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[29782] 【チラ裏より】君のためなら悪になる(コメディ)
Name: 革命歌◆89da8b70 ID:64c933cc
Date: 2011/09/17 18:29
 この作品はコメディです。
 拙い作品ではありますが、読んでいただいた方に少しでも楽しんでいただければ幸いです。
 
 9月17日にチラ裏よりオリジナル板に移動しました。



[29782] 第一話 俺と先輩
Name: 革命歌◆89da8b70 ID:64c933cc
Date: 2011/09/16 18:43
 ヒーロー、それは弱きを助け強きをくじく漢の中の漢。
 そんな漢の中の漢である存在を研究し、近づこうとするのが我がヒーロー研究部の目的である。 部員は現在二名。
 その内訳は二年の俺と三年の霧嶺竜虎(きりみねりゅうこ)先輩だ。

「ぷふふっ」
 
 今俺は部室のテレビで仮○ライダーのファーストを見ている。展開はクライマックスを迎え悪の総帥との対決を控えた仮面ライ○ーが、公園のブランコで黄昏れていると、ふとサッカーボールが彼の脚に当たり、それを取りにきた少年にボールを渡してあげると笑顔で「お兄さんありがとう!」と言われ、主人公は子供達の笑顔を守るために最後の戦いに命を賭して挑むという決意を固めるという感動のシーン……らしいが。

「こら!! 何で笑ってるんだお前は! そういうシーンじゃ無いだろ!」
 そんなこと言われても。
「いや~~、どうみたってこの人お兄さんって面じゃないでしょ!!」
「確かに老け顔だが……」
「でしょ!? なんか最近の見慣れてるとギャップがありすぎて笑っちゃうんですよね~~」
 最近の主役はイケメンばっかりだし。
 
 まぁファーストの人もかっこ悪いわけじゃないんだけど……ねぇ?
 
「ばかやろー!」
「げふっ!!」
 殴られた……。
「笑ってないでこのビデオを見てヒーローに必要なものとは何かレポートでまとめろ! 今度の文化祭で部員が入らなきゃ廃部になるんだぞ!」
「え~~、恥ずかしいですよ……やらなきゃ駄目ですか?」
「当たり前だ! 廃部になってもいいのか!?」
「いやそもそも……こんなので部員なんか来るんですか?」
「わからん……それでもやらないよりはましだろ、たかが文化祭、されど文化祭だ」
 
 先輩は腕を組んで威張ってる。

「りゅうこ先輩がやればいいじゃないですか……」
「私は……文章とか書くの苦手なのだ……帰国子女だし」
「先輩は六歳の頃からずっと日本に住んでるんですよね? 理由にならないですよ! 酷いっすよ! 部長なんだから何かやってくださいよ!」
「むぅ……何をやれというのだ……」
「そうですね~~……例えば今やってるライダーの敵役の女幹部のコスプレして客引きついでに部員も勧誘したらどうですか? 絶対人集まりますよ! 先輩スタイルもいいし美人じゃないで、ぎゃふっん! ……何で殴るんですか……ちょっと舌噛んじゃいましたよ……」
「私のことを美人じゃ無いと言っただろ」
「美人じゃないですか!! って言おうとしたんです! ちゃんと人の話は最後まで聞いてくださいよ!」
「……日本語は難しいな……」
「勘弁してくださいよ……そもそもヒーローに憧れてる人が弱者に対して暴力をふるうのはどうなんですかね?」
「……何を言っている。お前本気を出せば私より強いだろ? 入部の時、空手で段持ってるって言ってたじゃないか」
「いや……通信なんでね……金さえ払えばとれるんですよ……そもそも普通に空手やってるぐらいじゃ先輩には勝てないでしょ」
「そうなのか?」
「そうですよ……見てくださいこの壁」

 俺が部室に貼ってあるジャッキーのポスターを剥がすと拳の形に凹んだ部室の壁が露わになる。

「ん? それがどうかしたのか?」
「これは先輩と部室でボクシングごっこしたときのです、普通の人がコンクリートの壁にこんな跡残せると思いますか? 空手の有段者でも無理だと思いますよ?」

「そういうものか……?」

「当たり前です! そもそも最初から壁を狙ってたならまだしもからぶったのがたまたま当たっただけでこうなるんですよ? 普通の人なら涙目でいたたってなるだけです!」

「あはは、お前面白いこと言うなっ…」

 ……先輩は笑っているが……今の発言の中の何処か面白い所があったのか?
 相変わらず、先輩の笑いのツボは謎だ。
 ていうか、先輩笑ってるけど、もしあの時の一撃が俺に直撃したら下手したら死んでたんだから、とても笑えるような話ではないと思うんだが。
 あれ以来、先輩と肉体的なスキンシップをはかるような事は極力避けているし、あったとしても死に際のパトラッシュに対する力加減で接触するように頼んでいる。
 それでも痛いけど。
「それより先輩、話を戻しますけど、文化祭でのコスプ……いや部員勧誘の件どうするんです」
「部員勧誘はやろうと思っていたけど……女幹部の格好するのはちょっと恥ずかしいな」
 
 まぁそりゃそうだろう……ほとんど裸だもんなあれ……。だから見たいのだが。

「だが、それで部員が集まるというなら……やろうじゃないか」
「えぇ!?? ……ま、マジですか?」
「漢に二言は無い」

 まじかよ……この台詞は絶対約束守る時のやつじゃん……。
 まさか先輩の女幹部デボーネのコスプレが見れるなんて……地球に引っ越してきて良かった~~!!」
「せ、先輩衣装はどうするんですか? 俺調達してきましょうか?」

「あぁ、衣装か、それなんだけどな……実は持ってるんだよ、相当リアルに再現したのを」

 まじかよ!!!! まさか先輩にあんなえろいコスプレする趣味があったとは……ていうかリアルに再現したらあれ角度によってはいろいろ見えちゃいけないとこも見えるんじゃ……こりゃ、当日はカメラ持参だな。ぐへへ。

 文化祭当日。

 俺は早速先輩のコスプレ姿を拝むために部室に走った。
 おそらく、先輩のコスプレ姿を見られるのは俺一人だろう。だって、デボーネのコスプレなんてしてたら、絶対先生に止められるしね。
 もう既に着替えて待っている先輩の姿を一目見てそれを伝えようと、俺はそう思っていた。
 ガラツ。
「むふふ~~先輩~~?」
「ごひゃふ?」
「ぎゃあ~~!?!?」
 
 ピシャンッ!!!
 
 な、何だ今の化け物みたいなのは………虫? 巨大な虫だったぞ……どういう事だ?
 
 何か生物の進化を促進させるような地球規模の異変でも起きたのか?
 そんなニュースは朝は無かったぞ。
 ……俺が学校に登校している僅かな時間に起きたというのかっ……!?  異変がっ……!?
 ってそんな訳ねーー。

「つまり……あれは幻覚か? いやあんなはっきりした幻覚なんてあるわけが無い……」
 ということは誰かの悪戯か? 
 ちっ……たちのわりー悪戯しやがって……俺が先輩と二人っきりで活動しているのを妬んだくそやろーの仕業だな? 
 有力候補はインフルエンザで一週間も学校を休んでいた根岸だな……何しろ相当リアルな着ぐるみだ……作るのに相当時間が掛かるのは間違いない。しかもあいつ怪人マニアだからな……。
 そういえば今期の朝アニメの悪役にあんなの居たような気がする。
 ガラッ。
「おい、竜次郎、入らないのか?」
「あっ、先輩……」

 ……。

「ぎゃあああーーー!!!! 先輩じゃ無いーーー!!!」
 げしっ。
「失礼な事を言うなっ!!! 私はお前の先輩だぞっ!!」
「え?」
 この声は……。このグロテスクな虫型怪人から聞こえてるのか?
「しかしそこまで驚くとはリアルにつくりすぎたかもな……」
 虫が顔の部分を手でもぎ取ると、そこには先輩の綺麗なお顔がございましたのでござる。
 うわ、ちょっと動揺しすぎだぞ、俺。なんだよ、ございましたのでござるって。
「……先輩、それってなんですか?」
「何を言ってるんだ? お前が女幹部のコスプレをしてこいって言ったんじゃないか、ほら見ろ、女王蜂怪人サシチャウーゾだぞ、あっ、この針の部分は危ないから触るなよ……毒があるから」
「そんな部分まで再現してるんですか……」
 てか、あの怪人って雌だったのかよ。あんなの性別なんか気にしたことねーし。
「どうしたんだ? そんながっかりした顔をして……お前、まさか……私がデボーネの格好してくると思ってたんじゃないだろうな?」
 ぎくっ。
「……まっ、まっさっか~~あんな痴女みたいな格好先輩がするわけじゃないっすか~~……ははは」
「怪しいぞ……そういえば昨日はやたら嬉しそうだったし、鼻の下も伸びていた」
 だ、断定された。まぁ伸びてたと思うけど。
「元々長いだけですよ……」
「まぁいいか」
 なんとか誤魔化せた。しかし、まさか先輩がこんな格好してくるとは……こんなので客引きされてもむしろ逃げられちゃうんじゃないだろうか。子供とか普通に泣くと思う。
 
 ガラッ。


「よ~~、ゴミども~~元気にやってるか……ってうひょふあぃ!!! なんだそれ!!」
 
 あ、豚川シズル先生だ。なんか腰を抜かしてパンツが見えているじゃないか。
 カメラ、カメラ……あった。でももう立っちゃったから遅いや。

「一体全体どういうことなんだいこりゃ……ぐれたのかゴミども……」

 豚川シズル先生はヒーロー部の顧問である。
 ぽっちゃり体型とロリ顔、そして生徒の事をスカイツリーぐらい上から目線で見下してくる人だ。本人曰く、小さい頃苗字でいじめられた経験で性格がゆがんでしまったから、自分は悪くないんだそうだ。

「おはようございますシズル先生」(先輩)
「おはようございます豚川先生」(僕)
「てめっ……苗字で呼ぶなっていつも言ってんだろうが!!」
「そんなに親しくも無いですし」
「ちっ!! こんな部さっさと廃部になっちまえばいい! ぺっ!」
 
 カシャ。

「ひょわいい!?」
「学校内で唾を吐く豚川先生……先生ってすぐこういう弱み握らせてくれますよね……他にも色々ありますよ」
「お前……私を脅す気かっ……?」
「……まぁ、そうですね、脅してますよ」
「わざわざ顧問になってやった恩義を忘れたのか!? 人間として最低だなお前!!」
「いやぁ、あれは先生が近所の飼い犬に石を投げてるのを黙っておくのと交換条件だったじゃないですか」
「そんな事をしていたのかっ……!? 悪だなこの女、やっつけようか」
「ちょ、ちょっと待て! ……あ、あれは、あの犬が昔私を噛んだ犬に似てたのが悪いんだぞ」
 
 何その理論。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってか? いや、それとはちょっと違うかな?

「しかしこれリアルにできてるな……すごいリアルだ……いてっ!」
 
 あ、刺さった。慌ててる。可愛い。

「いってぇ~~な……なんで針までリアルティー追求してるんだよ……おかしいだろ」
「や、やばいぞ……」
「え? なんで慌ててるの? こんなの舐めときゃなおるって」
 ……舐めてる……早めに回るなこりゃ(毒)。 
「……先生その針毒があるらしいですよ」
「はっ!?? ……何で!?」

 俺に聞かれても……答えは持ってない。

「先生申し訳ない……極限までリアルを追求した結果なのだ……諦めてくれ」
「あきらめるって!? も、もしかして、た、助からないのかっ!? そういえばなんか動悸が止まらないっ!」
「猛毒だ……確実に死ぬ……と思う」
「猛毒なのっ!? あっ……あっ……」
 
 ばたん。
 
「先輩倒れちゃいましたよ……ていうか猛毒なんですか?」
「幹部クラスだからな」

 そうか……。俺が犠牲にならなくてよかった。

「とりあえず救急車呼びましょう」
 
 ピーポー。ピーポー。

 二日後、豚川先生は奇跡的に復活した。針に仕込まれていた毒に対する抗体が奇跡的にあったおかげだったらしい。ちなみにヒーロー研究部は廃部になった。
 
 まぁ……当然だろう。



[29782] 第二話 囲碁部とグレムリン
Name: 革命歌◆89da8b70 ID:64c933cc
Date: 2011/09/17 15:13
 
 文化祭の一件で廃部になってしまったヒーロ研究部(略してヒーケン)ですが、ヒーロ研究会と名前を変え、部室を不法占拠しながら活動を続けています。
 
 まぁ活動と言ってもヒーローアニメ見てるぐらいだけど。
 
 しかし!! そんな平和な我が部の日常を脅かす存在が来訪した!

「おい! おまえら今日中に荷物を片付けとけって言っただろうが!!」
 
 ……この部室を使うことになった囲碁部の顧問の笹森金治だ。
 囲碁部の顧問の癖にゴリラとヤクザを足して2で割ったようなフェイスが恐怖を誘う。
 ちなみにあだ名はゴリクザーだ。

「先生って強そうですね」
「は?」
「いや~~迫力もあるし、顔も渋いし喧嘩も強そーだし頭もいいし、男として必要なものを全て持ってるんじゃないですか? 俺も先生みたいになりたいな~~」
「ま、まぁ~~な……!!」
 
 ゴリクザーが赤くなってる。顔の割に意外とピュアだなこの人。

「というわけで先輩に胸をかしてもらえませんか」
「え? 何だって?」
「よろしくお願いします」 

 先輩は笹森先生に一礼する。

「え? ちょっと……」
「とりゃ」
「ごふっ!!」
「先輩……容赦無いですね……床にめり込んでますよ……生きてるのかな?」
「私はちゃんと手加減した……かろうじて生きてるはずだ……多分な」
「これからは、人の命は大切に扱いましょうね」
 
 つんつん……ぴくん。
 あ、生きてるな。さすがゴリクザー頑丈だ。
 
「万が一にも部室を奪われる訳にはいかんからな」
「でも大丈夫ですかね? 教師に蹴り入れて」
「……女にやられたなんて言えない筈だ」
「う~~ん……」

 本当にそうだろうか? ていうか言わなかったとしても、こんな不法占拠長くは続かないと思う。やはり、元凶から断つべきだ。

「囲碁部って今まで部室もらえなかったのって何でか知ってます?」
「知らんな、そもそもいごって何だ? 生きてるのか?」
「あそこって今まで部員3人しかいなくてクラブ扱いだったんですよ、でも文化祭の件でヒーロー部が廃部になって部室が開いたんで、他に部室が欲しいクラブが無かったんで今回囲碁部がこの部室を使う事になったんですよ」

「そうなのか……つまりいご部は邪悪な敵組織……やっつけにいくか」

「ちょっと待ってください! 暴力はまずいです! そもそも囲碁部は普通の部活ですし」

「ならどうする! 私は力以外の解決方法を知らんぞ!」

 ……スゴイなこの人は……。普通そんなこと威張って言えるか?

「まぁまぁ……俺にいい考えがあるんで、任しといてください」
「わかった……この部室を手に入れたのもお前のおかげだったからな……任せようではないか」
「じゃあ、これ書いといてもらえますか?」
「なんだこれは……?」

 次の日。
 
 囲碁部(元ヒーロー研究部室)にて。

「いや~~何とか無事に部室が手に入ってよかったね~~」
「そうっすね~~部長~~おい鮎川! お前も手伝えよ!」
「私眠たい……」
「そんなのありかよ!」
「ありだよ……ね、部長」
「え!? ……うん、まぁ……女の子だし……ゆっくりしててよ」
「部長はこの糞めがねに甘すぎますよ!! こんなの容姿だけが取り柄の根暗めがねじゃないですか!」
「でも……可愛いし……付き合ってるし……」
「え? なにそれ?」
「あ、狸山には言ってなかったけ? 俺たち付き合ってるんだよね……」
「あっ……やばい……」
「俺も……付き合ってるんですけど……」
「は? どういう事だよ、あけみは俺と付き合ってるんだぞ? お前と付き合う分けないじゃにないか……なぁあけみ」

 そ~っと部室のドアに近づき逃げ出そうとする鮎川あけみ。俺の調べでは彼女は三股を掛けていたらしい。それを交渉のカードに使おうと思っていたけど既にばれかかっているようだ。
 こうなりゃもう行くか。ガラッ。

「どうも~~こんにちわ~~~板東です~~ゆで卵食べる?」
 
 俺の名前は板東竜次郎。ゆで卵は持っていない。

「霧嶺なのだ! 控えおろー!」

 先輩は水戸肛門の紋所を掲げて威張っている。

「お前ら……ヒーケンの奴らじゃないか……で、何か用か?」

 うわっ、めっちゃピリピリしてる。これが修羅場ってやつか……おもしろいな~。

「やだな~~部長さん~~警戒しないでくださいよ、僕たち入部しに来ただけです、ね、霧嶺先輩」
「その通りだ! 正確に言うならこの囲碁部を乗っ取ってヒーケンにするためにやってきたのだ!! いわば、正義の使者なのだ!!」
 先輩……本音は言わない約束だったじゃないですか……。
「は? お前らなんか入れられるわけねーだろ!! 帰れ! こっちはたてこんでんだよ!!」
 
 ちっ……狸面の平部員デブが……しゃしゃりでてくるんじゃねぇよ。

「いいんですかね~~? 一ヶ月以内に部員を五人集めないとクラブに戻っちゃうんでしょ? そんな状況で断れるんですか?」

「か、関係ねーよ! そもそもお前らなんかにゴリクザーが入部届に印鑑押してくれるわけねーだろ!!」

「……してくれましたよ?」
「なっ!? どうしてっ!? 何か弱みでも握ってんのか!?」

 鋭いな。狸のくせに。いや狸ゆえなのか?

「というかもう受理されちゃったんですよね~~……なんなら聞いてきたらどうですか?」
「私行ってくるね!」
「お前は待て!!」
「きゃっ! なにすんのよ狸っ! デブッ! いっとくけどあんたとは遊びよ!」
「なんだとこのやろ~~!! おなかの感触がやわらかくて気持ちいいって言ってたのは嘘だったのか~~!!」
「それは本当よ!」
 なんかよく分からない揉め方してるぞ……。
「やめないか!! 女性に暴力は! いついかなる時でも囲碁部員としての誇りを忘れるな!!」
「部長あんたは悔しくないのか!! 二股掛けられてたんだぞ!」
「いやまぁ……確かにちょっと嫌だったけど、狸山が遊びなら俺が本命って事でしょ? ……それならいいかな……へへ」
 照れ笑いするめがねの囲碁部部長……。
「はっ? 何勘違いしてんの? あんたも遊びなんだけど」
 しかし現実はそんなに甘くなかった。
「え?」

 ガラッ。

「おぉ~~元気にしてたかっ~~お前ら~~! 先生なんか三本肋骨折れたんだぞ~~」
がばっ。
「きんちゃん! あゆぴんちなの! 守って!」
「ちょっ……あゆっち……痛いっ……折れてるから……肋骨……」
 ぎしっぎしっ……。
「あひゃ~~~!!! 痛いっ……!!」


「竜次郎……これはどういうことなのだ?」
「本命はゴリクザーだったって事ですよ」
「むぅ……恋愛とはややこしいのだな……」

 そう、彼女の本命はゴリクザー。胸毛の濃い囲碁部顧問である。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆

 あの後、揉めに揉めた囲碁部の部員達は結局全員やめてしまった。

 生徒と関係を持ったゴリクザーは謹慎処分だ。本来なら停職処分されるべきだが、事を公にしたくないゴリクザーが俺に口止め料として諭吉を束でくれたので謹慎処分程度で済むことになった。
 
 今後の部費としてありがたく使わせていただきます。

 そんな訳でヒーロ研究部は囲碁部と名前を変えはしたが、存続している。
 大事なのは名前じゃ無い。其処に宿る魂なのだ。
 先輩が胸を張ってそう言っていた。先輩にしてはそこそこ「おぉ……?」てなる名言だった。先輩はいいこと言おうとした大概「はぁ……?」ってなるからこれは珍しいことだ。
 
 でも囲碁部も部員を一ヶ月以内に集めなかったら廃部だから、結局人を集めなきゃいけないのは変わってないんだよな。
 
 俺の予定では三人を上手く丸め込んでヒーケン部員にするつもりだったから、そこは想定外だった。

「……どうしましょうか……部員集め……」
「ふむぅ……どうすればよいのだろう……やはり圧倒的な力か?
 圧倒的な力で屈服させるか?」

「やめてくださいよ……今度問題起こしたら下手したら退学ですよ……文化祭の件はなんとか廃部ですみましたけど……下手したら退学でしたよあれは」

「しかし、一番手っ取り早い方法だと思うんだが」
「そもそも力を使ってどうやって部員を集めるんですか?」
「決闘だ」
「決闘?」
 
 何だその前時代的な発想は……やはり先輩は可愛い。

「あぁ、体育系の部活の部長と一対一で勝負して勝ったら部員を一人貰うのだ! どうだ妙案だろ!?」

 まともとは言えないが、先輩にしては頑張って考えたと思う。まぁどこが「妙」案なのかはわからないけど。でも……。

「先輩……ちょっと方法は違いますけど部員を集めるなら心当たりがあります、しかも困った人を助けることもできますから、ちょっとヒーローっぽいですよ」

「何!? 本当か!?」
「はい、とりあえず、ボクシング部の部室に行きましょうか」
「応!!」
 ……いい返事だ。
 先輩は返事だけなら満点なんだよ。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆

「ここがボクシングの部室……の裏です」
「なぜ裏なのだ!? 私たちは道場破りにきたのではないのか!?」
 そんなこと一言も言ってないが……。そもそもここ道場って言うよりジムだし。
「まぁまぁ……この小窓からちょっと中をのぞいてみてください」
「ばかやろーー!!」
「げふっ……!」
 
 久しぶりに殴られた。

「なんで殴るんですか」
「私は男の着替えなんか覗かないぞ! そ、それではまるで……へ、変態ではないか!!」
「あぁ……また変な勘違いしましたね……そういう事じゃ無いですよこれは、ほら見てください」
「む? なんだあれは……四角い机を四人で囲んでじゃらじゃらやっとるぞ……何かの実験か? 改造してるのか?」
「あれは、麻雀です、それよりあそこにいるちっちゃいガキ分かりますか?」
「むっ!! なんだあの小学生は! 誰かの弟か!? 可愛いではないか! 撫でたいぞ!」
「え?」
 ……可愛いかあれ? グレムリンみたいな顔してるから女子の間でも気持ち悪がられてるんだけど……。
 先輩の美的感覚はよくわからんな。

「あれは一応うちの生徒で権田岩男っていうんですけど……無理矢理ボクシング部に入れられて、不良にパシリにされてるんですよ」
「可哀想に……頭を撫でてあげたいぞ」
「許せなくないですか? あんないたいけな少年(グレムリン)をぱしりに使うなんて!」

「うむ!! 殴るか!!」

「いや、暴力はまずいですよ……あいつら屑ですから先生にちくりますよ」
「ではどうするのだ?」
「麻雀です」
「まーじゃん?」
「はい、あの奥にいる赤い頭のでっかい不良見えますか?」
「なんだあれは……脳みそが飛び出てるのか?」
「あいつは苗字は鈴木なんですけど頭が赤いんでアカギなんて呼ばれてて、麻雀で負けたことが無いらしいんですよ、ていうかあいつの顔よく見るとなまずに似てますね……赤い頭が目立って分からなかったな」
「よくわからんな」
「つまり麻雀勝負です!! 麻雀勝負をあいつらに挑むんです! ていうか実はもう挑んでます!」
「そうなのか!?」
「はい! というわけで行きましょう!」
「いまからなのか」
「いまからなのです」

☆★☆★☆★☆★☆★☆

「お前が板東か……俺に麻雀で挑むとはなかなかの度胸だ……だがいいのかっ? 俺と勝負するということは遊びじゃすまねぇっ……! いくとこまでいくぞっ……!!? 走り出した車は止まらないっ……!! そうだろっ……!!」
 いや止まるよ。ブレーキがあるじゃん車。
「もういいから早くやりましょうよ」
「……いいだろうっ!! 座りなっ……!!」
 うざいわ~~この人。いちいち言葉に溜入れるのやめてくれないかな?
「先輩はそっちに座ってください」
「うむ……しかし私はルールを知らんぞ?」
「いいですよ別に、すぐ終わるんで」
「ほぅ……わかってるじゃないかっ……お前らなぞっ俺の相手じゃないっ……二分で終わらせてくれるわっ……!!」

どがっ! ばたんっ……。

「ぴゅふ~~~………」

「せ、先輩何してるんですか!! 蹴っちゃ駄目ですよ!! 気絶しちゃってるじゃないですか!」

「だって……なんかむかついたんだもん」
「むかついたからってすぐ殴っちゃ駄目ですよ! 友達いなくなりますよ!!」
「……ともだちってなんだ?」
「ごめんなさい」
 
 そういえば先輩友達いなかった……。まぁ自業自得だとは思うが。

「て、てめ~ら……こんなことしといて唯ですむと思ってんのか……」
 
 強気な態度で来てるけど内心相当びびってるなこりゃ……。そりゃ目の前で一九〇センチの大男が一発で沈むの見たらびびるか。

「あぁ~~……すいませんでした……あ、その前にちょっといいですか?」
「な、なんだ?」
「その赤い頭の人……脈ありますか?」
「は? ど、どういうことだよ?」
「もしかして死んでるじゃ無いかと思って……さっきからぴくりともしないでしょ」
「そ、そんな事あるわけねーだろ」
 不良の一人がアカギの手の脈を確かめている。
「無いっ……! 無いぞっ……!! 死んでるっ……!!」
「はっ!?? まじかよっ!?」
「ついに私も人を殺してしまったか、ふっ……修羅の道を歩くのも悪くは無い」
 何を言ってるんだろう先輩は。
「俺たちは知らねーぞ!? お前らがやったんだからな! おい、行くぞ!!」
 部室から逃げる不良達。仲間が死んだかもしれんというのに、逃げ出すとは最低だな。
「ふむ……」
 胸に耳をあててみると確かに息をしている。
「馬鹿だなあいつら、素人が脈なんてわかんないのに」
「なんだ……勘違いだったのか? 修羅の道はお預けか」
 行きたかったのか?
「あの~~」
 おおぉグレムリンだ。近くで見ると更にグレムリンっぽい。
 これが可愛いという先輩の美的感覚はやはりおかしい。ブサ専なのだろうか……だから俺みたいなイケメンの後輩に惚れないのか。
「おぉ! 権田くん! 無事だったか!」
 そりゃ無事だろ。別にこいつ何もしてねーし。
「うわっ」
 あ……グレムリンのやろう~~~……先輩に抱きつかれて顔を赤くしてやがる。
 あいつあの行為の価値がわかってるのか? 俺ですら先輩に抱きつかれた事なんてないのに!! 糞がっ! 爆発しろっ!!
「うっ…うぐぅ……」
 ……あれ? なんかあの赤さは照れてるって感じでも無いぞ?
 なんか顔色悪いし。
「たっ……たじげてぇ」
「おぉ~~可愛いな」
 苦しんでる! 苦しんでるじゃないか!
「先輩! 放しなさい!」
「な、なんだよ竜次郎……嫉妬か? ふふんっ」
 
 
「……死ぬとこでしたよ、そいつ」
「え?」
「ごほっ……!! ゴヒュ~~……ゴヒュ~~……」 
 
 なんだこいつ……息の整え方がグレムリンっぽい。グレムリンの息の整え方なんて知らないけど。

「まいったな……私は力加減がよくわからんのだ、大丈夫か権田くん」
「ひぃ!!」

 あ、恐怖が染みついてる。

「むぅ……どうして怖がるのだ? ……虫歯か?」

 ……それは先輩が怖いものでしょう。

「先輩が殺しかけたからですよ」
「むぅ……それぐらいでこんな風になるのか」
「まぁ、普通の人間なら殺されかけたらトラウマになりますよ」
「そういうものなのか……人間って難しいな」
「こひゅ~~~……はぁはぁ…………僕帰ります(このままここにいたらろくでもない目に遭う気がする)」
 がしっ。俺はグレムリンの肩を掴んだ。
「は、放してください!」
「まぁ待てグレムリンよ……お前もうぱしりは嫌だろ?」
「……まぁそりゃ嫌ですけど……」
「なら、ヒーケンに入れ、そうすりゃぱしられる事も無いぞ!」
「えぇ……でも僕……見たいアニメがあるから早く家に帰りたいから……部活は無理です……」
 
 ……こいつオタクだったのか?
 この顔でオタクは止めといた方がいいと思うが……。

「よく考えろよ……お前の身柄を賭けてた麻雀勝負がこんな風になったんだぞ? 
 俺の予想だけど多分お前明日からいじめられるよ」
「そ、そんな!! 嫌ですよ! 僕は何も悪くないじゃないですか!」
「不良にはそんな理屈通じねーよ、俺と先輩には手を出せねーだろうからそのときの怒りのはけ口っつたらお前ぐらいしかいないだろ? 殴りやすそうだもんなお前の顔」

「……」(この人酷いこと言うなぁ……)

「だがな!! 先輩のいるヒーケンに入ってるとなったら不良も簡単には手を出してないぞ! しかも先輩のお気に入りだって知られたらクラスでのグレムリンを見る目も変わるんじゃないか!? 先輩は結構人気あるからな! 直接関わった事の無い人間には!」

「おい! その言い方じゃ直接関わりたくない人みたいに聞こえるではないか!!」
 うわっ、本当のことを言っただけなのに殴られるかも。
「……わかりました……入ります」
「おぉありがとう!! 先輩! 新入部員も入ることですし、どうかさっきの失言は水に流すという事で! ……めでたい日なんですから、ね?」
「関係あるか!! 私はやるときはやるのだ!」
 ダッ。
「逃げるな!!」
「ぎゃふん!」


(……僕はこれで本当に大丈夫なのだろうか……)


 こうして、我がヒーロー研究部(正式には囲碁部)にグレムリンが入部した。
 
 これで部員は三名。

 ヒーロ研究部存続まであと二人……。

 第三話に続く。



[29782] 第三話 グレムリンの進化と柔道部
Name: 革命歌◆89da8b70 ID:64c933cc
Date: 2011/09/17 15:13
ヒーロ研究部にて。

「おはようございます!!」
「あ、おはようございます竜先輩」
 グレムリンか……。
 せっかくの部活の始まりだというのに、こんな顔に最初から遭遇するなんて全く気が滅入るぜ。
 しかも竜先輩とか……何勝手に略してくれてんの?
 吐き気がするわ。
 まぁ、それは置いといて。
「先輩! 決闘です! 決闘をやりましょう!!」
「ぬ、どうしたのだ竜次郎……お前は決闘には乗り気じゃ無かったじゃないか」
「いえ、俺は考えを改めました……ときには力で屈服させることも必要だと思います!」
「ふぅ~~ん……まぁいいぞ」
「本当ですか!?」
「よし……じゃあこい、死なない程度に相手してやろう」

「え?」

「ぬ、どうしたのだ? 決闘をするんだろ? 私と」
 
 あ、そういうことか。

「ち、違いますよ……先輩と決闘なんかしてたら命がいくつあってもたらないですし」
「むぅ……どういうことなのだ」 
 
 俺は先輩に懇切丁寧に感情を込めて事情を説明した。

「つまり女子柔道部にスゴイ胸のでかくて可愛いポニーテールの子がいるから、どんな手段を使ってでも部員してメイド服とかバニーガールのコスプレをさせたいと……そういう訳なのだな」
「そうです! 既に勝負は挑んでるのでよろしくお願いします!! 一週間後です!」
「なるほど……」
 
 ……あれ? なんか不穏な空気だぞ。

「ばっかやろーーー!!」

「ごはぁ!!!」
 グシャリ……。
 いつもより痛い……。何が先輩の怒りの琴線に触れてしまったのだろうか。
 先輩の胸が小さいのに、巨乳の女の子を部員にしたいなんて言ったからだろうか……。
 貧乳には貧乳なりの良さがあるのに。

「竜次郎! お前はいつからそんな軟弱な男になったのだ!! 欲しいものがあるなら自分で手に入れろ!」
「はい?」
「私が特訓してやる!」
「えぇ? 俺が戦うんですか? 無理です、無理ですよーーー俺女の子相手に本気は出せないんで……(先輩の特訓なんか受けてたら下手したら死ぬ……)」

 グレ(以外とこの人フェミニストなんだな……)

「だからといって私がでるわけにもいかんだろう……」
「そうっすか? じゃあ……おいグレ公」
「……グレ公って僕の事ですか?」
「当たり前だろ! 他にグレムリンみたいな奴がいるか!? いないだろ!? 返事しろよ!
 そういう察しの悪さがいじめられる原因になるんだぞ! わかってんのか!?」

(なんでこの人は僕に対してここまで一方的に責められるんだろう……辞めたい……)

「こら竜次郎! 本当のことを言うな! 権田君が可哀想だろ」
 
 ……先輩のフォローの仕方は凄いな……確実に心をえぐってくる。
 なんかグレ公うなだれてるし……ちょっとだけ哀れだな。

「いいんです……僕なんか……どうせ……」


「……グレ公よ……その惨めで醜悪で吐き気がしそうなグレムリン面な自分を変えたいとは思わないか?」

(この人……やっぱりそんな風に思ってたのか……酷すぎる)

「俺が思うにお前には変わるきっかけが必要だと思う……」
「きっかけ?」

「そう! きっかけだ! 人が変わる方法は色々あるが……お前ほど酷くなってくると方法は一つしか無い! それは決闘だ! 決闘しかない!」

「へ?」

「既に勝負は挑んである! 特訓頑張れよ!」

「へ?」

「先輩……俺はこいつに決闘を託そうと思います……こいつならやってくれそうな気がします」
「無理です! 僕に決闘なんて無理ですよ!」
「安心しろ、先輩の特訓に奇跡的に生き残ればお前の勝利は確実だ」
「嫌です! 勘弁してください! 何させるつもりですか!」
「むぅ……いやがってるぞ」

「いやよいやよも好きのうちって言うじゃないですか……そのパターンです」
「そうか! では行こうか、権田君! 私がみっちり鍛え上げてあげるぞ!」
「ウギャウーーー!!!(嫌だ~~!!)」
 
 叫びながらずるずると引きずられていくグレ公……。なんだか叫び方もグレムリンっぽいな。


 決闘当日。

 女子柔道部(体育館)にて。

「おい! 私の相手はまだこないのか!!」(山嵐やわら・巨乳)
「ちょっと待ってくださいよ……(うぉ……胸が弾んでる……巨乳って重力の存在を感じさせてくれるんだな……)」
 
 ていうか遅いな……先輩達……。
 この間電話したときはライオンの檻の中にいたらしいけど……グレ公まだ生きてるのかな。

「竜次郎……遅れたな」
「……ふしゅ~~……」

「あ、先輩! グレ公は……ってぎゅふぁわい!!?? なんすかその化け物!!」
 
 先輩の隣には身長2Mを超すどっかどうみてもオーガにしか見えない化け物がふしゅふしゅ言っていた。何なんだあれは……あんなものが人間の世界にいていいのか?
 ていうか、よくこんなのが学校に入れたな……。

「失礼な事を言うな、少し成長しただけの権田君では無いか」

「こんなの連れてて校門の警備員に止められなかったんですか?」
「生徒証を見せたら普通に入れてくれたぞ」
「ふしゅ~~……ぐろろぉぉん……」
 
 ……びびったな警備員。

「ていうか……これグレ公なんすか………? 本当に……?」
「さっきからなんだ! どこからどうみても権田君ではないか! みろあのつぶらな瞳!」
 
 つぶらな瞳……?

「ふしゅ~~……ふしゅ~~……」
 
 こわっ! 人を食いそうな目をしてやがる……。

「ふしゅふしゅしか言わないんですけど……」

「むぅ……特訓の成果で多少ワイルドになりすぎたかもしれんな」

 ワイルドとか、そういう言葉で片付けられるレベルか? これ……。
 人間やめてるじゃん……明らかに。

「先輩……参考までに聞きたいんですけど一体どんな特訓してきたんですか……」
「むぅ……私もよく覚えてないな……だが充実した一週間だった事は間違いないぞ!」

 ……恐ろしい人だ。一週間足らずでここまで人間を変えてしまうとは。
 とりあえず、俺が犠牲にならなくて良かったけど……。
 ていうか本当にこれグレ公なのか? しかしいったいどんな特訓したら人間がこんな短期間で変わるんだ? それとももしかしてあいつ人間じゃ無かったのか……?
 
 ありえる……あいつの顔は人間離れしてたからな……。
 
 もしかしたら、これがグレ公の進化した姿なのかもしれない。

「ねぇ……私の相手ってまさかあれなの?」

「あぁ……山嵐さん……そうですよ、一年二組の権田次郎君です、彼最近成長期みたいで……あはは……」

「じょ、冗談じゃない! あんなの化け物じゃないの!! 私は絶対嫌よ! そもそもあんなの成長って次元じゃ無いでしょ! 進化よ! あれは!!」
 
 す、鋭いな……巨乳の癖に。いや巨乳だからこそなのか?

「……一応人間だとは思うんですけど」

「なんで曖昧なのよ! とにかくあんなのと決闘なんか私は嫌よ! 何か人食べそうな顔してるじゃないの!」

 そ、そんな……。決闘で勝たなきゃ巨乳成分がヒーケンに入らないじゃないか……。
 それだけは避けねばならん。何としても。

「お~~い……なんか騒がしいけど何やってんの?」

「金剛部長!」(巨乳)

 誰だあの女……やたら頭がつんつんしてるな……。
 胸も無いし……。
 あれが部長なのか?

「なにそこの化け物……なんかの撮影? よくできてるな~~」
「いやあれ本物みたいなんです……なんかグレムリンが進化したみたいで」(おっぱい)

「あはは……そうなんだ……じゃあちょと試してみようかな……
 
 ふっ!!」
 
 金剛と呼ばれた女はグレ公の一瞬で近づき、蹴りを顔面に叩き込んだ。

「こひゅ~~……こひゅ~~……」
 
 い、息が乱れてる! 何者だあの女!

「あはは……ちょっとは効いたかな」

「お、お前いきなり何してんだ! 初対面の化け物をいきなり蹴るなよ!」

「嵐山!!」
「は、はい!?」
「決闘だっけ? 私が代わりにやってあげるよ」
「え……でも……」

「大丈夫……これぐらいの化け物なら倒せるから……ふふっ……面白くなってきたなぁ……」

「ふしゅ~~……ふしゅ~~……」

 何か勝手に話が進んでるけど……どういう事になったんだ?
 あのつんつん女がグレ公と戦うって事か?
 俺としては巨乳が手に入るなら、どっちでもいいのだが……。

 あの女……どうも強そうだぞ……グレ公が勝てるかな?

「グレ公! 目の前の相手がお前の相手だ! 特訓の成果を見せてやれ!!」

「ふしゅ~~!!!」

 お? お?

「何故俺に向かってくるのだ!!」


 何かあいつの恨みを買うような事したっけ……?

 ……したな。

「ちょっと待ちなっ! お前の相手はこのっ……私だっ…!!」

 うぉ……なんだあいつ……すげぇ……唯の人間の癖にぐれ公と競り合ってる……。

「こいつっ……なんて力だっ……くっ……」

 でもさすがに分が悪いみたいだな……そりゃあの怪物相手に力勝負を挑んじゃ普通は勝てないだろ。

「先輩!」
 俺はスナック菓子を食べながら高みの見物を決め込んでいた先輩に声を掛けた。
「もぐもぐ……む? どうしたのだ? もぐもぐ……」

「体育館でスナック菓子食べちゃ駄目ですよ!!」

「そうなのか!? ……一体どこのどいつがそんな横暴な事を決めたのだ……? そいつは悪い奴だな……そういう奴がいるから地球は駄目になるんだ」

「そんなことよりグレ公の暴走を止めてくださいよ!! このまま放っといたら問題になります! ヒーケンがまた廃部になるかもしれませんよ!」

「それは困るぞ……多分」
「だったら止めてください! ほら見てください! 何かバスケットゴールにかじりついてますよあいつ!」

「ごろろぉ~~ん!!」
 
 ……もはやあいつには人間の心が残って無い気がする……。
 一体あいつに何があったんだ……。

「仕方ない……権田君は私が止めてやるのだ」

「ちょっ! あんたみたいな子がこいつに敵うわけ無いでしょ! あんな化け物相手に無謀よっ」

 ……どうやら巨乳は知らないようだな……。
 先輩がグレ公など遙かに超える怪物である事を。

「先輩いっちゃってください!」

「うむ……」

「ごろろぉ~~ん……」

 あ、あいつ……涙を流している……そうか……先輩に止めて欲しいんだな……。
 変わり果てた姿になってもグレ公の魂は僅かに残っていたんだ……。
 ……そう思うとなんか感動的だ。

「先輩……あいつを止めてやってください」
「わかっている!」

「ごろぉぉ~~!!!」

「とりゃ」
 
「おぉぉおおん!!」

 ドッシィン……。
「え? 嘘でしょ? どうなってんの?」

 驚いているな……巨乳……。

「ふふっ……先輩に勝てる生物なんてこの地球上……いや銀河系探したっていないんですよ! ね、先輩!」

「……本当のことを言うな……照れるではないか……ふふんっ」
 
 先輩が珍しく照れてる。

 ぷしゅ~~……。

「ん? 何だこの音……」

 ……グレ公がしぼんでる……。
 おいおい、あいつって……そんな伸縮自在のキャラだったのか。
 ……意外性のあるグレムリンだな。

「権田君! 正気に戻ったか!?」

「あれ? 一体僕は何をしていたんだろう……」

 記憶を失ってるのか!?
 一体一週間に及ぶ特訓で何があったのか……ますます謎は深まるばかりだ……。

「だが……結果として勝負は俺たちの勝ち! ……巨乳ゲットだぜ!」
「はぁ!? ふざけんじゃないわよ!! こんな勝負無効に決まってるでしょ!」(巨乳)
「おまっ……約束破るとか巨乳として最低だな……!!」
「はぁ!?」(巨乳)
 ウーウー。
「竜次郎……なんか外がウーウー騒がしいぞ」
「へ?」

 そう言われてみれば……何の音だこれ?

「警察だ! この学校に化け物が侵入したと通報を受けたのだが……」

 あーー……パトカーの音だったか……多分グレ公を見た生徒か教師が警察に通報したんだろうな……。無理も無い。

「しかし……2メートルを超える怪物なんて何処にもいないな……ガセネタか……くそっ! 俺にガセネタ掴ませるとは! 何処の誰だか知らんが、見つけたらマグナム口の中に突っ込んでがたがた言わせてやる!」
 
 ずいぶん攻撃的な人だな。

「うわっ……警察が来てるじゃないですか……何かあったんですか……?」
「何あったっていうか……お前が原因だぞ、グレ公」

「えぇ!? な、なんでですか!?」

 グレ公の声が体育館に響いた。

「お前かーーーー!!!」(警察)

「え!?」

「どうみてもお前が化け物だーー!! 何だその顔はーー!! 反社会的な顔しやがって!! そんな顔で生まれていいと思ってるのか!!? 何が憎くてそんな顔してるんだ貴様は!?」
「ひ、酷い……」
 ……大分極端な人だな……。
 それともこれが国家権力のグレムリンに対する標準的な接し方なのだろうか……。

「とりゃ」

 どすんっ。

「ごふっ……!!」

 ……あれれ? 国家権力の犬(けいさつ)が血を吐いて倒れちゃったぞ。

 え?

「先輩!?? 何やってるんですか!? 国家権力の犬に蹴り入れちゃ駄目でしょ!!」
「権田君に対する暴言の数々が許せなかったのだ」

「グレ公なんかどうでもいいじゃないですか! どうすんですかこれ! 下手したら捕まる……ていうかもう捕まるレベルですよこれ!」

「そうなのか? 意外だな……」
 
「そうですよ!」

「どうなってんの……やばいんじゃないのこれ……柔道部までとばっちり喰らうんじゃないでしょうね……うちは関係ないわよ! 決闘なんかしてないし!」(保身に走ろうとする巨乳)

「あ~~……それなら私に任せておいてくれ」

「はっ!? お、お前はさっき思わせぶりな登場をしておきながらグレ公相手に一分で負けかけたつんつん頭じゃないか……何を根拠にそんな事を……」

「そこに転がってる警官……恥ずかしながら実は私の兄でな……」

「はっ!?」

 まじかよ!? まさに一期一会だな……。 ……違うか……。

「気がついたら私がなんとか誤魔化しておくからそんな心配しなくていい……まぁ、助けて貰った礼だと思ってくれ」

「つんつん頭……お前って貧乳だけどいい奴だったんだな……胸が無くても気にすんなよ」

「はは……まぁな(こいつは私に喧嘩を売っているのか?)」
「ほらグレ公! 貧乳に礼を言うんだ! 元はといえばお前が原因なんだからな! ちっとは反省しろよ!?」
「……ありがとうございます(何か納得がいかない……)」

「しかし驚いたよ……まさかこの学校にこんな強い人間が二人もいたとは……そっちの女の人はまだとても敵わないだろうが……権田君……君にはまた今度挑戦してもいいかな?」
「はい?」

「じゃあな……」

 つんつん頭は国家権力の犬を抱えてどこかに行ってしまった。

 しかし……この決闘……何の意味があったんだろ……?


 次の日。
 
ヒーケンにある人物が訪れた。

「いや~~……結局巨乳も入部してくれなかったし、無駄にしちゃいましたね……時間」
「うむ……」
「な、何か大変だったみたいですね」
「お前が悪いんだぞグレ公! お前がかじったバスケットリングを弁償したせいで部費が減ったんだぞ!! 反省しろよ!」
 他人事みたいに言いやがって!
「えぇ?(僕そんなことしてない……)」
「お? 何だその反抗的な顔は……副部長の俺に平部員が逆らう気か? ……上下関係ってやつをその身に叩き込んでやんぞ、こら」
「ひぃ……(なんかバスケ部でぱしられてたときの方が楽だったような気がする……)」

 ガラッ。

「やぁ、ヒーロ研究部はここかな?」
「うぉ!? 何し来たんだ貧乳!! 足りてるぞ!(貧乳成分なら)」
「……はっはは……相変わらず面白い男だな君は……実はちょっと頼みがあってね」

「なんだよ……まさか俺に惚れちっまったのか? わるいが俺は既に先輩とちょめちょめなかんけ……ぎゃふんっ!!」
 ばたり……。
「ごほんっ……我がヒーケンに何の用なのだ?」
「私をヒーロ研究分に入れてくれないか?」
 え? 
「……本気なのか?」
「あぁ、前回の件で自分の未熟を痛感した……だからこの強者達の集うヒーケンで己を鍛え直したいのだ」

 ……何を言っているんだこいつは……。

「なるほど……いいだろう、入部を認めるのだ」
「っ! ありがとうっ! 誠心誠意勤めさせていただく!」
 
 なんかこいつうちの部活を誤解してないか?
 普段は、ヒーロー系アニメのDVD見るのが活動の大半なのに……。

「よろしくな権田君!」
「え? えぇ……はい……」
 ……グレ公が手を握られて照れてる……。
 あの感じは惚れたな? よくあることだ……もてないグレムリンがちょっと優しく接触しただけで恋してしまうことは。
 
 今のうちに失恋して落ち込んだグレムリンを優しく慰めるフリをして心をえぐる台詞を考えておこう。
 

 まぁ、なにはともわれ、ヒーロ研究部存続まで後一人!

 

 続く。

 


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