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2011年9月13日(火)付

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経産相交代―政治の歯車を戻すな

きょうから、臨時国会が始まる。野田首相のデビュー戦であり、不毛な与野党対決を脱して前に進む政治を期待しよう。と、思いきや、鉢呂経産相の辞任である。原発問題の責任者の退場[記事全文]

ユーロと世界―危機の拡大を防ぐには

欧州の財政問題が、共通通貨ユーロと世界経済の行く手に暗雲となって垂れ込めている。仏マルセイユで開かれた主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議も具体的な処方箋(せん)[記事全文]

経産相交代―政治の歯車を戻すな

 きょうから、臨時国会が始まる。野田首相のデビュー戦であり、不毛な与野党対決を脱して前に進む政治を期待しよう。

 と、思いきや、鉢呂経産相の辞任である。原発問題の責任者の退場は、7月の復興相の「放言辞任」に輪をかけて、政治への失望感を募らせる。

 いったい、この国の政治家たちは何をしているのか、と。

 鉢呂氏は福島第一原発の周辺自治体を「死のまち」と表現し、陳謝、撤回した。たしかに人影のない地域だが、国策として原発政策を進めてきた立場の人物としては、原発事故の被害者への配慮を欠いていた。

 そのうえ、非公式の取材で記者団に「放射能をつけちゃうぞ」と、服の袖をなすりつけるようなしぐさをしたことも表沙汰になった。担当閣僚として、あまりに緊張感を欠いており、辞任はやむを得ない。

 だが、野党の攻撃や国会運営への悪影響を恐れて、そそくさと大臣の首をすげかえただけでは、問題の本質的な解決にはつながらない。

 野田政権は、福島をどう再生し、放射能の不安をどう取り除いていくのか。その具体的な手だてを早急に示すことこそが求められているのだ。

 この現実に目を向けるとき、臨時国会を4日間で閉じる日程は理解できない。本格論戦を避けたがる逃げの国会運営にしか見えない。

 政府・与党は第3次補正予算案の編成に専念するためというが、震災対策の議員立法を含めて、前国会から積み残された課題が山積みではないか。

 公務員給与の削減や、閣僚の数を増やす法案はどうするのか。衆参両院の「一票の格差」をただすための選挙制度改革も待ったなしだ。

 政権交代後、2年間もたなざらしにされている郵政改革法案や労働者派遣法改正案も決着をつける努力が欠かせない。

 国会に休んでいる暇などないはずだ。

 野党、とくに自民党にも注文がある。鉢呂氏を起用した首相の任命責任などを追及するのは当たり前だ。だが、それでまた与野党がにらみ合い、ものごとを決められない政治に歯車を戻してはならない。

 内閣支持率のV字回復には、新政権への期待感だけでなく、政治全体が機能不全を脱してほしいという国民の切なる願いも込められていると見るべきだ。

 だから自民党には政権批判に終始することなく、ともに政治の成果をあげる重い責任を自覚した行動を求める。

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ユーロと世界―危機の拡大を防ぐには

 欧州の財政問題が、共通通貨ユーロと世界経済の行く手に暗雲となって垂れ込めている。

 仏マルセイユで開かれた主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議も具体的な処方箋(せん)を描けず、むしろ欧州問題の深刻さを浮き彫りにした。

 ユーロ圏17カ国は7月の首脳会議で、ギリシャへの2次支援や欧州金融安定化基金の強化などで合意した。

 だが、ギリシャはもとより、政府債務の多いイタリアやスペインへの信用不安が収まらない。両国が行き詰まれば今の枠組みではとても間に合わない。

 このため、基金の規模拡大やユーロ圏17カ国で発行・返済する共同債の導入が取りざたされるものの、負担を強いられるドイツやフランスは消極的だ。

 7月合意では民間銀行も協力を求められた。ところが、かえって問題国の国債を多く保有する銀行の経営が懸念され、金融不安が首をもたげている。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は銀行への資本注入を促したが、各国の認識は食い違ったままだ。

 欧州中央銀行(ECB)がイタリアなどの国債を市場で買い支えて急場をしのいではいる。ただ、買い取り反対派でドイツ出身の理事が辞任を表明するなど不協和音がやまない。

 混迷はG7が干渉できない欧州各国の内政に根ざしている。経済力のある欧州北部諸国は南欧の問題国への支援に反対する世論が根強い。ドイツでは先の州議会選挙でまたも与党が敗北した。7月合意すら加盟各国での承認が危ぶまれている。

 しかし、現状に手をこまぬいていては、世界経済の失速や危機の拡大を招きかねない。

 世界恐慌の「二番底」はニューヨーク株式市場の暴落から1年半後のオーストリアでの銀行破綻(はたん)が引き金だった。リーマン・ショックから3年。そんな「歴史の再現」はごめんだ。

 安定化基金の拡大やユーロ共同債の導入は、市場や金融システムの動揺を封じる政策手段を確保するという点で重要だ。独仏首脳はユーロ圏の分裂を回避する責任を自覚して、国民を説得してほしい。

 問題国のユーロ離脱ルールの創設も俎上(そじょう)にのぼる。債務不履行や金融危機の連鎖を起こさずに離脱させるのは至難だが、事実上破綻した国には再建の選択肢が増える。加盟国の財政規律を強める意味もあろう。

 各国がそれぞれの利害を超えて、ユーロという仕組みをどう変革していくか。欧州の民主主義が試されている。

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