「被災者を侮辱している」「首相にも任命責任がある」。鉢呂吉雄経済産業相の言動は、東京電力福島第1原発周辺自治体の首長らの間にも波紋を広げている。多くは第1原発視察後の意見交換会で本人と顔を合わせていただけに、批判や失望の声が相次いだ。【田中裕之、袴田貴行、福永方人】
第1原発から20キロ圏内の警戒区域にあり、全町避難を強いられている富岡町の遠藤勝也町長は「古里に戻れず苦しんでいる人たちを侮辱するような発言を原発の所管大臣がするとは、あきれてものも言えない。野田首相にも任命責任がある」と憤る。
一部が警戒区域や緊急時避難準備区域に指定されている田村市の冨塚宥〓(ゆうけい)市長は「被災者は子供がいたり、体が弱かったり、仕事が見つからなかったり、それぞれが悩みを抱えている。厳しい生活を強いられている人の気持ちが分からないから、こういう言動を繰り返すのだろう」と、被災者の現状への理解不足がこうした発言につながったと指摘する。
新内閣への期待を裏切られ、失望感をにじませる首長もいた。
大熊町の渡辺利綱町長は「8日の第1原発視察後の地元首長との会談で、内閣として復興に取り組む決意を聞いていただけに、非常に残念」。
山田基星・広野町長は「放射能に関しては、冗談でも言ってはいけないことで、本当に悔しい。8日に野田首相とも会談し、ようやくちょっと期待できるかなと思っていたところだったのに」と嘆いた。
鉢呂経産相の発言は九州の原発立地県の住民や、長崎の被爆者からも反発を呼んでいる。
九州電力の玄海原発(佐賀県)が立地する玄海町でハウスミカン農業を営む吉田健さん(27)は「死の町」発言について、「残念としか言いようがない。もう終わってしまった、という認識を広げるような発言を、責任ある大臣がするのは、納得いかない」と話した。
川内原発がある鹿児島県薩摩川内市では、同原発3号機の増設に反対する川内原発建設反対連絡協議会の鳥原良子会長が「被災地の側に立った気持ちになれないのか、とつくづく思う。原発を押しつけながら、危機感や事故収束への覚悟がなさすぎる。国や政治家の体質を象徴する発言」と指摘した。
長崎原爆の被爆者で原水爆禁止日本国民会議の川野浩一議長(71)は「言葉尻をとらえ批判するつもりはない」と断りつつ、「福島を離れなければならない人々の気持ちを考えてほしい。楽しく、美しかった町を再現したいと思っているだろう。そのため一日も早く除染し、元の場所に戻ってもらえるようにするのが(政治家の)仕事。放射能は目に見えず、みんなが怖い。今はふざける時ではない。やるべき事をやってほしい」と訴えた。
毎日新聞 2011年9月10日 西部夕刊