記者の目

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記者の目:竹島騒動を考える=澤田克己(ソウル支局)

 今年夏の日韓関係で目立ったのは、両国が領有権を主張する竹島を巡る一連の騒動だった。これを見て「ドラマや音楽など文化を中心とした交流で相互理解が進んだのに残念だ」と思っている人がいるかもしれないが、そうした考えには二つの問題がある。

 一つは、文化交流への過大評価だ。小針進・静岡県立大教授らが両国で行った調査によれば、文化交流は相手国への好感度を高めるが、政治的態度に大きな影響は与えない。日本の音楽やアニメが大好きな韓国人は珍しくないが、それと領土問題は別ということだ。韓流にはまる日本人にも同じことがいえる。

 もう一つは、政治・外交面での関係弱体化を無視していること。文化交流が進む一方で、両国間の政治レベルの関係はかつてなかったほどに細いといえる水準だ。特に、植民地時代の経験から良くも悪くも「日本を知っている」はずだった韓国で、近年は、日本に対する無知、無理解、無関心が目立っている。

 私は数年前、韓国社会における日本観の変化を「脱日」と名付けた。かつて韓国で圧倒的だった日本の存在感は、90年代以降、急速に失われた。

 ◇貿易も留学も 年々存在感低下

 数字がはっきり出るのは経済だ。韓国からの輸出先に占める日本のシェアは90年の19%から、昨年は6%にまで落ちた。中国の5分の1弱で、米国や欧州連合(EU)の約半分。人口500万人のシンガポールの2倍弱にすぎない。

 韓国経済は日本からの中間財輸入に頼っているといわれるが、輸入額に占める日本の割合も90年の27%から昨年は15%にまで低下した。韓国はEUや米国、インドなどと積極的に自由貿易協定(FTA)を締結し、FTA相手国との貿易を順調に伸ばしている。FTA政策で遅れる日本は完全に蚊帳の外だ。

 韓国の大学生の専攻や留学先でも、日本は中国にはるかに及ばない。日本語学校も生徒数減少に苦しみ、日本研究者たちは真剣な顔で「日本に頑張ってほしい」と話す。自分たちが失業しかねないという危機感を持っているのだ。

 そうした日本の地盤沈下を改めて実感させたのが今回の竹島騒動だった。私は、韓国側の言動があまりにも軽いことに驚いた。今の韓国社会では、竹島問題への反発も「軽い気持ち」でやっているようにしか見えないのだ。

 象徴的なのは、今年6月の大韓航空による竹島上空での新型機のデモ飛行だ。日本外務省は大韓航空の利用自粛という異例の対抗措置を取ったが、当事者である大韓航空の職員は「騒ぎになるなんて想像しなかった。分かってたら、やらない」と話した。

 韓国では「独島(竹島の韓国名)」を商号に使ったり、竹島の絵を壁にかける商店や飲食店も珍しくない。だが、大韓航空を含め、どこも「日本人大歓迎」だ。日本人が来れば必死に日本語で接客する。彼らにとって「独島」はちょっとした話題作りのアイテムにすぎないから、日本人客が不快に思うことなど想定外なのだ。

 政界も変わらない。韓国政府では、現役閣僚だった李在五(イジェオ)特任相(当時、8月31日に辞任)が感情的な対日批判を展開。竹島に近い鬱陵島(ウルルンド)を視察しようとした自民党議員の入国を拒否した8月1日には、竹島で警備隊員の制服を着て写真に納まった。これには、さすがに韓国の政界からも「それほど暇なのか」とあきれる声が上がった。

 日本の植民地支配からの解放記念日である8月15日前後には、韓国国会の「独島特別委員会」と与野党の党代表がそれぞれ竹島訪問を予告していたが、すべて悪天候を理由に取りやめになった。与野党代表の訪問は延期ではなく中止。特別委は「8月中には行く」としていたが、結局は31日に国会内で委員会を開いておしまいだった。しかも、これらの訪問が実現しなかったことに、抗議や批判が出たとは聞かない。もう誰も関心を持っていないかのようだ。

 ◇理解してもらう努力をもっと 

 韓国が日本にとって「どうでもいい国」ならば、こうした状況を放置しても問題ないかもしれない。だが、現実は違う。東アジアで、日本のパートナーとして一緒に中国との付き合い方を考えられる相手は韓国しかいないのだ。

 韓国にとっても事情は同じはずだが、国際社会での急速な地位上昇に酔っている感のある韓国が、そのことに気づくまでにはまだ少し時間がかかる。だから、まずは私たちが「今の韓国は日本のことを知らない」という現実を直視し、日本を理解してもらう策を考えるべきだろう。韓国のためではない。私たちの安全保障のために必要な作業だ。

毎日新聞 2011年9月15日 0時16分

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