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[29737] 【処女作・オリジナル】試される大地(仮題)【北海道→異世界】
Name: 石達◆48473f24 ID:a194d791
Date: 2011/09/18 00:02
はじめまして。
石達と申します。

ゲートやら異世界転移もののSSを読んでたら
妄想が膨らみすぎてヤバくなってきたので書いちゃいました。

稚拙な文章なので読みにくいかと思いますが、感想とか頂けたら嬉しいです。


内容的には

北海道+αが異世界に転移して道民が生き残るべく色々やる話です。



*********************更新履歴************************
9/16
更新履歴つけ始めました
第7話 誤記、脱字訂正
第8話 新規投稿
第1話 修正しました
第2話 修正しました

9/17
第3話 修正しました
第4話 修正しました
第5話 修正しました
第9話 新規投稿

9/17
第10話 新規投稿



[29737] 序章
Name: 石達◆48473f24 ID:a194d791
Date: 2011/09/13 01:11
序章


ある大陸の片隅で、空に向かって黒い筋が何本も昇っていく

その筋をたどってみると、そこにはいくつもの集落が燃えていた。

太古より人間と亜人との小競り合いは幾度となくあったが

今回のそれは規模が違い、何より徹底していた。

「くそ!なんだというのだ人間どもめ!そこまで我らの土地が欲しいのか!」

逃れてきた東へと向かう難民の中で、ドワーフの族長が激怒していた。

「どうやら奴らは徹底的にやるようです。先ほど合流した部族の話によりますと

降伏した者、落伍した者、すべてを斬り捨てているそうです。」

あちらこちらに血のにじんだ戦士の一人が答えると、族長は奥歯を噛みしめ、そして呟いた。

「戦に敗れ、海峡の向こうに逃れるための舟を造らせているが、奴らが来るまで間に合うかどうか・・・

なによりこの人数を海峡の向こうの部族が許容できるはずもない。逃げた先でも戦いは避けられぬか」

「・・・」

族長の消沈した声に何も言い返すことができなかった。

逃れた先でも戦が待っている。

それも、こちらは人間との戦で消耗しきっていた。

まず、勝ち目は無いだろう。

そんな絶望の中、一つの声が響いた。

「族長!」

「なんだ?」

「先ほど合流した部族が、付近の森で妙なものを見たと」

「妙なもの?」

「はい。何やら古い神殿のようだったと」

「こんな所にか?」

「ここいらに住んでいた部族の話では、その森には精霊が住んでいるという伝承があり、普段は聖域として出入りが禁じられてるそうです。

神殿は、その精霊のものかと」

「精霊・・・どのような精霊かわかるか?」

「さぁ そこまでは・・・」

そこまで聞くと、少々の沈黙の後、族長は走り出した。

「そこに案内しろ!いそげ!時間はないぞ!」

「ええ!?でも、海峡を渡る準備は?」

「任せる!もし俺が戻らない場合は、先に出発しろ!」

そこまで伝えると少数の供を連れて族長は森に入っていった。

深い森の中、一行は走った。

枝を払い、木々の間をぬい、けもの道を抜けると

男たちの前に古い建物が現れた。

「族長。ここが例の神殿のようです。」

配下の男に先導され、一人の族長が前にでる。

「ここがそうか…もはや精霊の気まぐれに縋るより道はない

もはや、帰る場所は失われたのだ。 さぁ!いくぞ!」

飾り気のない小さな建物に入ると、中は何もないホールだった。

周りを見渡しながら一歩一歩慎重に歩き、ホールの真ん中に立つと、力の限りの声で族長は叫んだ

「おねがいだ!精霊よ!姿を現してくれ!」

シーン・・・



何も起きない・・・

「精霊よ!我らの願いを聞いてくれ!」

もう一度叫ぶが、やはり同じだった。

何か変化が無いかあたりを探してみるが、ゴミすら落ちていない室内に一行は絶望感を味わいその場にへたり込んでしまった

「やはり無駄だったか・・・」

ため息が出た。藁にもすがる思いでここまで来てみたが、徒労に終わったと感じたのだ。



ザ・・・ ザザザ・・・

「ん?何の音だ」

「ョ・・・ぅこ・・ソ イらっしゃいました。どのような土地をお望みですか?」

最初はかすれ気味だったが、やがてはっきりと人の声が聞こえる。

「精霊よ!伝承は本当だった!あなた様は実在したのですね!」

族長の男は歓喜した。目には涙も浮かべている。

「どのような土地をお望みですか?」

声は繰り返す。

「土地?精霊様は我らに土地をお与え下さるのですか!ならば聞いてください!実はつい20日ほど前になりますか、この一帯の亜人種に対して、いきなり人間どもが襲ってきたのです。

既に数々の集落が焼かれ、蹂躙された集落の者共は悉く殺されました。今!この時にも奴らの軍勢は迫っております。

仲間たちは海峡まで達し、船を作っておりますが、海峡の向こうには他の部族が既におり、争いは避けられないでしょう・・・

精霊よ!我らに新たな土地をお与え下さるのならば、鉱物に恵まれた誰も住んでいない土地を!その慈悲で与えては下さいませんでしょうか!

なにとぞ!なにとぞ聞き届けてくだされ!精霊よ!」

「・・・お望みの土地を承りました。これより召喚します。」

声が終わるとホール全体が輝き始めた。

「おぉ!これが精霊の力か!すごいぞ!おい!このことを皆に伝えるぞ!すぐさま伝令に向かえ!」

族長は歓喜し配下に向かって叫び振り返った。



だが、そこにいたのは配下の男ではなく

血に濡れた人種の兵士たちと男の死体だった。

「な!?」

驚愕する族長をよそに兵士をかき分けて一人の貴族風の男が現れた。

「はっはっは!下等種にしては中々面白いことをやってるではないか」

「貴様ら、どうしてここへ!?」

怒りの視線を向けるが、その男は笑いながら答える。

「いやなに。これから海岸へお前らを駆除しに行こうと思ったら。嬉しそうに森に入っていくお前らを見つけてな

この状況下で何を企んでいるのか探ってみたらこの結果だ。」

「くっ!」

「精霊を使って土地を召喚とは実に面白い。おい精霊!俺の望む土地も出せるか?」

「条件にもよりますが、先ほどの召喚が終わった後なら可能です。」

精霊の声があたりに響く。兵士たちは姿の見えぬ精霊の声に狼狽していたが

この貴族は肝が据わっているようだった。

「そんなもの無視しろ!俺に征服地として麦で黄金に染まる実り豊かな大地を与えろ!」

「召喚を変更しますが、何が起きるかわかりませんがよろしいですか?」

「くどい!」

その精霊に対し余りに不遜なやり取りに、しばし呆然としていた族長も男の願いの内容に我を取り戻した。

「キサマ!なんてことを!」

「礼を言うぞ下等種。おかげで我が領地が更に増えそうだ。その感謝の印として

キサマを始末した後に、海岸の仲間も寂しくないよう一人残らずあの世に送ってやるさ」

男の言葉が終わると同時に、兵士の剣が族長に突き刺さる。

「ぐぅ・・・」

「さらばだ。下等種の長殿」

「ぐ・・ぅ・・・貴様ら全員・・・地獄に落ちろ・・・・・・」

「はっはっは。地獄でもお前らを征服してやるから、楽しみにしておけ」

男が笑いながら族長の最後を眺めていると、不意にホールの光の色が赤に変わった

「!! なにごとだ!」

「さ、さぁ?分かりません」

付近の兵士が混乱気味に答えるが、男がその兵士を殴りつけて言葉をつづけた。

「キサマらには言っておらん!おい精霊!どうなってる!?」

「召喚に成功しましたが、途中で召喚を変更した影響で想定外の暴走が発生しました。爆発が発生します。」

「なんだと!?」

驚愕の表情を浮かべる男が、爆発に包まれる前の一瞬。

最後に瞼に焼付いたのは、血だまりの中で満面の笑みを浮かべる族長の顔だった。







・・・ドーーーーーーン



遠くの森で火の手が上がった。

「・・・族長・・・」

族長に海峡を越える準備を任された男が

悲痛な面持ちで、しばしその方角を眺めてた。

「戦士長様。舟の準備ができました。出発できます。それと気になるのですが・・・」

作業を終えた男の一人が、おずおずと声をかけてきた

「何だ言ってみろ?」

「何と言いますか、先ほどより南方に見たこともない島影が現れたのですが、あれは一体・・・」

戦士長と呼ばれた男は押し黙りその方角を見る。



あれは、精霊の下に赴いた族長の仕業か・・・

なんにしろ他にこれ以上の選択肢はないか



意を決し、男は船に飛び乗り皆に向かって叫んだ。



「さぁ 皆の者!南方を見よ!我らが族長様が精霊のもとに赴いた事により

あの島が現れた!すべては族長の導きの下にある!

人種に迫害されし全ての種族よ!船出の準備はいいか?

さぁ!行こう!新天地へ!!」



号令の下、人の波が動き出す。

南に見える、この世界の誰も知らぬ島へ











[29737] 第1話
Name: 石達◆48473f24 ID:a194d791
Date: 2011/09/17 00:40


   転移





西暦2025年8月

道東 北見市



石津拓也(27歳)名古屋でサラリーマンをしている男は

道東の一軒の家の前に立っている。

2年ぶりの帰省だった。

ただし、今回の帰省はいつもとちょっと違った。

「たーだいまー」

ドアを開けると同時に家の中に声をかけると、即座に母が迎えに出てきた。

待ってましたと言わんばかりの笑顔で、自分を素通りしてもう一人の方に声をかける

「おかえりー。ばーばですよー。たけるちゃん、げんきにしてましたかー?」

一瞬で俺から息子の武(1歳)を奪っていく。

親にとってみれば、三人息子の中で初めてできた孫

その初孫を連れた帰省は、親のテンションをおかしくしているようだった。

その様子にあっけにとられながら二人の様子を眺めていると

後ろから拓也に向けて怒りの声が飛んでくる。

「あんた!ボケっとしてないで荷物下すの手伝ってよ!」

嫁さんがキレてる・・・

超怖い・・・つーか1分程度ボサッとしてただけで怒らないでほしい。

短気な嫁は拓也がぼさっとしている事には非寛容だった。

その嫁に対し、謝るように返事をする

「あー 待ってろ。重いのは俺が下すから。」

甲斐性の無い夫は、肉体労働で嫁の機嫌を取ることにした。


彼女の名はエレナ

拓也の嫁さんである。

海外旅行が趣味だった拓也は、ロシア旅行中に彼女と出会った

日本のヴィジュアル系バンドの大ファンだったのが切っ掛けで、大の親日家だったエレナと意気投合し

そのまま勢いで結婚。

その時に会社の同僚は、まだ若いのに人生の墓場へようこそ等と言っていたが

その意味に拓也が気付いたのは、彼の小遣いが2000円に制限された時だった。


話は戻るが、遠くはシベリア出身の嫁さんは普段は美人だが、怒るとマジヤバい

たぶん視線で人殺せる。

そんな彼女も無視してマイペースな母は二人に言った。

「あー 拓也もエレナもよく来たね。疲れてるだろうから、二人ともゆっくり休んでてね」

子連れの長距離移動は疲れるだろうと察してくれてか母の声は優しかった

そんな気遣いに若干癒され

「「はーい」」

と、きれいに夫婦でハモる

だが、返事は同時だったのに

荷物を車から降ろす俺を置いて一行はそそくさと家に入っていった。



・・・誰も手伝ってくれんの?

ちょっとだけ寂しくなった。





一時間後



荷物を下し終えた拓也は客間で寝転がっていた。



・・・

はぁー・・・ 実家超いい

本当に落ち着く

子供は親があやしてるから大丈夫だし(テンションはヤバめだが)

嫁は疲れて寝たし。

俺も寝るかなぁ


用意された部屋で大の字に寝転がりながら、そんなことを考える。

やはり、実家を出て何年たとうとも居心地の良さは変わらない

そんな感じで、だらけていると

不意にドアをノックする音が聞こえた。


コンコン

「ん?」

誰か来たな?

ノックの後にゆっくり扉が開くと、母親が顔だけ出して拓也にお願いをしてきた。

「拓也、ちょっと悪いんだけどさ。畑まで兄ちゃん迎えに行ってくれない?

今日はあんたらが帰ってくるから早く帰ってこいって朝言ったんだけど、

たぶんあのバカ息子は忘れてるだろうから」

申し訳なさそうに母が言う

「えー。親父は?」

正直、めんどうくさい行きたくない

誰か他の人に行ってほしい

「武田勤の後援会に行った」

武田勤。北海道12区の参議院議員だ

ウチの一家は北見市長時代から彼の事を応援していることで彼とは親交があった。

なにせ、親は後援会長だし

「参院選が近いから?」

選挙資金にパーティ券をさばきに来たのだろう

「そゆこと。で、行ってくれる?」

拒否は許さんとばかりに迫りくる母。

多分、孫から離れたくないんだろうなぁ・・・

「ん~ だるいけど、まぁ いいよ。車かして」

しかたねぇか・・・と気合を入れてから起き上がると

母が嬉しそうに

「ありがとう」

とお礼を言って、孫の所に戻って行った。







しばらくして

夕方の麦畑に囲まれた農道を、一台の軽トラが進む。

軽トラなのでロクなオーディオもない

しかたないのでラジオで流行曲を聴きながらハンドルを握る。

黄金色の波を傍目に運転していると、曲が終わって夕方のニュースが流れてくる。



**************************

・・次のニュースです。ロシアとの共同開発である国後島沖油田の歯舞経由パイプライン完成しました。パイプラインは新設された釧路の製油施設に接続され

我が国のエネルギー供給の一翼を担うことが期待されます。

これに伴いロシア側よりニコライ・ステパーシン氏が完成式典に参加。2島返還後にロシア高官初の来島となりました。

***************************



おーすげー

ついに道東エリアに石油だよ。

しっかし、サハリン2の事があるのによく共同開発に参加したもんだわ。





拓也が心配するのはもっともであった。なにせサハリン2の開発時にロシアは開発の資金を欧米と日本に出させて

施設が出来上がったとたんに利権を奪い、日本に供給するはずの天然ガスを中国に売りつけた前科があったのだ。

だが、今回は政府にも保険がかけてあった。石油開発の資金を日本側が持つ代わりに歯舞、色丹を日本に返還

その上で歯舞に処理施設を建設し、パイプラインを日本に引くというものであった。

まぁ そもそも、これには領土問題を抱える両国が共同開発するうえでの苦肉の策でもあった。

なにせ日本側が、ロシアの領有権を認めていない為、新規に国境をまたぐパイプラインは作れなかった。

そこで国後沖の油井より歯舞までパイプラインで結び、その後2島返還ということになった。

(むろん日本政府は公式には残り2島も追加協議と言ってはいるが、石油が出た以上、国後、択捉の返還は絶望的だった。)

新規に国境を跨ぐパイプラインは作れないが、すでにある施設ならやむなし。そして、歯舞より先は日本領となったので、それ以後の開発は何の制限もない!

とりあえずの大義名分が出来てからは、日本側の動きは早かった。

歯舞群島の勇留島は、陸上処理施設と石油輸出ターミナルが整備され、志発島には石油備蓄基地が作られた。

さらに勇留島から伸びたパイプラインは、釧路に新設された精油所に接続され、道東に一大石油産業が出来上がっていた。



そのニュースを聞いてしみじみ思った。

まーこれで、北海道経済が上向いてくれるといいんだがなぁ。地元が過疎って寂れるのはつらいもんがあるし。



そんな事に思慮を巡らせてると、目的地の畑に到着した。

兄は、自分の畑に入ってきた車から拓也が出てくるのを見つけると

すぐに駆けつけてきてくれた。

「おー すまん すまん。帰ってくるのすっかり忘れてたわ」

あまり悪いと思ってなさそうな笑顔で謝罪してくる兄

その顔をみて、どうしょうもないなと思いながら拓也は言う

「どうでもいいけど、早くかえんべ。俺、腹減ったよ」

長距離移動の後で、せっかく休めると思ったら兄の迎えに出されて

少々不満がたまっていた。


そのダルそうな様子を見て、さすがに申し訳なくなってきたのか

「そうすっか。ちょっと、まってろよ」

といって、おもむろに無線を取り出し、指示を飛ばす。

ピッ「HQから各機へ。俺ちょっと先戻るから片づけよろしくな」

若い農家は高確率でオタになる。

兄もその例に漏れていなかった。

各機なんて言って、なんかのゲームの真似だろうか

ザザッ「了解しましたマスター」

無線で帰ることを伝えると、すぐさま若い女の声で返事が来た。


・・・はい?

すごい違和感を感じた。

それについて、すぐに問いただす拓也

「・・・マスター? それと何?HQ?女の子雇って遊んでんの?」

疑惑の目で兄貴を見る

「いやいや。遊んでねーよ。それに人雇ってもいねーし」

こんな言い訳をしているが、若い女の子相手にマスターとか呼ばせてるのを聞いた以上

もはや、信用できない

「んじゃ、あれは誰だよ」

本当に何をやってるんだ馬鹿兄貴は・・・

「あれは道内企業の雄。キセノンフューチャー製の作業用アンドロイド、農家ロイド39型だ。ちなみに4体買った。」

「買った!?高いんじゃないの?金はどっから?4体?」

驚くのも当然だ、名古屋でもアンドロイドを使う会社はまだ珍しい

それがどうして、北海道の農家にいるのか。

まさか趣味の為に借金して買ったのではないだろうか?

はたして、実家の経済状況は大丈夫なのか?

その拓也の問いに兄貴は自信満々だった

「安心しろ。国の農業振興助成金を使って8割引きだ。それに道からも1割出たぞ」

にっこり笑って答える兄貴に、脱力感が湧く。

農業振興に国がばら撒いている金は、こんな所に使われていたのか・・・

確かに、労働力の確保としては正しい気もするが、あきらかにコイツは趣味がメインのオーラが漂っている。

国民の税金をこんな趣味の世界に使われてるとなると情けなくなる

「・・・なんだろう。このやるせない気持ちは・・・ ちなみにマスターってのは?」

「もちろん趣味だ」

予感は的中した。





「ちなみに調教の結果、歌って踊れるようにもカスタムしてある。」

「農作業用にそんな機能いるのか!?」

「すべては俺の活力につながるから何ら問題はない」

動画サイトにもアップしたから今度見てくれよと兄は言うが

拓也にはどっと疲労感がのしかかる

もうね、どうでもいいや

正直、もうさっさと帰りたい。




もう、話を切り上げて帰ろうと思い、兄に話しかける

「OKOK。分かった兄ちゃん。とりあえず、もう帰るべ」

投げやり気味に帰宅を促すと、兄貴は固まっていた。そして、その視線は拓也の後ろの空を凝視していた。

「あぁ・・・それはいいが。おい・・・拓也。ありゃ何だ?」

信じられないものを見たかのような口ぶりで兄が夕空を指差す

そして、その先には信じられない光景が広がっていた。





夕日で黄金色に染まった畑の上空、天頂からじわじわと白く空の色が変わり始めていた。



[29737] 第2話
Name: 石達◆48473f24 ID:a194d791
Date: 2011/09/17 01:09

異変より6時間後



北海道庁 緊急対策本部



本来は地震等に備えて作られた災害対策本部に

道庁の主要な面々が集まっていた。

真ん中に座るのは、北海道で2代目の女性知事。高木はるか

スーツから溢れんばかりの色香が溢れ、政治学の博士号を持っているという

30代での若さで知事に選ばれた才色兼備の政治家として有名だったが

その顔色は暗かった。

「現状は何か掴めましたか?」

この日、何度目かの質問が飛ぶ。

その質問に職員の一人が答える

「いえ本日17:00頃に出現した半透明の膜は、依然として本道全域を包んでおります。

それと、膜の通過を試みた旅客機の一機が墜落し、現在生存者の捜索に当たっておりますが

絶望的との報告が消防より入りました。現在空港は全便欠航、港にも出航を見合わせるよう通達を出しています。青函トンネルについても同様の膜が確認されたため通行禁止になりました。」

「一切の出入りが出来ないの?」

高木知事が問いただす

「は、これについて空自の偵察機が確認を行いましたが。無人機では問題ないのですが

有人機が突入した場合、同様に墜落したとのことです。

それと、まだ未確認の情報ですが、膜が降りて以降に道内に侵入した貨物船が座礁しました。

海保が乗員の救助に向かいましたが。全員ミイラ化しているとの情報があり、現在確認を急いでいます」

その報告を聞いて、余りの突拍子もない事態に眉間に皺を作り考えてみるが、何が起きたかはっきりしない以上、対策の取りようがない。

現在下した命令も原因究明と北海道からの出入りを全部止めただけ。

航空機の墜落などの被害を食い止めたが、根本的には何も解決していない。

「政府からの連絡は?」

せめて、政府は少しでも情報を掴んでいることを願いたい。

「政府も混乱しています。非常事態を宣言し調査を続けていますが、情報収取衛星からの映像では

膜の範囲は北海道全域と南千島が包まれている模様です。

その他の持っている情報は、あまり我々と大差がありません。原因不明と」

それならばと、知事は質問を続ける

「南千島もですか。ロシア側の情報はありますか?」

だが、職員は難しい顔をしたまま首を横に振って答えた

「今はお互いの本国同士が連絡を取り合っている状態なので

今のところ政府から降りてきた情報はありません。」

当事者同士が話し合いを上に丸投げしているのか・・・

これはいけない。既に犠牲者が出ている事態なのに、仮に向こうで何かしらの兆候があった時に

情報が回ってくるのがいつになるかわからない。

国家としては問題があるのだろうが、非常時だ

現場の裁量で少しでも打てる手は打っておくべきだろう

「南千島側と非公式の接触を持ってください。情報は今は何よりも大事です。」

流石に、そこまでの指示が来るとは思っていなかった職員は

無理ですと言わんばかりに反論する

「ですが、道庁には適当なパイプを持つ人間がおりません。今までの交流は外務省のお膳縦の下でしたし」

そう言った職員の額からは汗が流れる。

なにせ今までは、ビザなし交流だろうと外務省の管理下で行ってきた。

交流と言っても担当者レベルの話でしかなかった。

いきなりやれと言われても、無理に違いないと思った。

だが、そんな彼に高木知事は秘策とばかりに話を続ける

「あら?それなら根室に良い人材がいるじゃない。たぶん日本で彼以上にロシア側とパイプを持つ人はいないわ」

その場の全員が納得する。



鈴谷宗明。

日露間の外交に絶大な影響力を持っていたが、当時の人気取りに走った外相と衝突し

マスコミから徹底的に嫌われ、失脚し、当時の与党から離党までしていた。

だが、ころころ首相が変わり、外交方針の定まらない日本政府より鈴谷の方がロシア側からの信頼は厚かった。



「では、すぐさま連絡を取ります。」

パイプ役が居るのであればと、職員はすぐに行動を起こそうとしたところに

知事が、思いついたように呟く

「あぁでも、彼、与党の議員じゃないのよね。

いくら非公式でも、野党の議員一人じゃ弱いわよね」

だれかいい人いないかしらね・・・

高木が唸りながらつぶやき、考え込んでしまった。

「知事、それなら武田氏はどうでしょうか。あの人は四島交流促進議連の会長ですし

今は、北見で後援会のパーティに出席中のはずです。」


その人物とは


武田勤。

かつては政権与党の幹事長を務めていた。

一時は野党転落時に自分の派閥議員の2/3が落選してしまうなどの事があったが

政権交代後の与党があまりに無能過ぎ、与党が選挙でほぼ全滅したため

派閥を率いて返り咲いていた。



「良いですね。対露非公式接触はその二人に同席をお願いしてください。」

「はっ!」

会議の方針は決まった。

といっても現段階で決定できる事項が少ないのだが・・・

「みなさん。では、引き続き持ち場で情報収集に当たってください。

政府からの情報及びロシア側の情報は特にフォローをお願いします。

以上で会議は一時解散とします。」



この決定以後、道庁の長い一か月がはじまった。





同日



択捉島 ユジノクリリスク



「いったい!どうなってるんだ!」

ダン!と机を叩き、神経質そうな男が激高している。

それをなだめるように軍の将校が返事を返す。

「現状では不明です。本国から飛来した偵察機は膜を通過直後に墜落し

こちらから出た偵察機も墜落しました。本国からは膜のエリアぐらいしか情報が来ておりません。

日本側の報道でもそれ以上の情報はありません。」

淡々と語る将校

「クソ!」

悪態をつく男の名はニコライ・ステパーシン。

ロシア連邦防諜庁、ロシア連邦首相を務めたが、時の大統領の利権を守れないと判断されたため

解任され、現大統領のプーシキン氏と交代させられた経歴を持つが

露日経済協議会代表の肩書があるため、歯舞での石油パイプラインの完成式典の為

南千島に来ていた。

「こんな辺境に閉じ込められるとは・・・」

ステパーシンは頭を抱えた。

隔離されたのは南千島だけであり、サハリン州の州都ユジノサハリスクから隔離されていた為

現地に取りまとめをできる地位の人材がいなかった。

そのため、臨時で現地の指揮を取ることになったが、正直なところ帰れるのなら早く本国に帰りたかった。

『クリル(千島)社会経済発展計画』でインフラが少々整ったとはいえド田舎の辺境であることには変わりがない。

そもそも、臨時の肩書な上、自身の基盤がない土地であるため居心地が悪い。

特に一緒に式典に参加した国営ガス企業の奴らが気に入らない

自分の首相の座を奪った現大統領の息のかかった奴らは

こちらの言うことを全然聞かない。

本社とモスクワには連絡を取っているようだが、こちらの指示に対しては

「本社に聞いてみます」とさらりと流しやがる。

こんなことなら偵察機代わりにまとめて送りだしてやればよかった。

こんな感じで悶々としていると、電話の出し音が部屋に響いた。

トゥルルルルルル・・・

即座に将校が電話に出る

「アロー こちら臨時対策室・・・・あぁ・・・分かった。」ガチャ

「どうした?」

ステパーシンが聞く

「北海道側が非公式に接触を打診してきました。

相手はあの鈴谷と武田議員だそうです。」

ステパーシンはその名前に思い当るところがあった


鈴谷?首相時代にモスクワで何度かあった彼か

そうか、彼も閉じ込められたか。

それに武田。彼は国後の油田開発の際に面識があったな

最悪、ここに閉じ込められた場合、北海道側とのコネを作っておけば

大統領の息のかかった奴らと渡り合う時に有利になるだろう。

なにせ本国は直接干渉はできないからな。

ステパーシンは決めた。クリルでのイニシアチブを確実にするために

動くなら早い方がいい

「よし、会うぞ!すぐさまセッティングを頼む!」


その電話は、異変前は近くて遠い存在だった両者が、生き残りを賭けて歩みだした最初の瞬間だった。





3日後







その日の同庁は、膜発生の初日並みに慌ただしかった。

夜明けとともに膜に変化が現れたのだ。最初は半透明だった膜が、天頂部から徐々に真っ白な膜に代わりだし、

3時間後には空をすっぽり蓋ってしまった。

変化は見た目だけではなかった。電波の送受信も遮断されたため、衛星通信が使用できなくなったのだ。

それに今までは無人機が膜を超えて情報収集に当たっていたが、白い膜に変化してからは

物理的な越境もできなくなっていた。

「政府は何と言ってるの?」

対策本部の会議室で、目の下にクマを作り疲労の色が濃い高木知事が職員に尋ねる。

「米軍のグローバルホークが膜に衝突して墜落しました。海上からも接触してみたそうなのですが、最早通過はできないとのことです。

調査には米軍も協力し、膜への艦砲射撃からトマホークまで使用しましたが、膜に変化は見られなかったとのことです。」

最悪だ。

職員の報告は事態の悪化を告げている。

人が通れないだけならば、まだ遠隔操作で物資を運ぶ手段がった。

だが、変化後の白い膜は物理的に越えられないという。

これでは、物流が完全に止まり、北海道経済いや文明そのものが維持できず破綻する。

「通信障害の方は?」

「白い膜は電波も完全に遮断している模様です。 それよりも膜の変化ですが、膜は海面に達すると変化のスピードを変えました。

現在は40cm/hで海底へ向かい変化中ですが、海底到達後も同じスピードを維持した場合

27日後には青函トンネルも塞がれてしまいます。」

最後の生命線も時間の問題というわけね

膜が無くなるという確証がない以上、もうここは腹をくくるしかないわ

「物資を完全に遮断された場合、北海道経済への影響は?」

「短期では景気の悪化により倒産が増え失業率が悪化します。

長期では、皆さんもご存じの通り北海道経済は第一次産業と第三次産業の割合が大きく

第二次産業・・・とりわけ製造業の規模が小さいです。これにより産業の基幹技術や機械の購入元が失われ

産業技術を体系的に保持していない北海道では産業文明が崩壊します。

ただ幸いなのが国後沖油田のパイプラインは既に稼働していますので、燃料は確保できます。」

淡々と事実を報告する職員

その事実は実に厳しかった。

「今までの農業とサービス業一辺倒だったツケが来たってわけね。」

手で顔を蓋いながら知事が呟く、頭の痛い話だった。

そして、それに追い打ちをするような報告が続く

「特に道外からの観光客が絶たれた為に、観光に関わる産業は壊滅でしょう。大量の失業者は生活保護では賄いきれません

道の財政が破綻し、餓死者も出るでしょう。

それとハイテク関連についてですが、道内にはアンドロイド及びマイクロマシン工場の誘致に成功したため最先端ロボットの技術体系は保持していますが

DRAMや有機ELパネル等については生産設備が一切ありません。他の製造業は規模こそ小さいものの多少は存在していますから規模拡大で対応できますが

こちらは工場そのものが無いため、長期に隔離された場合に高度情報化社会が崩壊し、社会インフラが40年は後退します。」

もはや一刻の猶予もなかった。

対応が後手に回れば、北海道の文明社会が崩壊する。

覚悟を決めた高木は立ち上がり、会議に出席している全職員に宣言した

「施政者たるもの、常に最悪に備えなければなりません。

これより道として、完全隔離後に文明を維持するためにあらゆる手段を講じます。

まずは物資統制と基幹技術体系の取得を行います。

次に、政府に大規模な支援を要請します。

詳細は別途つめますが、この方針で記者会見を行いますので、3時間後にプレスルームにマスコミを集めてください。」

慌ただしかった道庁が更に慌ただしくなった。だが、先ほどまでと違うのが、この慌ただしさが一つの方向性に向かっての動きということだろう。






[29737] 第3話
Name: 石達◆48473f24 ID:a194d791
Date: 2011/09/17 10:17


その日の晩のニュースは全道民にとって一生忘れられないものとなった。

緊急の記者会見が開かれ、その中で知事が内地との行き来が不可能になった事を説明し

約一ヶ月後の完全隔離後に備え、物資統制を開始すること、文明維持のために必要な産業には大規模な支援を行うこと、

道民の道外資産を売却しそれを道内開発へ回す官製ファンドの創出を発表した。

プレスルームは驚愕した記者たちの質問攻めで騒然となった。



その様子を、晩飯を食べながら見ていた拓也と家族はしばし呆然としてしまった。

「・・・マジかよ」

他に言葉が出てこなかった。

あまりに突拍子もない事態に思考が追い付いていかなかった。

そしてそれは、エレナも同じだった。

「あんた?一体どういうこと?」

混乱したエレナは拓也に問いかけてくる。

拓也も全てを飲み込めた訳ではないが、テレビで説明されている事を簡単に説明した。

「もう、北海道から出られなくなったみたいだ。」

非常に言いにくいが、隠すわけにもいかずエレナに告げる

だが、彼女はそんな現実を信じようとはしない。

「まったまた、そんな事があるわけないでしょ? あんたの冗談は面白くないわね」

笑いなが冗談でしょ?と話すエレナ

その情報源がTVでの知事の発表であった以上、ただ事でない事が起きたのはわかるが

北海道から出られないなんて事は、理性ではその発表を理解しても

感情では到底認めることができなかった。

エレナは固い表情を維持する拓也に再度問いただす。

「あんた、いつまでそんな顔してるの? 冗談でしょ? ねぇ! 冗談っていってよ!」

焦る気持ちから大声を上げてしまうが、表情を変えない拓也を見て涙があふれる

そんなエレナに対し、拓也は悲痛な面持ちで話した

「詳しいことはわからんが、ニュースではそう言ってる。」

その報道が誤報であることを願うが、テレビは各地で起きた異変の映像を流している

おそらく、全て事実なのだ

「は?なにそれ!?  じゃ!じゃぁ!もう何があっても帰れないの?

名古屋の家はどうなるの?それに、私のお母さんにも会えないの?」

いったいどうなっているのよと叫び

その場に泣き崩れるエレナ。

今は、その背中を宥めることしかできなかった。

その日より、拓也の新たな人生が始まった。





翌日、ようやく落ち着いた嫁と今後について話し合ってみた。

「とりあえず、もう会社は辞めるしかないな。あとマンションも売却だ。」

当然だった。内地に戻ることができない以上、会社はクビ、マンションも不要になった。

「これからどうするの?」

エレナが心配そうに聞いてくる

その問いに対し、昨晩、寝ずに考え抜いた結論をはなす。

「ぶっちゃけ、サラリーマンはもう飽きたので自営をやりたいんだが・・・ なんかアイデアある?」

もう、どうしようもない。

ならば、新天地で新しい事をしようと心に決めていた。

しかし、拓也から”新しい事”が何がいいか問われたエレナは

何を言ってるんだとばかりに、淡々と返事を返す

「そんないいアイデアがあったら、あんたはサラリーマンしてません」

・・・ですよねー

ため息交じりに答えられた



だが、ここで話が終わってしまってはいけないので

仕切り直しとばかりに拓也が考えていた案を話し始めた。

「とりあえず、隔離されちまうんだから北海道には無い事で稼ぐしかないと思うんだ」

「うん」

「でだ。他の人になくて俺にあるアドバンテージって何だ?」

いきなりの質問に回答に困るエレナ

あんたのアドバンテージなんて、多少親が地元で影響力があるくらいだけじゃないの?

そんな事を考えつつ、会話を続ける

「えー そんなのわかんないわよ。あんた仕事の話しても

『俺の仕事のバレないサボりテクニックは世界一』とかワケわかんない事しか話さなかったじゃない」

拓也は思った。

日頃の態度から、嫁には色々と相互理解が不足しているようだった

一瞬、図星を突かれて言葉に詰まってしまったが、

それでも頑張って話しを戻す

「・・・いやね。そういう事はもう忘れてくれ。話を戻すが、俺のアドバンテージ

それは嫁が外国人であることだと思うんだよ。」

自分がアドバンテージ?

よくわからない事をいう拓也だった

「私が?」

何でまた?と説明を求めるエレナ

「そう、エレナが鍵だ。

そんでだ。地元のメイン産業は何だった?あとコネとかある?」

その質問に、口元に指を当てて地元の事を思い出してみる

「えー。私の地元のバルナウルには、大きな兵器工場とダイヤモンドの加工工場があったくらいよ。あとコネは特にないわ。」

他に何かなかったかなと、うーん唸りながらと考え込むエレナ。



しかし、これについては、拓也は事前に調査済みであった。

拓也は、愛知の機械メーカーで品質保証業務に携わる仕事をしていたが

中小企業の為、いかんせん給料が安かった。

そのため、仕事の合間を見てはネットでいい商売は無いかと日頃から考えていた、

当然、嫁の地元についても何かチャンスは無いかと、ネットの某百科事典で調べたりもしていた。

嫁の地元の兵器工場。

普段だったら、こんなものは手に負えないので論外だった

しかし、膜の発生がすべてを変えた。

おそらく北海道には無く、始めようとするならば

色々と問題がありそうだが、国家を維持するためには無くてはならない存在だろう

それに、自衛隊の89式の製造元は愛知の清州市の会社だったのを思い出した 

こちらも膜の向こうである

ニュースによると南千島も一緒に隔離されてるそうだから

国後でAK作ったら結構いけるんじゃないか?と真剣に考えてみた

向こうも本国と分断されて混乱してるようだし、ドサクサで許可を貰って

あとはハッタリで銀行やら道から融資受ければ・・・

ここまでが、一晩かけて考えた拓也のアイデアであった。



「で、拓也は何か良いアイデアあるの?」

特にアイデアは思いつかないと諦めたエレナは拓也に話を振る。

「あぁ 実は秘策がある」

「秘策?一体何なの?」

自信たっぷりに語る拓也にエレナが尋ねる

「国後で鉄砲を作る!もちろん、エレナにも協力してもらうぞ!」

急に立ち上がって勝手に宣言する拓也にエレナはびっくりした。

「え?私もやるの? 私としては家でゆったりと専業主婦がいいんだけど・・・」

正直、面倒くさい事は御免であった。

だがそれを拓也は許さない

「俺が失業した以上、二人で頑張らないとあなたの趣味のヴィジュアル系グッツ集めに使えるお金はありません。」

彼女にとっては趣味を人質に取られた以上、選択の余地は他になかった

「がんばります。」

その一言を聞いて拓也は思う


嫁が本気モードになりました。

かなり気合が入っているようです。

期待してます。



「で、とりあえずどうするの?」

エレナがもっともなことを聞いてくる。

「とりあえず資金集めだな。名古屋のマンションと車を売ったら1500万くらいにはなると思うので

それを原資に行動します。とりあえず、後で不動産屋等には俺が話しつけるから、エレナは義弟へ連絡を頼む」

「コスチャに?」

弟であるコスチャことコンスタンティン君の名前が出て

何をさせるのかとエレナは不安になる

「あぁ。とりあえず500万渡すから地元の兵器工場勤めの奴から図面・治具図面・工程表・作業手順書を入手してほしい。」

拓也からポンポンとでる書類の名称に困惑しながらエレナは疑問を口にする

「え、でもそんなの普通手に入らないんじゃ・・・」

「その為の500万です。金に困った従業員を探すところから始めたらいいよね」

なんだと?この馬鹿夫は何を言っているのか

「・・・・・・ウチの弟に犯罪をしろと?」

静かに声が震えているエレナさん

やべ・・・これキレてるよ絶対・・・

内心ビクつきながら、拓也はフォローに入る

「いっいや。危ない橋は渡らんでいいよ。手に入る範囲でね。

あと金が余ったらコスチャにあげるって言っといて」

怖い!睨まないで!マジで!

ネトゲでよくコスチャことコンスタンティン君とはよく遊んでるから

奴の性格上、絶対乗ってくるとは思うけど、お姉さんがここまで怒ることまでは考えてなかった。

「危なげだったら止めてもいいから。大丈夫だって。トラストミー」

信じてくれと言う夫に、未だ信じきれないエレナは疑惑の視線を送る

「本当に?」

お嫁様が睨んだまんま追及してくる。

「一昔前のハトポッポ総理よりは信頼度は高い!」

断言してみせるが、怖くてやっぱり目は合わせられない

そこまで言うと、仕方ないわねと落ち着いた様子でエレナが話す

こうなった以上、何かしらの行動を起こさねばならないのなら

諦めて夫である拓也を信用することにした。

「ポッポが誰の事かわからないけど、とりあえず判ったわ。コスチャには伝えとく。」

どうやら、助かったようだ

「でも、銃の工場なんて許可が下りるの?」

ニヤリと笑う

「そこでコネの出番ですよ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき


全然、萌えの「も」の字も出てきていませんが
仕様です。

異世界転移という設定なので、その内出す予定です。
たとえば獣人とか獣人とかロリドワーフとか



[29737] 第4話
Name: 石達◆48473f24 ID:a194d791
Date: 2011/09/17 11:07

異変から5日後

在札幌ロシア領事館


その中の特別に用意された一室にニコライ・ステパーシンはいた。

というのも、膜が変異してからというもの本国との衛星回線が使用不能になり

外部との連絡は、まだ使用可能な北海道-本州間の海底ケーブル経由のみとなっていたからだ

択捉にいたのでは、本国との連絡は取れない。その為、札幌にあるロシア領事館に臨時の対策室を移していた。

今日は彼に来客があった。


武田勤と鈴谷宗明。

会談の内容は「完全に本国と切り離された場合」

これについては、答えは決まっていた。

なにせ国後と択捉には合わせて3万しか人口がなく、石油はあるが他の産業は水産加工業と観光業だ

これでは今ある資材が底をついたら中世に戻ってしまう。

北海道と共同歩調を取るより仕方ない。問題はその度合いだ

その事について、三者は協議に入っていた。


「北海道と南千島側の双方が本国より切り離されるのであるから、別個の国家として協力するよりいっそ統一国家になるべきでは?」

武田が言う。

おそらく、最終的にはそれが一番なのでろうが

現状ではそれに同意できない理由があった。

そのため、武田の意見にステパーシンが反論する。

「それでは本国からの独立となってしまい。本国からの支援が受けられない。仮にもし膜が消えすべてが元通りになった場合

私は間違いなく死刑台を登るだろう。」


そうなのだ、仮に最終的に何も起こらなかった場合、本国から分離独立を求める運動をしてると捉えられてしまい

チェチェンと本質的には同じになってしまう。

そうなった時の予想は簡単だ。現大統領が私を殺しに来るだろう。

かつてチェチェンの武装組織に対し「たとえ便所に隠れていても、息の根を止めてやる」と言い放った大統領だ

もしかしたら、ショットガン片手に自ら殺しに来るかもしれない。


「では、非公式の準備委員会を設立し、詳細はそちらで話を詰めるとしようか」

鈴谷が言う。

ステパーシンにとって、現状では表ざたにできない事であった為、これについては同意し、話を続ける。

「そうだな。とりあえずは水面下で協議を進めよう。中央には感づかれてはいけないので

参加者は最小限に留める必要があるが・・・」

ロシア側にとって、これが中央にバレれば即ご破算になるのだ

慎重に事を進める必要があった。


「準備委員会の詳細については後程詰めよう。

しかして、今この場で確認する必要のある事がある。

それは最悪の場合、両者が統合する意思があるかということだ。」

武田が話を進めるが、それに対してステパーシンは笑って答える。

「本国からの干渉が無くなった後、それ以外に道はあるのかね?」

その答えを待ってたかのように武田が満面の笑みでステパーシンの手を握った。

「では決まりだな!これ以後の話は準備委員会でするとしよう。委員長には私がなる。

鈴谷君とステパーシン氏は副委員長でたのむ。当然、私が委員長となる以上、道内の取りまとめは任せてくれ」

かつての政権与党幹事長の経験もある武田が、道内は俺が纏めると息巻いて見せた。

「いいでしょう。では後程、道庁の方に実務者をお送りしますので、詳細はそちらでお願いします」

ステパーシンの返事により、話は纏まった。

今後の方針は決まった。あとは担当が詰めるので自分たちの仕事はここまでだ。

会談が終わると、鈴谷は急ぎ道庁に戻っていった。

統合後について道庁の中で検討を始めるのだろう。

実に精力的に仕事をしている。下野していた時期もあっただけに

日ロ間の交渉に参加できることを非常に喜んでいるのだろう。

一方、鈴谷が帰った後、武田はまだ領事館にいた。


「私事で済まんが、ちょっとあって欲しい人物がいるんだ。」

「あって欲しい人物?」

この状況で日本側から私的に接触してくるとは何事だろうか

それについて、武田が苦笑いを浮かべながら説明する。

「実は、私の選挙区の後援会長の息子なんだが、南千島と北海道を結ぶビジネスについて

是非とも話したいといってるんだよ。

内容はともかく、私の顔を立てる意味でも一度会ってくれないか?」

ステパーシンは理解した。

なるほど、民主主義の宿命というやつだな。

いくら、国政で勢いがあっても地元を蔑にするようなら選挙には勝てない

比例で勝つという手もあるが、小選挙区で勝てるならそれに越したことはない

「いいでしょう。それで何時ですか?」

すまんねと苦笑いを浮かべる武田が言う

「いや、じつは外で待っているんだ」

それほどにまで私に会いたいという人物はどういった人物であろうか

「なるほど・・・ まぁ 会談が予想以上にスムーズに終わったのでスケジュールには余裕がありますから

来てもらえるように言ってもらえますか?」





領事館の廊下



やばい・・・

ドキドキする。

領事館の職員に先導され、建物のなかを移動中

拓也の緊張はMAXとなっていた。


コネは使った。先日、コスチャから作業手順書の一部を入手した。

それに数日かけてステパーシン氏の身辺も調べた。

ハッタリ用には大丈夫だろう。多分・・・

でも、根がチキン野郎なもんだから、VIPと会うとなると緊張する

「あんた。大丈夫なの?」

通訳として連れてきたエレナが心配している。

おそらく青い顔でもしているのであろう。

「大丈夫。大丈夫。こんくらい楽勝だよ?」

無理にでも頑張らないとね。一世一代のハッタリの張時だからね。

そして案内される一室にステパーシン氏が座っていた。

「ようこそ。石津さん。お待ちしておりましたよ。」

にこやかに手を差し出すステパーシンに拓也も握手で返す

「ありがとうございます。ミスターステパーシン。」

「いえいえ、なんでも両島間のビジネスがおありとか。さぁ どうぞ腰かけてください」

ステパーシン氏に勧められソファーに座ると

エレナの通訳を挟み会談が始まった。


「いやー それにしても、今回の騒動は大変ですね。どうですか、あちら側の様子は?」

拓也の問いかけに、ステパーシンは表情を変えずに答える

「こちらとおなじですよ。ですが、北海道側と違い、本国との連絡が遮断されたために

内心は穏やかじゃないですがね。でも、軍が警戒にあたってますので静かなもんですよ。」

「ロシア軍が警備を?」

そういえば、海外では自然災害等が発生すると、よく暴動が起きるとかつてニュースで見た記憶がある

戒厳令でも出しているのだろうか?

「なにがおきるかわかりませんからね」

ただの万が一の備えですよと笑いながらステパーシンは語った。

ステパーシンにとっては既に報道もされている何でもない事だったので

さらりと話していたが、拓也の目の色は変わっていた。

軍の話題が出た。

会談の残り時間には限りがある。本題を切り出そう。

「ところで、ロシア軍の方々は本国と切り離され、補給はどうなっておりますか?」

急に拓也が軍の実情について質問してきたため、ステパーシンの顔色が変わった。

まぁ 軍の問題に切り込んでいったのだから当然か

「詳細は機密につきお教えできませんが、本土と切り離されたということで大体は察してください。」

なかなか頭の痛い問題ですな。と、ステパーシンは苦笑いを浮かべた。


・・・やっぱりな

国後にも択捉にも軍需工場なんてないからな

今ある物資が底をついたら終わりだろう。

拓也がそんな事を考えていると、

話題を変えようとステパーシンの方から切り出してきた。

「それよりも、新しいビジネスの話を伺いたいのですが?」

拓也は内心でニヤリとすると、テーブル上に一枚の資料を差し出した。

「!? これは?」

ステパーシンは驚く。その驚きようをみて拓也は説明を始めた

「AK74の技術資料です。」

そこにはAK74の作業手順書があった。というか数日じゃ図面も何も手に入らなかった。

が、コスチャの頑張りで作業手順書の一部の入手に成功し送ってもらっていた。

「これをどこで入手しましたか?」

さすがに警戒するステパーシン。

まぁ 当然である。自国の兵器の技術資料を他国の人間が持ってきたのだから

「それについては回答できかねますが、これが私共の提案するビジネスです。

単刀直入に申しますと、国後に製造工場を建てる認可を特別にいただきたい。

これによってロシア軍も補給の問題が解決するのでは?もちろん弾薬についても製造を予定してます。」

ステパーシンが予想外の提案をされ一瞬驚きの表情を見せたが、その重要性を理解したのか食いついてきた。

「なるほど、それはこちら側にとっては願ってもないですな。しかし、なぜ国後で?北海道側ではいけないのですかな?」

こちら側に利があるが、いまいち怪しいヤポンスキーの話だと思ってるのだろう。

疑いの視線の中、拓也は答える。

「ご存じのとおり、日本側は厳しい銃規制があり、なによりも北海道は左派の平和運動が盛んな地でしてね。

死の商人の真似事をしたら、即座にデモ隊が会社を潰しにくるでしょう。」

少々誇張されていたが、左派の市民団体に知れたら確実に似たようなことが起きるだろう。

なにせ北海道の"赤い大地"という異名は伊達ではない

「なるほど、それで国後にですか。」

ステパーシンも納得がいったようだ。

「はい。ただし、問題が一つありまして、妻はロシア人ですが、何分ロシアでの商売は初めてで

お国事情には明るくありません。

そこで提案なのですが、これから設立する新会社に相応のポストを用意しますので、

もし、北海道に滞在中のご子息がよろしければ

わが社に来ていただきたいのですが、どうでしょうか?」

ステパーシン氏が目を丸くする

たしかに、一緒にクリルに来た息子共々膜に隔離されてしまったが、

それでもなぜ、息子の事を知っている?

しかも、ポストを用意だと?どこまでこちらの事を知っているんだ?

彼の疑問はもっともだった。

彼の息子もクリルに隔離されている。

そして、いい年をしているのだが、定職についていない。

かつてはロシア国内の大企業にコネで何度か入社しているようだったが長続きしなかった。

そして、それにまつわる詳細な情報は、あるところからエレナが入手してきたのだった。

某世界的SNS

日本と違い、海外では実名登録が主であり

ネットで調べたステパーシン氏の家族を検索してみると、一発で出た。

そして、仕事が長続きしない理由も日記に全部あり、

膜に隔離され択捉から父親と一緒に札幌に移動した事も書いてあった。

なんでも、このステパーシン氏の息子アレクサンドル・ステパーシンは

一言でいうならばオタクであった。

仕事が長続きしない理由も会社でアニメ談義と布教を繰り返していたら

女性社員に白い目で見られ、鬱になり辞めたそうだ。

しかし、頭は良いようで機械工学の博士号をもっているらしい。

それを嫁から聞いた瞬間、拓也は決めた。

彼を取ろう

アニオタ?もう日本じゃ普通だ。普通。

むしろ俺もアニオタ入ってるし大丈夫。

この決断は、ほかにも理由があった。


サハリン2事件。

日本と欧米の石油メジャーがサハリンで開発したガス田

ロシア側は資金は出していなかったが不満があった。

自国の資源開発なのに利益の6%しか入ってこないのだ、そして資源は外資にもっていかれる。

この件に対する対応は実にロシア的であった。

環境問題をちらつかせ開発を中止させると

最終的に国営ガス起業のガスブランが、採掘会社の株式のうち50%+1株を取っていったのだ。

つまり、ロシアで商売するにはロシア人の利益も考えないと痛い目を見るということである。

アレキサンドルを取るメインの理由がこれだった。

ロシア側トップの親族を縁故採用。

まだ、事業がはじまってないので資金の余裕がない拓也らにとってはポストを与えて

将来に期待してもらうしかないというのが実情なのだが・・・

だが、ステパーシンは予想以上に食いついてきた。

「・・・良いでしょう。認可を与えましょう。」

「え?」

更にプレゼンに入ろうとしていた拓也は、予想外の認可の速さに驚いた。

さすがに、縁故採用だけでは弱いと思っていたからだ。


「ですから、認可が欲しいのでしょう? いいでしょう。書面は後日郵送します。

ですが、息子には相応のポストをお願いしますよ。」

にこやかにステパーシン氏は言う。

実をいうと、彼も息子の扱いに困っていた。

30目前なのにいまだブラブラしている。それもヤポンスキーのアニメが原因で・・・

せっかくコネで入れた企業も辞めてしまう始末。

そこにヤポンスキーの会社から息子をくれと言ってきたのだ。

まだ、会社を立ち上げていないというが北海道にもクリルにも軍需工場はない

適切な支援をすれば急成長するだろうという思惑があった。

「「ありがとうございます!」」

拓也はエレナと飛び上がって喜んだ

まさか、ここまでうまくいくとは予想以上だった。

ひとしきり喜ぶと拓也は話を続ける。

「認可を頂きありがとうございます。そして、もう一つお願いがあるのですが」

「なんですか?」

拓也達は、すまなそうな笑顔を浮かべてお願いに入る

「現在、バルナウル市で妻の弟が技術資料を集めているのですが、それに便宜を図っていただけないでしょうか?」

正直なところ、たったあれだけの資金で独自に資料を全部集めるのは難しかった。

「そのくらいなら、別に構わんよ。ただし、こちらもお願いがあるのですが」

「なんでしょうか?」

ステパーシン氏からお願い?こちらからお願いに伺ったのだが、逆にお願いされるとは思ってなかった。

変なお願いされたらいやだなぁ。認可を貰えるといった手前、断るわけにもいかないし・・・

「今、札幌のマンガ喫茶に息子がいるのだが、もう数日帰ってきてない。

新しい仕事を見つけたと伝えて連れ帰ってくれないか?」

何だその程度の事かと二人は申し出を快諾すると、すぐさま領事館を飛び出していった。

目指すは、未だ見ぬロシア人アニオタが棲むマン喫へ

自分たちの目標に向け、彼を社会復帰させるために・・・



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

あとがき

まだ転移まで数章かかりそうです。

それと、色々とご感想ありがとうございます。

あと、主人公の拓也ですが。

正直、何の能力もありません。

金も一般庶民程度です。

それをどうやって、起業させるかが転移前のメインになる予定です。



[29737] 第5話
Name: 石達◆48473f24 ID:a194d791
Date: 2011/09/17 11:56

札幌駅前

某マンガ喫茶

ステパーシン(父)の情報だと、ここにステパーシンJrが居るはず。

拓也とエレナの二人は店の前で作戦会議をしていた。

「何日もマンガ喫茶から帰らないなんて、一体何してるのかしら?」

「おそらく、オンラインRPGか何かやってんじゃないかと思うんだけど、ネット廃人だったら

外に連れ出すので一苦労しそうだなぁ」

「そうなの?」

いまいち想像がつかないエレナに拓也が説明する。

「俺の経験上、一度ネット廃人に足を突っ込むと外に出るのがひじょ~~~に億劫になる。」

経験者は語るというヤツだ。

「経験上? あんた昔そんな事してたの?」

呆れた顔で見つめるエレナ

「仕方なかったんだよ。大学生は無駄に時間があったから」

なが~い溜息と一つ吐くとエレナは仕切り直しとばかりに切り出した。

「つまり、男一人を外に連れ出せばいいんでしょ?それなら私にまかせてよ!」

妙に自信満々なエレナ

ここは一つ彼女に任せてみるべきか

「なんか秘策でもあんの?」

「ふふふ・・・ ヒミツ。」

不敵な笑みを浮かべると、彼女は準備と言って近場のトイレへかけて行った。



5分後・・・


「おまたせ~♪」

そこに立っていたのはバッチリ化粧を決めたエレナだった。

正直、嫁のエレナは美人です。

どれくらい美人かというと、街へ服を買いに出ると

高確率で店員に「モデルさんですか?」とマジ聞きされる(そして俺は高確率で通訳さんですか?と言われて凹む)

そんな典型的白人の美人嫁が、ビジネス用に纏めていたウェーブのかかったブラウンの髪をほどき

化粧を決めてスーツの胸元を広げている。

「・・・やっぱり色仕掛けか」

夫の前で他の男に色仕掛けとかマジ止めてほしい

拓也が不満をもらすと、エレナは余裕の表情で答える。

「男なんて、これでイチコロでしょ?」


なにやら絶対の自信がおありのようだ

その為、エレナは俺が止める間もなく店内に突入していく

「もう、なるようになれ・・・」

既に店内に突入したエレナを見届けると、拓也も諦めて後に続いて行った。



店内に入ると、目的の人物を探すため店員に声をかけようとするが

そんな手間もかからず、目的の人物は見つかった。

『こっこの馬鹿犬~!』

受付までアニメの音声が聞こえる。

その音の発生源には、オープン座席でアニメを見ている外人がいた。

年頃は聞いていた話のとおり、それにしてもマンガ喫茶のオープンシートで

ヘッドホンすら着けず、自分の趣味を貫き通す彼はなんて漢なんだろう

店員も誰も注意しないのは不思議でたまらない

「ヤツね」

あんなチェリー野郎イチコロよと言ってエレナが彼に近寄って行った。

俺は、その様子を離れた場所から観察することにした。

正直、嫁の逆ナンの様子なんて余り見たくない・・・

というか、普通に勧誘するんじゃ駄目なのか?

いまさらになって思うが、すでに彼女は飛び出して言った以上、どうにもならなかった。


おもむろに彼の隣に座り話しかけだすエレナ。

自分に関心を引こうと目の前で足を組んだりと小技を使いつつ

何かを話しかけているが、ステパーシンJrの反応は薄い・・・

一度、彼女の方を振り返って凝視した後、興味を失ったようだ。

それでもめげずに話しかけるエレナ

一行に諦めない彼女に、貴重なアニメタイムを邪魔された彼は

何かをエレナに向かって呟いた。

「・・・・・」


「!!!? なんだとこのフニャチン野郎!◎×■▽!!!」

途端に大激怒して立ち上がり、罵声を浴びせる嫁

!!? 

イッイカン、何を言われたのか知らんが嫁がキレた!

嫁は怒りのレベルに応じて口が悪くなる

"フニャチン野郎"なんて言葉が出てる以上、かなりの激怒だ

急いで止めに入らねばステパーシンJrがヤバい!

とっさに駆け出す拓也

急に激怒しだしたエレナと、イキナリの事で呆然とするステパーシンJrに割って入る

今にも襲い掛からん勢いのエレナを抑え込みつつ

ステパーシンJrに謝罪する

「She is my wife.I'm sorry to have troubled you!」
(彼女は俺の嫁なんだが、ご迷惑をおかけして申し訳ない!)

ロシア語が話せないので咄嗟に英語で割って入ったが

エレナを落ち着かせるのに十数分の時間を要した。


「一体君たちは何なんだ?」

ステパーシンJrが言う。

もっともな質問です。

夫婦で迷惑をかけに来たのか?と言われて、言い返す言葉がなかった。

「おかげで、僕の貴重なアニメタイムに水を差されてしまったよ。」

彼が指差す先のモニターでは、ピンクの髪をした少女が

魔法を使って使い魔を虐待しているシーンだった。

「ツンデレ少女の罵声ならご褒美だけど、それ以外から言われるのは不愉快でしかないよ」

話に常にアニメネタを絡ませる。彼は訓練されたオタだった。

その言葉に、横で拓也に頭を押さえられているエレナが「ぐぬぬ・・・」と歯を食いしばっている

その言葉を聞いた拓也は、ああそれならばと語る

「まぁ こんな嫁ですが、一応ツンデレだと俺は思うよ。

普段のツンが激しいだけに、極たまに発露するデレは、それはそれはレアで良いもんなんだけどね」

何いってんの?このバカは?

エレナが目を向けると、拓也がツンデレの良さについて語り始める

彼も訓練されたオタだった。

拓也の話の振りにステパーシンJrも興味を惹かれたのか

以後、1時間に渡り古今東西のツンデレ談義に花を咲かせるのだった。

つーか、なんで話しかけてきたのか気にしないあたり、彼はに大物だった。





一通り、お互いの趣向に関する話をした後、満足したのか拓也が本題を話し始めた。

「・・・・という事で、君のお父さんに話を付けて君を雇いに来た訳さ」

「は?嫌だよ?」

即答です。まぁ本人の承諾抜きで話を進めてるのは悪いと思ったけどさ

もうちょっと話を聞こうぜ?

拓也は思う

「何か嫌な理由でも?」

せめて理由は知りたい

その拓也の問いかけに、彼はさも当然のように語りだした。

「何を言ってるんだ。君は日本人だろ。日本には素晴らしい格言があるじゃないか

『働いたら負けかな』僕は、日本でこの言葉を知った後、座右の銘にしたよ」

・・・駄目だ。

いろんな意味で終わってる。

これでは、普通に説得してもだめだ。

相手に合わせて説得せねば・・・

「だけど、外に出ないと現実世界のフラグは立たないよ?」

拓也はフラグという言葉で誘ってみるが、彼にはその言葉に対するトラウマがあった

「フラグクラッシャーの僕にはもう必要ないさ。前の会社でも好みの女性社員に

僕の事を知ってもらおうとアプローチをかけたけど、ドン引きされて終わったし」

あぁ これが日記にあったアニメ談義と布教活動の事だな・・・

でも、彼の趣味は2次元限定じゃないみたいだな。

その確信から拓也は勝機を見た。

「・・・ステパーシン君。君はここが何処だか知ってるか?アニメの国だよ?

君が好みのオタ娘を見つけたらヘッドハンティングすると約束します。」

「!! マジか!貧乳娘が希望だけど大丈夫か?!」

異常に興奮して食らいついてきた。

その様子に若干引きながらも拓也は言葉を続ける。

「まかせろ。いいのが見つかったら事務のねーちゃんとして雇うよ」

この約束を聞いて、彼は鼻息を荒くしながら答えた。

「行く!俺行くよ!!」

飛び上がって喜ぶステパーシンJr

「ありがとう。じゃぁ まず、君の父上が帰って来いと伝言を頼まれていたので

とりあえず、ここから出て戻ってくれるかな? 会社の方は、設立後に迎えに行くよ。」

にこやかに握手する拓也とステパーシンJr

彼は即座に会計を済ますと、

出来るだけ早く迎えに来いよと別れの言葉を残して

捕まえたタクシーに飛び乗りロシア領事館へ戻っていった。


「なんか凄い人ね・・・」

どっと疲れた顔でエレナが呟く。

「あぁ・・・ だが、キーパーソンはゲットしたぞ。」

「でも、あんな約束して大丈夫?」

結構大変なことじゃないの?と、不安を口にするエレナ

それに対し、拓也はニヤリと笑いながら説明する。

「ヤツ好みの女の子を雇用することか? 大丈夫。大丈夫。"ヤツが好みのオタ娘を見つけたら"って前提条件だ

見つけるところまでは奴の独力だから、こっちがあわてる必要ないよ。

それに、事務のねーちゃんは会社が大きくなれば、どっち道必要だしね」

「よう考えるわ。あんた」

感心したような呆れたような、どっちつかずの視線を送ってくるエレナだった。





「そういや、キレた時になんて言われたんだ?」

思い出したように聞く拓也

「・・・『アニメに集中できないから消えてくれないか?この駄乳』って言われた」

あー ヤツは貧乳が好きだの言ってたからなぁ。奴にとってEカップは駄乳か

「絶対に許さない・・・」

漆黒のオーラを纏ったエレナが、ステパーシンJrが去って行った方を凝視して呟くのであった。





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あとがき

エレナの描写を希望されたので書いてみました。

基本、怒ると怖いのですが30回に1回くらいはデレが来るそうです。

その内、デレも書いてみたいと思います。(いつになるかは分かりませぬが・・・)




[29737] 第6話
Name: 石達◆48473f24 ID:a194d791
Date: 2011/09/16 00:09
ロシア領事館


兵器工場の認可を求めてきた二人組が去ってしばらくすると、息子のアレクサンドルが戻ってきた。

父であるニコライがいくら言っても戻ってこなかったのに、あの二人組はどんな魔法を使ったのだろうか。

その息子は、帰ってくるなり就職の世話の礼を言い、荷造りをするといってまた出て行ってしまった。

「それにしても、宜しかったのですか?」

窓辺で息子が出ていくのを見ていたステパーシンの後ろから、一人の将校が声をかける。

ウラジーミル・ツィリコ大佐 国後・択捉島に展開する第18機関銃・砲兵師団の師団長だ。

彼もまた、本国との連絡のために領事館に来ていた。

「兵器工場の事か? しかたあるまい。どちらにしろ、クリルの産業構造では全て自前で調達するのは不可能だ。」

「でも、材料はともかく製造まで任せることは無かったのでは?」

ツィリコ大佐がもっともな疑問を口にする。

その疑問に対し、彼は答えた。

「大佐。考えてもみたまえ。今回の異変で我々は外界から隔離された。

しかし、すぐに元に戻るかもしれん。そこのところは誰にもわからんがね。

そのなかで、日本人が我々の補給を引き受けるといってきたのだ。我々の首輪付きでな。

仮に異変がすぐに解消し、全てが無駄に終わっても、大損するのは日本人であり我々には何も損はない。

そして、このまま異変が続いても我々は武器の製造ラインを維持できる。

安全保障上、物資の貯蔵と同じくらい製造ラインを保持し続けることが重要なのは

君も知ってのとおりだろう。

それに、彼らは我々の認可の下で製造を行うのだ。

もし、コントロールが利かなくなった場合、認可を取り消して工場を接収することも可能だ。

まぁ 私としては、息子の勤務先にそんな国営ガス企業みないな真似をする気は無いがね。」

ニヤリと笑うステパーシンに、ツィリコ大佐も納得がいったように笑って応えた。

全てが手の上の事

この時、ふたりはそう信じていた。






異変7日目


北見市


その日、駅前の信金から拓也とエレナの二人が出てきた。

「いやぁー まさか、こんなに早く融資のOKが出るとは思わなかったな」

「本当ね。それにしても、この製造の認可はすごい効き目ね。

まぁ 内地と隔離されて、北海道経済の危機って状況の中、

確実にニーズを独占できる利権を持って融資の相談に来れば

向こう側にとっても渡りに船みたいな感じかしら?」

「だろうね。向こうも途中から店長が出てきたし。

まぁ、それにしても、予想以上の資金が手に入ったな。」

「はぁ・・・ 20億・・・ 持ち逃げしようかしら?」

通帳の数字を見るエレナが恍惚の表情で呟く


このオホーツク海側で最大の信金は、拓也が求めた20億の融資に同意してきた。

拓也としては、最初はダメもとで大目に相談したのだが、まさか通るとは思わなかった。

それには理由があり、エレナの言うとおり内地との隔絶は北海道経済に深刻な影を

広げようとしていた。

道の物資統制により、影響はまだ最小限にとどめられているが、

内地との取引が多かった融資先が、次々に期限の延長を申し込んできた。

貸し付けの多くが焦げ付きそうな中、将来性のありそうな起業目的の融資が光輝いて見えた。

そんな理由と、残り数週間で内地と完全に隔絶されるという異常事態が

ありえない速さでの大型融資になった。


いまだ恍惚の表情を浮かべるエレナを横目に、拓也も良からぬ妄想を始める

「そうだな。20億もあればハーレム作ってウハウハな予感・・・」

「・・・あぁん? な・ん・だ・と?」

横から殺意の波動を送ってくるエレナ

冗談が冗談として通じていなかった

「・・・・・・まっ、まぁ 冗談は置いといて、やっと会社を始める資金が手に入ったし

今朝方、コスチャから図面類も送られてきたから、やっと本格始動できるな。」


そう、今朝方にコスチャから電子化された図面類が送られてきた。

彼曰く、なかなか図面類が手に入らなくて困ってきたところに

一人の黒服の男が家に尋ねてきたそうだ。その男は、電子化された図面類を拓也に送るよう頼むと

他にデータが流出した場合、命の保証はできないと言葉を残して消えたそうだ。

ビビるコスチャの話を聞きながら、拓也は別なことを思った。



ステパーシンのおっさん、超仕事はえー

流石、元ロシア連邦防諜庁長官だわ。しびれるわぁ~



そんなこんなで、送られてきたデータは製品図面はもとより

治具、生産設備の図面やQC工程表、作業手順書など必要な技術資料は網羅していた。


「でも、コスチャに渡した500万は無駄になったわね。結局、手順書しか手に入らなかったし。」

エレナが拓也に話しかけた後、もったいな~いと呟く

「いや、そんなことないぞ。 考えてみろ、すべてのキッカケはコスチャの手に入れた手順書だろ

あのおかげで、起業認可から全資料と20億の融資まで手に入ったんだ。

むしろ、それらすべてを500万で買ったとみるべきだな」

実にお買い得だよと拓也が語るのを、エレナはふ~んと感心したように頷いていた。

「それで、これからどうするの?お金も手に入ったし。」

「用地買収もしたいんだけど、とりあえず、道内で出来ることを全部してからだ。

なんでも、道庁のほうで道外資産を売却して買いあさってる産業機械類を格安でリースする説明会があるそうなんだ」

「もうそんなのが始まってるの?お役所とは思えない行動の速さね。」

「なんでも、知事がその決定を下した後、行動が遅いと散々マスコミに叩かれた政府が本気で後押ししてるらしい。

ニュースでは、内地から中古の工作機械は消えたそうだよ。」

「じゃぁ また札幌ね。せっかく北見に戻ってきたのに、また武ちゃんと離ればなれね。」

エレナは、子供と離れるのが寂しいと話しながらも、

未来へ一歩づつと進もうとする夫の後をついていくのだった。





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あとがき

とりあえず、自分で生産設備を整えないロシア側の理由とか書いてみました。

なんか説明文ばっかりな気がしますけど、違和感ないですかね?


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ついにアレクサンドルことサーシャが一緒に行動を始めました。

ロシア人って愛称で呼ぶ事が多いんですが、アレクサンドル→サーシャって

日本人からしたら分かりにくいですよね?

でも、サーシャで行きます。

なぜかというと、アレクサンドルっていちいち言うのがクドイ気がするので・・・

ちなみに、エレナのロシア的愛称はレナとなるのですが

話のしょっぱなから説明を入れるのが面倒だったので端折りました。
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↑やっぱり修正します。
サーシャの出番はもうちょっと後にずらします。


あと、2~3話で転移の予感・・・

それと、この投稿のついでに
題名の表記を第○章から第○話に変えました。
なんか気になったもので・・・



[29737] 第7話
Name: 石達◆48473f24 ID:a194d791
Date: 2011/09/17 08:51
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まえがき

6話のケツを修正しました。
やっぱ、アレクサンドルとはまだ合流させません
本当は次の話で新キャラ貧乳中華娘を出そうかと思ったのですが
本気で妄想ノート化しそうな気がしたんで、新キャラの登場予定共々消えてもらいました。
あと、描写が雑という意見もあるんで、週末あたりに今までの話も少々修正しようかと思います。
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異変11日目


札幌 

札幌流通総合会館



この日、拓也とエレナは、道庁が中心となり設立した道外売却資産運用ファンドの企業向け説明会に来ていた。

この説明会は、ファンドが道内の産業振興のために内地で買いあさった工作機械のリースに関する説明が主だったのだが

全道より工作機械を求めてやってきた企業はもとより、その集まった企業に対する自社製品の売り込み目当ての

企業も集まるという北海道史上空前の大商談会場となっていた。

本来は商談会ではないのだが、ちゃっかりブースを構える企業がでて、会場の運営側がそれを黙認すると

他の企業もそれに続き、今では会場外にまで企業ブースが立っている。

そんな熱気の中、格安でリースされる機械類は、すぐに予約済みとなって会場から消えて行くのだが

道も政府も本気になって全国から買いあさった機材を次々と運び込むため

3日目を迎えても熱気は一向に覚める気配はなかった。

そんな、熱気あふれる会場内に拓也達はいた。

「これで、だいたい揃ったかな。プレス機、横旋盤、NC加工機にマシニングセンタまでリースできたよ。」

満足げな顔でエレナに話しかけると、

エレナは逆に心配そうな顔で言った。

「そんなに借りて大丈夫なの?あとで、借りすぎたからお金が無くなったとか嫌よ?」

「それが、このリース契約は最初の5年は無償で、その後もリース費用はそれほど高くないんだよ。

ちなみに希望すれば、格安で買い取れるって説明会の資料にもあるよ。」

心配すんなとエレナに語る拓也

その嬉しそうな顔を見て、エレナも多少は安心したようだった。

「それでこれからどうするの?」

エレナが次の予定について聞いてくる

「こんだけ沢山の企業が集まってるんだから、製品を製造するのに必要な外注企業を探したいんだ」

「さっきの機械だけじゃ駄目なの?」

そもそも、エレナは元ナースで現在は専業主婦であり、製造業にかんしては予備知識も何もなかった。

この事に関しては帰ったら一から教える必要があるなぁと思いつつも拓也が説明を始める。

「さっき買った機械は金属加工用だけだよ。たとえばウチの製品一つ作るにしても

まず規格の素材を調達し、部品加工後は表面処理、それにグリップには樹脂が使われてるし

銃弾に至っては火薬も調達しなければならない。それらを組み立てるには専用の機械を用意しなければならないよね」

説明する拓也は、理解してるのかは疑問だが相槌をうつエレナ相手にさらに説明を続けた。

「その中で、ウチがやるのは金属部品加工と組み立てだ。あとは他の会社から買う予定だよ。

たとえば、樹脂については釧路の新興樹脂メーカーを見つけたんで、さっき名刺交換して会社案内を貰ったし

火薬については美唄にある北海道帝国油脂って会社が自衛隊用にガンパウダーを作ってるって話なので

後日伺うアポを取ったよ。なんでも、このメーカーは前までは産業用爆薬とかだけだったんだけど

最近になって雷管とかガンパウダーも作り始めたんだって。

正直なところ、あんまり詳細を詰めずに事を始めたもんだから

この会社がなかったら、危なかったよ。」

はっはっはと笑う拓也を尻目に、エレナは怒りの声を上げた

「こんの馬鹿!!笑い事じゃないでしょ!?もし、この会社が作ってなかったらどうするつもりだったの?

だからあんたには、もうちょっとよく考えてから行動しろって結婚する前から言ってるでしょ!」

あまりの迫力にビビる拓也。

その恐ろしさに周囲からも注目され始めている。

「ま、まぁ、結果オーライって事でさ。他の人も見てるし抑えて抑えて・・・」

いまだ唸り声をあげてるエレナも周囲に注目されては

これ以上、怒ることもできず、次の質問を拓也に投げかけた。

「まぁ このことについてはもういいわ。

あともう一つ質問なんだけど、組み立てには専用の機械がいるって言ってたけど、

それは調達して無いわよね? どうするつもりなの?」

エレナの圧力から解放された拓也は

助かったとばかりに溜息を一つ吹いた後に答えた

「AKについては手作業で組み立てで問題ないんだよ。ロシアの工場でも途上国の町工場でもそうだし

それより弾薬の製造用に必要なんだ。あれは、量を作ってナンボだからね。

幸いにしてラインの図面はあるので、それの小規模版を産業機械の製作会社に発注する」

「特注品ってわけね」

そういうことなのねと納得したエレナに言葉を続ける。

「他の汎用機械類についてはここでリースできたけど、これは受注生産になるからね

多分、設備投資の中で一番高くなる。ちょっと価格面で心配だわ」

製造業の新規起業って大変だなぁと思いつつ、拓也は次々に出るエレナの質問に答えていった。




同日

同会場内


多くの企業人でごった返す会場内を

高木はるか知事が秘書と視察に来ていた。

北海道だけでも経済が成り立つように、道が全力で取り組んでいる事業だっただけに

その成り行きが気になっていた。

「随分と企業が集まっているわね。リース目的じゃない企業までブースを開いてるし」

周りの盛況ぶりに気を取られながら、後ろに続く秘書に声をかける。

「そうですね。第二次産業が弱かった北海道が、これで大幅に製造業を増強できます。

もし、仮に膜が消え去った時に、これならば内地と製造業で張り合えるかもしれませんね」

秘書もその熱気に半ば飲まれたように言葉を返す。

「でも、工作機械の導入で中小企業は発展するでしょうけど、・・・・問題は技術力ね」

難しい顔をして知事が語る

「技術力のある大企業に対し、政府を通じて道内の子会社に技術情報を集積するようにしてもらったけど

道内に拠点のない産業界から技術を引き出すのは流石に難しいわ。

無理に技術の開示を求めても、膜が元に戻った時は自社技術が漏洩してしまうので絶対に拒否するし

残る手段は、M&Aで強制的に技術を奪うしかなくなるわ。

それに奪ったとしても産業拠点を一から作らなければならないので時間も必要になるし・・・

物資統制はまだまだ続きそうね。」

高木知事が言っているのは北海道にないDRAM等の工場の事だ

北海道には半導体メーカーもあるにはあるが

DRAM等のメーカー工場は存在していなかった。

そこで、内地のメーカーに技術援助を要求したが、援助を行った後、仮に北海道が戻ってくることがあった場合

自社技術が大々的に漏洩している事態になるので、全て断られた。

次に行われたのが、海外メーカーに対するM&Aだった。

性能は世界の先端からは劣っても、ほどほどの物が作れれば良かったので

事業規模が小さく買いたたくことができたメーカーから、技術は劣るものの製造に関するすべての技術を奪うことに成功した。

だが、技術があっても生産ラインがなければ何もならない。

既に道内に官製工場の用地選定を急がせているが、物が出来上がってくるのは数年後だろう。

それまでは、PC等の機器は新たに製造できなくなる。

在庫でどうにかするしかないのだ。

そんな暗い話題について秘書と話していると、会場の一角から大きな叫び声が聞こえた。

『こんの馬鹿!!笑い事じゃないでしょ!?』

なにやら、二人の男女が喧嘩をしているようだ(まぁ喧嘩と言っても男の方が一方的に怒られているだけのようだが)

その二人の手には、色々な企業の会社案内などが握られいるのが見えた。

結構若い人にも見えるけど、起業するのかしら?ちょっと興味が湧いたわ

ベンチャー企業にエールを送りましょうか。

そう決めた知事は、二人の下に人の波をかき分けて近づいて行った。

これが、高木知事との拓也達の最初の出会いとなるのだった。



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あとがき

ん~
やっぱり、色々と描写が不足してますよね。
書きたいことも有るのですが、先へ先へと進みたい気持ちから
雑になっているようです。
笑いを狙って滑ったり、テンポが悪かったりしてるので
週末あたりに、いままで書いた分を修正しようかと思います。

あぁ 文才が欲しいなぁ





[29737] 第8話
Name: 石達◆48473f24 ID:a194d791
Date: 2011/09/17 18:12
「…というように、製造業では工作機械の他にも検査道具も一式そろえなければならないんだよ

某重工系の軍需やってるところは、だいたい蜜豊社製で揃えてるから、ウチもそうしようと思う」

エレナへの講義はいまだ続いていた。

今話している内容は、『品質保証と計測器について』

正直なところ、エレナが理解しているかは二の次で拓也の自己満足に近かった。

明らかに(もういい加減にしてよ)という表情をエレナは浮かべているが

拓也は止まらない。

そして、拓也がヒートアップしてきたところで

不意に視界の外から声をかけられた。

「あなた達、ちょっといいかしら?」

その声に拓也が振り向くと、落ち着いた雰囲気の女性と、そのお供と思われる男性が立っていた。

ん?どこかで見たことがある気がする。

というか、最近は、ほぼ毎日テレビで見てるよ。

「も、もしかして高木知事ですか?」

その女性は、ええそうよと答えると、にっこり微笑んできた。

「あなた達、お若いのに積極的に動き回っているようね。ベンチャー企業の方?」

なぜかは知らないが、知事がこちらに興味をもって声をかけてきてくれた。

道のトップに名前を知ってもらって損は無いなと思った拓也はにこやかに返す。

「ええ!これから新しく工場を作ろうと思いまして、本日はその機械の調達と商談をしに来ました。

それと申し遅れました。私、石津拓也と申します。こちらは妻のエレナです。」

拓也の紹介にエレナもどうもと会釈する。

それを見て、知事も気づいたようだ。

「あら、お嫁さんは外国の方?」

その問いかけに、エレナも緊張気味に返す

「はい、ロシアから来ました。」

それに続いて

「二人で日本とロシアの間に立ったビジネスをと思いましてね」

と拓也が付け加える。

知事も意外だったようだ。

少々の驚きの表情をみせると質問を続けてくる

「今回の騒動で、南千島と北海道が一緒に隔離されてしまったけど

あなた達みたいなのが間を取り持ってくれると、両地域にとっても好ましい事ね。

ところで、何の商売を始めるのかしら?差支えがなければ教えて下さる?」

それに対し、拓也が笑顔を崩さずに平然と答えた。

「銃火器の製造です。」

・・・

一瞬、空気が凍った。


知事にしてみても、まさか銃を作るなど予想の遥かに上だったのだろう

平然を装いながらも、どこかぎこちなく見えた。

「じゅっ銃ですか? でも、許認可の類はどうしたんですか?

誰でも作れるようなものではないと思いますが」

その質問に対して得意げな表情で拓也は答える。

「既にロシア側の許可は頂いております。製造工場も国後ですし」

知事の表情が曇っていく、道が集めた機材を使いロシアの武器を製造するというのだ

この男は一体何を考えているのだろうか?疑惑の視線が拓也に突き刺さる

「あなたの事業はロシア側に一方的に利益を与えているように見えるわね。

自衛隊の補給も先が見えない中で、こんなことが許されると思うの?

この場で、私がリースの取り消しを命じたらどうなるかしら?」


もし、本当に売国奴なら・・・ この青年には報いを受けてもらおう


しかし、その言葉を予想してたかのように拓也は話す。

「えぇ。確かに今はロシア向けの製造のみなのですね

私どもはロシアの兵器メーカーから各種の図面から技術資料まで入手しておりますので

資金と設備の支援があれば大抵のロシア製小火器は製造できるでしょう。

それと、知事。ご存知ですか?

ロシアは東側規格の武器を世界に売っていると思われますが

実は、NATO規格の弾薬も輸出しているのですよ。

当然、私どもの入手した資料の中にもそれはありました。

自衛隊の89式小銃は確か、NATO規格の互換性がありましたね。

まぁ あくまで仮定の話ですが、将来的に道内でも許認可がいただけるのであれば

道の安全保障にとって有益だと思いますよ。」

満面の笑顔で語る拓也に対し

高木知事は、まだ納得がいかないような表情で次の疑問をぶつけた

「しかし、なぜ武器なのです? もっと平和的なビジネスもあったはずでしょ?」

もっともな疑問であったが、拓也にとってみれば取るに足らない疑問でもあった。

「例え、自分たちがやらなくても他の人がやることです。

それに、内地と分断された今、北海道にない産業に参入するのはチャンスなんですよ。

無論、許認可等の利権の関係上、困難もありますが。

向こう側は、私たちを自分たちの許認可の下でコントロールできると思っているでしょうが

サプライチェーンは道の影響下にあります。

つまり、道と南千島の有効が保たれている間でしか私たちのビジネスは機能しません

いいかえると、向こう側の弾薬補給は、北海道と友好関係を結んでる状況に限り維持できるという事です。

そして、この二つの地域がそれぞれ別々に独立を保つってのは並々ならぬものがあると思うんです。

北海道は南千島の石油が、向こうはこちらの物資が必要ですし、いずれ二つの地域は統合するんじゃないかと読んでいます。

そうなれば、私たちは安泰ですね。」

高木知事は驚いた。

目の前の青年は、殺人兵器を作り出すことによって平和を演出しようとしているのだ

まぁ 建前か本音かは別としてもだ。

彼の話を聞く限りは、別に彼らがやらなくても同じ状況は作れそうな気がしたが

すでに向こう側の許可を受けているという。

そうなれば、製造元を一本化した方が監視も容易だろう。

そう考えをまとめた後、高木知事は満足げに

「なかなかいい話が聞けたわ。実に興味深かった。また機会があればお話ししましょう。

私は、この後のスケジュールが詰まっているので行かなければならなけど、がんばってねお二人さん。」

と二人にエールを送ってその場を離れていった。






道庁への帰り道



秘書の運転する車内で、窓の外に広がる会場を眺めつつ、知事は呟いた

「なかなか面白い人達と出会えたわね。」

その言葉に、ルームミラーで知事の様子を確認しながら秘書が返す

「銃を製造しようという二人組ですか?」

フフ・・と笑いながら知事が答える。

「私の予想だけどね。 彼、この二つの地域をつなぐキーパーソンに成長する気がするわ」

そう秘書に告げ、微笑を浮かべる知事を乗せた車は道庁へ戻っていくのだった。



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あとがき

ちょっと短めでしたが

高木知事との邂逅話です。


なかなか転移できません。

あと、皆さんに質問ですが

どういったタイプの獣娘がタイプですか?



[29737] 第9話
Name: 石達◆48473f24 ID:a194d791
Date: 2011/09/17 18:12
異変15日目


道内某所 スーパーにて




異変後、道内では物資統制が始まり、生活必需品に関しては完全な配給制になっていた。

しかし、一見するとスーパー等の商店への客の量はあまり変わっていない。

そんな中、一人の初老の婦人が買い物に来ていた。


はぁ・・・ スーパーがそのまま配給品の交換所になったから見た目には変化はあまりないけど

物価はすごい事になっているわね。


道内で自給できる食品は配給制だったが、再入荷の見込みの無い食品は早々に統制をやめた

生鮮食品の場合は腐るのですぐに無くなるし、何より果物が少々無くなっても

命にかかわるというものではない。


彼女が値札を見る

みかんやパイナップルの缶詰が恐ろしい価格になっていた。

すでに定価の10倍を超えていた。

生のバナナなどは既に姿を消し幻の食品となっている

温暖な地域の果物は北海道では取れない為

在庫が無くなれなそれまでだった。

そんな事を考えながら、店内を回っていると

前方から見知った女性がやってきた

「あら、奥さん。こんにちわ。

奥さんも配給を受けに来たの?

それにしても大変よね。さっき鮮魚コーナーを見てきたけど

沿岸の魚ばっかりで外洋の魚がさっぱり無かったわ。

配給券では、冷凍マグロとかは対象外だし・・・」

まったく!嫌になっちゃうわねとその女性が自分に語ってくる。

そうか、お魚も種類が減っちゃったのね

がっくりしながら老婦人は話を続ける

「でもそうなると、お肉はどうかしら?

北海道には牧場もいっぱい有るし・・・」

その疑問に対し、目の前の女性は手を横に振りながら答える。

「お肉のコーナーも見たんだけど、確かに一通りはあるんだけど

一パックごとの量が少ないわ。まぁ アメリカ牛もオーストラリア牛も

入ってこないんじゃ、道民全てに行渡らせるには量を削るしかないそうよ。

店員さんもそう言ってたもの」

「じゃぁ 一体、何を食べればいいのかしら?」

老婦人が不満を口にする

「じゃがいも、たまねぎなんかは大量に配給されてるわね

あと、大豆も大量に配ってたわ。」

女性が、先ほどゲットしてきた食品を見ながら言う

「なんでも、道内産の農産物が出荷できないんで大量に余っているそうよ

しばらくは豆腐ハンバーグでも作って乗り切るしかないわね」

笑って話す女性に老婦人も笑って答えるしかなかった。

なんたって非常事態である。

困っているのは自分だけじゃない。

そんな状況下では、日本人の忍耐力は強かった。

「それはそうと、お宅の息子さん達って帰省中でしょ?

こんな事になって、北海道に閉じ込められちゃったらどうするの?」

女性が疑問をぶつけてくる。

老婦人の子供たちが夏の帰省シーズンに帰ってきたことは

この前会った時に聞いていたが、その後どうなったかは聞いていなかった。

それについて老婦人が語る。

「この間、役所から調査が来てね。家族構成から職業、仕事の内容まで根掘り葉掘り聞いた後に

冊子を置いて行ったわ。

なんでも、道内に取り残されれ帰省中の人や観光客を集めて保護してるらしいの。

閑古鳥が鳴いている道内の観光地の宿泊施設を住居として一時的に開放するらしいわ

業界ごとに地域を分けて保護してるんですって。

それを聞いて、息子たちも新しい職が見つかるかもしれないと出て行ってしまったわ」

それを聞いた女性は、昼間に見たワイドショーを思い出した。

番組内では、道が道内の技術者を強制的に移住させていると言っていた。

それが嘘かホントかわからないがテレビのいう事に疑問は持たなかった。

何より、目の前の老婦人の子供たちが其処に引っ越していったそうである。

テレビの言葉を借り、強制移住であると決めつけた女性は、

非常時に強権を発動する道が悪者であるというイメージのまま話をする。

「息子さん、騙されているんじゃないの?

そもそも、食糧の不足も道が機械の輸送だか何だか知らないけれど

汽車の輸送を独占してるのが悪いのよ。

機械だの戦略物資?だの送る余裕があるなら、市民生活を守るために食料品を送るべきだわ」

不満を口にする女性に

そうなの?と疑問を口にする老婦人だが、次第に彼女に感化されていった。

その老婦人も息子たちと一緒に孫まで出ていってしまった事に

少なからず不満があったからだ。



このような風景が道内各所で見られた

異変前と変わらず、無責任なマスコミ

それに続く物資の欠乏と、先の見えない不安感は

道民の忍耐でなんとか抑えられていた。

しかして、不満はゆっくりと、そして確実に溜まっていくのだった。



[29737] 第10話
Name: 石達◆48473f24 ID:a194d791
Date: 2011/09/18 00:02

異変20日目




国後島 ユジノクリリスク



ロシア人が来る前は、古釜布と呼ばれた場所。

眼前に広がる海、その中へちょこんと飛び出すかのような半島にその町はあった。

そんな町で、一台の車が港から高台へ向かって走っていた。

その車内には、拓也達と案内人の男の3人が乗っている。

後部座席から拓也が案内人の男に声をかける。

「いやぁ~ すいませんね。工場用地の斡旋までしてもらっちゃって。

それにしても、ステパーシン氏には後でお礼を言っとかなきゃダメですね。」

ホント、助かるなぁ

とエレナと笑顔で語る拓也。

彼らは、ほんの一時間前までは独力で用地を探そうと考えていた。

地図は見たが初めてくる土地である。

そんな所で工業用地なんて安くない買い物をしようというのだ

彼らは好物件を探そうと気合を入れ上陸した。


そんな彼らを待っていたのは、ステパーシン氏から拓也達の案内を頼まれたという男だった。

彼は、名前ををエドワルド・コンドラチェンコと名乗ると

既に島内で好物件を何件か見繕っており、それを紹介してくれるといって二人を車に押し込んだ。

そして、島内を案内しながら2件ほど物件を回り、最後の物件へと向かおうとしているところで

エレナが指をさして拓也に言う

「見てよ拓也。あっちに埠頭のすぐそばに工場が出来てるわよ。

なんだか凄い大きな機械を搬入してるし。

私たちも港のそばの方が便利なんじゃないの?」

その疑問に対し、エドワルドが横から説明する。

「あぁ あれは、国営のガスブランの工場ですね。

資金に物を言わせて立派な工場を建ててますが、当初は油田の修理部品を作るって話でしたね。

それと、あの立地は本来は港の倉庫を建てる予定だったのを、奴らが中央に話をつけて強引に取得したとか

まぁ 一般の人には真似できませんね。

でも、異変のせいで、機械積んだ船が入港できなくなってしまって建物が浮いてしまったって噂ですよ」

「ふーん。でも、何か搬入してるみたいだね?」

彼の話では搬入する予定の機械が手に入らなかったというのだが

実際は目の前で何かを搬入している。

その疑問を拓也は口にしてみたが

「さぁ? あの連中が何を運んでるのか自分にはわかりませんよ」

案内人にも分からないと言われれば、これ以上知りようがない

それに、たいして自分たちに関わりがなさそうな話だったので

この話は終わりと話題を変え、次の物件へ向かった。


最後の物件は、町の外れにある工場跡地だった。

工場が閉じてからさほど時間は経っていないらしく

少々の修理をすれば使えそうだった。

「ここは、以前は何だったの?」

中々よさげな物件をみて、エレナが詳細を訪ねる。

「資料によると、以前は水産加工場だったようです。

しかし、事業者が投機に手を出した結果、手放したと書いてあります。

ちなみに、建物の裏に小さな桟橋があって、小舟程度なら繋留できるそうです」

桟橋?そんなものまであるのか

拓也がワクワクしながら裏へ回ると、そこには小さな桟橋と倉庫があった。

倉庫のカギは壊れているようで、中を開けてみると台車に乗った小さなモーターボートがあった。

「これも付いてくるの?」

拓也の質問にエドワルドが資料を読み返しながら説明する。

「えー 敷地内の全ての物の所有権付で売りに出されてますから、これらも付いてきますね。」

正直なところ、船舶の免許は持っていなかったが

思わぬオプション付きの物件に拓也は心ひかれた。


まぁ 建物については他の物件も大差なかったからであるが


「エドワルドさん。ここに決めました。即決です。」

拓也が購入することを伝えると、普段は相談なしに物事を決める拓也に対し

しょっちゅう怒っていたエレナも同意して頷く。

彼女も気に入ってくれたようだ。

もっとも、彼女は

桟橋があるなんて素敵ね。今度、子供を連れて三人でクルーズでもしたいわね

とビジネス以外の事を想像して呟いていた。

そんな彼らを満足げに見たエドワルドは

では、契約に関することは不動産屋の事務所でしましょうと

車に乗り込んでいった。

その彼に続いて車に乗り込もうとする二人だが、

乗り込む直前、エレナが何かに気付いた

「ねぇ。さっきから、あの人たち私たちの事監視してない?」

エレナが指差すと300mほど離れた所に一台の車が止まっており

その周囲で2人組の男たちがこちらを向いているのが見えた。

しかし、距離が離れているため、ハッキリと確認できない。

拓也は気のせいだよとエレナに言い聞かせて、エレナを車に押し込んだ。

その後の展開は早かった。

既にステパーシン氏の手回しで契約書類などがすべて揃っていたため

必要書類にサインし、小切手で支払いを済ませた。

全ての手続きがおわり、ホテルにチェックインして今日はもう休むと二人は決めた。

「これで、拠点が手に入ったわね。」

ホテルの部屋で、窓辺に腰かけながらエレナが満足そうに言った。

「そうだね。あとは機材を運ぶだけだから、道庁と運送屋に連絡するだけさ。

これで機材が到着するまで、少しだけの休暇というわけさ。」

本来は工員の採用から、社則の制定など、やることは色々あるのだが

拓也はあえて考えないようにした。

何せ、異変の開始から今日にいたるまで精力的に道内を飛び回り、果てには国後島まで来ていた。

少しばかりの休息が必要だった。

「でも、こんなに自然が綺麗なところなら、武ちゃんも連れてこれば良かったわね。」

実家に預けてきた子供を思いエレナが寂しそうな顔をする。

「全部の準備が整えば、いつでも来れるよ」

拓也はエレナの肩に手を置き、優しく言葉をかけた。



そんな二人を窓の外から見つめる影がある。

しばらくすると、新たな影がやってきて、もう一方の影が離れていく

だが、正確に言えば、その影を見つめるもう一つの影があった。

エドワルドである。

エドワルドは離れていった影を尾行した

尾行されているとも知らず、その影は一つの建物に入っていく

「やはり、奴らか・・・」

影が入っていった建物は、昼間に拓也達に説明した真新しい工場だった。

拓也達に島内を案内してる途中、エレナが不審に思うずっと前から

エドワルドは尾行に気付いていた。

そもそも、なぜ彼がこんな事をしてるかというと


それは数日前に遡る。


札幌

ロシア領事館


この日、彼はツィリコ大佐に呼ばれていた。

出頭に応じ、案内された一室に入ると

そこには、ステパーシン南クリル臨時代表とツィリコ大佐が立っていた。

「やぁ よく来たね。コンドラチェンコ大尉。

どうだね?君も一杯飲むかね?」

ステパーシンがウォッカのグラスを片手に声をかけてくる。

それを丁重に断りつつ、敬礼を返すと

続いてツィリコ大佐が今回の呼び出しの説明を始めた。

「忙しいところすまんな大尉。

今日呼び出したのは、君にある人物の護衛をしてもらいたい。」

「護衛・・・ですか?」

エドワルドが聞き返す。

「あぁ それも、護衛対象には秘密でだ。

護衛対象は石津拓也という日本人と、彼の妻のエレナ。ちなみに彼女はロシア人だ」

そういって、大佐は二人の写真をエドワルドに見せた。

この二人か・・・ しかし、この二人は一体何者だ?

その疑問を大佐に言うと、その答えはステパーシンから返ってきた。

「彼らは、国後に我々の補給を担う武器工場を作ろうとしている。

君の任務は、私から工場用地の紹介を依頼された案内人として彼らに接触し

彼らに感づかれないように護衛してくれ」

エドワルドは、彼らが何者かは分かったが次の疑問が湧いてくる

「しかし、彼らは一体何から狙われているんですか?それに護衛していることを隠す意味は?」

護衛をする以上、必要な情報は多い方がいい。彼の疑問の内容はもっともだった。

「単刀直入に言おう。

ガスブランの奴らが不穏な動きをしている。

つい先日、奴らもまた武器製造の許可を求めてきた。だが、すでに彼らにも許可を与えていることを知ると

強硬に認可の取り消しを要求してきたよ。なぜだかわかるかね?」

その質問にエドワルドは率直に答えた。

「武器生産を独占する為ですか?」

その答えを聞いて、フフンと鼻で笑うとステパーシンは続けていった。

「半分は当たりだ。だが奴らにはもう一つ思惑がある。

奴らは武器の生産を独占することで軍との関係を強化し、十分な手回しの後に私を失脚させる腹積もりだ。」

エドワルドは驚いた。

一介の国営企業がそこまでやるのか

それに何の証拠があって臨時代表はそう断言できたのか。

その表情を見て、今度はツィリコ大佐が説明をする。

「実はな、私の所に一部の士官からタレこみがあった。

ガスブランの幹部の一人が内密に接触してきたそうだ。

賄賂と一緒にその計画を語ったそうだ。

その計画では、臨時代表はもとより、軍内部でも中央の息のかかってないものを一掃しようというものだったそうだ

その後、士官は、贈賄を受け取って承諾の返事をしたそうだが

奴らの思惑が外れたのは、その士官がそのままこっちへ報告に来たことだな。」

その話を聞き、難しい顔を崩さずにエドワルドは質問を続ける

「しかし、彼らはなぜ其処までしようとするのでしょうか

派閥は違えども同じロシア人同士じゃないですか」

それを聞いたステパーシンは、愉快な話をするかのように笑って答えた。

「なに、それは簡単なことだ。

異変前、奴らは大統領の後ろ盾を得て、さも極東の支配者のようにふるまってきた。

それが膜に隔離されるや否や、大統領の息のかかっていない者が首班となり

今までのような強権が使えなくなった。

奴らは、それがたまらなく気に入らないのだよ。」

難儀な奴らだと呟きながらステパーシンは持っていたグラスを空けた。

そうして全ての説明が終わった時、とんでもない騒動に巻き込まれたことを悟るのだった。

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あとがき


ストーリーが中々転移に向かいません。
前にあと2~3話で転移といましたが
更にここから2~3話かかりそうです。


いやだって・・・
やっぱり、業界に参入してくるのが拓也達だけじゃおかしいかなと思ったんですよ
そしたら頭の中にストーリーが出来ちゃって、書かにゃならぬと思っちゃったんですよ

国後編が終わったら、次こそは絶対に転移編やります。


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