メンタルヘルス専門職の方へ
平成11年3月に開催された日本医師会認定産業医学研修会における講演資料です。タイプA行動パターンおよびそれに関連する心理社会的因子について詳しく解説しています。文献も載せてあります。

東京大学医師会・東京医師会共催産業医学研修会における講義用資料
(一部改変してあります)
平成11年3月6日(土)於東京大学安田講堂
タイプA行動パターン
福島労災病院産業保健科部長(心療内科部長兼任)
桃 生   寛 和
1.は じ め に
 本講義で取り上げるタイプA行動パターンについては、初めて耳にする方も多いと思われる。循環器領域の医師の方の中には、虚血性心疾患(以下IHD)の心理社会的な危険因子の一つとして記憶している方がおられるかもしれない。
 タイプA行動パターンは、1950年代後半に米国でIHDの危険因子として提示された概念で、疫学的研究により発症との関わりが認められたために一躍脚光をあびた。
 日本においてもタイプA行動パターンとIHDの関連が追試されたが、研究者の間では日本人の冠動脈疾患親和性行動パターン(Coronary-prone Behavior Pattern、 以下CPBP)は、タイプA行動パターンとは微妙に異なるという意見が多い(ただし前向き研究はなされていない)。尚、日本人のCPBPについては多施設共同研究が行なわれ、ひとつの答えが提示されている。
 他方でタイプA行動パターンは、IHD以外にも疲憊性うつ病や突然死の一部などのストレス関連疾患との関係が注目されるようになってきている。またタイプA行動パターンを有する者とその周囲の人々のQOLに着目している研究者もいる。
 演者は、産業保健活動の場においてメンタルヘルスケアを実践する際にはタイプA行動パターンとその関連領域についての知識が有用であると考えている。特に、ストレス関連疾患の予防(一次、二次、三次とも含む)や職場の対人関係を考える場合には不可欠といっても過言ではない。
 今回、本研修会においてタイプA行動パターンについて紹介させていただく機会を与えられたことをたいへん嬉しく思っている。
2.タイプA行動パターンとは何か
 タイプA行動パターンとその対照にあるタイプB行動パターン、タイプA行動パターンの構成要素の中でも心身にとって最も有害であるとされている敵意性について説明する。またタイプA行動パターンと直接関連はないものの、近接領域の概念として重要なタイプC行動パターンや社会的支援などについても述べる。
1−タイプA行動パターン
 1950年代後半に米国サンフランシスコ湾岸在住の循環器科医師FriedmanとRosenmanは、IHDの患者には以下のような特徴的な行動のパターン(外から観察される行動様式で性格ではない)がしばしば認められることに気がついた1)。
 1.自ら選んだ、しかししばしば漠然とした目標を達成しようという欲求がたいへん強い
   例.できるだけ少ない期間にできるだけ多くの業績をあげたい、ある目標を達成す
     ると次にはもっと早くもっと多くとエスカレートし決して満足することはない
 2.競争心がたいへん強い
 3.常に周囲から高く評価されたがり、出世欲も強い
 4.常に多くの互いに関連の乏しい仕事にのめり込む結果、いつも締切りに追われている
 5.精神的・肉体的活動の速度を常に速めようとする
   例.早口、早足、早食い(4.の特徴があわさると「ながら食い」になる)
 6.精神的・肉体的に著しく過敏
 彼らはこれらの特徴を合わせ持つものに対しタイプA行動パターン(Type A Behavior Pattern) と名付け、これと対照的に「種々の欲求・野心・時間に対する切迫感・競争心・締切のある仕事へののめり込みなどの傾向が少ない」ものを「タイプB行動パターン」(Type B Behavior Pattern) と呼んだ。
 彼らは39歳から59歳の約3500人の白人男性を8年半にわたって追跡し、タイプA行動パターンを有する者はIHDの発症率がタイプB行動パターンの約2.2倍であることを見いだした2)。その後Framingham Studyをはじめとするいくつかの前向き研究によって、タイプA行動パターンがIHDの危険因子であることが確認されたので一躍注目され、1970年代から1980年代にかけて米国を中心に多くの研究が行なわれた。
 ここで用語の問題に触れておきたい。Type A Behavior Pattern の訳語として「A型行動パターン」や「A型行動様式」が用いられる。同様にType B Behavior Pattern に対しては「B型行動パターン」や「B型行動様式」といった訳語が用いられる。
 タイプA行動パターンに対して「タイプA」、タイプB行動パターンには「タイプB」という略語がしばしば用いられる(米国においては“Type A”および“Type B”という略語が研究者のみならず、一般の人々の間でも広く用いられている)。
 以下本講演においては原則として、タイプAとタイプBという用語を用いる。
2−敵意性
 米国ではタイプAの特徴の中でも特に敵意性(Hostility) が重要であると考えられるようになってきた8)。健康心理学事典3)は敵意性について以下のように記述している。
「他者に害を加えたいと望む傾向ないしは他者に対して怒りを感じる傾向。他者の価値や動機を低くみたり、他者は往々にして悪いことをするものだという予想、自分を他者と対立する立場におく見方、他者に害を加えたい、もしくは他の人が危害を加えられたらよいと望むなどの心的特徴がある」
 敵意性が高くなる理由として、乳幼児期の不適切な養育によって自分および他者に対する基本的信頼(basic trust) を獲得することに失敗したことなどがあげられている8)。
 米国においては、敵意性はIHDのみならず他の様々な身体疾患の危険因子ではないかと考えられるようになってきている4)。
3−タイプC行動パターン(Type C Behavior Pattern )
 Themoshockは,がんになりやすい行動パターンとして、「感情を抑圧しやすく自己犠牲的に過剰適応的にふるまう」という特徴をあげ、タイプC行動パターンと命名した。
4−社会的支援(Social Support)5)
 社会的支援は「家族・親類・友人・知人・上司・同僚など比較的小規模なネットワークから受ける情緒的・心理的あるいは手段的・物理的な支援」。危険因子とは反対にストレスを和らげたり、タイプA的な行動を補正するとされている。
 米国では社会的孤立(Social Isolation)が、IHD患者の予後に関与しているとの報告があり、最近ではIHDのみならずあらゆる死因による死亡の予測因子のひとつではないかとされている4)。社会的孤立とは社会的支援が低い状態に他ならない。
5−カラセクモデル5)
 タイプAでは仕事に関する項目が大きな位置を占めており、特に日本人においては仕事中心のライフスタイルが問題視されている。カラセクモデルは職業性のストレスに重点をおいた発症モデルであり、産業医学の領域でもっと注目されてよいモデルである。
 Karasek は、「仕事の要求度」(仕事の量的な負担、役割ストレスなど作業に関わる種々のストレス要因を総合したもの)と「裁量の自由度(仕事のコントロール)」(仕事上の技能の水準とどの仕事をいつどのようにやるかなどの決定権とを併せたもの)に着目した「仕事の要求度−コントロールモデル」いわゆるカラセクモデルを提唱した。本モデルにおいては、仕事の特性を要求度とコントロールの高低によって4つに分類する。すなわち、「高い仕事の要求度と低い仕事のコントロール」、「高い仕事の要求度と高い仕事のコントロール」、「低い仕事の要求度と低い仕事のコントロール」、「低い仕事の要求度と高い仕事のコントロール」である。最もストレスが多いのは「高い仕事の要求度と低い仕事のコントロール」で特徴づけられるグループであるが、このグループにおいては疲労感、抑うつ症状、仕事への不満、精神安定剤の使用頻度および病休日数が多く、IHDの発症率および脳・心血管障害による死亡率が高いことが疫学的に確認された。
 社会的支援の高低も指標に組み入れた「拡張カラセクモデル」もある。
3.タイプAのイメージ
 タイプAの特徴を見て、自分があてはまると思うかもしれないし、家族、あるいは上司・同僚がタイプAで少なからず困っている場合もあるかもしれない。他方でタイプAとは何か雑多な特徴の寄せ集めのようで、意味がよくつかめないという意見もあると思われる。 タイプAをよく理解するためには、また歴史や文化の中からタイプA的なものを抽出してみることも役にたつ7)。
1−モーレツ社員・仕事中毒
 タイプAは高度成長時代の代表的日本人像をあらわす「モーレツ社員」や「仕事中毒」の意味するところに酷似している。タイプAと経済成長の関係は興味深い。タイプAは1950年代の米国で見出だされたが、欧州(相対的に成熟した社会?)ではあまり問題にされなかった。その後、1970年代の日本で問題にされ、今日では韓国や中国で注目されつつある。演者は、タイプA的な人物は、ある国が高度成長を遂げている時期に社会から求められ、その結果多数出現するのではないかと考えている。
2−小説・漫画に見るタイプA・敵意性
◆クリスマス・キャロル
 Williamsは敵意性が高い人物の例としてチャールズ・ディケンズ(1812−1870)の『クリスマス・キャロル』の主人公のエベネザ・スクルージをあげている8)。
 守銭奴で誰も信じず有り余るお金を持ちながら決して人に施そうとしないスクルージはクリスマスイブにかつての共同経営者であったマーレーの亡霊の訪問を受ける。マーレーは生前のスクルージと同様の生き方の報いを受け、重い鎖を巻きつけられた状態で冥界を彷徨っているが、スクルージに自分のような運命からのがれる機会と希望があることを知らせに来た。次いで、過去の精霊、現在の精霊、未来の精霊が現われ、スクルージと彼をとりまく人々の過去・現在・未来を見せる。そこでスクルージは自分の悲しい過去、現在のあさましい生きざま、近い将来の孤独と無意味な死に直面させられる。これによりスクルージは悔い改め、寛大で優しい人間に変わってゆく。
 この小説の中には、どのような場合に敵意性が高くなるか、そして敵意性のレベルを低めるための方法のひとつの例(Williamsは“Pretend Today Is your Last”「最後の日」法と名付けた)の参考にもなる。
 ディケンズが生まれたのは産業革命の頃であり、この小説の人物像はいずれも産業革命が産み出した都会の人たちであるという点も興味深い。
◆釣りバカ日誌
 現在ビックコミックオリジナル誌に連載中で単行本がベスト&ロングセラーとなっており、映画化もされた『釣りバカ日誌』をタイプAの観点から読むと興味深い。
 主な登場人物のうち、主人公の浜崎伝助(通称「浜ちゃん」)は、ある意味で筋金入りのタイプBである。彼の勤める鈴木建設の社長「すーさん」はもともとは仕事バリバリの典型的なタイプAであったが、釣りを通して浜ちゃんと知り合い付き合ってゆく過程で、タイプB的なものに目覚めてゆく。すーさんの奥さんやすーさんの甥の多湖常務は、浜ちゃんと付き合うことで現われたすーさんの変化を好ましく見守っている。浜ちゃんの上司の「佐々木課長」も典型的タイプAであるが、彼の場合は浜ちゃんをペケ社員でお荷物と思っている。しかし彼も浜ちゃんから知らず知らずのうちに影響を受けており、それを認めようとはしないものの、うすうすとは感じている。
 同じビックコミックオリジナル誌の『浮浪雲』、『三丁目の夕日』など、広く受け入れられている漫画の中には、タイプA的な生き方や価値観を批判したり揶揄したり、それによって失われたものにスポットライトをあてているものが少なくないように思われる。
4.タイプAと健康問題
 日本ではタイプAや敵意性についての前向き研究は未だなされていない。しかしタイプAや敵意性が様々な疾患の発症や経過に関わっていることを疑う研究者は稀である。
1−IHD
 タイプAの研究はもともとIHDの心理行動面での危険因子、すなわちCPBPは何かというところから始まったが、米国での関心はタイプAから敵意性、社会的孤立、うつ、仕事の負荷、努力と報酬のアンバランスなどへ移ってきている4)。
 日本においては前向き研究がなされていないという大きな弱点がある。しかし、少なくともIHD患者の再発予防のためには、タイプA行動をよりタイプB的なものへ変えることが必要であるという点で、研究者の意見は一致している。
2−うつ病
 近年日本において臨床の立場や人間ドックにおける研究から、タイプAとうつの関係が問題にされるようになってきた9)。この理由を考える二つの立場がある。
 保坂は、タイプAがうつ病の病前性格(執着性格、メランコリー親和性性格)と類似していることをあげている。これに対して演者は、タイプA的な行動パターンは心身の疲労やストレスを蓄積させ、それがうつに結びつくとの仮説を提示している。尚、この場合のうつは疲憊性うつ病や反応性うつ病を想定している。
 米国ではうつがIHDの危険因子である可能性が指摘されている。日米の所見を対比させると以下のようになるが、これをどのように理解するかは今後の課題である。
  米国: うつ   → IHD
  日本: タイプA → うつ
3−ストレス関連疾患
 タイプAが心身の疲労やストレスを蓄積させる行動のパターンであれば、ストレス関連疾患全般の発症に関わっているのではないかと考えてもおかしくない9)。
4−QOL・AOL
 タイプA、特に敵意性が高い人間は攻撃的な言動などでしばしば周囲の人を苦しめる。本人が幸せかといえば決してそうではない。例えば、タイプAにおいては仕事において達成量を評価の基準におく。ある量を達成すれば、次にはさらに多くを達成しようとする。仕事の速さについても、次はもっと速くとエスカレートしてゆくためきりがない。本人は常に自己不全感に苦しめられている。これについてFriedmanは、自己不全感は結果ではなくむしろ原因であると考えている。
 タイプA者は、このように自分や周囲の人間のQOLを傷つけている。もし職場にタイプAの傾向が強くしかもそれをコントロールしようとしない上司や同僚がいれば、その職場のメンバーのAOL(Amenity of Life、生活の快適さ) は傷害される可能性が高い。
5.タイプAの評価の仕方
 タイプAや敵意性の評価法には、面接法、行動観察法、質問紙法、ビジュアルアナログスケールなどがあり、複雑なものと簡便なものを合わせれば約20種類ある 10)。ここでは質問紙法のうちで簡便であるが有用と思われる尺度を3つほどあげる。実際の尺度とその判定法を表1〜3にあげておくので是非自分で判定してみていただきたい。
 尚、臨床の場面で患者の行動に基づいて評価する方法11) も参考にしていただきたい。
1−A型傾向判別表12)
 前名古屋第二赤十字病院の前田が臨床経験に基づいて作成開発した尺度。に見るように、質問項目は12項目のみで判定の仕方も簡単である。しかし、IHDを有する群でそうでない群より有意に高い、冠動脈造影による狭窄の程度と相関があるなど、本法の信頼性・妥当性はある程度確認されている。
2−A型行動パターンスクリーニングテスト13)
 東海大学の保坂、田川らが開発した方法。もともと東海大学日常生活調査表というタイプAの日本的特徴も考慮した質問紙の中から判別分析により11の項目を抽出したもの。結果は、タイプAの程度によって、A1、A2、B2、B1の4段階に分類するようになっている。重み付けがしてある分、判定にはやや手間がかかる。
3−JCBS Scale C14)
 日本人のIHDに罹患しやすい行動パターンを調べるための多施設共同研究が行なわれている (Eastern Collaborative Group Study)。発症に関与する可能性があると思われる122の質問項目を選び出して調査表(Japanese Coronary-prone Behavior Scale、頭文字をとってJCBSと略称)を作成し、419例の冠動脈造影を行なった症例に実施した。その結果、IHDを有する群とそうでない群を判別する9つの質問項目が抽出された(JCBS Scale C)。それらは以下の3要素を表わしていると考えられた。
 1.仕事中心のライフスタイル
 2.社会的な優位を保とうとする傾向
 3.抑圧されたタイプA
6.タイプAの行動変容
1−行動変容の対象
 健康問題の項を見ればわかるように、極端なタイプAは心身の健康や本人および周囲のQOLを害する。当然のことながらここから「タイプA的な行動は修正(変容)すべきである」という考え方がでてくる。
 しかし他方で、ある程度タイプA的な要素がなければ現代社会、特に職場においてはやっていけないのではないかという意見も少なくない(タイプA的な要素とタイプB的な要素の統合を考えた方がよいのかもしれない)。このことと、日本においては未だ前向き研究が行なわれていないことも考えあわせれば、現時点で一次予防をどんどん進めてゆくことには無理があり、啓蒙にとどめるのが妥当であろう。
 しかし勤労者が心筋梗塞や狭心症、うつ病をはじめとするストレス関連疾患に罹患し、その背景にタイプAが関連していたとすれば、当然修正を考えるべきである。
2−タイプAの行動変容
 演者が提案しているタイプAの行動変容の手順の例で以下に示す15)。
1.自らのタイプA行動に気づかせ、それが病気の経過や予後と結びついていることを説明
 して、行動変容の動機づけを行なう。
2.一般向けのタイプAの文献(文献16、17、18など)を読ませるなどして、タイプAにつ
 いてよく理解してもらう。
3.タイプA行動のどれかひとつの行動に着目し修正させる。
 この時、(1)目標となる行動をモニターさせる、(2)その上で到達可能な目標を設定し、
 (3)好ましい変化がみられたら強化する、などの行動療法の原理を活用する。
4.リラクセーション法を身につけてもらう。
 自律訓練法、ジェイコブソンの筋弛緩法、数息観、気功などもあるが、音楽やスポーツ
 (ストレッチ体操、ウォーキング)も有効。
5.ひとつのタイプA行動の変容に成功したら次の目標に移る。
6.人生観・価値観がタイプA行動の根底にあることも多いので、必要があればその方面の
 アドバイスも行なう。
7.最終的には自己コントロールができるように指導する。 
3−敵意性の変容
 タイプAの特徴の中でも敵意性のレベルは特にかわりにくいとされている。演者は、敵意性について次のような5つの法則があるのではないかと考えている19)。
  第1法則:敵意性のレベルは非常に変わりにくい
  第2法則:敵意性は敵意性によってますます高められる
  第3法則:愛・包容・サポートは敵意性のレベルを低下させる
  第4法則:悲惨な環境は敵意性のレベルを高める
  第5法則:敵意性に基づく交流(ゲーム)は断ち切るしかない場合もある
 敵意性のコントロールについては文献8に詳しい。その著者のWilliamsが12の方法にまとめている20)。
 1.敵意性に基づく自分の言動をモニターせよ、2.自らの敵意性を周囲の人にわかってもらい変えるための援助を求めよ、3.敵意性に基づく思考をやめよ、4.そのために自分自信を納得させよ、5.相手の立場になってみよ、6.自分自身を茶化すことを学べ、7.リラックス法を身につけよ、8.人を信頼するように努めよ、9.人のことばに耳を傾けよ、10.感情を上手に発散させよ、11.今日が自分の最後の日かもしれないと思ってみよ(*小説・漫画に見るタイプA・敵意性のクリスマス・キャロルの項参照)、12.人を赦すように努めよ
7.タイプAの本質 − まとめにかえて
 米国では多少関心が薄れてきたとはいえ、約40年も研究され続けているタイプAというものはかなりタフな概念であるいえる。この概念が生き残っているのは、そこに何か普遍的なものが含まれているではないかと考えられる。  FriedmanとRosenman は、タイプAに関する一般向けの本“Type A Behavior and Your Heart” (日本語訳は文献18)の13章の中で、タイプAの起源について文明との関連において記述している。その要旨は以下のようなものである。
有史以前もタイプA的な人はいたであろうが、それは例外だった。ところが現在では至るところにいる。タイプAは特に現代に多くみられる病いである。
米国においてタイプAが増えた最も重要な理由は、十九世紀のヤンキー・プラグマティズムが、世界の物質的な富をできるだけ多く獲得しようという飽くなき欲求に変質してしまったことである。二十世紀の工業の発達の結果、物欲が強まって質ではなく数や量でしか満足ができなくなった時、タイプAが増えた。
また速く移動したり、通信したり、物を生産できる機械の発明が、人をしてスピードに心酔せしめるようになった。少しでも早くというやり方がすべてにわたってしまい分刻みにまでなった時、すでにタイプAになってしまったといえる。
米国の自由経済は機会均等であるが、必然的に競争を促す。これがビジネスや仕事の領域にとどまらず、人生のすべての面においても競争的になった時タイプAになる。
このような変化は宗教心の衰退を促し、また宗教心の衰退はタイプA行動への歯止めが失われたことを意味する。
(中略)
高い経済的地位を可能にするのは、家柄でなく業績である。しかしこの事実に気づいた何百万人という米国人は、この事態に過剰反応してしまった。
 深くたいへんstimulating な論考である。
 演者はこれをもとに「タイプA者は20世紀の西洋型の物質文明・機械文明に対する過剰適応(overadaptation)」ではないかとの仮説を提示した 21)。
 このようなグローバルな観点は、今日地球規模の問題である地域紛争や環境問題を理解するのにも役立つ手がかりを与えてくれる可能性がある22)。
 またタイプAは男性中心社会と無関係ではないという考え方もある22)。
 タイプAがこのように文明の申し子であるなら、この概念がしぶとく生き残っているのも当然である。単にIHDの危険因子のひとつとしてだけではなく、より広い立場から研究が望まれる。
文   献
1) Friedman M, Rosenman RH:Association of specific overt behavior pattern with
  blood and cardiovascular findings. JAMA 169:1286-1296, 1959
2) Rosenman RH, Brand RJ, Jenkins CD, et al:Coronary Heart Disease in the
  Western Collaborative Group Study−Final follow-up Experience of 81/2 Years.
  JAMA 233:872-877, 1975
3) 日本健康心理学会編:健康心理学事典.実務教育出版,東京,1997
4) Williams RB:Coronary-prone Behavior: What Is It? What Can We Do About It?
  タイプA 10:3-6,1999(in publication)
5) 川上憲人:カラセクモデルとソーシャルサポート.タイプA 8:69-70,1997
6) 桃生寛和:タイプA行動パターン.(桂戴作,山岡昌之編):よくわかる心療内科.
  金原出版,東京,328-331,1997
7) 桃生寛和:日本人と敵意性.(桃生寛和,早野順一郎,保坂隆,木村一博編著):タ
  イプA行動パターン.星和書店,東京,343-351,1993
8) Williams RB & Williams V:Anger Kills. Times Books, 1993(岩坂彰訳:怒りのセ
  ルフコントロール,創元社,大阪,1995)
9) 桃生寛和,白川奏恵:タイプA行動パターンはストレス関連疾患全般の危険因子か?
  タイプA 4:21-23,1993
10) 桃生寛和:日本におけるタイプA判定法の現状と問題点.タイプA 2:7-13,1991
11) 桃生寛和:タイプA・敵意性の評価の仕方.(中川哲也,末松弘行編):モダンクリ
  ニカルポイント心療内科.金原出版,東京,114-115,1992
12) 前田聰:虚血性心疾患患者の行動パターン−簡易質問紙法による検討.心身医学 25
  :297-306,1985
13) 保坂隆,田川隆介,日野原茂雄,他:健診におけるA型行動パターン評価の意義−ス
  クリーニングテストの作成.日健診誌 16:32-37,1989
14) Hayano J, Kimura K, Takashi H, et al:Coronary-prone behavior among Japanese
  men: Job-centered lifestyle and social dominance. Am Heart J 134:1029-1036,
  1997
15) 桃生寛和:プライマリ・ケアにおけるタイプA行動パターンの問題点.日本プライマ
  リ・ケア学会誌 14:22-28,1991
16) 保坂隆編著:A型行動人間が危ない−イライラ、セカセカが心臓病をおこす.日本放
  送出版協会,東京,1990
17) 福西勇夫,山崎勝之編著:ハートをむしばむ性格と行動−タイプAから見た健康への
  デザイン.星和書店,1995
18) Friedman M & Rosenman RH:Type A Behavior and Your Heart. Alfred A.Knopf,
  1974(新里里春訳:タイプA−性格と心臓病,創元社,大阪,1993)
19) 馬目君江,泉和恵,菅原あつ子,他:看護の立場から見たタイプA行動パターン.
  (桃生寛和,早野順一郎,保坂隆,木村一博編著):タイプA行動パターン.星和書
  店,東京,81-87,1993
20) Williams RB:The Trusting Heart−Great News About Type A Behavior. Times
  Books, 1989
21) 桃生寛和:21世紀においてもタイプA研究は必要とされるか,タイプA 9:3-8,
  1998
22) 橋本宰:パーソナリティ心理学から見たタイプA行動パターン.タイプA 10,1999
  (in publication)