはおおきに、じゃあさっそく出発しよか。遺跡の入り口で待っているカルナはん達を待ちぼうけさせるわけにもいかへんもんな」
「待って、その前にお弁当を買わないと」

ケビンの提案にリースがそう答えると、エステルとヨシュアはずっこけた。
カラント大司教はそんな様子を見てクスリと笑ってエステル達を教会から送り出したのだった。



<グランセル城 地下倉庫>

アリシア王母が調査依頼を出した遺跡の入り口は地下倉庫の奥にある。
エステル達が地下倉庫で身を潜めて待っていたクルツとカルナに声を掛けたが、クルツ達の顔色は悪かった。
心配になったヨシュアがクルツ達に尋ねる。

「いったいどうしたんですか?」
「どうやら、困った事になってしまったようだ」

ヨシュアの質問に答えたクルツは今朝の状況について話し始めた。
地下倉庫から遺跡に通じる入口の扉の鍵はアリシア王母が管理していた。
そして今はクルツが預かっているので、遺跡へはクルツとカルナしか入れないはずだった。
だが、リシャール率いる情報部は、地下水道から横穴を掘ると言う大胆な方法で遺跡への侵入を果たしたのだ。

「釣り場調査で会った時、リシャールさんは生誕祭の治安対策なんて言っていたけど、うそを付いていたのね!」
「そうだね、前から“輝く環”の情報をつかんでいたんだと思う」

悔しそうに話すエステルのつぶやきに、ヨシュアは同意してうなずいた。

「じっくり探索しようと思ったけどこうなったら時間が無い、情報部に見つかるリスクを覚悟して先に進むしかないわね」
「そうね、先にリシャールさん達に秘宝を手に入れられたらまずいもんね」

カルナの提案を聞いて、エステルは武器を握る手に力を込めた。
エステル、ヨシュア、クルツ、カルナ、ケビン、リースと総勢6人のメンバーを揃えて進むエステル達だったが、遺跡探索の障害となる魔獣はほとんど現れなかった。
おそらく先行したリシャール達が駆除してしまったのだろう。

「リシャールさん達はこんなに強いんだから、王様も“輝く環”なんて欲しがる必要なんかないのに」
「まったくだね」

エステルのぼやきに、カルナもウンザリとした顔で同意した。
しかし、遺跡の奥へと進んで行くうちにエステル達は情報部の隊員達に取り囲まれてしまった。

「遊撃士諸君、ここから先に進ませるわけには行かない、お引き取り願おうか」
「リシャールさん!」

情報部の隊員の列の中からリシャールが姿を現すと、エステルは驚きの声を上げた。
ケビンは鋭い目付きでリシャールをにらみつけて尋ねる。

「あんたら、この遺跡に何が眠っているのか知っとるんか?」
「手にしたものに強大な力を与える古代の秘宝と我々は聞いている」
「どうしてリシャールさん達が“輝く環”の事を知っているの!? アリシア様に依頼されたあたし達しか知らないはずなのに!」
「エステルっ!」

リシャールが答えるのを聞いて、驚いたエステルが興奮して叫んでしまうとヨシュアは厳しい口調でエステルを止めた。

「我々にも詳しい経緯は知らされていないが、“輝く環”の回収は王の命令だ。遊撃士の君達は介入出来無いはずだ」
「それでも、民間人の安全を保護するために引き下がれないと言ったらどうします?」
「どう言う意味だ?」

クルツの質問にリシャールは少し驚いて尋ねた。

「誰かが強大な力を手にすれば、それを巡って争いが起きる。私達はそれを止めるためにアリシア様に“輝く環”の破壊を命じられたのですよ」
「そうそう、世界の平和を守るためにね!」

クルツの答えにエステルもそう言って援護した。
すると、リシャールの側にいたカノーネが声を荒げて言い返す。

「そんな綺麗事を! ユーディス様は“輝く環”の力を使って帝国にも共和国にも負けない強いリベール王国を作ろうと考えておられるのです!」

カノーネの叫びを聞いて、ケビンがあきれたようにため息をもらす。

「あきれたもんやな、“情報部”と名乗るほどのもんなんやから、軍事力に頼らずに国を守ってみたらどうなんや」
「それは我々の努力が不足しているのだと言いたいのかね?」

リシャールは不機嫌さを隠さずにケビンに尋ねた。

「私達の祖国アルテリアは小さな国です、ですが地道な布教活動と情報収集によって国の独立性を保っています」
「ま、スパイ活動なんて汚い仕事もやってるんやけどな」

リースが凛とした態度で説明すると、ケビンがため息をついてそう付け加えた。

「リシャール殿も武力で解決しようとするユーディス王の考えに賛成なのですか?」
「我々はユーディス王の忠実な臣下でなければならない、そうでなければ国の命令系統はおかしくなってしまう」

クルツの質問にリシャールは辛そうな顔で答えた。

「どうやら、話し合っても無駄のようやね。これ以上あんたら情報部に探索のための時間稼ぎをさせるわけにはいかない、行かせてもらうわ」
「待ってくれ、我々の邪魔をするならばさらに強硬な手段を取らなければいけなくなる」

ケビンが身を乗り出すと、リシャールは慌てた表情になって制止した。
イラついた表情でカノーネがケビンに告げる。

「あなた達、状況が解っていまして? 銃を持った情報部の隊員達があなた達を取り囲んでいるのですよ!?」
「ふん、あんたらに守るべき自分の国の国民を撃つ事が出来るんか?」

ケビンはそう言って銃を構えている情報部の隊員達を見まわして自信たっぷりに言い放った。
すると、カノーネは怒気を含んだ射撃命令を情報部の隊員達に下す。

「私達は王のためなら悪魔にもなる決意ですわ、撃ちなさい!」
「止めろ!」

リシャールの叫びもすでに遅く、情報部の隊員達のうちの何人かは銃を撃ち放してしまった。

「エステル……!」
「ヨシュア……!」

エステルとヨシュアは無意識のうちに互いの体をかばって強く抱き合って目を閉じた。

「グラールスフィア!」

ケビンがそう叫ぶと、ケビン達の足元に巨大な星杯の紋章が浮かび上がった。
そして球体の光の薄い壁が発生し、ケビン達を包み込み銃弾から守った。

「あ、あれ……?」
「何とも無い……?」

痛みを感じなかったエステルとヨシュアは驚いて目をパチクリさせた。

「ど、どういう事です……?」

カノーネも無事なエステル達の姿を見て大きく口を開けて固まった。

「ああ、説明を忘れてたわ。ワイは攻撃を無効化する奥義クラフトを使えるんや。持続時間は短いんやけどな」
「やれやれ、本当にやられたと思ったよ」

カルナも緊張がとけたのか、大きくため息を吐き出した。
ケビンはまだ抱き合っているエステルとヨシュアを指差してリシャールに問い掛ける。

「ほら、この2人のように、王国と帝国も手を取り合って生きていくわけにはいかんのか?」

気が付いたエステルとヨシュアは顔を赤くしてパッと体を離した。

「馬鹿を言わないでちょうだい、国と人間が同じ次元で語れるわけがないでしょう!」

ケビンの言葉に強く反論したのはカノーネだった。
そんなカノーネに向かって、ケビンは落ち着いた口調で話す。

「何を言っとるんや、国を造っているのは領地でも城でもない、人間の集まりなんやで」
「妄信的に王に尽くすのがあなた達の忠誠なのですか? 真の忠臣であるのならば、王の間違いも正すべきだと私は思います」
「済まない、間違っていたのは我々の方だったな」

リースの言葉に胸を打たれたリシャールはガックリと膝を折った。



<グランセル城 封印区画>

エステル達は敵意を感じられなくなったリシャール率いる情報部の隊員達と共に遺跡探索を再開した。
考え方の違いから対立してしまったものの、リベール王国の平和のため生誕祭までに“輝く環”を何とかしなければいけない気持ちは同じだったのだ。
遺跡の魔獣は地上に居るものとはまるで違い、導力仕掛けの機械のような者ばかりだった。

「この遺跡は迷路のように複雑やなあ。人数が多くてホンマ助かるで」
「でも、裏切られたりしない?」

のんきな様子のケビンにエステルは不安そうに尋ねた。

「うーん、まず信じる事から始める事も大切やで? 自分から相手を信用しないと、相手にも気持ちが伝わらへんからな」
「はあ、さすが教会の神父さんって言ってる事が立派ね」

エステルはケビンの言葉を聞いてため息をついた。

「いやいや、コレはワイの人生経験からや。ワイは長い事、他人を信じる事が出来へんかったから、心を開くのに時間が掛かったで」
「私と姉さんはケビンのねじ曲がった性格を直すのにとても苦労した」
「せっかく良え話をしているのに、そこでツッコミを入れる事はあらへんやろ」

ケビンとリースの夫婦漫才のようなやり取りを見て、エステルは笑った。
そしてヨシュアが励ますようにエステルに声を掛ける。

「リシャールさんは僕達に協力して、王様に進言してくれるって約束してくれたんだし、破るような人じゃないと思うよ」
「でも、カノーネさんはさっきあたし達を撃って来たし……」

するとケビンはニヤついた顔でリシャールと話すカノーネを指差してエステルに話す。

「多分平気やないか? どうやら、王の命令よりリシャールはんの命令の方が絶対的のようやし」
「上官と部下の関係を越えた感情がありそうですね」
「そっか、カノーネさんはリシャールさんの事を……」

ケビンとリースの話を聞いて、エステルは納得したようにうなずいた。
そしてエステル達が遺跡の最深部の広い部屋にたどりつくと、そこは色の違う4本の柱が角に存在し、奥の台座には光る球体が浮かんでいた。

「あそこにあるのが、アリシア様が言っていた“輝く環”なの?」
「おお、あれが……」

思わずリシャールは目の色を変えてつぶやいた。
それに気が付いたクルツがリシャールに向かって叫ぶ。

「リシャール殿!」
「……済まない、強い力と言う誘惑には逆らい難いものだ。早く破壊してしまってくれ」

クルツに声を掛けられて正気を取り戻したリシャールは辛そうに顔を台座から背けながら言った。
ケビンとリースはエステル達が見守る中、ゆっくりと部屋の中を進み、奥の台座へと近づいた。
そしてリースは法剣を抜いて光る球体に向かって振りかざす。

「じゃあケビン、破壊するわよ」
「ああ、こないな物は無い方が良え」

リースが法剣を振り下ろすと、光の球は四散して消滅した。
部屋の入口の方から見守っていたエステル達からもホッとため息がもれた。
しかし、突然部屋の隅にあった4本の柱が床へと引き込まれ警報が鳴り響くと、エステル達は何が起こったのか解らずパニックになった。
そして部屋の壁が扉のように開け放たれ、暗い空間に4つの光る眼が浮かび上がる。

『“輝く環”の封印装置の解除を確認。生体反応有り……IDを照合』

男性でも女性でもない中性的な声が部屋に響き渡った。
エステル達は驚いて動けないでいた。

『侵入者有りと判断、索敵モード起動』

暗がりから大きな足音を立てて部屋の中へと姿を現したのはエステルの倍の身長はありそうな二足歩行する巨大な機械兵器だった。
さらに浮遊する2体の機械兵器もその巨大兵器の左右に1体ずつそれぞれ浮かんでいた。

「な、何なの、こいつ!」
「危ない、エステル!」

エステルの驚いた大声に反応したのか、機械兵器はエステルに照準を定めて機関銃や雷撃を放って来た!
ヨシュアが体を張ってエステルを突き飛ばした。

「ヨシュア、大丈夫?」
「うん、僕も何とか攻撃を交わせたよ」

機械兵器を敵と認識したリシャール達情報部の動きは早かった。
エステルとヨシュアが安全な場所に避けると一斉に攻撃して浮遊していた機械兵器を叩き落とした。
しかし、もう片方の機械兵器はたいしてダメージを受けた様子も無く浮遊している。

「あちらで浮かんでいる機械兵器には武器攻撃が効きにくいのかもしれません、アーツで攻撃しましょう」
「解った」

カルナはクルツの提案にうなずくとアーツの詠唱を始めた。
射撃の腕はかなりのものだが、アーツも中々のものなのだ。
ケビンやリース、ヨシュアも続けてアーツの詠唱を開始した。
武器攻撃が主流のエステルやリシャール達は巨大な機械兵器を足止めして援護をする。
そしてアーツの集中砲火によって浮遊していた機械兵器が撃沈された時、巨大な機械兵器の方もボロボロになっていた。

「もうちょっとで倒せそうね!」

エステルが楽観的な笑顔でそうヨシュアに話し掛けた時、巨大な機械兵器に異変が生じた。

『損傷度70%超過。殲滅ジェノサイドモードに移行』

巨大な機械兵器から先ほどの声が発せられ、形を変形させて行った。
そして、小さな芋虫のような形の機械兵器が部屋の壁のいろいろな場所から姿を現した。
さらに巨大な機械兵器の腹部には長く伸びた巨砲が姿を現した。

「あの砲撃を食らったらひとたまりも無さそうだね」

カルナがその巨砲を見て冷汗を垂らしながらつぶやいた。

「あの小さい機械兵器も数が多そうです」

クルツは部屋の中を見回してそう言った。
エステル達にも絶望感が広がり始めた時、リシャールは大きな声で励ます。

「希望を捨てるな、全員生きて帰るんだ!」

リシャールの鶴の一声で奮い立ったエステル達は、コンビネーションで巨大な機械兵器と周囲の小型機械兵器と戦いを始めた。

『導力エネルギー重点開始』

巨大な機械兵器の方もその巨砲で攻撃を仕掛けてくる。
エステル達は巨大な機械兵器への武器攻撃よりも常に砲撃を警戒し、巨大な機械兵器がエネルギーの充填を始めた時には砲撃の進路から徹底して逃げる作戦をとった。
その作戦が上手く行ったのか、砲撃の直撃を受けるものは居なかった。
長い戦いの末、巨大な機械兵器が倒れると、周囲の小型機械兵器も動きを止めた。

「どうやら、僕達は勝てたみたいだね」
「やったあ!」

ホッとしてつぶやいたヨシュアに、エステルが笑顔で飛び付いて抱きついた。
情報部の隊員達からも嬉しそうな声が上がる。
だが、クルツは考え込むような顔になってケビンに尋ねる。

「今のは“輝く環”の守護者なんでしょうか? 戦う前に封印がどうとかいう言葉が聞こえてきたのですが……」

すると、ケビンの顔が真っ青になる。

「封印……まさか……そうだとしたら、何て事をしてしまったんや!」
「どうしたのケビン?」

リースがケビンの顔色が悪くなったのを心配して声を掛けた。
エステル達もケビンの様子を見て、嬉しい気分はどこかへと吹き飛んでしまった。

「ここにあったのは“輝く環”を封印するための物だったんや……それを破壊してしまったと言う事は……」
「“輝く環”が解放されちゃうって事……!?」

ケビンのつぶやきを聞いて、エステルが驚きの声を上げると、部屋に重い沈黙が流れるのだった……。
拍手を送る
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。