岩手県大船渡市の船舶販売・修理会社「互洋大船渡マリーナ」で、漁船の修理が急ピッチで進んでいる。津波で全壊した事務所や工場を約2カ月で再建し、従業員も震災前の2倍の26人に増やした。漁に出られない漁師も汗を流している。
大船渡湾に面した作業場に、修理を終えた船のエンジン音が響く。津波で傷ついた船体が、修理工の手で鮮やかな青色に塗り替えられていた。「朝から晩までフル稼働だよ。一日も早く漁師さんに船を渡してやりたくてね」。社長の菅野亨さん(65)の声が弾む。
同社は菅野さんが72年に創業。主に小型船の販売・修理を請け負いながら地元漁業を支えてきた。3月11日、海岸べりに建つ2階建て事務所は津波にのまれ、隣接する工場の機械類のほとんどが押し流された。従業員は全員無事だったが、菅野さんは母里子さんを亡くした。
菅野さんは震災5日後、再建を決意した。「船がないと漁に出られない。魚市場も水産加工業も動かず、街全体が死んでしまう」。そう思ったからだ。友人らの支援で工場内のがれき撤去などを進め、5月6日から操業を再開した。
大船渡市や隣の陸前高田市から修理を注文する約190隻の船が集まった。船を失い、海を離れようとする漁師も臨時に雇い入れ、従業員を震災前の12人から26人に増やした。
修理工の佐々木学さん(27)も、津波で船を流された陸前高田市の漁師。漁を教わった祖父の健太郎さん(81)は波にさらわれ、行方不明だという。「自分を育ててくれたじいちゃんと、このでっかい海を離れるわけにはいかない」と初めての修理作業に精を出す。いつか再び漁に出て、長女彩波(さなみ)ちゃん(2)と長男櫂斗君(1)に「でっかい海」を見せたい。
菅野さんは力強く話す。「ホタテやワカメの養殖作業が始まる盆までには、すべての船を返したい」。すでに数隻の修理を終え、所有者に手渡した。【曹美河】
毎日新聞 2011年6月2日 10時55分(最終更新 6月2日 12時31分)