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出口治明の提言:日本の優先順位
【第21回】 2011年9月13日
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出口治明 [ライフネット生命保険㈱代表取締役社長]

なぜ円高で大騒ぎするのか。
そこに財界の時代遅れの発想が見え隠れする

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いまだにお上に頼ろうとする
財界首脳の発想を憂うべき

 急激な為替や株価の変動が、企業の決算に大きな影響を与えることは言うまでもない。そうした急激な変化がおこらないことに越したことはない。しかし、マーケットは所詮そういうものであって、「ブラック・スワン」を排除することは誰にもできないのだ。我々は80年代の為替の自由化以来、そうしたマーケットの習性を十分学んできたはずではなかったのか。

 また、世界的に見れば、この失われた15年の間、わが国の企業ほど、政府・日銀の手厚い支援(財政出動・金融緩和)を受けて来た例はない。それにもかかわらず、この程度の円高でいわば「お上に泣きつく」わが国財界首脳の発想・精神構造の在り方には強い違和感を覚える。

 たとえば、上場企業はこの6月末で62兆円ほどのキャッシュを保有している。円高を活用してこのキャッシュでなぜ、海外の企業や資源を自ら購入しようとはしないのだろうか。為替市場に与える影響は同じではあるが、FX(ゼロサムゲーム)より実物資産を買う方が国益に資することは明らかではないか。少なくとも、「我々も自らのキャッシュをはたいて海外企業等を買いに向かいますから税金でもバックアップしてください」と陳情するのがまだしも筋ではないか。

 もちろん、メディアや政界も同じではあるが、こうした財界首脳のお上頼みの発想は「1940年体制」下の高度成長時代とまったく変わっていないように見受けられる。付加価値を新しく生み出すのは民間しかない。

 米ソの冷戦が終結し、中国やインドの市場経済への参入に伴って、世界はまったく新しいグローバル競争の時代へとパラダイムが転換した。ゲームのルールは大きく変わったのである。このような新しい世界、すなわち金融・経済環境の著しい変化のなかで、わが国企業の競争力が低下し、株価が低迷を続けている真の原因が、財界首脳・経済界リーダーの古色蒼然としたこうした精神構造の在り方でなければ幸いである。

(文中、意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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出口治明 [ライフネット生命保険㈱代表取締役社長]

1948年、三重県美杉村生まれ。上野高校、京都大学法学部を卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員会委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て同社を退職。その後、東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを務める。2006年にネットライフ企画株式会社設立、代表取締役就任。2008年に生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更、同社代表取締役社長に就任。主な著書に『百年たっても後悔しない仕事のやり方』『生命保険はだれのものか』『直球勝負の会社』(以上、ダイヤモンド社)、『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『「思考軸」をつくれ』(英治出版)、『ライフネット生命社長の常識破りの思考法』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
ライフネット生命HP

 


出口治明の提言:日本の優先順位

東日本大地震による被害は未曾有のものであり、日本はいま戦後最大の試練を迎えている。被災した人の生活、原発事故への対応、電力不足への対応・・・・・・。これら社会全体としてやるべき課題は山積だ。この状況下で、いま何を優先すべきか。ライフネット生命の社長であり、卓越した国際的視野と歴史観をもつ出口治明氏が、いま日本が抱える問題の本質とその解決策を語る。

「出口治明の提言:日本の優先順位」

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