(cache) DOD&M - 24 - 電脳狂想曲
TOP>小説メニュー >DOD&M - 24
クリックで文章が表示されます。

 着陸後しばらくの休憩を取ってから、アンヘルとシルフィードは、アルビオンの低空を縫うようにして飛び始めていた。
辺りの様子を探りながらでの低速飛行だ。
何やらアルビオン全体に物々しい空気が流れているのが、容易に見て取れる。
王党派と貴族派による対立があるのだ。そして、今正に貴族派が総力をかけて王党派の打倒を狙っている最中である故、街の上などを飛んでいた時も、ほとんど人気の感じられない状態だった。疎開が始まっている一部と言う所だろう。

「ふむ、戦ともなると何処も同じ様なものだな」
「…………」

 どこかつまらなそうに呟いたアンヘルに、カイムは頷いた。
ともあれ今の目的は、ルイズ達が向かっているであろう、ニューカッスルの城へと辿り着く事だ。アルビオンへの着陸直前に、城の姿は確認していただけあって、移動自体はスムーズな物だった。
だが、その城付近までやって来た辺りで、現時点で城へと乗り込む事が不可能であるのが分かった。その周辺を、数多の兵達が包囲していたのだ。その数は万の単位に届くであろう。

「いかんな。武装した船まで出張っておる。迂闊に行っては狙い撃ちだ」

 任務の性質上、こんな状況では無理に乗り込む事もできない。今の所動く気配を見せていない様だが、それをわざわざ突付いては元も子も無いだろう。
さて、どうした物かと皆が考え込み始めたその時、ぐぅ、と大きな腹の虫が鳴り響いた。
アンヘルが音の元を探ると、そこには自らの腹を両手で押さえるタバサの姿があった。

「そう言えば僕達、朝から何にも食べてないんだよね……」

 ギーシュの言葉に、一同が無言で腹をさすった。
丁度日は真上に昇ろうとしている。腹が減っても仕方のない頃合だろう。彼女らは言われて見て改めてそれを自覚していた。
そこでキュルケが荷物をがさごそと探ったが、その中に食料の類は見当たらない。
今のところは手詰まりだ。こうして飛んでいるのも無意味だし、とりあえずはどこかで腹でも満たした方が有意義だろう。
かといって街に下りた所で現状では食事にありつけるかどうか、非常に怪しい。

「疎開の必要が無さそうな村とかなら、どうかしらねぇ」

 ルイズがいれば、「そんな所にまでご飯をたかりに行くわけ? 信じられない!」等と言う言葉を発するだろうが、背に腹は代えられないのだ。
キュルケが一人一人の顔を見ていくと、皆が返したのは迷い無い頷きだった。

「どれ、そこらの森にでも向かってみるか。集落の一つでもあるやもしれんからな。行くぞ、シルフィード」

 アンヘルの言葉にきゅい、と返し、シルフィードは飛び出したアンヘルに並ぶ。
程なくして、辺り一面に広がる森の上空へと訪れた一行。
その中に、ささやかではあるが民家の並ぶ一角が見えた。戦争の余波も届かぬ様な場所らしい。まるで世間から忘れ去られた様な、そんな雰囲気を思わせる村だった。
森を切り開いて作った空き地の様な所だ。上空からでないと、とてもじゃないが気付かなかっただろう。
そこには、小さな子供が戯れる姿などがあった。

「そのまま降りてはいらぬ混乱を招くやもしれんな。少し手前からあそこへ向かうとしよう」

 そう言って、アンヘルはシルフィードを伴い、村のやや手前付近へと降りた。

「わっ!」
「な、何だ何だぁ!?」

 丁度降り立った所に、小さな少年と、強面の男がいた。
急に目の前にドラゴンが二頭も現れたのだ、ビックリするのも無理はないが、どうにも状況がおかしい。
キュルケは男の方に目をやった。その手にはナイフが握られており、その腰には長剣が差されている。少年の方は、目に涙を溜めてガタガタとその身体を震わせていた。成る程、状況が読めた。
大方戦乱に乗じて火事場泥棒でもするタイプの男だろう。手の付けられていなさそうな村を狙おうとしていた所、丁度運良く目の前に現れた子供を脅して人質にしようとした、こんな所か?
まぁ、何にしても性質が悪いのには変わりない。
真っ先にアンヘルの背から降りると、キュルケは男に杖を突きつけて言った。

「義を見てせざるは、って所かしらね。ま、こんなチンケな男に勇なんて物は必要ないけど」

 杖を突きつけられると、あからさまに男は狼狽した様子を見せた。メイジの相手をした事は無いのだろう。既に顔は真っ青だ。
そこで咄嗟に子供に向けてナイフの刃を押し当て、盾にしようとした所で、キュルケの杖からファイヤーボールが男に向けて発射された。
身体に火が付き慌てた男はナイフを放り出して、ほうほうの体でその場から逃げていく。

「大丈夫? ボク」
「え、あ、ありがとう……」

 突然の事に呆けたままの少年の頭に手を置き、キュルケは優しく言った。そして、ポケットからハンカチを取り出すと、少年の目から零れそうになっている涙をそっと拭った。
その背後では、事の成り行きを見守っていたタバサ達が、ドラゴンの背から降りている所だ。

「え、と。おねえちゃん達は……」

 何故ドラゴンに乗ってこんな所まで? と少年が続けようとした所で、キュルケ達の腹の虫が同時に一斉に鳴いた。
照れ隠しで笑いながら、キュルケは一同を代表して言う。

「その、お、おねえちゃん達、お腹空いちゃっててね?」

 それを聞くと、少年はキュルケのスカートの裾をきゅっと引っ張り、村の方向を指差した。

「丁度もうすぐご飯の時間だから……人数が多いけど、多分言ったら何とかしてくれる、と思う」

 そう言って、キュルケのスカートを引っ張ったまま歩き始めた。
その行動に少し苦笑いを漏らしながらも、キュルケはタバサ達に手招きをして、着いて来る様に促す。
期せずして食料調達の目処が立ち、僥倖だったとは言え、何だか複雑な感覚を抱かざるを得ないキュルケだった。

「何だか締まらないわねぇ……」

1