福島第1原発事故を巡って失言を重ねた鉢呂吉雄経済産業相が10日、あっけなく辞任に追い込まれた。「辞任で済む問題ではない」「痛みの分かる大臣を」。震災半年を前に起きた辞任騒動に、各地で失望と怒りの声が上がる。「泥臭い政治」で復興に取り組むと誓った野田政権は、発足からわずか1週間余りで大きくつまずいた。
「辞任はしょうがない」。夫と離れ、京都市に9歳と1歳の子供2人と避難している福島市の主婦、佐藤美由起さん(36)は「放射能がうつるかのような表現で、子供たちがいじめに遭うかもしれないと心配している」と話した。福島県田村市で「みやこ旅館」を経営する吉田幸弘さん(55)は「永田町では『放射能がうつる』とか、その程度の認識がまん延しているんじゃないかと悲しくなった。次の大臣は国会議員でなくても痛みの分かる地元の人がいい」と望んだ。
放射性セシウムに汚染された稲わらが見つかった宮城県登米市で肥育農家を営む佐野和夫さん(58)は「あまりにも資質に欠ける発言で辞任は当然。7月以降は牛をほとんど出荷できず収入はゼロで、われわれは放射能の恐ろしさを日々感じている。本気で取り組まなければ解決できるはずがない」と厳しい口調で話した。
被爆地からも怒りの声が上がった。13歳の時に被爆した広島市の画家、原広司さん(80)は「原爆が落とされた後、被爆者が『放射能がうつる』と侮辱されたことがあった。辞任で済む問題ではなく、66年もたっているのにそういう考え方があることに憤りを感じる」と話した。
一方で、辞任は不要との意見もある。原発事故で警戒区域や計画的避難区域に指定されている福島県浪江町から福島市内の仮設住宅に移った農業の男性(63)は「原発周辺が『死の町』になっているのは事実で辞めるほどの言動ではなかったと思う。政界はいつも揚げ足取りばかりでうんざり」と嘆いた。
鉢呂氏の地元・北海道では落胆の声が聞かれた。鉢呂氏は野田佳彦首相と会談した直後、「ご迷惑をかけて申し訳なかった」と複数の民主党道議に電話してきた。地元道議らが「辞める必要はないのではないか」と励ましたが、「首相に迷惑をかけることはできないので、潔く辞任した」などと、さばさばした様子だったという。小樽市の山本文雄・連合後援会会長は「彼は元々、原発に反対だった。辞任は残念」と話した。
佐藤雄平・福島県知事は「『福島の再生なくして日本の再生なし』との新政権の姿勢に期待していただけに極めて遺憾に思う。事故の収束や風評被害対策等に全力を挙げなければならないこの時期に、とりわけ経済産業相という重要閣僚のこのような言動は言語道断であり、辞任は当然の結果と受け止めている」とコメントした。
毎日新聞 2011年9月11日 東京朝刊