出産の後、骨盤が締まっていく。
産後の骨盤は、左右交互に締まっていく。 右が締まって、次に左が、そして右と。 ある程度まで締まると、左右が揃う。 左右が揃うまで、寝ていなければならない。 トイレにも行かず、決して起き上がってはいけない。 揃う前に起き上がってしまうと、片方が開いたまま固まってしまう。 片方が開いたままだと、母親は太り、自分だけ太って母乳が十分に出ない。 骨盤の歪みからたくさんの問題が起こる。 では、いつまでも寝ていればいいのかというと、 起き上がるときに起き上がらないでいると骨盤はまた拡がってしまう。 正しいときに起きなければいけない。 骨盤の締まりに合わせて起き上がるということを意識しないことが多いので 出産が女にとってさまざまなトラブルのきっかけになってしまうことがある。 病院では出産の次の日から立って授乳の講習などを受けさせられてとても辛かった、という話も聞く。 逆に言えば、正しく起き上がり、骨盤を左右揃った状態で締められれば、 その体の歪みは正され、肌はつやつやになり、若返るという。 子どもを産んできれいになった女には、子どもを産んでいない女にはない美しさがあるという。 神経や生理、子宮、アレルギーなどの問題が出産によって治ることも多いらしい。 出産は、女にとって体を整える絶好のチャンスなのだ。 現在の一般的な出産では、その好機を捨て問題を作ってしまっている。 ともあれ骨盤を正しく締めるポイントは、左右が揃う時期の見定め、である。 それには体温を計る。 骨盤が締まっている方の半身が、体温が高くなる。 体温計をふたつ用意して、両脇で測る。 胎盤が出てから8時間おきに両体温を測り、3回目に揃った時に起き上がる。 (ここまでの理論は、野口晴哉による。) 私たちは、尿瓶と体温計を準備した。 尿瓶は慣れないと使いにくいものらしい。 ただでさえ下腹部は劇的な変化を起こしている真っ最中だから、そのせいもあるだろう。 美和はおしっこが出なくて苦労していた。 いったん出ると一度に1リットルも出た。 体温は左右同時に計るというのが、結構難しかったようだ。 両脇を揃えて締めているのは、なかなか簡単ではなく温度が逃げていたりする。 そしてなぜか、体温を測ろうとすると赤ちゃんが泣き始めることが多かった。 計ってみると左右の体温は、刻々と変動していた。 一日のうちに一度の変動はざらだった。 苦労はありつつも、出産の翌日の午後、3日目の早朝、4日目の朝と午後、と体温が揃ったので起き上がることにした。 前述のようにきっかり8時間おきではなく、2~3時間おきに計っていたので、はたしてこれが条件に当てはまっているのか迷いもあったが、仰向けに寝たとき当たって痛んでいた飛び出した尾骨が、ちょうどこのとき引っ込んで寝やすくなったので、これをタイミングとした。 寝たきりの美和と、生まれたばかりの赤ん坊と、暴れ盛りのポコの三人を面倒見ながら、ご飯を作り、片付け、洗濯、掃除・・・ 赤ちゃんの記録をとり、調べものをして・・・ 追い立てられるようにすごした私には、なんだかあっという間だった気がするが、 寝たきりだった美和にしてみると、やっと起き上がれる、ということで大変嬉しそうだった。 起きるにも方法がある。 伏臥からゆっくりと腰を上げて、正座する。 そのまま一時間ほど正座。 そして、翌日まで寝る。 なんだ、結局また、寝るのか・・・・。 また明日。
二日目の写真。
よくウンチをして、よく眠り、よく泣く。 眼を開けることがあまりないが、穏やかな表情をしている。 ポコよりもつるりとして、顔が丸いので、 「玉のような赤ちゃんって、こういうのを言うんだね。」と美和は言う。 私も「玉のような」っていう形容詞は不思議だと思っていた。 「三人で、自分たちで産めたことが、当たり前のことが、幸せ。」とも美和は繰り返している。 子宮の収縮による痛みもだいぶ落ち着いてきたようだ。 いまだ部屋を暗くしているので写真を撮るのがたいへんだ。 シャッタースピード2秒。
赤ちゃんが生まれ、胎盤が出ると、子宮は収縮していく。
妊娠から出産までの約10ヶ月に子宮は2000~2500倍の容積に膨らみ、 産後の6週間ほどで元の大きさに縮む、という。 驚くべき収縮機能。 無事に出産を終え、横になった美和は、 「出産の痛みよりも、出産後の子宮の収縮からくる痛みのほうがつらい。」 と言う。 痛がる美和に、私は何もしてやれないので、掌を当てる。 子宮は硬く、とがって、そこにあった。 予想以上の硬さにぎょっとしてしまう。 忘れられたものの悲しみとこわばりが、掌に伝わってきた。 赤ちゃんが生まれてしまうと 母体も父親も介助をする者も、赤ちゃんの方へ気を向けてしまう。 子宮を忘れてしまう。 それまでは、赤ちゃんと子宮はいっしょのもので、 母も父も、多くの人が子宮を(通して赤ちゃんを)さすり、話しかけていたのに 突然、みな子宮の存在を忘れてしまう。 しかし、子宮は赤ちゃんを育て、送り出すという大仕事を成し遂げ、 もとの状態に戻ろうと必死の活動を続けている。 たくさんの出血に耐え、それを塞いで治癒し、ぐんぐん縮んでいく。 そして次の妊娠に備える。 なのに、だれも労わってくれない。気にしてくれない。 そんな子宮の悲しみを、私は掌から感じた。 掌を当て、ゆっくりと、子宮に語りかける。 すると硬いこぶのようにとびだしたところが、ぶるんと震えた。 赤ちゃんが中にいたとき、掌を当てて語りかけると ぐるり、ぽこん、と反応した。 私は、それを赤ちゃんの反応だと決めてしまっていたが、 いま、中は空洞であるはずの子宮も同じように応じた。 そして・・・痛かっただろうね、忘れていてごめんね、ゆっくり休んでね、と語りかけると 硬かった子宮が溶けるように柔らかくなり、平らになっていった。 美和は「あ~、楽になった。」と言った。 子宮も掌も、人間の体というのは不思議なものだ。
ひとり目・ポコと同じように、ふたり目が風呂の中で出てきた。
「女の子だよ。」と美和が言った。 私は、異常ないか、呼吸しているか、などの状況が気になり、ついつい性別の確認を忘れてしまう。 ポコのときもそうだった。 この子はポコが生まれたときよりも、毛深くなく、つるりとしていて人間らしく見えた。 ポコが生まれたとき、私たちは何よりもその毛深さに驚いたものだった。 頭の毛は掴めるくらい伸びていて、耳の裏にもびっしり、背中の中央にはお尻まで続く毛の線があった。 この子は髪の毛はそれなりに長かったが、毛深いと驚くことはなかった。 表情も穏やかで女の子らしくすら見えた。 私たちが、赤ちゃんに慣れてしまったからだろうか? ポコのときと同じように、美和の尾骨が痛み、湯船の底に座っているのが苦痛になってきたので、リビングへの移動を決めた。 美和が立ち上がり、私はその体を拭き、美和が赤ちゃんを抱き、ゆっくりと歩いてゆく。 リビングに敷いた布団に美和を横たえ、赤ちゃんを包んで寝かす。 胎盤が出てきたら受けるようにタライを置く。 さっき拭いたとはいえ、美和の中から血が出てきて布団の上に敷いたバスタオルを赤く染める。 布団に染みないようにバスタオルを換える。 しばらく様子を見たが、胎盤はなかなか出てこないようなので、風呂や廊下の掃除に回る。 血の汚れは、ひとたび固まってしまうとなかなかとれないので早めにやっておきたい。 浴槽は、ポコのときと比べてきれいだった。 ポコのときは、髪の毛やら血の塊やら胎便やら・・・たくさんのものが沈んでいた。 今回、お湯の中に髪の毛は無かった。 この子は髪がポコほど濃くないからだろう。 髪の毛の濃い薄いは、どのように決まるのだろう? 胎便も無かった。お産にかかった時間が短かったからかもしれない。 正常な出産でも、このくらいの血は出る。 廊下の汚れもわずかで掃除はすぐに済んだ。 リビングに戻ると、美和が「胎盤、出たよ。」とあっさり言った。 13:40だった。 タライにいっぱいの胎盤と血があった。 やはり胎盤は切れている。 本来は膜に包まれて出てくるはずだが、一部が破れ、中が出ている。 こういう場合、子宮の中に胎盤の一部が残っていることを警戒しなければならない。 病院では手や器具を突っ込んで掻きだすらしい。 私たちは、出てくるものは自然に出てくるだろうと思っているので、そういう野蛮なことはせず、経過をみる。 ポコのときも破れた胎盤が出て、一週間以上もたって残りが出てきた。 ずっとお産の様子を見ていたポコが、泣き暴れ始めた。 私たちの意識がずっと彼女から離れていたからだろうか? 母親の独占を永久に失うことを感じたのかもしれない。 これまでになく激しく暴れる。 二階へ連れ手上がり、絵本を読み聞かせたりしながら14:20ごろポコが眠る。 リビングに降り、やっとへその緒を切る。 よく「へその緒も自分で切るの?」と聞かれるが、これは最も簡単な処置である。 なぜなら、ゆっくり切ってもいいもので、追われることなく処置できるから。 ほかのことは、なるべく迅速に行わなければならない。 へその緒は時間をおいて切るのがよい。 一般的には赤ちゃんが出たらすぐに切ってしまうらしいが、それは危険なことだ。 なぜなら、へその緒は胎盤から血液とその中の養分や酸素を赤ちゃんに送っているからだ。 生まれてまもなくは、胎盤もへその緒もまだその機能を果たしている。 赤ちゃんの肺呼吸が完全に作動するまでの間、へその緒が酸素を送っていることもある。 へその緒の拍動が止まり、胎盤が出て、へその緒が萎み、十分に時間を空けてから切る。 病院では、胎盤の娩出にしても、すぐに出てこないと慌てる。 それどころか掻き出してしまう。 それは危険なことだ。大出血を引き起こすかもしれない。 とにかく、陣痛の始まりから、赤ちゃん・胎盤の娩出、へそのをの切断、すべての経過において もっとも大切なのは「待つ」ことだと思う。 なぜなら、それは自然の力で行われる、私たちがコントロールできないことだからだ。 信じられない精密なシステムが働き、胎内にあった赤ちゃんが外に出て、独立して生き始める。 そのメカニズムは、私たちには把握できない、人智を超えたものだ。 しかし、いまや多くの出産は、解明されているという虚構の上で、急がされて進められる。 突き詰めれば、それは医療もまた営利行為だからだ。 営利を求める以上、一つ一つにかける時間は少ないほどよい、いや、短時間で処理される宿命にある。 お産は、営利で行ってはならないと思う。 私的な、リラックスしたお産はかけがえのない体験となる。 それを感じるためには、焦らず、コントロールしようとせず、自然の流れに身を任すことだと思う。 さて、へその緒を切り、とりあえずやるべきことは終わり、最後に体重を計る。 3025g。 ほとんどポコと同じ。 記録を見返して、軽食をとる。
2010年
3月18日 13時ごろ 赤ちゃんが 生まれた。 軽い陣痛が始まってから9日目。 陣痛が本格的になったのは、この日の明け方。 この時点で間隔は15分くらい。 8時50分には10分間隔をきって、「きつい。」と言ってスパッツを脱いだ。 陣痛の長さは、2、30秒程度。 私は一通りの準備を済ませ、ポコを連れて軽食等の買い物に出るが、 11時ごろに「もうすぐ生まれそうだから、戻って。」と電話が入り、急いで帰宅。 11時45分に風呂へ移動。 ポコもお風呂に入り、美和も話をしたり、余裕がある。 私は外で控えて記録をとったり、飲み物を作ったり。 (この間は美和が集中するときなので、私はなるべくそっとしておくのだ。) 40秒ほどの陣痛が6分間隔で続く。 今回の飲み物は「韃靼そば茶」が好評。 なにせ「ルチンがそばの1000倍」とか? ルチンは眼にいいらしい。 妊婦は目を悪くすることが多いらしい。 前回好評だった「梅ジュース」と「梅醤番茶」も用意したが、「いらない」とあえなく却下。 妊婦は、好き嫌いがハッキリして、自分の要求に敏感になる、と多くの人が書いている。 それが実現できるように努めるのが、介助者の役目なんだと、梅ジュースをすする。 陣痛は、50秒、55秒とだんだん長くなり、 間隔もいまや2分をきってきた。 美和の出す声は、う~ん、と、あ~ん、の間くらいの声で 痛みから叫び声をあげているだけではないように思える。 セックスの喘ぎに似ているとも思える。 お産は快感だという人もいるが、そういうことは声そのものにも似ているのだろうか。 私はこの声を聞くと、ああ、もう生まれるんだな、と思う。 ストップウォッチでこの喘ぎ声とその間隔を計り、記録する。 声が一段と大きくなり、陣痛の間隔が陣痛の長さと入れ替わるころ (陣痛の長さが間隔よりも長くなったころ)、 お呼びがかかる。「玄さん!」 はいはい、と私は服を脱いで風呂に入る。 湯船の外から美和を抱く。 風呂桶越しに美和は私の肩にしがみつく。 私は美和を支えながら、腰に愉気する。 私にはさしてできることは無い。 ポコが心配そうに「こわい」と言いながら、美和の顔をなでる。 美和はポコの冷たい手が心地よいらしい。 声はだんだん大きくなり、間隔は短くなる。 外に聞こえてるんじゃないか? 風呂の外はすぐに道路だ。 勘違いして警察でも呼ばれないか? と心配してしまう。 やがて美和が「膜がでてきた。ポコちゃんの時と同じ。」という。 股に手を伸ばすとぷにゅぷにゅした膜が出てきていた。 卵膜だ。 普通は子宮の中でこれが破けて破水となるが、 美和の作る卵膜は強いようでポコのときも破れずに出てきた。 私は、これは美和の健康な証じゃないかと勝手に思っている。 それから陣痛が三回ほど過ぎて 「頭が出るよ、受け止めて。」 と美和が言う。 あ~、と叫びながら膣がゆっくりと開き、頭がゆっくりと出てくる。 まだ膜に包まれている。 2回ほどの陣痛で、頭が首まで全部出でた。 そこで一呼吸。 次に肩が出て、次の陣痛で手が出たと思うと、その手がすいっと泳ぐように水をかき、 全身が私の手に滑り降りてきた。 ここまでは眼で見たのではなく、手で感じていたことだが、 赤ちゃんを引き上げやっと眼で見る。 首にへその緒が絡まっているので解く。 二重に巻きついていた。 こういうことはよくあるらしい。 顔を下に向けて口や喉、鼻に詰まった羊水や粘膜を吐かそうとするが なかなかうまくいかず、ぜーぜー、ごぼごぼ、と呼吸のたびに音がする。 美和は赤ちゃんの小さな鼻に口を当てて中の粘液を吸った。 ガーゼで拭いたり、下を向かせるうちに音も小さくなってきた。 顔にも赤みが差しているので大丈夫だろう。 お湯から引き上げると泣き出す。 おそらく寒いのだろう。 お湯の中に戻すと泣き止むが、水面が近くて、ちょっと油断すると水を飲んでしまう。 仰向けにお湯に浸かって、うっすらと目を開けた。 ポコが指差しながら「かちゃん、かちゃん!」と叫んだ。 美和は開いた尾骨が浴槽の下に当たって痛いようで、なかなか位置が安定しない。 胎盤はまだでないが、リビングに移動して横になることにした。 (続く)
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