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出口治明の提言:日本の優先順位
【第21回】 2011年9月13日
著者・コラム紹介バックナンバー
出口治明 [ライフネット生命保険㈱代表取締役社長]

なぜ円高で大騒ぎするのか。
そこに財界の時代遅れの発想が見え隠れする

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為替介入は、税金でFXを行うこと。
円高を是正する有効な方法はあるのか

 百歩譲って、円高の是正が必要だとしよう。次の問題は円高を是正する有効な方法があるのかどうかということだ。円高是正論者の大半は、「円高はデフレと対になっており、日銀がさらに金融緩和をすればいい」と考えているようだが、8月30日の当コラムで示したように、日銀はこの15年間欧州や米国の中央銀行に比べ一貫してバランスシートを過大に膨らませてきた。そして、これだけ緩和してもデフレ・円高を抑えることは出来なかったのである。日銀がさらに金融を緩和すれば円高やデフレが終息すると主張したいのであれば、どのような回路・プロセスでもって終息できるのかという根拠を具体的に示すべきであろう(寡聞にして、説得力あるそうした主張は聞いたことがない)。

 また、円高是正論者は、為替介入をも望んでいるようだ。先月(8月4日)行われた為替介入は史上最大規模であったと伝えられているが、それでも4.5兆円程度に過ぎなかった。世界の為替市場では1日平均4~5兆ドルの取引が行われているのである。わずか1~2%の介入で果たして効果があるのだろうか。投機筋の小鬼を叩いたり、政治的なパフォーマンスを示したりする効果はあるかも知れないが(そして、そういった効果を決して否定するものではないが)、円高を反転させる効果まであるとは、とうてい思えない。

 何よりも、為替介入と言えば、何か高度な経済政策のように聞こえるが、その実態は、税金でFXを行うことでしかない。FXはゼロサムゲームであり、投機そのものである。このような財政状況のもとで、貴重な税金をFXに投じて果たしていいものだろうか。政府・財務省は為替介入を行うのであれば、その「費用対効果」の分析結果を国会や市民に対してきちんと説明して然るべきであろう。

 ちなみに、G7では日本を除いて為替介入を行っている国はどこにもない。なお、9月9日に閉幕したG7の合意事項では、為替について「市場で決定される為替レートを支持。為替の過度の変動や無秩序な動きに関して緊密に協議し、適切に協力」と、一般論でまとめられたことは周知の通りである。

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出口治明 [ライフネット生命保険㈱代表取締役社長]

1948年、三重県美杉村生まれ。上野高校、京都大学法学部を卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員会委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て同社を退職。その後、東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを務める。2006年にネットライフ企画株式会社設立、代表取締役就任。2008年に生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更、同社代表取締役社長に就任。主な著書に『百年たっても後悔しない仕事のやり方』『生命保険はだれのものか』『直球勝負の会社』(以上、ダイヤモンド社)、『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『「思考軸」をつくれ』(英治出版)、『ライフネット生命社長の常識破りの思考法』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
ライフネット生命HP

 


出口治明の提言:日本の優先順位

東日本大地震による被害は未曾有のものであり、日本はいま戦後最大の試練を迎えている。被災した人の生活、原発事故への対応、電力不足への対応・・・・・・。これら社会全体としてやるべき課題は山積だ。この状況下で、いま何を優先すべきか。ライフネット生命の社長であり、卓越した国際的視野と歴史観をもつ出口治明氏が、いま日本が抱える問題の本質とその解決策を語る。

「出口治明の提言:日本の優先順位」

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