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 ある日のこと。morphの事務所へ上がるエレベエーターの中で、二人きりで乗りあわせたmorphの言い出しっぺ、その人が言った。「殿方充、こいつほんと面白いんだけど、全然評価されてないんだよ!!」。さっそく借りた彼のビデオを見てみると、そこには、毎日のようにテレビで流れている若手のお笑いネタ見せ番組(という予定調和の閉鎖コミュニティ)では見られない、全く異質な、しかしかつては存在したはずの、危険な“笑い”があった。

「ものすごい売れたいとか、いい車乗りたいとか、でかい家住みたいとか、いい女抱きたいってはじめようと思ったわけじゃないですから。テレビとかはひとまずおいて、ほんとに舞台に出れば受けるようなものをやりたいと。よく紹介されるときに下ネタとか汚れだって言われたりするんですけど、ほんとの汚れっていうのは、もう何も面白いことできないから苦し紛れで脱いでるとか、客に媚びてるヤツら。僕の場合はそういう言葉はポンポン出てきますけど、ちゃんと振って落してっていうことで成り立ってるんで、下ネタをやってるという意識はないんです」

 大学卒業後の引きこもり期間を経たのち、浅草キッド主催のライブ「浅草お兄さん会」で、前座から駆け登り、賞金マッチ3連覇&第6代チャンピオンの座に輝いた知る人ぞ知る芸人、殿方充。01年にはチャンネル北野プレゼンツのCS放送で、昨年は日本テレビの「人類滅亡と13のコント集」に出演を果たすも、本放送だけでなくDVDでも、彼のネタの完全バージョンは見ることができない。

「テレビの場合、結局何が問題になってるのかなと思うんですけどね。ピーを入れるだけでもいいと思うんだけど、たとえば芸能人の名前が出てきちゃうと全面的にカットされてたリとか。たとえば女性週刊誌だったらアレ100%事実じゃないでしょ。それを読者もわかって面白がってる。ところがお笑い芸人が嘘八百の妄想で芸能人を話題にすると問題になるんです。“そのネタは面白いけどテレビじゃ駄目だ”って何度も言われる度にね、大人たちが何をカマトトぶってんだ!と思うんですよ。内容の正当性云々じゃなくてクレーム対応のコストがかかるとか、障らぬ神に祟りなしっていう発想じゃないですか」。彼の芸は今のテレビでは認められないのか。もちろん“お茶の間”の笑いがあったっていい。でも「それだけじゃ逆に文化としては停滞してる」と感じるのは殿方本人だけじゃないはずだ。むしろ異質なものを排除する、巷に蔓延する保守化が怖い。どの時代を見ても、毒を抜いて安心を約束された中に本当のクリエイションは存在しなかった。

 彼のネタで最近多いのが、ジジイやババアなど老人に扮したもの。デスメタルバンドを結成したババアのその訳や、ババアがネットアイドルになるまでの顛末など、舞台でマイクの前に立った老人が、何枚もの紙に書かれた文章を5分、10分と読みあげて語っていく。その中に殿方特有のブラックなジョークや下ネタが満載なのだが、実は手にした紙は白紙ではなく、本当にネタがそのまま書かれているいわば台本そのもの。それを客の目の前で本当に“読んで”いるのだから、人を食ったようでいて逆にリアルだ。

「そのキャラがどうして生まれたかっていうと、ようはもうネタ覚えるのが面倒くさくなっちゃったんです(笑)。最近はネタ帳にまとめるのさえ面倒。で覚えなくていい方法はないかと思って考えた。もちろん普通の見た目でいったらネタぐらい覚えてこいよって話になるから、ババアの設定だったら文章が覚えられないっていうのは無理がないと。あと自分は活舌もあまりよくないから声張ってやるのもしんどいし、振りつけとかも浮かばないんで、ただしゃべってるだけで笑いとれるならそっちの方がいいなと(笑)」。殿方充、やはりただ者ではない。

 しかしナメているようでいて、実は計算されつくされた立派な“芸”なのかもしれない。たとえばネタの構成をよく考えてみると、設定されたキャラクターや状況を大枠で守りながら、その中でフリートークのように次々とネタが転がっていく。テレビでよく見るコントや漫才のような予想通りの展開や落ちはなく、コイツなんかやってくれるという客席の期待感は裏切らずに、スリリングな時事ネタも織り交ぜ、常人ではありえない発想のジャンプが心地よく笑いのツボを突いてくる。「横綱昇進」というネタでは、横綱が頭をつけたまま延々15分も口上を述べるのだ。「やっぱり見ている人がここからどう最後落とし前つけるのかっていうのが最後まで分からなくできるのが理想ですね。ネタも結局ライブ当日の朝とかにギリギリでできるんですけどね(笑)」

 もしかしたら彼は、落語にも匹敵する新しい噺の“型”を誕生させようとしているのかもしれない。その瞬間をオマエが目にしたいのなら、今だ。

Interview&text : Eiji Kobayashi


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