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【社会】

北茨城市立総合病院 「放射線で」医師不足拍車

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 福島第一原発事故後、茨城県最北部の北茨城市立総合病院が深刻な医師不足に陥っている。福島県いわき市南部まで医療圏をカバーする基幹病院だが、放射線を恐れて退職や内定辞退が相次ぎ、二カ月足らずで常勤医の約三分の一がいなくなった。診療科の縮小に追い込まれるなど、東日本大震災から半年たった今も、常勤医確保の見通しは立っていない。 (永山陽平)

 「最も頼りにしている病院なんだから、困る」。北茨城市の漁師の男性(59)が嘆く。「港に張り付いて、余震が来たら、津波を避けるために船を沖に出さなければいけない。遠い病院に行っている暇はない」と話す。

 北茨城市立総合病院は百九十九床、十四の診療科がある。病院によると、常勤医が三月三十一日付で二人、四月三十日付で二人退職した。五月に着任予定だった医師も内定を辞退した。

 病院総務課は取材に「五人とも原発事故による放射線の恐怖を口にした」と説明。医師を補充したが、契約切れによる退職もあり、震災前に十六人いた常勤医は現在十一人。二十八人いた二〇〇四年の半数に満たない。

 この結果、医師不足で眼科が三月末から休診。脳神経外科は週六日の診察が五月から週二日に減った。小児科や整形外科など五つの診療科は常勤医が不在で、東京など県外の非常勤医に頼らざるを得ない。

 原発から約七十五キロ離れた北茨城市の放射線量は、市役所のモニタリングポストで震災直後の三月十六日に県内最高の毎時〇・〇一五八ミリシーベルトを計測したが、現在は約〇・〇〇〇一五ミリシーベルト前後に落ち着いている。同市の自営業の男性(48)も「福島で逃げずにやっている医者もいるのに、ひどい話だ」と憤った。

 豊田稔市長も「放射線が怖くて逃げるとしたら、医師としての資質以前の問題」と怒りをあらわにする。

 医師不足の背景に、病院の老朽化を指摘する声も。築三十九年の建物で二年後に新築移転する計画で、県医師会の斎藤浩会長は「もとより設備を含めて体制が不十分。医師が腕を磨ける環境になかったから、事故を機に離れた」とする。

 医療崩壊をどう食い止めるか−。市は対策として、県内で唯一医学部を持つ筑波大(つくば市)との連携を模索する。しかし、医師の派遣調整を行う筑波大付属病院災害復興緊急医療調整室の担当者は「人材に限りがある。まずは病院の問題を分析しないと手は打てない」と話し、早急に事態が好転するかは不透明。また、市が報酬をアップして医師を募る方策は、病院内であつれきを生む恐れがあるとして慎重だ。

 一方、福島県内では三月一日現在で百三十五病院に二千四十人の常勤医がいたが、八月一日現在では千九百九十五人と、四十五人減った。医師数を調査した福島県は「原発三十キロ圏内にいた医師が県外へ出たのだろうが、三十キロ圏外でも放射線への嫌悪感で逃げた医師もいるのではないか」と推測している。

 

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