2011年7月13日 23時44分 更新:7月14日 0時44分
ソフトバンクの呼びかけで、大阪、神奈川など35道府県(参加表明をしていた福井県は参加を見送り)が参加した「自然エネルギー協議会」が13日、秋田市で総会を開き、正式に発足した。全国にメガソーラー(大規模太陽光発電所)を建設し、電力事業への新規参入を目指すソフトバンクの孫正義社長と、「脱原発」の流れに乗って新たな電源を地元に誘致して経済活性化に結びつけたい知事らとの利害が一致した形だが、孫氏と知事、あるいは知事の間でも思惑には微妙なズレも見られた。【和田憲二、中山裕司、乾達】
孫氏は設立総会後、「自治体から積極的な提案をもらった」と述べ、当初10カ所程度としていたメガソーラーの立地を増やす考えを表明。また、北海道帯広市に各社の太陽光発電システムの性能を比較する実験プラントを年内に着工する計画も示した。35道府県の後ろ盾を得て、利益確保の条件となる「再生可能エネルギー固定価格買い取り法案」成立を後押ししたい意向で、その先には本業の通信で電力を制御するスマートグリッド(次世代送電網)の展開も視野に入れる。
「震災前には電気(事業)をやろうなんて思ってもみなかった」と明言する孫氏だが、3月下旬に福島県を訪ねた際、放射能の危険にさらされながら東京電力への文句をあまり言わない被災者の姿に「補助金や雇用で縛られている」との印象を持ち、「脱原発」の思いを強くしたという。
一方、ビジネスとしても、太陽光は一旦設備投資すれば、買い取り価格が保証されるため、長期にわたり着実に利益が出るとの判断がある。その前提条件となる買い取り制度や農地規制緩和の実現について、5月に菅直人首相と会食した際、自然エネルギーの推進で意気投合し、メガソーラーの誘致を表明する知事も相次いだことから、手応えを得たとみられる。多くの自治体との連携で、日照時間が長く、送電網に近いなどの適地をよりどりみどりで選べる先行者利得もある。
さらに孫氏は6月下旬開催の株主総会で「スマートグリッドなど本業との相乗効果が見込めるなら、事業の継続・拡大も考える」と表明。発電所から家電製品までを結んで制御する大規模事業に成長する可能性もある、付加価値の高い先端ビジネスへの足がかりもつかんだ。
ただ、NTTとの光ファイバー開放論争など、政治や世論を巻き込みながらビジネス拡大の障害となる制度変更を求めてきた孫氏の手法には懸念の声もある。電力業界に詳しいUBS証券の伊藤敏憲シニアアナリストも「大企業が農地規制の特例を求めたり、自治体の支援を受けて参入すれば、他の事業者と公平な競争にならないのではないか」と指摘している。
自然エネルギー協議会に参加した自治体は35道府県。5月に設立準備開始が発表された際の19道県から、わずか1カ月半でほぼ倍増した。ただ、メガソーラー誘致に積極的な自治体がある一方、構想の実現性に疑問を抱く自治体もあり、内実は一枚岩とは言えない。
「大変な熱意」。孫氏は設立総会後、参加知事らの反応について記者団にこう表現した。総会では、「脱原発」を掲げる大阪府の橋下徹知事が「原発依存度を下げるべきだ」などと発言し、知事らは大筋で合意。自然エネルギー普及を目指す孫氏の構想は、東京電力福島第1原発事故を受けて原発推進に慎重姿勢を示す知事らにとって、とりあえずの大義となった。
協議会の設立趣旨は、自然エネルギー普及促進に関する政策提言と自治体の情報共有。だが、実際は「ソフトバンクがメガソーラーに投資する話に各知事は期待している」(知事の一人)とするように誘致目的の孫氏後援会の側面もある。実際、大阪府が用地に課せられる固定資産税の減免を検討しているほか、埼玉県も県内に50ヘクタールの土地確保を表明済み。地域経済の活性化や雇用創出への期待を背景に、国内10カ所余りのメガソーラー設置を巡り、協議会の発足前から既に誘致合戦が過熱していた。
一方、自然エネルギーの推進には賛同しながらも、原発の代替になりうる潜在力があるのか疑問視する向きもある。
四国電力伊方原発が立地する愛媛県の中村時広知事は「趣旨は大いに賛成だが、自然エネルギーですべて解決するとは思っていない」と現実路線を強調。大阪府や神奈川県などと異なり原発がもたらす雇用や交付金の効果は小さくないため、一足跳びに「脱原発」へ転換できない事情がある。九州電力玄海原発の再稼働に一時容認姿勢を示した佐賀県の古川康知事も似た立場だ。
さらに、「孫氏のプランは土地の無償提供が前提」とソフトバンク側の要求を警戒したり、買い取り制度が電気料金の値上げにつながり地域経済の足を引っ張る可能性を懸念する知事もいる。「孫氏と我々の利害が合うか分からず、ケース・バイ・ケースで」(鳥取県の平井伸治知事)と語るように自治体ごとに事情が異なるため、一丸となって構想を後押しする態勢は整っていない。