【ウィーン樋口直樹】北朝鮮が国際的な「核の闇市場」から得た技術や情報を基にウラン濃縮活動を行う一方、他国の核開発を支援していた可能性が高いことが、国際原子力機関(IAEA、本部ウィーン)の天野之弥事務局長の報告書で初めて確認された。開会中のIAEA理事会は14日、この報告書を基に協議を行い、北朝鮮の核問題を「国際的な核不拡散体制や平和と安定に対する深刻な脅威」とみなし、「交渉による問題解決の重要性」を改めて表明する議長総括を発表した。
天野事務局長が理事国(35カ国)に配布した非公開の報告書によると、IAEAは、昨年11月に北朝鮮・寧辺のウラン濃縮施設を訪問した米科学者、ヘッカー元ロスアラモス研究所長から聞き取り調査を実施。その結果、ウラン濃縮用遠心分離機の配置や分離機の外形などが、「核の闇市場」を通じて他国に広まったデザインと概して一致していることが判明したという。
報告書は「IAEAが得た情報は(北朝鮮の)ウラン濃縮に必要な、いくつかの技術や情報が、秘密の供給ネットワーク(闇市場)を通じて取得されたことを示している」と結論づけた。
報告書はまた、03年12月に大量破壊兵器開発計画の放棄を宣言したリビアについて、闇市場から00~01年に入手したとされる六フッ化ウラン入りのシリンダー(円筒状容器)3個を分析した結果、いずれもリビアに持ち込まれる前に北朝鮮にあったことも確認した。うち1個の六フッ化ウランは、北朝鮮で作られた可能性が極めて高いという。六フッ化ウランを濃縮すると、核燃料や核兵器の原料になる。
報告書はさらに、07年にイスラエル軍の空爆で破壊されたシリア初の原子炉とみられる施設が、北朝鮮の協力で建設中だったとみられることにも言及。北朝鮮が闇市場から核関連技術などを入手する一方、他国への核拡散に関与している可能性も示した。
天野事務局長は今月8日の毎日新聞との会見で、報告書で言及した「秘密の供給ネットワーク」について、パキスタンの「核開発の父」と呼ばれるカーン博士を中心とする、いわゆる「カーン・ネットワーク(核の闇市場)」を指したものだと言明。ただ、北朝鮮の核関連技術については「かなり高い独自技術を持っている。一部を外から持ってきたことは間違いないと思うが、すべてではないと思う」と話した。
カーン・ネットワークからは北朝鮮やリビアだけでなく、イランにもウラン濃縮技術が流出したと言われている。専門家の間では北朝鮮とイランの核開発協力を疑う声もあるが、天野事務局長は「この分野(核開発)では確たるものはない。だが、ミサイル(開発分野での協力)についてはもっと強い疑いがある」と指摘した。
毎日新聞 2011年9月14日 20時54分(最終更新 9月15日 0時38分)