日本語が日本を衰退させる
2011年09月15日02時33分
日本は戦後、世界でも稀な経済成長をとげ、アジア諸国の中でいち早く先進国入りした。
日本の中間層が厚く、平均的な知的レベルが高いことの要因の1つとして、自国語で読める書物が多いことがあげられる。
タイやフィリピンなどアジアのほとんどの国では、専門書などは翻訳されているものが少なく、英語で読むしかない。そのため英語ができないと学問ができない。社会学、経済学、金融、物理学、化学などの分野の専門用語も自国語に翻訳されずに、英語をそのまま使う。
それに対して日本は、明治以降入ってきた西洋の概念を、自国語である漢字に置き換えてきた。
「精神」、「社会」、「存在」、「権利」、「自由」、「恋愛」など、この時期に作られた言葉はいまでも使われている。これらの言葉の中には、中国に逆輸入されたものもある。
そして日本人は、数多くの翻訳語を用いて、西洋の書物をつぎつぎに翻訳していった。古典の名著はもちろん、専門書もある程度のものは母国語である日本語で読める。
そのため、翻訳文化が遅れている国と比較して、学問の最初のハードルが低かった。英語ができなくても、そこそこ高等教育を受けることが可能だったからだ。(高度な専門書や論文は英文をあたることになるが、こうしたものは専門知識があって専門用語がわかれば、理解できることが多い。)
高度成長期あたりまでは、日本の人口はアジア諸国の中では多いほうだったので、日本語に翻訳しても採算にのるが、知識人の数が少なかった国では翻訳しても読者がいないということもあっただろう。
魯迅や孫文、李登輝など、日本に留学して近代西洋の思想を学んだ人は少なくない。
また、漢字は表意文字なので、その単語を知らなくても漢字を見れば何となく意味が推測できる。専門書でなければ、なんとなくわかったつもりで読んでいっても、差し支えないことが多い。これに対して英語は、わからない単語は本当にわからないことがある。
(これはあくまで一般論で、たとえば哲学書などを読むときは、原文にあたり、原語を確認するのが最善。日本語の翻訳語と外国語は必ずしも一対一で対応するわけではなく、微妙に意味が違うことは少なくない。しかし、一般的な教養レベルでは、そこまで厳密に考えなくても差し支えない。)
こうして、日本の豊穣な翻訳文化は日本人の知識水準を下支えしたのだが、マイナス面として、英語を学ぶ必然性をなくし、大学を出ても英語を苦手とする人を多数生み出したことがあげられる。
しかし、外国語なしに近代以降の知識や技術について語れない東南アジアの大卒のほとんどは、英語を理解し、話すことができる。
グローバル化が進み、世界がネットワークで結ばれた今、英語が使えるか否かは、大きなポイントになっている。
そして、英語ができるという点においては、日本はアジア諸国に劣ってしまっている。
自国語でほとんど事足りるという、過去100年の日本のアドバンテージが、一転してマイナス要因になったということは、これから大きな影響を与えるのではないだろうか。
英語を必要としないローカルな仕事が一定量存在し続けることは間違いないが、それでは成長をとりこめない。
また、今までは日本語が1つの参入障壁として働いてきたが、ネット上でのサービスでは、語学の壁は低い。最近のサービスはそれなりに直感的に使えるものが多いからだ。
いま私は、Google Docsという Googleが提供するWeb上のワープロソフトを利用してこの記事を書いている。日本語にローカライズされていないが、ワープロソフトに大きな違いはないため、特に問題はない。ツイッターもフェイスブックもユーチューブもタンブラーも世界共通で利用されている。
かつては、「タイムマシン経営」という言葉が使われたように、アメリカで普及したサービスを数年遅れて日本にもってくるところにビジネスチャンスがあったが、世界がつながった今では、日本語化される前から日本での利用者を獲得するサービスが増えた。
世界中からユーザーと開発者を獲得するには、事実上の世界標準語となった英語圏のサービスが圧倒的に有利だ。
ただ、依然として英語圏と格段の違いがあるのが、電子書籍の分野。
先日知人に、電子書籍を読みたいのだが、どの端末を買ってどのサイトにいけばいいのか、紙の本を販売するアマゾンのように何百万冊も電子書籍を売っているのはどこなのか、と聞かれた。
日本語の電子書籍は最近増えているが、アマゾンのようなところはなく、たくさんある電子書籍販売サイトで本を探して、いちいち個人情報を登録する必要があるというと、うんざりされた。結論としては、キンドルを買って英語で読むのが一番ということになった。
私自身は、数ページの雑誌記事ならいざ知らず、英語で何百ページもある本を通読するのは、今のところはちょっとつらいのだが、なんとかせねばと努力中だ。
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日本の中間層が厚く、平均的な知的レベルが高いことの要因の1つとして、自国語で読める書物が多いことがあげられる。
タイやフィリピンなどアジアのほとんどの国では、専門書などは翻訳されているものが少なく、英語で読むしかない。そのため英語ができないと学問ができない。社会学、経済学、金融、物理学、化学などの分野の専門用語も自国語に翻訳されずに、英語をそのまま使う。
それに対して日本は、明治以降入ってきた西洋の概念を、自国語である漢字に置き換えてきた。
「精神」、「社会」、「存在」、「権利」、「自由」、「恋愛」など、この時期に作られた言葉はいまでも使われている。これらの言葉の中には、中国に逆輸入されたものもある。
そして日本人は、数多くの翻訳語を用いて、西洋の書物をつぎつぎに翻訳していった。古典の名著はもちろん、専門書もある程度のものは母国語である日本語で読める。
そのため、翻訳文化が遅れている国と比較して、学問の最初のハードルが低かった。英語ができなくても、そこそこ高等教育を受けることが可能だったからだ。(高度な専門書や論文は英文をあたることになるが、こうしたものは専門知識があって専門用語がわかれば、理解できることが多い。)
高度成長期あたりまでは、日本の人口はアジア諸国の中では多いほうだったので、日本語に翻訳しても採算にのるが、知識人の数が少なかった国では翻訳しても読者がいないということもあっただろう。
魯迅や孫文、李登輝など、日本に留学して近代西洋の思想を学んだ人は少なくない。
また、漢字は表意文字なので、その単語を知らなくても漢字を見れば何となく意味が推測できる。専門書でなければ、なんとなくわかったつもりで読んでいっても、差し支えないことが多い。これに対して英語は、わからない単語は本当にわからないことがある。
(これはあくまで一般論で、たとえば哲学書などを読むときは、原文にあたり、原語を確認するのが最善。日本語の翻訳語と外国語は必ずしも一対一で対応するわけではなく、微妙に意味が違うことは少なくない。しかし、一般的な教養レベルでは、そこまで厳密に考えなくても差し支えない。)
こうして、日本の豊穣な翻訳文化は日本人の知識水準を下支えしたのだが、マイナス面として、英語を学ぶ必然性をなくし、大学を出ても英語を苦手とする人を多数生み出したことがあげられる。
しかし、外国語なしに近代以降の知識や技術について語れない東南アジアの大卒のほとんどは、英語を理解し、話すことができる。
グローバル化が進み、世界がネットワークで結ばれた今、英語が使えるか否かは、大きなポイントになっている。
そして、英語ができるという点においては、日本はアジア諸国に劣ってしまっている。
自国語でほとんど事足りるという、過去100年の日本のアドバンテージが、一転してマイナス要因になったということは、これから大きな影響を与えるのではないだろうか。
英語を必要としないローカルな仕事が一定量存在し続けることは間違いないが、それでは成長をとりこめない。
また、今までは日本語が1つの参入障壁として働いてきたが、ネット上でのサービスでは、語学の壁は低い。最近のサービスはそれなりに直感的に使えるものが多いからだ。
いま私は、Google Docsという Googleが提供するWeb上のワープロソフトを利用してこの記事を書いている。日本語にローカライズされていないが、ワープロソフトに大きな違いはないため、特に問題はない。ツイッターもフェイスブックもユーチューブもタンブラーも世界共通で利用されている。
かつては、「タイムマシン経営」という言葉が使われたように、アメリカで普及したサービスを数年遅れて日本にもってくるところにビジネスチャンスがあったが、世界がつながった今では、日本語化される前から日本での利用者を獲得するサービスが増えた。
世界中からユーザーと開発者を獲得するには、事実上の世界標準語となった英語圏のサービスが圧倒的に有利だ。
ただ、依然として英語圏と格段の違いがあるのが、電子書籍の分野。
先日知人に、電子書籍を読みたいのだが、どの端末を買ってどのサイトにいけばいいのか、紙の本を販売するアマゾンのように何百万冊も電子書籍を売っているのはどこなのか、と聞かれた。
日本語の電子書籍は最近増えているが、アマゾンのようなところはなく、たくさんある電子書籍販売サイトで本を探して、いちいち個人情報を登録する必要があるというと、うんざりされた。結論としては、キンドルを買って英語で読むのが一番ということになった。
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