ある日、ナギ・スプリングフィールドは一冊の書を拾った。
「なんだこりゃ?」
鎖で固定された分厚い本、ナギはこんこん叩く。
「なんか妙な感じのする本だな。ふん!」
ナギは書を開いてみようとするが、書を固定する鍵と鎖が堅くて開かない。
「野郎、本のくせに生意気な」
余談ではあるが、この時、この書は野郎ではありませんとつっこんでいた。
「ぐぬ、この……」
意地でも書を開けようとナギは奮闘し、ついに鍵が鎖とともに弾け飛ぶ。
「ふう、手こずらせやがって。どれどれ? って全部真っ白じゃねえか」
パラパラとページをめくるが真っ白なページが広がるだけだった。
折角だし新しいアンチョコにするか〜とナギは持ち帰ろうとして、書がいきなり動き出した。
「なんだこりゃ?」
ナギの手から離れた書から怪しい魔力が漂う。訝しがりながらナギは杖を構え臨戦態勢を整える。
そして、書から光が迸る。
「くっ!」
とっさに目を庇うナギ。そして、光が収まると、そこに四人の人間が跪づいていた。
「闇の書の起動を確認しました」
「我ら、闇の書の主を守る守護騎士でございます」
「夜天の主の元に集いし雲」
「我らヴォルケンリッター、何なりと命令を」
これが、千の呪文の男と呼ばれる男と闇の書の出会いだった。
「つまり、俺はこの闇の書とかいう書に主に選ばれて、お前等はその主に仕える騎士ってことか」
ナギが受けた説明を反芻する。
「はい、主」
「主なんて呼ぶな。むずがゆい。ナギでいいさ」
おどけた感じにナギが笑う。戸惑う守護騎士たち。
「こいつらが俺の仲間だ」
「あん? ナギ、そいつらはなんだ?」
ラカンが守護騎士たちへ胡乱気に目を向ける。
「ああ、こいつらは」
守護騎士たちについて説明するナギ。
「ふはは! どうしたどうした? もっとこいよ!」
ラカンが爆笑しながら拳を奮う。
「ちい! アイゼン!!」
「ラカン殿、お覚悟!」
ヴィータとザフィーラがラカンに踊りかかる。
「むん!」
だがラカンの一撃はザフィーラとヴィータを攻撃ごと吹き飛ばした。
「はあ、はあ、流石です衛春殿。ここまで手が出ないとは……」
「いえ、あなたの剣筋も見事でした」
シグナムは詠春に惨敗。だが、その顔には清々しい笑顔。
「また、手合わせお願いします」
「ええ、私でよければ」
後に神鳴流を奮う烈火の将が武名を馳せたという。
「ですからこうすれば……」
「あ、そうするなら」
シャマルはアルビレオ・イマとなにやら近寄り難い会話をしている。
たった一ヶ月で、すっかりヴォルケンリッターはアラルブラに馴染んでいた。
「あん? 管制人格?」
ナギはいきなり出た名前を返す。
「はい、闇の書を効果的に利用するために存在する存在です。闇の書のページが四百枚埋まれば覚醒しま」
シグナムの説明をみなまで聞かずに、ナギは懐から取り出した闇の書を開いて叩き始める。
「こら、てめえ、引きこもってないで出てこい」
「あるじーー! なにしているのですか!?」
突然の主の奇行に反応できず、一拍遅れてから慌てて止めに入る。
だが、当然と言いたげにナギは胸を張る。
「引きこもってんなら、出してやろうと思っただけだ」
「いや、無理ですからそんなこと!」
シャマルがつっこむ。だが、ひょいっとラカンが闇の書を拾う。
「俺に不可能はねえ」
シャマルにそう返すと、徐にラカンは……右腕を闇の書に叩き込んだ!
二の腕まで書にメリメリとめり込ませるラカン。
「ラカンどのーーーー!?」
シグナムの叫びが響く。
だが、よく見れば、書は破けてなく、腕が途中からなくなっていた。
「捕まえたっと」
そう言ってラカンが腕を引っこ抜くと、そこに首根っこを捕まれた銀髪赤眼の融合騎が状況を理解できずに目を白黒させていた。
守護騎士も同じように白黒させるしかなかった。
「管制人格って呼ぶのは味気ねえな。今日からお前はリインだ!」
「は、はい主ナギ」
自分の状況やら今までの主とは違うナギに戸惑うリイン。
だが、いつか自分はこの主を……そう考え沈んだ表情を浮かべるリイン。
「ええい、お前もちったあ笑え」
ナギにそう叱られてもなかなかリインは笑わない。
「……こうなったら」
ナギは一向に笑わないリインに痺れを切らし、抱き上げて走り出す。
「ちょっと出かけてくるぜ!」
「あ、主?!」
ナギの行動に慌てるリイン。だが、守護騎士たちはナギの行動に慣れたためか止めようとしなかった。
「止めないか、守護騎士ー!!」
リインの叫びは誰にも届かなかった。
ナギはリインをつれて、街に遊びに繰り出し、ついでに裏組織を一つを一晩で壊滅させた。
「ふう、どうだったリイン?」
にっと朝日の中でナギは笑う。
「もう、なにがなんだか……」
疲れた顔で息をするリイン。
だが、今までにない破天荒な主にリインはふっと小さく笑う。
それを見て悪戯小僧のような笑みを浮かべるナギ。
そして、ついにリインは真実をナギに語る。かつて夜天の書と呼ばれた闇の書の真実。
「歴代の主が行った改変によるシステムの暴走か……」
闇の書の真実にナギは考え込み、
「ならぶっ壊すか」
シンプルな答えを出すナギ。
「行きますよラカンさん」
「いつだっていいぜ」
闇の書の闇を破壊することを決めたアラルブラは、まず身内である程度書を埋めることにした。
まずはラカンの魔力を蒐集。
「くっ、流石の俺様にもキツかったぜ」
そう言って腰を下ろすラカン。
「一発で六百六十五埋まった……」
「やはりバグキャラか……」
一応、回復を早めるためにある程度だけ蒐集するつもりだったのに、あっと言う間に書が埋まったことに恐れおののく守護騎士たち。
ラカンの回復を待ってから適当な魔法生物で蒐集を終えた闇の書はついに起動する。
予定通り防衛プログラムを書から切り離すナギとリイン。
暴走する防衛プログラムに対するアラルブラ。
「轟天爆砕!」
「全開、ラカンインパクト!」
「駆けよ隼!」
「神鳴流奥義、真・雷光剣!」
ヴィータのギガントが、ラカンの一撃が、シグナムの矢が、詠春の刃が次々と防衛プログラムの障壁を破壊する。どころか本体にもダメージを与える。
そして、剥き出しになる闇の書の闇。そして、それに相対するのはナギ。ユニゾンし、髪と目の色が変わり、その手にはシュベルトクロイツ。
「人間を舐めんじゃねえ!」
ナギは全力で千の雷を込めたシュベルトクロイツを闇の書の闇にぶち込んだ。
ナギたちによって闇の書の闇を打ち砕かれた。
だが、リインはナギの元を去る。
守護騎士プログラムも自身から切り離した彼女は自らの罪を告白し、裁きを受けようとしていた。
処刑執行日、リインの心は穏やかだった。よい主、よい仲間に恵まれたことを胸に抱き、消滅する。
それは自分には過ぎた幸福。思い残すことはない。
「ありがとうございます。主ナギ、そして、さようなら」
リインはナギに感謝と別れの言葉を呟く。
だが、
「なに勝手にさよなら言ってんだ?」
リインは聞きなれた声に、振り向く。
そこに愛用の杖とシュベルトクロイツを持った赤毛の魔法使いが憮然とした顔で立っていた。
「あ」
主ナギとリインが言いかけて、視界が急激に変わった。
いきなりナギがリインを抱えて連れ出したからだ。
「あ、主ナギ! いったいなにを?!」
「うるせえ! 勝手になにやってるんだてめえは!」
ナギの声にリインは息を呑む。だが、すぐに言葉を紡ぐ。
「ま、また防衛プログラムが暴走するかもしれません。なら、私は消えた方が」
「一人で決めるなアホ!」
ナギがリインの額に自分の額を叩きつける。痛みに涙目になるリイン。
「そうなったらまた助けてやる! 何度でもな!」
シュベルトクロイツで飛翔しつつナギは断言する。
リインはぎゅうっとナギの服を掴む。
「なんで、私なんかのために?」
ただただ疑問だった。なぜこの主はこんなことをするのか。
こんな行動する主を彼女は知らない。そして、次のような言葉を言う主も彼女は知らなかった。
「好きだからに決まってるだろ!」
突然の主の告白にリインは目を白黒させる。
「えっと、なんで……」
恥ずかしさやら突然の事態に顔を真っ赤にするリイン。だが、ナギはまっすぐにリインの顔を見る。
「お前はどうなんだ?」
ナギの答えにリインは顔をうつむかせる。
「……です」
「聞こえねえよ」
リインは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「私も主のことが好きです! あ、愛しております」
リインの言葉に満足そうにナギが笑う。
「もう、勝手にどこかに行こうとするなよ」
「はい、主」
そして、昇る朝日の中で二人のシルエットが重なった。
十年後……
麻帆良学園中等部。
「ここが麻帆良学園……」
魔法学校の最終課題の為に「先生」としてやってきた少年、ネギ・スプリングフィールドがこれから始まる生活に思いを馳せる。
「ふわ~、広い学校です~」
のんきに学園の敷地の広さに感動するのはネギの双子の妹であるリインⅡ・スプリングフィールド。
「じゃあ、いくよリイン」
「はいです。お兄ちゃん」
そして、千の呪文の男と祝福の風を継ぐ二人はマギステル・マギへの第一歩を踏み出した。
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勢いで作った。反省はしているが後悔はない。
ナギの性格とか口調に少し不安がありますが、楽しんでいただけたら幸いです。
リインに子供作れるのかというツッコミはできたら無しの方向で。
それでは!