風知草

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風知草:狂った結束は有害だ=山田孝男

 きょう投票の民主党代表選挙の異様さは、誰も知る通りである。なにしろ、原発より、財政再建より、「挙党一致」が大事という騒ぎだ。

 事実上の主役は小沢一郎元代表である。候補乱立の結果、党内最大グループを率いる小沢が新代表の決定権を握った。党員資格を奪われ、表向きは謹慎中の黒幕に各候補がすり寄っている。その無節操、無定見が異様な印象の核心だ。

 なぜ、こういうことになるのか。小沢その人にからむ理由が二つあると思う。

 第一。この夏、小沢側近の政治資金規正法違反事件(陸山会事件)の裁判で検察が失点した。検事の威圧的な取り調べが露見、検察が求めた調書の証拠採用を、裁判所が退けた。

 第二。政局の安定は当分望めず、いつ総選挙になだれ込んでも不思議はない。そうである以上、選挙の面倒見のいい小沢についておけば損はない、小沢無罪ならなおさらだ--という打算が働いている。

 要するに、烏合(うごう)の衆のサバイバル。党全体が浮足立ち、党員資格停止処分も揺らいでいる情けない現状だ。

 当コラムで既に何度も書いてきたことだが、検察が切り取った起訴事実は、小沢の政治資金をめぐる数々の疑問の、小さな断片にすぎない。

 捜査の対象にこそなっていないが、小沢の並外れた資金力には多くの疑問がある。なぜ、ゼネコンから巨額資金をもらえるのか(西松建設献金事件)。法律上の規制がないとはいえ、旧新生党の解党時の残資金3億7000万円を、知らぬ間に自分の資金団体に移し替えたのはズルくないか……。

 記者会見でこれらの質問が出ても、小沢は「浄財の出所はせんさくしないものだ」というレベルの説明に終始してきた。裁判を理由に国会での説明も避けてきた。そういう不誠実な対応の全体を見きわめ、民主党は小沢の党員資格停止を決めたのではなかったのか。

 27日、日本記者クラブの代表候補共同記者会見で小沢との関係をしつこく聞かれた海江田万里経済産業相が、私だけに聞くなと不満がった。だが、あたり前だろう。昨日までの泡沫(ほうまつ)候補が一躍、本命になったのだ。それも小沢の支援で。海江田以外の誰に聞くのか。

 海江田は質問に答えず、「全員野球が大事」「友有り、相親しむ」などとかわした。海江田に限らないが、小沢に対して腫れ物に触るような口ぶりの候補ばかりで、ますます異様な雰囲気になっている。

 百歩譲って小沢の政治資金問題を脇に置き、その「剛腕」に期待するとしよう。問題は政策だが、黒幕は何も語らない。マニフェスト(政権公約)見直しに反対で財政再建に消極的と察せられるが、注目の原発で目立った発言はない。

 かつて原発推進の自民党の幹事長だった。脱原発とは一線を画すると思われるが、はっきりしない。海江田の原発発言には変遷がある。「原子力ムラ」の改革に挑む意志と実力があるかといえば疑問だ。

 かつて日本の首相選びがこれほどあわただしく、政策論戦が質量ともに、これほど貧弱だった例を知らない。

 いったい、何のための挙党態勢か。小沢とその同盟者の延命のためか。全党挙げて権力をむさぼるためか。民主党のための首相選びはたくさんだ。議員は筋を通し、壊れるべきものを壊したらいい。(敬称略)(毎週月曜日掲載)

毎日新聞 2011年8月29日 東京朝刊

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