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福島第1原発:作業適切なら…炉心損傷の確率を解析

福島第1原発=2011年4月6日、本社ヘリから長谷川直亮撮影
福島第1原発=2011年4月6日、本社ヘリから長谷川直亮撮影

 東京電力福島第1原子力発電所が地震と津波で全電源を喪失した後、2、3号機の炉心への注水やベント(排気)作業が適切に進んでいれば、炉心損傷に至る確率はそれぞれ約10%しかなかったことが、松岡猛・宇都宮大客員教授(システム工学)の解析で分かった。旧式の1号機は約70%と比較的、高い確率だったものの、初期対応の遅れやミスがなければ、少なくとも2、3号機に関しては最悪の事態を防げた可能性を示唆する内容。近く電子情報通信学会の学術誌で発表する。

 日本原子力学会が作成した「確率論的安全評価(PSA)」の実施基準に基づき、設備や機器類の故障率を考慮して解析した。実際の被災状況と同様に、1~3号機の全電源が高さ15メートルの津波で失われ、緊急炉心冷却装置を起動させる非常用バッテリーの一部が水没で使用不能になったと想定した。解析の結果、全電源喪失から7日後までに炉心損傷に至る確率が、1号機は70.8%、2、3号機はそれぞれ11.8%だった。

 1号機で確率が高い理由の一つは、緊急炉心冷却装置の構造に違いがあるため。旧式の1号機では、「非常用復水器(IC)」で使える水の量に限りがあり、最長で8時間しかもたないなど、不利な点があった。

 一方、2、3号機では「隔離時冷却系(RCIC)」と呼ばれる別の冷却装置を備えていたが、実際の事故では、RCICを起動して冷却する操作に遅れや中断があった。

 政府の「事故調査・検証委員会」の調査では、格納容器を守るためのベントの手順書がなかったり、機材が誤配送されたりしたため作業に手間取ったほか、1号機の非常用復水器の運転中断を幹部が把握していなかったことなどが判明している。

 松岡客員教授は「1号機の損傷はほぼ必然だったかもしれないが、2、3号機が同時期に炉心損傷に至る確率は本来1%ほどと低かった。事故の経過や今回の解析から、冷却の中断が大きな影響を与えたと考えざるを得ない。事故拡大はヒューマンエラーが要因だった可能性がある」と指摘する。【須田桃子】

 ◇確率論的安全評価(PSA)◇

 原子力施設の設計の改善や事故対応に役立てるため、個々の設備・機器類の故障率などから、起こりうる事故のリスクを確率で予測する手法。米国では全原子力施設をPSAで評価することが義務付けられている。日本でも原子炉の立地審査にPSAを導入する検討が進められ、国の原子力安全委員会の専門部会は06年、原発の炉心損傷頻度を年間1万分の1とする性能目標を提案している。

毎日新聞 2011年9月16日 15時02分

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