ここから本文です

日本の性教育は世界の非常識! 世界基準の性教育とは?

週刊朝日 9月13日(火)16時31分配信

自分が学校でどんな性教育を受けたか覚えていますか? 実は日本はかなりの性教育後進国だったのです。広く世界を見渡してみると、お国柄によってなんとも奇抜な、ときには驚くような性の授業が行われています。私たちが当たり前だと信じている性教育は、世界基準からはちょっとズレていたりするのです。

「オトコの選び方・落とし方」「感じあう、SEX」「いまこそ結婚?」「オトコのホンネ」

 なんたる攻めの姿勢。これすべて雑誌「an・an」の最近の特集記事である。

 一方、男性誌はといえば「恋の、答え。久しぶりに恋の話をしませんか?」(「BRUTUS」9月15日号)という具合。草食系男子という呼び名もすでに陳腐になりつつあるが、その時代の性に対する意識は性別はもちろんのこと、人種、社会、宗教によって常に変化している。そしてその根本となっているのが学校における「性教育」だろう。

 10代の恋愛事情が大きく様変わりした昨今の学校では、どんな性教育が行われているのか。性教育の各国比較研究で知られる女子栄養大学の橋本紀子教授によれば、日本の性教育は、ある時期からほとんど進歩していないという。

「92年から小学校でも本格的な性教育が始まりましたが、02年から保守派の性教育バッシングが激しくなって、教育現場が萎縮してしまったんです」

 のちに安倍晋三内閣のもと首相補佐官(教育再生担当)に就任する山谷えり子議員らが04年、「過激な性教育」を批判。03年には都立七生養護学校(当時)で、障害のある児童に対して行き過ぎた性教育を行っていたとして校長以下教員が大量処分されるなど、日本における性教育は急速に後退していった。

「現実に世の中でこれだけ情報が氾濫していて10代の性感染症も増えているのに、『中学生は性交しない』という建前なので、小中学校の授業では性交や避妊について扱えないんです。中学校の教科書にはコンドームが出てきますが、あくまで性感染症予防の手段という位置付けで、避妊と結び付けて教えることができない。これでは意味がないですね」(橋本教授)

 小中学校の教科書では出産や性交場面の挿絵も認められていない。「性交」「セックス」という言葉も使えないため、「性的接触」という表現になっている。

「寝た子を起こすな」とは保守派の決まり文句だが、耳ざわりのいい言葉にすり替える大人の欺瞞など、子どもはお見通しである。

 08年に行われた「東京都の児童・生徒の性意識・性行動に関する実態調査」(都性研)によれば、東京都の中学3年生の性交経験率は男子5・5%、女子8・3%と、さほど高くはない。これが高校生になると、男子では高1で24・5%→高3で47・3%、女子では高1で24・3%→高3で46・5%と跳ね上がる。特に中3から高1にかけて初体験率が急増している。

 となると、遅くとも中学を卒業するまでには正しい知識を身につけさせておくべきではないだろうか。それなのに、「性的接触」なんて表現のままでいいのだろうか。学校で限界があるなら家庭で、ということになるが、デリケートな思春期の子どもに、いきなりセックスや避妊の話ができる親は少ないだろう。

 世界に目を向けると、日本の性教育の常識がまるで非常識に思えてしまうような衝撃的事例がゴロゴロと出てくる。前出の橋本教授が監修した『こんなに違う!世界の性教育』では、世界の性教育事情に詳しい研究者たちが、各国のケースを紹介している。

 取り上げているのはアメリカ、オランダ、フィンランド、イギリス、ドイツ、オーストラリア、カナダ、タイ、中国、韓国、日本の11カ国。もちろん同じ国内でも地域や宗教によってさまざまな違いはあるが、それぞれにお国柄が表れていて興味深い。

 その中でもいちばん進歩的なのはオランダだ。同性結婚、マリフアナ、尊厳死、セックスワーカーのすべてが合法、互いの同意があれば12歳以上でのセックスが法律で認められているだけあって、性教育もきわめてオープンだ。早ければ義務教育の5歳から性教育が始まり、性も日常生活の一部だと学んでいく。小学校高学年ではバナナにコンドームを被せる実習を行う学校もあるとか。保守的な親が聞いたら卒倒しそうだが、実はオランダの10代後半の少女の出産・中絶率は、アメリカやイギリスよりも低い(国連人口基金「世界人口白書2010」ほかから)。

「性教育が進んでいるからこそ、子どもたちの行動が慎重になるんです。性交経験(初体験)年齢も高いですよ。避妊もきちんとするし、自分の体を大切にすることや安全な性に対する意識が高くなるんです」(橋本教授)

 ドイツ人男性と結婚しオランダで暮らす30代の日本人女性も、現地の小学校で「バナナ実習」が行われていることを友人から聞いて驚いたそうだが、こうしたオープンな教育を受けているオランダの若者たちには、大人と対等に会話ができるバランスの良さを感じるという。

 この日本人女性の12歳になる息子はインターナショナルスクールに通い、日本でいう小学5年生時の性教育では、授業で使うビデオを親も事前に視聴する機会が設けられたという。

「人の出会いから性行為に至るプロセスが、イラストやアニメで説明されていました。性交渉シーンでは男女が重なっているときの性器の様子が具体的に絵で解説され、親からもどよめきがありました(笑い)。同性愛についても実際のカップルが登場して自然な形で紹介しますし、男女の身体の変化は写真で解説、男子にはペニスを入念に洗う指導もありました。ウイルスによる子宮頸がんを防ぐためにも、男性側の認識は大切なことです」

 一方でアメリカの性教育事情はかなり複雑なようだ。中絶や同性愛者同士の結婚が選挙の争点となるほど大きな問題であり、宗教的背景にも密接に関わっているからだ。

 アメリカ流性教育は、避妊、中絶、同性愛をすべて禁じ、結婚するまで純潔を守るべきとする「禁欲教育」と、その逆で中絶、同性愛も否定せず、避妊も教える「総合的性教育」とに大別できる(その中間タイプもある)。禁欲教育を強力に推進しているのは、主にキリスト教保守派層。ティーパーティー運動、共和党支持層とも重なる勢力だ。ブッシュ政権時代には連邦政府から助成金が交付されたこともあり、禁欲教育を一部採用する州が主流を占めた。

 禁欲派はキリスト教の教義に基づいて、どんなに望まれない妊娠(レイプなど)であろうと中絶を殺人とみなす。そもそも「セックスしなければ妊娠もせず性感染症にもかからない」という主張だから、避妊についても教えない。

 ところがアメリカは先進国の中でも10代後半での出産率が飛び抜けて高いという現実がある。10代後半女性1千人当たりの出生数は、オランダが4人に対して、アメリカは何と36人(日本は5人)。この数字が何を意味するのか。

 ちなみにブッシュのお膝元テキサスには、絶対的禁欲教育が行われているにもかかわらず、10代の妊娠率と性感染症感染率が全米一高いとされる町ラボックがあるのは皮肉な話。この町で暮らす少女が学校での性教育を求めて奮闘するドキュメンタリー「シェルビーの性教育」は全米で注目を集めた。

 禁欲教育の一方で、生徒のための託児所がある高校、ゲイ、レズビアン、トランスジェンダー(性同一性障害者)といった性的マイノリティーのための公的なクラブ活動が存在する学校もある。保守から革新までの振り幅の広さが、実にアメリカらしい。

 夫の転勤でアメリカで暮らす日本人女性は、アメリカンスクールに通う息子が受けた性教育のオリエンテーションに参加して、避妊やエイズについても教えると聞き驚いたものの、実際には過激なものではなかったという。

「妊娠と性感染症を防ぐこと、年齢に応じた正しい決断についての講義でした。性行為にはまったく触れず、微妙な問題なので各家庭に任せるとのこと。後は精子と卵子の結合といった、あくまで生物学的な説明です。先生が保守的だったのは少し意外でした」

 オバマ政権では禁欲教育から総合的性教育へと方向転換が図られているが、どちらが有効な教育方針なのかをめぐって、今なお侃々諤々の議論が続いている。

 では、北欧はどうか。フィンランドはオランダ同様、かなりオープンだ。小学校低学年からペニスやワギナなど性器の名称や身体の構造を学び、日本の中学校にあたる学年では、二人の合意のもとで性行為が始められること、ピルやコンドームなど避妊具の使い方(写真つき)、性感染症の感染経路や治療法まで詳しく教えられる。さらに高校生では、同性愛や性同一性障害などの多様な性のほか、男装・女装、SM、のぞき魔、露出狂に至るまで、性的指向にも言及する徹底ぶり。

「フィンランドの性教育は主に『生物』と『健康教育』の授業で行います。ヨーロッパ諸国では生物ではまず“人間”を教えるんです。でも日本の高校は生物の教科書で“人間”はほとんど扱わないですし、あっても参考程度です」(橋本教授)

 このほか、性的マイノリティーの生徒のための高校があるカナダ、エイズ対策に力を入れるタイ、儒教思想からの転換期にある韓国など、性教育事情は国によって千差万別だ。だが、10代の望まない妊娠と性感染症の予防は、世界共通の課題だ。その点について、日本はとても積極的とは言いがたい。

 橋本教授らの調査では、中学校での性教育の授業は年間3時間前後と少ないうえ、一番の問題は教員養成の課程にあるという。

「教員が性教育について習ってないから教えられないんです。生物としての人間をきちんと教え、妊娠・出産で自分の一生が左右されると知ったら、子どもたちも危ないことはしませんよ。ちゃんと教えないのは子どもを信頼していない証拠です。学校ではもっと根幹を教えないと」

 橋本教授いわく「性教育からその国が見える」。子どもたちに対してはぜひとも正しい情報開示を望みたい。だがその前に、大人も性教育の学び直しが必要になりそうだ。(市川安紀)

【関連記事】
浮気防止アプリ「カレログ」が示す 殿方の暗黒未来
気づいてないのはあなただけ!「加齢臭」完全消臭対策
気をつけろ! 婚活サイトにはびこる不逞な輩
原発離婚、放射能別居・・・被災地で決断する女たちのホンネ
増える「男の更年期障害」 あなたは「朝勃ち」してますか?

最終更新:9月13日(火)16時31分

週刊朝日

 

記事提供社からのご案内(外部サイト)

■野田政権と闇社会の「点と線」
怪しいタニマチ 疑惑の接待
■独走スクープ!原発ルポ第2弾
このままでは原発テロが起きる

 
注目の情報
30代に人気?絶対4LDK超がいい!

駅から5分、広々4LDK超…噂の新築マンションが、通勤に便利なあの街にできた。最近、20代の後輩もマンション買ったし、妻も乗り気だし、そろそろ僕も…(35歳男性)[SUUMO]
妻が見つけた!2000万円台の新築
PR

注目の情報


PR