余録

文字サイズ変更

余録:出足でつまづいた野田内閣

 「役揉(やくも)め」とは芝居の配役をめぐる争いをいう。町内の素人芝居ではみんなが忠臣蔵の勘平役をやりたがった。結局は舞台にはずらり勘平が勢ぞろい。「なんだいこりゃ」「これが勘平(観兵)式」▲お察しの通り、落語のまくらである。役揉めはプロの役者の世界にもあって、こちらは遊びでないからやっかいである。昔は今のプロデューサーのような「奥役」が役者の間を奔走し、その力量と役の重さとが見合うように、また不満も残らぬように「役納め」をした▲まさか落語の素人芝居のようにくじで配役を決めたわけでもなかろう。だがお歴々の意向にばかり気をとられ、役の重さと役者の芸とが何ともアンバランスな役納めをしていなかったか。先日の小欄で顔見世にたとえた野田佳彦首相率いる内閣の顔ぶれのことである▲聞くのも情けない言動がもとで鉢呂吉雄経済産業相が引責辞任し、後任に枝野幸男前官房長官が決まった。その低姿勢が大方に好感をもって迎えられた野田政権だったが、「不完全」という与党幹部の内閣評を図らずも裏付けたかのような発足9日目でのつまずきだ▲その短い間に一川保夫防衛相の「安全保障は素人」発言や小宮山洋子厚生労働相の唐突なたばこ増税発言もあった。地に足のつかぬ閣僚らの言動に不安がつのっていたところでの辞任劇である。他の閣僚の適材適所のふれこみも疑ってかかりたくなるのは当然だろう▲「役不足」は役揉めで自分の実力より軽い役をあてられた役者の不満を示す言葉という。それが役者の力不足を表すと誤用される現代である。だが政界の場合は誤用の余地なく「役者不足」だ。

毎日新聞 2011年9月13日 0時07分

PR情報

スポンサーサイト検索

余録 アーカイブ

9月13日「役揉め」とは芝居の配役を…
9月11日がれきを見つめながら、東京からやってきたボランティア…
9月10日9・11米同時多発テロから4日目の…
9月9日人づてに言葉が渡っていくうちに…
9月8日「特大のトイレットペーパー」と米紙が評した巻紙を手に…
9月7日作曲家のチャイコフスキーはキノコ狩りで見つけた…
9月6日標高1915メートルの仏経ケ岳を最高峰とする…
9月5日福島第1原発の事故発生以来…
9月4日TBS系の長寿番組「水戸黄門」といえば…
9月3日歌舞伎役者と芝居小屋の契約が11月の顔見世から…
9月2日その昔、大風の時に「風追い」というまじないが…
9月1日「この動く大地の上では…
8月31日平安後期の歴史物語「大鏡」に…
8月30日「自分の閥を固め、軍には十分な報酬を与えよ…
8月29日「チャイナクロス現象」という言葉がよく使われたのは…
8月28日菅直人首相が福島県入りし…
8月27日その昔、太平洋のポリネシアのある部族の王は…
8月26日作家の岡本綺堂は明治の日本橋魚河岸の…
8月25日金遣いの荒さで知られた喜劇役者の藤山寛美は…
8月24日「汎アラブ色」と呼ばれる四つの色がある…
8月23日金が史上最高値を更新して…
8月22日オマケといえば景品や添え物に違いないが…
8月21日「夢さ向がってけっぱれ!」と青森県立弘前中央高校の…
8月20日「うそだろう」と言われたら「私は信じる」と…
8月19日全長3メートル近い舟の模型に…
8月18日退陣後にゆっくり読むつもりだろうか…
8月17日朝、団地の玄関ドアの郵便受けから新聞を取ろうとして驚いた…
8月16日迷路とは昔から人を引きつけるものらしい…
8月14日「五時から部会があったが、出席者は…
 

おすすめ情報

特集企画

東海大学を知る「東海イズム」とは?

東海大学の最先端研究や学内の取り組みを紹介