ヒーロー、それは弱きを助け強きをくじく漢の中の漢。
そんな漢の中の漢である存在を研究し、近づこうとするのが我がヒーロー研究部の目的である。 部員は現在二名。
その内訳は二年の俺と三年の霧嶺竜虎(きりみねりゅうこ)先輩だ。
「ぷふふっ」
今俺は部室のテレビで仮○ライダーのファーストを見ている。展開はクライマックスを迎え悪の総帥との対決を控えた仮面ライ○ーが、公園のブランコで黄昏れていると、ふとサッカーボールが彼の脚に当たり、それを取りにきた少年にボールを渡してあげると笑顔で「お兄さんありがとう!」と言われ、主人公は子供達の笑顔を守るために最後の戦いに命を賭して挑むという決意を固めるという感動のシーン……らしいが。
「こら!! 何で笑ってるんだお前は! そういうシーンじゃ無いだろ!」
そんなこと言われても。
「いや~~、どうみたってこの人お兄さんって面じゃないでしょ!!」
「確かに老け顔だが……」
「でしょ!? なんか最近の見慣れてるとギャップがありすぎて笑っちゃうんですよね~~」
最近の主役はイケメンばっかりだし。
まぁファーストの人もかっこ悪いわけじゃないんだけど……ねぇ?
「ばかやろー!」
「げふっ!!」
殴られた……。
「笑ってないでこのビデオを見てヒーローに必要なものとは何かレポートでまとめろ! 今度の文化祭で部員が入らなきゃ廃部になるんだぞ!」
「え~~、恥ずかしいですよ……やらなきゃ駄目ですか?」
「当たり前だ! 廃部になってもいいのか!?」
「いやそもそも……こんなので部員なんか来るんですか?」
「わからん……それでもやらないよりはましだろ、たかが文化祭、されど文化祭だ」
先輩は腕を組んで威張ってる。
「りゅうこ先輩がやればいいじゃないですか……」
「私は……文章とか書くの苦手なのだ……帰国子女だし」
「先輩は六歳の頃からずっと日本に住んでるんですよね? 理由にならないですよ! 酷いっすよ! 部長なんだから何かやってくださいよ!」
「むぅ……何をやれというのだ……」
「そうですね~~……例えば今やってるライダーの敵役の女幹部のコスプレして客引きついでに部員も勧誘したらどうですか? 絶対人集まりますよ! 先輩スタイルもいいし美人じゃないで、ぎゃふっん! ……何で殴るんですか……ちょっと舌噛んじゃいましたよ……」
「私のことを美人じゃ無いと言っただろ」
「美人じゃないですか!! って言おうとしたんです! ちゃんと人の話は最後まで聞いてくださいよ!」
「……日本語は難しいな……」
「勘弁してくださいよ……そもそもヒーローに憧れてる人が弱者に対して暴力をふるうのはどうなんですかね?」
「……何を言っている。お前本気を出せば私より強いだろ? 入部の時、空手で段持ってるって言ってたじゃないか」
「いや……通信なんでね……金さえ払えばとれるんですよ……そもそも普通に空手やってるぐらいじゃ先輩には勝てないでしょ」
「そうなのか?」
「そうですよ……見てくださいこの壁」
俺が部室に貼ってあるジャッキーのポスターを剥がすと拳の形に凹んだ部室の壁が露わになる。
「ん? それがどうかしたのか?」
「これは先輩と部室でボクシングごっこしたときのです、普通の人がコンクリートの壁にこんな跡残せると思いますか? 空手の有段者でも無理だと思いますよ?」
「そういうものか……?」
「当たり前です! そもそも最初から壁を狙ってたならまだしもからぶったのがたまたま当たっただけでこうなるんですよ? 普通の人なら涙目でいたたってなるだけです!」
「あはは、お前面白いこと言うなっ…」
……先輩は笑っているが……今の発言の中の何処か面白い所があったのか?
相変わらず、先輩の笑いのツボは謎だ。
ていうか、先輩笑ってるけど、もしあの時の一撃が俺に直撃したら下手したら死んでたんだから、とても笑えるような話ではないと思うんだが。
あれ以来、先輩と肉体的なスキンシップをはかるような事は極力避けているし、あったとしても死に際のパトラッシュに対する力加減で接触するように頼んでいる。
それでも痛いけど。
「それより先輩、話を戻しますけど、文化祭でのコスプ……いや部員勧誘の件どうするんです」
「部員勧誘はやろうと思っていたけど……女幹部の格好するのはちょっと恥ずかしいな」
まぁそりゃそうだろう……ほとんど裸だもんなあれ……。だから見たいのだが。
「だが、それで部員が集まるというなら……やろうじゃないか」
「えぇ!?? ……ま、マジですか?」
「漢に二言は無い」
まじかよ……この台詞は絶対約束守る時のやつじゃん……。
まさか先輩の女幹部デボーネのコスプレが見れるなんて……地球に引っ越してきて良かった~~!!」
「せ、先輩衣装はどうするんですか? 俺調達してきましょうか?」
「あぁ、衣装か、それなんだけどな……実は持ってるんだよ、相当リアルに再現したのを」
まじかよ!!!! まさか先輩にあんなえろいコスプレする趣味があったとは……ていうかリアルに再現したらあれ角度によってはいろいろ見えちゃいけないとこも見えるんじゃ……こりゃ、当日はカメラ持参だな。ぐへへ。
文化祭当日。
俺は早速先輩のコスプレ姿を拝むために部室に走った。
おそらく、先輩のコスプレ姿を見られるのは俺一人だろう。だって、デボーネのコスプレなんてしてたら、絶対先生に止められるしね。
もう既に着替えて待っている先輩の姿を一目見てそれを伝えようと、俺はそう思っていた。
ガラツ。
「むふふ~~先輩~~?」
「ごひゃふ?」
「ぎゃあ~~!?!?」
ピシャンッ!!!
な、何だ今の化け物みたいなのは………虫? 巨大な虫だったぞ……どういう事だ?
何か生物の進化を促進させるような地球規模の異変でも起きたのか?
そんなニュースは朝は無かったぞ。
……俺が学校に登校している僅かな時間に起きたというのかっ……!? 異変がっ……!?
ってそんな訳ねーー。
「つまり……あれは幻覚か? いやあんなはっきりした幻覚なんてあるわけが無い……」
ということは誰かの悪戯か?
ちっ……たちのわりー悪戯しやがって……俺が先輩と二人っきりで活動しているのを妬んだくそやろーの仕業だな?
有力候補はインフルエンザで一週間も学校を休んでいた根岸だな……何しろ相当リアルな着ぐるみだ……作るのに相当時間が掛かるのは間違いない。しかもあいつ怪人マニアだからな……。
そういえば今期の朝アニメの悪役にあんなの居たような気がする。
ガラッ。
「おい、竜次郎、入らないのか?」
「あっ、先輩……」
……。
「ぎゃあああーーー!!!! 先輩じゃ無いーーー!!!」
げしっ。
「失礼な事を言うなっ!!! 私はお前の先輩だぞっ!!」
「え?」
この声は……。このグロテスクな虫型怪人から聞こえてるのか?
「しかしそこまで驚くとはリアルにつくりすぎたかもな……」
虫が顔の部分を手でもぎ取ると、そこには先輩の綺麗なお顔がございましたのでござる。
うわ、ちょっと動揺しすぎだぞ、俺。なんだよ、ございましたのでござるって。
「……先輩、それってなんですか?」
「何を言ってるんだ? お前が女幹部のコスプレをしてこいって言ったんじゃないか、ほら見ろ、女王蜂怪人サシチャウーゾだぞ、あっ、この針の部分は危ないから触るなよ……毒があるから」
「そんな部分まで再現してるんですか……」
てか、あの怪人って雌だったのかよ。あんなの性別なんか気にしたことねーし。
「どうしたんだ? そんながっかりした顔をして……お前、まさか……私がデボーネの格好してくると思ってたんじゃないだろうな?」
ぎくっ。
「……まっ、まっさっか~~あんな痴女みたいな格好先輩がするわけじゃないっすか~~……ははは」
「怪しいぞ……そういえば昨日はやたら嬉しそうだったし、鼻の下も伸びていた」
だ、断定された。まぁ伸びてたと思うけど。
「元々長いだけですよ……」
「まぁいいか」
なんとか誤魔化せた。しかし、まさか先輩がこんな格好してくるとは……こんなので客引きされてもむしろ逃げられちゃうんじゃないだろうか。子供とか普通に泣くと思う。
ガラッ。
「よ~~、ゴミども~~元気にやってるか……ってうひょふあぃ!!! なんだそれ!!」
あ、豚川シズル先生だ。なんか腰を抜かしてパンツが見えているじゃないか。
カメラ、カメラ……あった。でももう立っちゃったから遅いや。
「一体全体どういうことなんだいこりゃ……ぐれたのかゴミども……」
豚川シズル先生はヒーロー部の顧問である。
ぽっちゃり体型とロリ顔、そして生徒の事をスカイツリーぐらい上から目線で見下してくる人だ。本人曰く、小さい頃苗字でいじめられた経験で性格がゆがんでしまったから、自分は悪くないんだそうだ。
「おはようございますシズル先生」(先輩)
「おはようございます豚川先生」(僕)
「てめっ……苗字で呼ぶなっていつも言ってんだろうが!!」
「そんなに親しくも無いですし」
「ちっ!! こんな部さっさと廃部になっちまえばいい! ぺっ!」
カシャ。
「ひょわいい!?」
「学校内で唾を吐く豚川先生……先生ってすぐこういう弱み握らせてくれますよね……他にも色々ありますよ」
「お前……私を脅す気かっ……?」
「……まぁ、そうですね、脅してますよ」
「わざわざ顧問になってやった恩義を忘れたのか!? 人間として最低だなお前!!」
「いやぁ、あれは先生が近所の飼い犬に石を投げてるのを黙っておくのと交換条件だったじゃないですか」
「そんな事をしていたのかっ……!? 悪だなこの女、やっつけようか」
「ちょ、ちょっと待て! ……あ、あれは、あの犬が昔私を噛んだ犬に似てたのが悪いんだぞ」
何その理論。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってか? いや、それとはちょっと違うかな?
「しかしこれリアルにできてるな……すごいリアルだ……いてっ!」
あ、刺さった。慌ててる。可愛い。
「いってぇ~~な……なんで針までリアルティー追求してるんだよ……おかしいだろ」
「や、やばいぞ……」
「え? なんで慌ててるの? こんなの舐めときゃなおるって」
……舐めてる……早めに回るなこりゃ(毒)。
「……先生その針毒があるらしいですよ」
「はっ!?? ……何で!?」
俺に聞かれても……答えは持ってない。
「先生申し訳ない……極限までリアルを追求した結果なのだ……諦めてくれ」
「あきらめるって!? も、もしかして、た、助からないのかっ!? そういえばなんか動悸が止まらないっ!」
「猛毒だ……確実に死ぬ……と思う」
「猛毒なのっ!? あっ……あっ……」
ばたん。
「先輩倒れちゃいましたよ……ていうか猛毒なんですか?」
「幹部クラスだからな」
そうか……。俺が犠牲にならなくてよかった。
「とりあえず救急車呼びましょう」
ピーポー。ピーポー。
二日後、豚川先生は奇跡的に復活した。針に仕込まれていた毒に対する抗体が奇跡的にあったおかげだったらしい。ちなみにヒーロー研究部は廃部になった。
まぁ……当然だろう。