バルーンカテーテル血管拡張術+ステント留置(血管内治療)は有効か?
最近、尖端に風船の付いた細い管を用いるカテーテル血管拡張術が広く行われるようになっています。ステント留置とは狭いところを広げた後に金属網の筒(ステント)を入れることで、再狭窄を防止します。手技が簡単で、動脈に針を刺して管を挿入するだけで手術が必要ないため、低侵襲治療として単独あるいは手術との併用で、1972年以来、主に血管外科医により実施され、心臓については狭心症の治療法として内科医が専ら施行してきました。しかし最近10年くらいの間に、内科医の間でも、心臓のカテーテル治療と合わせて足の動脈病変に対してもカテーテル治療が実施されるようになり、その結果、様々な問題を引き起こしています。無論、カテーテル治療は我々も実施しますし、有用な治療法と考えていますが、治療対象の選択は厳密であり、治療成績も良好です。
カテーテル治療の要約
利 点
低侵襲で、治療後の痛みがなく、入院も1日ですみます。
欠 点
治療効果が長続きしないことで、1〜数か月で狭窄、閉塞が再び発生します。
対 象:どのような例に行うべきか?
大動脈から鼠径部(太ももの付け根)までの太い動脈閉塞病変で、特に短い範囲の狭窄(狭くなる)、閉塞(つまる)には有効で、人工血管を用いるバイパス手術に近い治療成績が得られるようになっています。
慎重を要する例
太ももから膝の動脈では、依然として治療結果が不良で、特に重症虚血の患者さんでは病変が高度なため長期的な治療効果は望めないのが現状です(表1参照)。そのため太ももから膝の動脈では病変を慎重に診断し、患者さんを選んで実施する必要があります。
問題点
世界的な治療結果は表1のとうりです。すなわち細い動脈病変への長期治療結果は良くありません。即ち3年以内に30〜40%の人が再狭窄を起こし、やり直しになるか手術かあるいは切断になります。この様な背景にあって、病状を無視したカテーテル治療が循環器内科医の間で盛んに行われている現実があります。問題なのは、その実施に当たっての患者さんへの説明です。多くの場合、次のような説明がなされています「このままではやがて切断になります」しかし血管が細い、高齢である、心臓が持たないなどの理由から「手術は不可能」と説明されます。そして最終的には、「切断を回避するにはカテーテル治療しかない」「再発しても繰り返し実施できる」などと言われます。これらの説明は、患者さんに否応なくカテーテル治療を承諾させるものですが、説明内容はいずれも真実ではありません。カテーテル治療が可能な例はいかなる状況でも手術が可能ですし、カテーテル治療を無選択に実施した場合、病変を悪化させ、虚血の増悪により切断に至らしめる例が出てきます。手術が出来ないというのはあくまでもその医者、またはその病院では出来ないという意味です。切断に至る原因についても、多くの場合、カテーテル治療後の急性再閉塞により虚血が悪化するためです。カテーテル治療後は急性血栓症により閉塞する可能性が高く、それにより側副血行路も閉塞させてしまうため虚血が悪化します。最も深刻な点は、このような病態を内科医自身が認識していないことです。カテーテル治療後の悪化は病変が自然に悪化したのではなく、治療の失敗の結果であり、あくまでもカテーテル治療を実施した医者の責任です。
もう一つの問題は、カテーテル治療を広範に実施されそれが失敗した場合血行が悪化し、バイパス手術の障害となります。バイパス手術を行っても虚血が改善しない場合があり、壊疽の範囲は大きくなります。カテーテル治療の失敗後にバイパス手術をして何とか救肢に持ち込んだ例をいくつか図56,57-a,b,58-a,b,c,dに示します。いずれも前医でカテーテル治療が行われていなければ問題なく救肢出来た例です。
図56
図57-a
図57-b
図58-a,b
図58-c
図58-d
禁 忌
糖尿病、維持透析例。大腿動脈〜下腿動脈の多発病変例
1年の開存率% (範囲) |
3年の開存率% (範囲) |
5年の開存率% (範囲) |
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PTA(狭窄病変) | 77(78-80) | 61(55-68) | 55(52-62) |
PTA(閉塞病変) | 65(55-71) | 48(40-55) | 42(33-51) |
PTA+ステント(狭窄) | 75(73-79) | 66(64-70) | - |
PTA+ステント(閉塞) | 73(69-75) | 64(59-67) | - |
PTA:経皮的バルーン血管拡張術でカテーテル治療のことです。
(狭窄)(閉塞):カテーテル治療が行われた血管病変
血管の病気に関するお問い合せ・連絡先
第一外科教授 笹嶋 唯博tel.0166-68-2490 fax.0166-68-2499
e-mail:sasajima@asahikawa-med.ac.jp
都内でも血管外来を診ていますので、ご希望の方は上記へご連絡下さい。