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きょうの社説 2011年9月16日
◎脱北者韓国移送へ 日韓の連携体制の強化を
輪島沖で保護した9人の脱北者について、政府は韓国に移送する方向で韓国政府と協議
する。韓国は工作員や偽装亡命などの疑いがない限り、脱北者の亡命を受け入れており、2007年に青森県に漂着した脱北者4人は希望通り韓国に移送された。今回もこれと同様の扱いが適切であろうが、重要な情報源とも言える脱北者から北朝鮮の実相や脱出の実態をつかむ、またとない機会であり、まず事情聴取を厳格に行うことが肝要である。その上でさらに、北朝鮮からの脱出者や難民の救出に関する日韓の連携体制強化に向け た協議を具体的に深める契機としたい。 韓国統一省によると、同国への脱北者は2000年代に入って急増し、06年以降は毎 年2千人以上に上る。累計では2万1千人を超えており、脱北者の定着支援を行う施設の収容能力が限界にきたため、今年7月に新施設の建設に着手するという状況である。 もし北朝鮮で「急変事態」が起きれば、さらに大量の難民流入が予想される。韓国はそ うした事態を想定して難民収容の計画を立てているが、そうなれば日本政府としても、北朝鮮国内の日本人拉致被害者や戦後の帰還事業で北朝鮮に渡った在日朝鮮人の日本人配偶者とその家族らの救出に全力を挙げなければならない。 菅直人前首相は昨年末、朝鮮半島有事の際、在韓邦人を救出するための自衛隊機派遣に ついて韓国政府と協議に入る考えを示した。自衛隊機の乗り入れについては韓国側の抵抗感が強く、協議が進展している気配はない。が、自衛隊機派遣論議はわきに置くとしても、朝鮮半島有事を想定して、南北に在住する邦人らの救出計画を立て、韓国政府と協力してその実行体制を考えておくことは政府の務めである。 中国との関係でも同様の問題がある。中国は脱北者を不法入国者とみなしているため、 日本関係の脱北者が2年8カ月にわたって中国遼寧省の日本総領事館で足止めをくい、今年4月にようやく日本への出国が許可されるという事例があった。中朝国境を越えて日本をめざす脱北者の救済はなお難しい課題である。
◎国会会期延長問題 わずか4日でお開きでは
臨時国会が延長される可能性が出てきた。わずか4日間で打ち切られては、所信表明演
説で「民主主義の要諦(ようてい)は、対話と理解を丁寧に重ねた合意形成にある」として徹底した論議を呼び掛けた野田佳彦首相のせりふが泣く。論議の場である国会審議を先送りしようとする政府・民主党の態度は批判されても仕方がない。振り返れば、菅直人前首相が就任したとき、初めての国会論戦をたった2日間で打ち切 った。発足当時の高い支持率を背景に選挙を急ぎ、野党の追及を受ける国会審議を避けた。党利党略を優先する発想は、「反面教師」であるはずの菅前首相と同じではないか。 今は被災地の復旧と円高対応をはじめとする経済対策に与野党が力を合わせて取り組ま ねばならないときである。最終日でも遅くはない。政府・民主党は野党7党の会期延長要求にこたえてほしい。 野田首相が会期延長を渋る理由は、はっきりしている。不適切発言で辞任した鉢呂吉雄 前経済産業相に限らず、新閣僚は担当省庁の業務に精通していない「素人」が多い。民主党の平野博文国対委員長は、臨時国会の会期を4日間とした理由について「今の内閣は不完全で十分な答弁ができない」と述べた。予算委員会の質疑を通じて、ボロが出るのを恐れているのだろう。また、野田首相自身も外国人献金疑惑問題を抱えており、予算委での追及は必至だ。 自民党の谷垣禎一総裁は「早々に国会を閉じるのでは信頼関係を損ねる」と、首相が求 める与野党協議に安易に応じない考えを示している。せっかく「ドジョウ演説」で国民の心をつかみ、高支持率でスタートしたのに、逃げに徹する姿勢では、先行きが思いやられる。このままでは前任者2人と同様、内閣支持率もつるべ落としにならぬとも限らない。 野田政権の使命は、停滞する政治を前に進めることである。それには野党の協力が欠か せない。野田首相がいかに低姿勢を貫こうと、言葉やポーズだけでは信頼されない。民自公の政策協議を軌道に乗せる責任は、まず野田首相にあることを忘れないでほしい。
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