「紳助騒動」でも明らかになった吉本興業の非上場化メリット、“行儀悪い”非上場化に株主からの訴訟も【上】
東洋経済オンライン 9月14日(水)11時1分配信
テレビ局が受けた損害は、特段の事情がないかぎり、島田紳助氏の所属事務所である吉本興業が賠償すべきものと考えるのが普通だ。
稼ぎ頭の島田紳助氏の引退で、今後の収益そのものも後退するであろうから、吉本興業が上場会社のままだったら、少なくとも業績予想の下方修正を余儀なくされた可能性は高い。
暴力団との根深い関係を伝える報道も日を追うごとに増えており、上場会社のままだったら、どれほどの説明責任を問われたかわからない。
所属タレントの管理不行き届きを理由に、取締役が株主代表訴訟の標的になった可能性も否定できない。
そういった意味で、今振り返っても、非上場化は吉本興業にとって実に賢明な選択だったといえる。とはいえ、同社の非上場化は、あまりにも突然かつ性急だった。
■上場廃止で株主は「吉本応援団」オンリーに
吉本興業は終戦から4年後の1949年5月に上場しているが、上場から満60年と4カ月後の2009年9月14日、突然上場廃止宣言を出した。
元ソニー社長の出井伸之氏を代表に頂くファンド会社・クオンタムリーブが、吉本買収専用のペーパーカンパニー(特別目的会社=SPC)を組成。そのSPCでTOBを実施し、TOBに応募しなかった株主からは、TOB後に開催する臨時株主総会を通じ、株主本人の意思とは無関係に、強制的に保有株を買い上げてしまう、昨今大流行中の「キャッシュアウト」という手法を使った(写真は非上場化の記者会見)。
TOBを通じ、SPCは88%の議決権を獲得。臨時株主総会でTOB非応募株主追い出し決議に必要な議決権(=特別決議に必要な3分の2以上)を確保できたので、追い出しはスムーズに進行。10年2月24日、上場廃止になった。
ファンドには吉本への番組製作依存度が高い在京キー局各局や、広告代理店、ライセンスで密接な関係を持つゲーム会社など、吉本なかりせば事業が成り立たない会社のほか、取引銀行や証券会社、それに創業家など総勢32社が出資した。
一連のキャッシュアウトを経て、1万6000人いた株主は、わずか32社の吉本応援団に入れ替わった。この顔ぶれならば、何があっても株主代表訴訟を起こされることはない。
60年余りに及ぶ上場期間中、吉本は何度も所属タレントと暴力団の関係をメディアに報道される事態を経験している。09年1月には、吉本の元最高顧問・中田カウス氏の襲撃事件という、きな臭い事件も起きている。
それだけに、暴力団排除に向けた社会全体の意気込みが、加速度的に増していく流れもまた、敏感に感じ取っていたとしても不思議はない。
04年6月に広島県と広島市が暴力団排除条例を全国に先駆けて施行して以降、同条例は全国の自治体に広がり、吉本が上場廃止を宣言するわずか2カ月前の09年7月、東京都でも施行されている。
この時期は、島田氏が殴打した女性マネジャーから起こされていた損害賠償請求訴訟が大詰めを迎えていたときでもある。
「メディア関係者との資本関係強化により、目新しい仕掛けをスピーディに展開するため」、というのが非上場化の公式な目的ではあったが、上場を維持することによるコンプライアンス(法令順守)上のリスクもまた、意識していなかったはずはない。
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最終更新:9月14日(水)11時1分
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