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きょうのコラム「時鐘」 2011年9月14日
中秋の名月から1日が過ぎて、きのうは「いざよいの月」。秋の風情が存分に楽しめる
輪島沖の脱北船騒ぎは、そんな気分を打ち砕く。船上の9人も日本海を照らす明るい月を見たに違いない。苦難の中で仰いだ月に、どんな思いを抱いたのか。そぞろ胸が痛み出す 輪島まで列車が走っていたころ、構内に愉快な駅名板が設けられていた。終着駅なのに、次の駅が記されている。「シベリア」と誇らしげに書かれた文字は、空想の旅を大いに刺激した。海を渡れば広大な大地。そこからモスクワ、パリ、ロンドンへ。世界につながる楽しい旅を告げる駅名板だった そうでない現実がある。シベリアよりも近くに、独裁者が治める飢餓の国がある。そこから、航路のない海に命懸けで乗り出した人たちがいた。それも、月の夜という人目を引く危険を覚悟しての船出である 満月を境に、月の出は遅くなる。「いざよいの月」は、出るのをためらうような風情の月、と辞書にある。月の出は遅れ、やがて闇の夜となる。暴政の国の闇はなお深いのか。程なく明けるのか。何度問えば答えが返ってくるのだろう。 |