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医局の窓の向こう側   


ダイエット競争

2007年06月04日

 早いものでもう6月です。皆様、有意義に過ごしていますか。業績が上がったり、大きな仕事をして、一回り大きな自分になれたかな?

イラストイラスト・木村りょうこ

 さて、うちの部では皆、一回り大きな自分になりました。ウエストサイズですけど。はっはっはっは。

 業績はまぁ、横ばいです。来年がんばります。そのためには健康な体が必要。メタボリックシンドロームも気になるっていうのに、このままじゃいけない! と、部内で「ダイエット大会」を行うことになりました。

 甘い誘惑、仕事上の義理、そういうものを断ち切ってこそのダイエット。こんな時こそ強い意志とインセンティブが必要になります。ということで、始まり、始まり。

 参加者はそれぞれ目標体重を自分で自己申告します。ダイエット開始は今週月曜日から、つまりベースラインの計量日。部内には体脂肪率が測定できる体重計が持ち込まれ、皆の見守る中、参加者の体重がうやうやしく測定されました。期間中、この体重計(N先生のご下賜のお品)は部内に設置され、いつでも体重が測定でき、己の現状把握に一役買うことになります。

 「もうこれでしばらく食べられないと思ってさぁ。先週はたくさん食べた」言い出しっぺのN先生が、妊娠7カ月程度に突き出たお腹をさすりながら体重計にお乗りになる。

 「ちょっとぉ! N先生、直立のまま下向いても体重計のメモリが見えないんじゃ……」

 「う、み、見えん! 腹が邪魔で見えん!!」

 「うわぁぁあ!」一同から歓声が上がる。

 N先生、今までの最高記録でダイエット競争エントリー。2カ月後のダイエット終了体重計測日までに3キロの減量をご宣言。

 「いや、この体重で3キロってやる気ないんじゃないの? その程度、誤差範囲じゃん?」H先生からつっこみが入る。

 「分かった。じゃ、5キロ」。エントリー用紙に、にぎにぎしく現在の体重と目標体重が書き込まれる。H先生も5キロ、部長も負けじと5キロ、私は夏やせをしているのでとりあえずあと3キロ。ねぇ、どう見てもちょっと無理な目標設定だと思うけど、みんなそれでいいの?

 「一番負けた人は他の人に焼き肉をご馳走すること!」と大きく書き込む。

 ダイエット成功のご褒美が焼き肉?

 本末転倒と言うか、元の黙阿弥と言うか、どことなくずれているような気がしないでもないけれど、それが一番の共通インセンティブだって言うんだから、しょうがないか。

 さて、私の大好物は甘いもの、ということはつとに知れ渡っていて、決まって「甘いもの」を送ってくださるお友達がいる。もちろん、好物なので、普段はそれを「人様にお裾分けする」なんてことは絶対しない。独り占めで食すのだけれど、なぜだか今はとっても優しい気持ちになっている。ぜひともこの「期間限定の甘い栗お菓子」と「滅多に手に入らない老舗の最中」を部内の皆にも食べさせてあげたい気分だ。お菓子を箱ごとテーブルの上に置いた。

 「さぁ、皆さん、大変珍しい甘いものが手に入りました。どうぞお召し上がりください」

 そこへ、部長が銘菓「赤福」を持って部屋に入ってきた。

 「三重県に出張に行ったからこれ、お土産。固くなっちゃうから早めに食べてね」。

 お菓子など滅多にあることのない(だってすぐみんな食べちゃうから)テーブルには、色とりどりのお菓子が並んだ。

 「ぐわわぁああ!!」N先生が目を覆いながら叫ぶ。

 ダイエット競争、早くも足を引っ張り合いながら進行中。

筆者プロフィール

真田 歩(さなだ・あゆむ)
 医学博士。内科医。比較的大きな街中の公立病院で勤務中。診療、研究、教育と戦いの日々。開業する程の度胸はなく(貯金もなく)、教授に反発するほどの肝はなく、トップ研究者になれる程の頭もない。サイエンスを忘れない心と患者さんの笑顔を糧に、怒濤の日々を犬かきで泳いでいる。
 心優しき同僚の日常を、朝日新聞社刊医療従事者向け月刊誌で暴露中。アサヒ・コムにまで載っちゃって、少し背中に冷たい汗が・・・。

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