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2007年01月28日(日) タバコを一日30本吸うと年間レントゲン300回分被曝するか(解決編)

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おとといの日記の続き。

MyNewsJapan

マイルドセブンに「ポロニウム」 JT「入っていないと言い切れません」

http://www.mynewsjapan.com/kobetsu.jsp?sn=581

山中登志子の文章って時点で既に嘘だと決め付けて良いとは思いますが、どこがどう間違っているかを指摘しないと理系とは言えないのでとりあえず計算してみた(計算協力:番長)。


山中登志子の主張

元KBGのリトビネンコ氏が殺された事件後、猛毒放射性物質「ポロニウム」の名前が有名になった。そのポロニウムがたばこに入っており、「1日1〜2箱喫煙で胸部レントゲン写真300枚分の被曝だ」と『ニューヨーク・タイムズ』が記事にした。マイルドセブンにポロニウムが入っているかをJTに聞くと、「という可能性はあると思います」。たばこの含有物を公開しないのは食品でいえば原料隠し。やましいところがないなら公開できるはずだ。



タバコを一日に一箱半吸うと一年間でレントゲン300回分被曝します」と主張するニューヨークタイムズの記事(Puffing on Polonium)はこれ

http://select.nytimes.com/gst/abstract.html?res=F10A13FD355A0C728CDDAB0994DE404482

全文はここで読めます

http://www.commondreams.org/views06/1201-26.htm

著者はスタンフォード大学のRobert N. Proctor先生

http://www.stanford.edu/dept/HPST/proctor.html


読んでみたんですがやっぱり内容は「タバコを一日に一箱半吸うと一年間でレントゲン300回分被曝します。」というもの。ハーバードでD取ってスタンフォードの教授(科学史)やってる人の記事に難癖付けるのはちょっと勇気がいるんですが、ゴーストが囁いたのでちょっと検算してみた。


まず、Proctor先生によると、タバコ一本吸った際のポロニウム210の摂取量は0.04ピコキュリー。

ここで、キュリーをSI単位に直そう。

1キュリー=3.7×10^10ベクレル(Bq)

従って0.04ピコキュリーは

0.04×10^-12×3.7×10^10=1.48×10-3(Bq)

タバコ1箱20本として一日に吸う本数「Pack and a half=30本」とすると 、一日に吸うタバコに含まれるポロニウム210の含有量は以下の通り

1.48×10^-3×30=4.44×10^-2(Bq)

ポロニウム210の実効線量係数は以下の通り。

吸入:2.2×10^-3mSv/Bq

経口:2.4×10^-4mSv/Bq (ソース:http://cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=444

タバコは吸入か経口か判りませんが、とりあえず係数が大きい「吸入」のほうで計算すれば被曝量の最大値が判る。そうすると、一日あたりの被曝量は

2.2×10^-3×4.44×10^-2=9.77×10^-5(mSv)

1年間毎日吸うと

9.77×10^-5×365=3.57×10^-2=0.036(mSv)

(1/29追記:計算過程における桁数間違いを直しました)

一方、胸部X線撮影1回分の被曝量はこの通り

0.1〜0.6mSv

(ソース:http://hokencenterkomaba.c.u-tokyo.ac.jp/XP_senryou.htm

・・・・・・・・二年半毎日タバコ吸わないと被曝量はレントゲン一回分に達しません。

一応念のためPubMedでタバコに含まれるポロニウム210量と年間被曝量について言及している論文を調べて見たんですが、それでも年間被曝量は(多く見積もっても)レントゲン一回分程度。

一例:Concentration levels of 210Pb and 210Po in dry tobacco leaves in Greece.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=AbstractPlus&list_uids=16098642&query_hl=2&itool=pubmed_docsum

(抜粋)

「mean value of the annual committed effective dose for smokers (20 cigarettes per day) of Greek tobacco was estimated to be 287 microSv (124 microSv from 210Po and 163 microSv from 210Pb).」

というわけで毎日タバコ吸っても一年間にレントゲン300回分の放射線を被曝する事は無いと思います。

それよりも、タバコに含まれるポロニウム210はリン肥料由来とのことなので、トマトとかピーマンなどの野菜を食べた事による被曝量のほうが多くなるような気が。


※一応最後に申し上げておきますが自分はタバコが非常に嫌いです。嫌煙ファシズムがどうこうとか言いたい訳では全く無いのでお間違えなきようお願いします。


(2011年6月5日追記)

[]再検証

震災後当エントリに関して何度もメール等でお問い合わせを戴き、こちらとしてももう一度調べ直して記述をより確かな物にしておく必要があると思いましたので、喫煙による年間被曝量について専門家に問い合わせを致しました。また、Proctor先生がなぜ「タバコを一日30本吸うと年間レントゲン300回分被曝する」と主張しているのか、その根拠となるデータをProctor先生本人にお願いして教えて戴きましたので掲載します。



1.タバコを吸うとどの程度被曝するのか(再調査結果)

喫煙による被曝量について実際に測定した文献を過去20年分調べ、電子メールか電話によるコンタクトが可能な研究者の方々に見解を伺いましたので掲載致します。

問い:喫煙による被曝量について調査しています。過去の論文に記載された測定値(実測値)を参照する限り(値にはある程度のバラツキはありますが)喫煙による年間被曝量は少なくとも1ミリシーベルトを超える事は無いようでした。喫煙による年間被曝量が1ミリシーベルトを超えるような事はありますか?



見解:

Tibor Kovacs先生(ハンガリー・Pannonia大学)

喫煙による年間被曝量が1ミリシーベルトを超えるのは本当に難しい事だと考えています(毎日タバコを100本ずつ吸う事が必要です)。普通のタバコと喫煙本数で年間1ミリシーベルトも被曝するのは不可能です。

Consatantin Papastefanou教授(ギリシャ・Aristotle大学)

普通の人の喫煙による年間被曝量が1ミリシーベルトを超える事はありません。私の論文によりますと、ラジウム226とラドン228と鉛210の放射性核種による年間被曝量は0.152〜0.401ミリシーベルト(平均0.252ミリシーベルト)であり、1ミリシーベルトを大きく下回ります。(解説:先生のコメントの中にポロニウム210が含まれていないのは、タバコに含まれるポロニウム210と鉛210は葉タバコが収穫され原料として利用されるまでの間に永続平衡が成立し、ほぼ同じ放射能濃度を有していると報告されている為、鉛210とポロニウム210を一緒にして計算する事にしているからです。他の論文でも同様に取り扱っているのを確認しています)

Bogdan Skwarzec教授(ポーランド・Gdansk大学)

喫煙による年間被曝量は1ミリシーベルト以下です。


Ashraf E. M. Khater准教授(エジプト・National Center for Nuclear Safety and Radiation Control(NCNSRC))

喫煙による年間被曝量は1ミリシーベルトを超えることはないと思います。


また、日本の論文誌(RADIOISOTOPE誌)にも喫煙による被曝量について研究した論文が掲載されておりましたので、これも確認しておきました。

喫煙者の実効線量評価―タバコに含まれる自然起源放射性核種―放射線医学総合研究所 岩岡和輝、米原英典)」

喫煙者の年間実効線量は0.19 mSv y^-1であり、ICRP.82の介入免除レベルである1 mSv y^-1よりも低い値であった。なお、介入の免除とはすでに存在する線源からの被ばくによる健康に対するリスクがさほど大きくないという理由で、介入を行う必要がないとすることをいう

紙巻タバコの放射線濃度の算術平均値を用いて、1 mSv y^-1となるような1日の喫煙本数を逆算して求めると、108本であり、現実的に考え難い喫煙本数であった。

先生方の見解と放医研の報告は被曝量の実測値に基づいたものであります。

総合すると「現時点の研究では、喫煙による年間被曝量は1mSvに満たないと考えられる」と考えても良さそうです。Proctor先生の主張(タバコを一日30本吸うと年間レントゲン300回分被ばくする=数ミリシーベルト以上被ばくする)とは大きな隔たりがあります。



2.Proctor先生はなぜ「タバコを一日30本吸うと年間レントゲン300回分被曝する」と主張しているのか

では、なぜProctor先生は「タバコを一日30本吸うと年間レントゲン300回分被曝する」と主張しているのか、本人に訊いてみましたところ、データの出所を教えて戴きました(Thomas H. Winters and Joseph R. Difranza, “Letter to the Editor,” New Engl. J.Med 1982,306:364-365)。

論文(Letter)を参照してみたところ、「喫煙による被曝量は年間8000ミリレム(≒8ミリシーベルト)である」という記述がありますが、これは実際の測定に基づいたものではありません(1965年の生体組織検査報告からの推定)。

(データの出所を教えて欲しいとお願いした立場でこういう事を言うのは心苦しい事ではありますが)現在は実際に精密測定した論文が何報もあるのに30年前の大雑把な推定値を喫煙による年間被曝量であると主張するにはかなり無理があると思います。そもそもProctor先生がコラムなどで主張する通りタバコ一本あたりのポロニウム摂取量が0.04ピコキュリーであるならば(この摂取量は別の論文から値を持ってきたそうです)、年間被曝量はレントゲン300回分に達しないし、年間被曝量がレントゲン300回分であるならば、タバコ一本あたりのポロニウム量は0.04ピコキュリーでは計算が合いません。矛盾しています。


※大事な事ですので最後にもう一度申し上げておきますが自分はタバコが非常に嫌いです。嫌煙ファシズムがどうこうだとか、タバコの害は軽微です、という事を言いたい訳では全くありません。その点お間違えなきようお願いします。


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以上です。

mobanamamobanama 2007/04/24 15:20 「被爆」しちゃ駄目ですよう。

ayanamiayanami 2007/04/24 23:27 すいませんです。その件に関しては既に先にご指摘戴いてますが、一つ直すといろいろと読みやすく直したり見やすくしたりしようとしてキリが無くなってしまうのでそのままにしておりますです。