きょうの社説 2011年9月14日

◎脱北者の保護 日本海の備えを強めたい
 北朝鮮からの脱出者(脱北者)のものとみられる木造船が輪島沖で保護されたことで、 とりわけ日本海の領海警備や北朝鮮難民の対応策の在り方があらためて問われている。北朝鮮と向き合っている北陸の海域、沿岸は特に監視を怠ってはならない。

 不審な木造船を発見し、通報したのは輪島の漁船団で、通報後、7隻の漁船で木造船を 囲み、海上保安部の巡視船が到着するまで見張っていたという。裏返して言えば、たまたま遭遇した漁船団の的確な対応がなければ、やすやすと領海侵犯を許したということであり、監視体制の心もとなさが露呈したと言わねばならない。漁船団にとって、この船が武装した工作船でなかったのは幸いである。

 木造船は漂流状態で日本の領海に侵入する意図はなかったとしても、政府は領海警備の 強化を迫られる事態と認識する必要がある。昨年の中国漁船衝突事件を機に、海上保安庁は領海内に侵入した外国船に対して、より迅速に領海外への退去命令を出せるよう外国船舶航行法を改正する考えである。同法だけでなく、領海警備に関する法律を見直し、不備を埋めてもらいたい。

 脱北者の増加を想定した対応策の検討を急ぐ必要もある。2006年施行の北朝鮮人権 侵害対処法で、政府は「脱北者の保護、支援の施策を講ずるよう努める」と規定されている。これまでに、帰還事業で北朝鮮に渡った在日朝鮮人や日本人妻、その家族など100人以上の脱北者を受け入れているが、北朝鮮の体制崩壊で「脱北難民」が急増した場合などの具体的な対処法や受け入れ体制は整えられていない。

 このため石川、富山など12府県でつくる日本海沿岸地帯振興連盟などは、「難民漂着 」に対する国の体制整備や、国と自治体、関係機関の連携体制づくり、武装の可能性のある難民に対処するマニュアルの策定を政府に求めている。また、全国の知事でつくる「拉致被害者を救出する知事の会」は、北朝鮮の急変事態への備えを求める要望書を提出している。海岸を管理する自治体の要望は切実であり、政府はもっと切迫感を持って受けて止めてもらいたい。

◎首相所信表明 通貨量増やし円高阻止を
 野田佳彦首相が就任後初めての所信表明演説で最優先課題に掲げたのは、東日本大震災 の対応と「日本経済の立て直し」だった。特に最近の歴史的水準の円高について「空前の産業空洞化の危機を招いている」と危機感をにじませ、日本経済再生に取り組む意欲を見せたのは心強い。

 野田首相はこれまで、あまり成長戦略を語ってこなかった。東日本大震災の復興策を盛 り込む第3次補正予算についても具体的な復興策が見えないなかで、財源問題だけが先行した印象がある。東日本大震災からの復旧・復興が政権の最優先課題であることは言うまでもないが、景気を良くしないと税収が大幅に減り、復興費用を賄うのも難しくなるだろう。

 経済学者の間では、日本の通貨供給量(マネーサプライ)の減少が円高やデフレ不況を 招いたとする見方がある。米国や欧州諸国は08年秋のリーマン・ショック以降、ドルやユーロの供給を2〜3倍増やしているのに、日銀は資金需要がないなどの理由で、言われるほど通貨供給量を増やしていないというのである。それが事実なら、円高、デフレが解消しないのも無理はない。

 野田首相は、所信表明演説で、政府の新成長戦略を強化した「日本再生の戦略」を年内 にまとめると表明した。日銀の通貨供給量が適切なのか検証し、本当に不足しているなら対策が必要ではないか。場合によっては日銀法改正も視野に入れ、効力のある円高対策を実行してほしい。

 欧州の財政危機や米国経済の失速、電力需給のひっ迫など問題が山積しているなかで、 最も急がれるのは円高対応である。為替介入などでは、問題の根本的な解決にはならないのは明らかだ。

 野田首相は産業空洞化の防止や国内雇用の維持のために「金融政策を行う日銀と連携し 、あらゆる政策手段を講じる必要がある」と述べた。具体策として、立地補助金を拡充するなどの緊急経済対策や円高メリットを活用した海外の企業買収や資源獲得の支援策を挙げたが、そんな対症療法だけでは効果は限定的だろう。