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[29659] 【習作】リリカルなのは~俺と老人と魔法少女と~ TS要素注意 ニッチな要素含む
Name: ヨフカシ◆03fa09d9 ID:4922c304
Date: 2011/09/10 13:10
【注意・警告】
・TSした元男がヒロインの一人で、さらに、原作キャラに憑依(厳密には少し違いますが)してます
・TSしたキャラは主人公ってパターンが多いですが、この作品ではヒロインの一人と
なっており、恋愛する描写もあります。個人的にTSして恋愛とかなマンガが
好きなので、そういう傾向があると思うので苦手な方はスルーで
TSに理解できない、苦手って人は読まないほうがいいかもしれません
・TS好きな人も、好みとかは人それぞれなんで合わない人も居ると思います
・割とニッチな趣味の作品です
・主人公が動いてるせいで、原作と流れが違ったりしてます
・俗に言う厨要素もあります
・独自設定や、オリキャラが居ますので注意。


こんにちは、もしくは、はじめまして。

以前から短編をちょいちょい書いてましたが、書くのは不定期で、HNも毎回違うので
もう自分でも、以前はどんなHNで書いたっけ?な有様です。

今までは1話完結の短編ばかりだったけど、あえて、今でも数多の作品が続々と
投稿されているなのはssを書いてみたくなり、投稿します。

TSという性別の反転などを取り入れたニッチなジャンルなので読み手を選ぶと思います。
TS自体、昨今は少しずつ認知度は上がってきたものの、未だにTSの何がいいのか分からないという方も居ますので
TSが苦手な方はスルーしてください。

一度やってみたかったので
現実世界→なのはの世界というよくある設定をあえて使ってます。
オリキャラは主人公、親友1(今は老人)、親友2(今は性別が変わってて・・・)てな感じ
基本、主人公は一人で、分かりやすく書こうと思っています。



アニメで言うところの1期はシナリオできているので完結すると思いますが、
ASやその先へ続くかは分かりません。
無印以降の、その後の続きを書く場合は少し時間が掛かるかも。




この作者は、感想の返事を考えて返信するのが大変苦手です。
返信文を延々と考えるのに時間使うより、執筆に使うことを優先してるために、
折角感想を頂いても殆ど、お返事できないと思います。
ですが、頂いた感想は全て目を通し、今後に反映させて頂きますのでご容赦お願いします。




オリキャラ

山城 和輝
主人公。
名前の苗字は戦艦から、名前は主人公ぽい響きで選んだ


高間 榛名
TS者でヒロインの一人。
名前の榛名 (はるな)は、日本海軍の戦艦から、
高間は太平洋戦の開戦時艦長から



霧島 照月
主人公の親友で原作知識(うろ覚えであんまし役に立たない)を持つ
名前の霧島は日本海軍の軍艦から。照月は駆逐艦で霧島の乗組員を救助した


名前考えるのって大変ですね



[29659] プロローグ
Name: ヨフカシ◆03fa09d9 ID:4922c304
Date: 2011/09/08 05:10



とある郊外の森の中・・・

少年が一人たっていた。年齢は10歳くらいだろうか。

日本人らしい黒髪に、黒目のどこにでも居そうな普通の少年。

そして彼の目の前に居る異形の存在。

物語の中にしか存在しないような怪物が、おぞましい雄叫びをあげている。

時間は深夜。唯でさえ、人が殆ど入らない場所で、周囲には自分以外は誰も居ない。

念のために、習ったばかりの人避けの結界を展開しているので目撃されることはないだろう。

手に構えるは魔法の杖。とは言っても、御伽噺の魔法使いが使うような木で出来た

いかにもな魔法の杖ではない。金属製の機械的な杖。

見ようによっては、杖というよりSF映画に出てくるような武器のようにも見える。

怪物が動く。体内から触手のようなモノを出して襲い掛かる。

その攻撃を右へ、左へ、と避けて接近、至近距離から攻撃魔法を放つ。

怪物は体の半分を失い、やがて残った体が粒子になり消えていく。

さっきまで怪物が居た場所に現れる、青く輝く宝石。目的のモノだ。

「封印っ!」

杖・・・正式にはデバイスと言うらしい。デバイスにはこの宝石を封印できる機能がある。

(終わったか・・・ようやく5個目・・・)

目的は済んだ。もうここには用はない。

少年は結界を解除すると帰路へついた。


それから少しして、少年が居なくなった森に白い服装の少女がやってきた。

足からピンク色の羽のようなものを出現させて、重力を無視して空に浮いている。

彼女も少年と同じように、魔法を使う者であった。

「反応がない・・・?どういうことなの?」

少女の言葉に、少女の肩に乗っていた黄色い毛色のフェレットが答えた。

「まさか・・・僕たち以外で回収してる人がいる?」

「どういうこと?私達以外で、ジュエルシードを集めている魔法使いが居るってこと?」

「・・・わからない。管理局であれば、こちらに連絡するなりしてくるだろうし」

「・・・一体誰なんだろう」

「・・・・・・」

2人の疑問に答える者は居なかった。






住宅街。小奇麗な一軒家。

「ただいま」

玄関を開けて家の中へ。とは言っても俺の実家と言うわけではない。

「お帰り。上手く言ったか?」

ニコニコと玄関まで来て出迎える老人。

歳の割には姿勢もよく、年齢を感じさせない若々しさがある。

「なんとかなったよ照月」

相手は明らかに自分より年上ではあるが、理由があって敬語は使ってない。

「そうか・・・じゃあ風呂でも入って来い和輝。もう夜も遅い。休め」

老人の方も、名前を呼び捨てにされても、特に気にした様子もなく居間へ戻っていった。

老人の名前は霧島  照月(きりしま てるつき)。

ここは彼の家なのだ。

そして彼と、俺は親友で、かつては『同じ歳』だった。





[29659] 1話
Name: ヨフカシ◆03fa09d9 ID:4922c304
Date: 2011/09/08 05:11
1話






風呂に肩まで浸かりながら、今までのことを思い出していた。

自分たちの数奇な運命を・・・

全ての始まりは、今から半年前のことだった。



高校の文化祭が終わり、親友達と打ち上げと称して遊びに行った帰り道だ。

俺・・・『山城 和輝(やましろ かずき)』は

親友の『霧島  照月(きりしま てるつき)』と『高間 榛名(たかま はるな)』と3人で帰路についていた。

3人はそれなりに長い付き合いで、親友と呼べる仲だった。

周囲には不良だ、落ちこぼれだと、良い目で見られていない俺達だったが

気の合う親友と出会い、それなりには、毎日が楽しかった。ずっと続くハズだった時間。しかし唐突に終わりを告げる。




帰り道の交差点。

車に撥ねられそうになった猫を助けようと、榛名が飛び出し、俺達は榛名を止めようと飛び出し、

結果として全員が車に撥ねられた。まぁマヌケな話ではあるが全員が必死だった。

榛名はネコを助けようと必死で、俺たちは急に飛び出した親友の榛名を助けようと必死で・・・

結果だけ見れば散々だけど、俺たちは親友を、優しい親友はネコを放って置けなかった。



全員が考えるよりも先に、反射的に体が飛び出したんだと思う。

車に撥ねられて衝撃が来て、吹っ飛んで、世界がぐるぐる回り、意識が遠のいた。




その後のことは分からない。気がつくと俺は何故か、小学生くらいのガキの姿になっていた上に、孤児院に居た。

なんでも身元不明で倒れていて、引き取り手もおらず、最終的に孤児院に入れられた。

家の住所を言っても、その場所に俺の家族はおらず、俺の身分も証明できず。

何が起きたのか? 何故家と連絡が取れない? 何故俺は子供の姿をしている?

全てが謎で、本当に意味が分からなかった。まるで悪い夢。

このまま、ここに居るのは嫌だったので、孤児院を脱走した。

そして公園で野宿を繰り返すようになった。

水はいい。公園にも水道がある。ただ食う物がない。

結局空腹で倒れそうだったので、恥を忍んでゴミ箱漁ったり、惨めな思いをしてた頃にアイツが来た。






「ようやく会えた。和輝」

老人は俺の名前を呼んだ。誰だろうか?このような知り合いも親戚も居ない。

戸惑って、何も居えずに居ると老人は笑い始めた。

「やっぱ俺が誰だか分からんか?無理もない。もう爺さんだからな」

「・・・誰ですか? 申し訳ないのですが、貴方の顔が記憶にないんですわ」

「そりゃそうだろう。この姿じゃ初対面だしな。面影とかないか?」

だから一体アンタはなんなんだ!?誰だよ!と言おうとしたら彼は懐かしい名前を口にした。

「俺だよ。霧島 照月だ」

「え?照月!?アンタが!?」

どう見ても目の前の老人と親友が結びつかない。

「信じられないか?詳しい話をしたい。家に来てくれ」

「・・・・・・」

正直、「おまえは何を言ってるんだ」と言いたかった。

何なんだこの老人は。

「警戒するのも分かるよ。俺もお前の立場なら信じられないだろうし・・・けど・・・今は信じて欲しい」

そういって深く頭を下げた。

その態度は誠意があるように見えて、少なくても悪意は感じられなかった。

本当に、この老人が照月なのかは疑わしいが、とりあえず話を聞いてみようと思った。

もうしかしたら、この八方塞の現状を変えられるかもしれない。





案内された場所は普通の一軒家。小奇麗な普通の家だった。

居間に通され、お茶を出された。

「じゃあ本題に入ろうか和輝」

「その前に、本当にアンタは照月なのか?」

「証明できるかどうかは分からんが・・・」

差し出されたのは高校の学生証。照月の物だった。

年月を経て、風化しているが紛れもなく本物であるように思えた。

でもこれを持っていても、盗んだり、拾ったのかもしれないと疑念もある。

「他は・・・この腕の傷・・・分かるか?」

老人が服の袖を捲くり、腕を見せてきた。そこにある傷跡。

「それって・・・」

確か照月は子供の頃に、事故で大怪我をしたことがあるらしい。

だからアイツの腕には高校生になっても事故の傷が残っていたのを覚えている。





「そう、あの傷だよ」

「確かに同じ場所に傷がある・・・」

「まぁ、今すぐ信じてくれとは言わないが、話だけは聞いてくれ。突飛な話だけどな」

「・・・分かったよ」

「まず、あの時のことだ。榛名が飛び出して、俺達も飛び出して・・・」

「・・・仲良く撥ねられたと」

「ああ・・・その時だ、俺達は別の世界、俺達の居る世界とよく似た世界へ移動してしまったらしい」

「は?」

「まぁ普通そういう反応するよな。だが事実だ。ここは俺達が生きていた世界じゃない」

「じゃあなんだってんだ?死後の世界とか?」

「平行世界みたいなものだと俺は考えてる。憶測だけどな」

照月が言うには自分達と同じようで、若干違う世界が無数に存在していて、そこへ迷い込んだのではないかと言う。

「・・・そんなことありえるのか?」

「それに・・・たぶんだけどオマエは一度家に帰ろうとしたのだろう?」

照月の言うとおりだ。俺は孤児院を抜けた後に家に戻ろうとした。だが、俺の住んでいる町が在っても、家がなかった。

俺の家族も、家も本来ある場所になかったのだ。結局その後は公園で野宿を始めた。




「この世界で、俺やお前は居ないのか、別の場所に居るのかは分からんよ。ただ、ここは俺達の世界と似てるだけの別の世界だ。

調べてみろ。事件、事故、政治に経済、何もかもが少し違っている。似ているだけで全然違う世界なんだ」

「・・・それはマジな話なのか?そんなことがありえるのか?」

「俺がこういう時に、ふざけたこと言わないのはお前も知ってるだろ?」

たしかにそうだ。彼が本当に照月であるなら、こういう時は嘘や冗談は言わない。では・・・本当のことだと?

「俺も、お前も、平行世界へ飛ばされたが、それぞれ飛ばされた先が違っていた」

「どういうことだよ」

「俺は今から約・・・70年前の時代へ飛ばされたんだ」

「70年前?」

「ああ、俺達は飛ばされた世界は同じでも、時代にズレが生じたようだ。それに時代だけじゃない場所もだ」

「場所?」

「和輝。お前は魔法って信じるか?」





魔法。突然そんなことを言い出した。顔つきは真剣で冗談やふざけで言ってるわけではなさそうだ。

「・・・・・・魔法?なんだよ突然」

「俺も最初は信じられなかったが・・・魔法は実在していた。この世界だとな」

「いきなりだな・・・その、魔法が今の状況にどう関係あるってんだよ」

「まず、俺が飛ばされたのは地球じゃなかった」

「・・・は? 地球じゃない? 地球以外に生命がいるのか? 宇宙人ってことか?」

「宇宙人と言うのは違う。いや、地球外の文明だし・・・俺達からすれば宇宙人か?

と言っても俺達と外見は変わらない普通の人間だった。俺が飛んだ場所はミッドチルダと呼ばれる世界だった」

「・・・・・・」

「俺も最初は信じられなかったよ。俺も飛ばされた時にお前と同じようにガキになってたし、行き場もない、身寄りもない、

だから・・・俺は生きるために窃盗を働いた。そして・・・捕まった管理局に」

「管理局?」

「まぁ・・・ありたいていに言うと警察みたいな組織で、もっと規模が大きいモノだ。国だけでなく多くの世界を守ってる」

「そりゃまたスケールの大きい話だな」

「でだ・・・管理局に捕まり、尋問を受けた。俺は全て正直に話した。そしたらな、時空漂流者と言われたよ」

「時空漂流者?」

「なんでも、何かを境に、別の世界から別の世界に来てしまう。分かりやすく言うと時空を超えた迷子ってとこか」

「今の与太話を全部信じるとさ、何?俺たちそんなすげー迷子なワケ? つーかなんでガキの姿になってんだ俺」

「俺も当時、検査も受けたけど体が幼児化した理由はよく分からん。時空を超える弾みで、

何かが作用したのかもしれないが原因が不明だそうだ」

「・・・なんでガキになっちまったか分からないのか」

「時空漂流者はたまに出るらしいが、なんで起こるのかとか、原因はよく分かってないらしい。だからお手上げ」

「偉そうな名前の組織の癖に役立たないな」

「その後、俺には魔法使いの適正があるって分かってな・・・局に入り働くなら、俺の衣食住の保障はしてくれるって

言うんで管理局に入った。また盗みの生活して暮らすのも嫌だしな」







「苦労したんだな・・・」

「まぁな。それに管理局に居れば、元の世界へ戻れる手がかりをつかめると思ったんだ」

コイツは70年も元の世界へ戻る方法を探していたのか・・・たった一人で。



「・・・まだ現実離れしていて完全に納得したわけじゃない。けど、オマエが照月だってことは分かったよ」

「・・・そうか。とりあえず信じてはくれるんだな?ありがとう和輝」

「しかしオマエが歳とるとそうなるんだ・・・あんまし面影ないな。頭ハゲてるし」

「五月蝿いな。オマエも歳とりゃこうなるよ」

ああ、紛れもない。見た目は違うが・・・こいつは照月だ。

話をしていて分かった。ようやく信じることが出来た。




「で、話を元に戻すぞ? 俺に魔法の素質があるってのは話したよな?」

「ああ。凄いなお前、魔法使いなんだ」

「でだ・・・俺がなんでお前を見つけられたと思う?」

「・・・魔法使ったとか?」

「まぁ大体あってるけど、実は俺にはレアスキルって呼ばれる力があるらしい」

「レアスキル?」

「簡単に言えば珍しい能力のことだ」

「どういうもんなんだよ」

「未来予知」





未来予知。つまり未来が見えるということなのだろう。とてつもない力に思えた。

「すごいじゃないか!宝くじとか当てまくりじゃんか」

「実はそんなに大したもんじゃない。自分で好きに発動できるわけでもないし」

照月が言うには、自分で好きな時に見れるわけもでもなく、好きな場面を見れるわけでもなく、

無意識に発動して、見える未来は自分の意思で選べるわけでもなく、何が見えるかは

実際見えてみないと分からない上に、滅多に発動しないらしい。

つまり未来を見ることは出来るけど、自由に好きな未来を見れないし、発動も任意で出来ず、

何時、何が、見えるが分からない微妙なモノらしい。


「その能力で見えたんだ。お前が。見たのがもう10年以上も前だけどな」

それから照月は俺に会うために地球へ来たらしい。

「仕事はもう歳だし辞めた。老後の為に貯めた金で地球に家を買った。、老後はこっちで暮らそうと思っていたしな。

この地球が俺たちの世界と違い地球でも、最後は地球で人生を終えたいって思って居た」

「・・・・・・」




なんて言えばいいか分からなかった。同じ歳だった親友が老人になってて、しかも余生のことを考えてるなんて。

「地球に来た目的は2つ。ひとつは今言った通り地球で老後を過ごしたいから。もうひとつは和輝、お前に会うためだ」

「実際、照月が来てくれて助かったよ。身寄りも居ないし。現状も分からなかったからな・・・所で、俺たちが飛ばされたと言うことは榛名も?」

俺たち2人が異世界に来たと言うことは・・・あの時一緒に撥ねられた榛名もこっちに居る可能性もある。

あいつは優しくて、いい奴だけど、気が弱くて泣き虫で・・・男の癖に女々しい奴だが、不思議と馬が合い親友になった。

今もどこかで一人で居るのだろうか?出来ればあいつも見つけてやりたい。

「榛名のことは分からないんだ。俺が見た未来はお前だけだし、もうしかしたら飛ばされて居ない可能性もあるし、

俺みたいに飛んだ時代や場所が違うって可能性もある・・・正直、今はどうしようもない」

「心配だな。俺たちみたいに飛ばされていたら・・・」

「ああ・・・でもあれでしっかりしてるから、なんとかやるだろう。何か見えれば居場所が分かるんだが・・・」

「そうだな・・・」

俺達みたいにこっちの世界に居るかもしれなければ、元の世界に居る可能性だってあるのだ。





「とりあえずお前に合えてよかった。ようやく今の現状を掴めてきた」

「俺も、またお前に会えてよかった。ところで・・・ここからが本題だが、お前は帰りたいか?元の世界へ」

「・・・そりゃあな。お前だって帰りたいから、帰る方法探していたんだろ? でも無理だった。じゃあどうしようもないだろ」

「・・・可能性がないわけではないんだよ。成功する確率は本当に極僅か・・・ではあるけどな」

「いったい・・・どうやって?」

「ジュエルシード」




ジュエルシード? 聞いたこともない単語だが何かの専門用語なのだろうか?

「お前には、もうひとつ信じられない話をしなきゃいけない」

「なんだよ。まだ衝撃の事実があるのか?」

「この世界は平行世界であると同時にフィクションの世界でもあるんだ」

フィクションの世界?一体どういうことだろうか?

「俺の兄貴を覚えてるか?」

「ああ。小さい頃から世話になったな」

照月の兄ちゃん。俺らより10歳くらい年上で、世間一般で言う、オタクだった。

面倒見のいい人で、幼い頃はよく面倒を見てもらったこともあった。

「兄貴がアニメ好きだったのは知ってるだろ? 兄貴はハマったアニメやマンガを弟の俺にも見せようとするんだ」



ああ、そういえばそうだった。「このマンガ最高だから読め!」といきなり30冊くらい渡されたこともあったけ。

こういった兄貴を持ってる癖に、照月が濃いオタクにはならなかったのは、彼を反面教師にでもしてたのだろうか?

「そうやって見せられたアニメの中に魔法少女モノがあってな・・・この世界はそのアニメの世界に酷似してるんだ」

「は? どういうことだ? 俺らアニメの世界に居るってことか? んなアホな・・・」

「完全にアニメの世界なのかは分からない・・・けど、そのアニメの世界に近い世界で、これからアニメの

シナリオ通りの話が起きる可能性がある」

「で?ここがアニメの世界だとしてさ・・・それとさっきのジュエルなんとかがどう関係あるんだ?」

「俺もちゃんと見たワケじゃないし、記憶があやふやなんだけどな・・・もし、アニメと同じように進行するのであれば・・・」





義晴が言うにはアニメの通りに進むとジュエルシードと呼ばれる、願いを叶える石が21個、近い未来にこの町に落ちるらしい。

「そのジュエルシードは厄介でな・・・扱いも難しいらしい。制御できなければ文明が滅ぶとかヤバイしろもんだ」

「・・・物騒すぎる。そんな危険物どうしろと?」

「けど、コイツを制御することが出来たら?それで元の世界へ戻りたいって願えば?」

「・・・帰れる可能性がある?」

「本当に可能性は僅かだし、帰れる保障はないし、危険だ。だけど可能性は・・・」

「ゼロじゃない?」

「そういうこと。どうする? 危険なことはせず、このままこの世界で普通に生きていくのもいいと俺は思う。

けど―――どうしても元の世界へ戻りたいと言うのであれば・・・足掻いてみるのもいい。決めるのはお前だ」




思い出す。

家族を。

あの世界を。

帰りたいか? 危険なことしてまで帰りたいか?

思い出す。

母の姿・・・弟の姿・・・そして浮かぶアイツの・・・あの男の姿。

家族に会いたい。

家に戻りたい。

けど、俺が居ないほうが・・・この世界に来たのは運命なのではないか?

俺が居なくなれば家族は・・・そんな想いもあった。

それでも・・・それでも・・・戻りたい。あの世界へ。

自分で、自分に問いかけて、出てきた答え。

・・・家にもう一度帰りたい。

そう。

だから―――

「やるよ。照月。可能性がある以上は試してみる価値はある」







[29659] 2話目
Name: ヨフカシ◆03fa09d9 ID:4922c304
Date: 2011/09/08 05:12
2話目



気がつけば、よく分からない状況に落ちていっていた。

どうすればいいか、何をすればいいか、分からず困惑していたが、

照月と再会し、当面の目標が出来た。元の世界へ戻るという目標が・・・






「そうか・・・やるか。一応、言っておくが・・・危険だぞ?」

「ああ。で? そのジュエルシード? そいつをどうやって集めて、どうやって使えばいいんだ」

「魔法で」

しれっと言うが俺には魔法を使える力なんて当然ない。

「俺、魔法なんて使えねーよ」

「使えるよ」

「は?」

「お前も魔法の才能がある。そして俺なんかよりずっと力がある」

「いやいや・・・生まれて18年、魔法なんて使ったこともないし、使い方も分からん」

「これも『見えた』んだ。お前が魔法使えることも分かってた」


『見えた』とは彼の持つレアスキルなる能力で未来予知のことらしい。

「魔法の使い方と封印方法は俺が教えてやる」

「使えるのか?俺にそんなファンタジーなもんが・・・」

「出来る。だけど本当にいいのか?何度も言うけど危険だぞ? 危険な真似しなくても、こっちの世界で生きていくってことも出来る。

それに、無事戻れるかも分からん。戻れるかもってレベルだ。俺から言い出しておいてアレだけど・・・正直あまり推奨はしない。

戻れたとしても、子供の姿であることをどう説明する? また年齢が変わって赤子にでもなったら? 不確定要素も多い」

「・・・ダメだしばっかだな」

「それくらい不確定で危険だからな・・・正直、俺は薦めないよ」

「じゃあなんで話した? やって欲しくないなら最初から言わなきゃいいだろうに」

「もし、オマエがリスクも考えずに、本当に心から帰りたいと願うのであれば・・・その道を示してやりたかった」

リスク…それほどまで危険なのだろうか? 照月はさらに言葉を続ける。

「この異世界に来て最初、俺は一人ぼっちだった。家族も友人も居ない。本当に一人だった・・・」

それは、どれほど孤独で心細かっただろうか。

「管理局に入り、仲間や友人も出来た。そして・・・だけど本当の意味では一人だった。この世界は俺たちの世界じゃない。

魔法を使うようになって・・・オマエが来ることが見えた時の俺の気持ちが分かるか?」

「・・・・・・」

「ああ・・・やっと同胞に・・・親友に会えるんだと、心のそこから歓喜した。だからもしも・・・その親友が戻りたいって、

心の底から、真に願うなら・・・親友として、同胞として、元の世界へ戻してやりたい・・・そう思った。だから色々探した・・・

けどダメだった。結局この不確定な方法くらいしか分からなかった。だから・・・最後の選択はお前に委ねる。オマエが選んでくれ」






戻るか・・・こっちで生きるか・・・

俺は、もう決めた。戻るって・・・

なら答えは一つだった。

「オマエがそんなに気負うなよ。危険なのは分かった。でもやる。一度決めたからな」

「そうか・・・これからジュエルシードが落ちてくるまで特訓だ」

「分かったよ。よろしく頼む照月」




それからデバイスと呼ばれる端末を渡され、毎日、毎日、毎日、毎日、特訓と言う名のスパルタな虐待を受けた。

照月曰く「お前は元より運動神経は人並み以上というか、異常だからコツさえ分かればすぐ慣れるだろ」

とのことで、事実自分でも驚く位に上達したと思う。繊細なコントロール以外は。

「だいぶ慣れたな。どうだ調子は」

公園から少し離れた森に結界を張って、言われたメニューを一人で練習してると照月が来た。

「ある程度、コツは掴めてきた。しかし魔法って実在したんだなマジで。自分で使っていても未だに現実感がないぜ」

「実在するどころか、今となってはお前も俺も魔法使いじゃないか」

そう言いながら照月は缶コーヒーを差しだしてきた。差し入れだろう。

礼を言ってありがたく頂戴する。

「和輝。管理局に居た頃のルートから聞いた情報から推測すると、やはりジュエルシードはアニメの通り落ちてくる可能性が高い」

「分かったのか?じゃあそろそろか」

なんでも、ジュエルシードを乗せたシャトルが管理局へと向かってるらしい。

アニメではこれが襲われて、ジュエルシードが地球へ落下したのだとか。つまり、もうそろそろ始まるんだ。

照月のあやふやな記憶を掘り起こし話し合った結果、分かったことは


・高町なんとかって主人公が魔法少女になり、回収にくる
・なんかネズミみたいなイタチみたいな生き物がジュエルシードの責任者で実は人間
・ファイトとか言う感じの名前のライバルも回収にくる
・ジュエルシードが暴走状態になって次元震という大きな衝撃を管理局が感知して介入してくる
・ファイトの母親が黒幕でジュエルシード狙っている
・海の中に4個くらい沈んでいて、物語終盤まで誰も気づかない


俺達は話し合った結果、まずは海底の4つを回収し、アニメの主人公やライバルよりも先に集めて、

さっさとジュエルシードを発動させるというプランを考えた。

管理局が介入してきた場合、危険なジュエルシードを使用することは恐らく、絶対に認めないだろうとのこと。

だから、次元震を起こさせないか、起こす前に回収し、管理局が出張ってくる前に全て終わらせるという作戦だ。

主人公より、ライバルより、迅速に回収、集めたら即発動、そしてなんとか帰還する。とにかくスピードが肝になる。

最低でも21個中、半分は欲しい。多ければ安定するかもしれないらしい。

さぁ本番開始まであと少し・・・練習を頑張るか。




「AAランク?すごいのそれ」

「今のオマエの肉体年齢が9~10歳くらいだろ?その歳でそのランクってすごいんだ。成長次第でSにすら届くかもしれない」

「あんま自分じゃ分からんわ」

なんでも魔法使い・・・正確には魔道師というらしいが、これには魔法量やら技量などでランク別けがあるらしく、

アバウトに言ってしまうと一般でD~C、優秀でBで、Aでエース、Sはさらに凄く、SSSとかなると別格らしい。

なんでもSランクは万年人手不足の管理局では貴重らしい。

凄いと言われてもあまり実感がわかなかった。ちなみに照月はCランクらしい。

俺は潜在する魔力が高いらしいが、まだ殆ど使いこなしてない。

もっともジュエルシードを集めるために一時的に使うだけで、別に魔道師として食べていくワケじゃないので

飛ぶ、封印、攻撃、ガード、人目を避ける結界など、今回使う必要最低限のことしか習ってない。

ようは集めて、制御するだけの力がつけばそれでいいワケだ。ジュエルシードが暴走して怪物を生み出しても、

俺のレベルなら対抗できるだろうと言うことらしいし、問題はなさそうだ。

「だいぶマシになってきているが・・・お前はコントロールが悪いな。ゴリ押し、力押し、しか手札がないのは痛いぞ」

「そうは言うけど・・・精密射撃とか難しいって・・・」

「そこは練習あるのみだな。頑張れよ」

「へいへい頑張りますよー」




霧島 照月は、ベンチに座り親友の和輝が、文句を言いながらも練習をするのを見ていた。

AAランク。元は18歳だったといは言え、今の体は10歳くらいの子供である。

そのような年齢の子供がAAランクと言うのは極めて稀である。

それに、自分も和輝もこっちの世界に来る前は、魔法など無縁の普通の高校生だった。

そんな凡人だった俺たちが、こちらの世界へ来たとたんにレアスキルやら高レベルの魔法力やらを手に入れてしまっている。

これはどういうことだろうか? 俺たちの体は、幼児化してしまったとしても、前の世界からずっと自分の体であるハズだ。

元々あった力なのか? 自分達でも知らずに持っていて、本来は死ぬまで気づかない力で・・・たまたまこういう世界に来てしまい

それを知ることになったのだろうか? 和輝は昔から人より傷の直りが早いと思うことが多々合った。

遊んでて怪我しても、1週間たつ前に傷が塞がり、目立たなくなっていたこともあった。

あれはひょっとして和輝に魔力があったからとは考えられないだろうか? 

傷の治りが早いことが魔力による治癒の促進という可能性もある。

だが、自分はそんなことはなかった。未来予知なんてしたこともない。俺の場合は後付でついたということなのだろうか?

分からない。一般人だった自分達が、こんな特異な力を知らずに得ていたことが・・・

この世界のことを、あやふやだとは言え、ある程度の流れを知っている俺。

和輝が飛ばされて間もなく落ちてくるジュエルシード。

そしてそのジュエルシードを集めるに必要な魔法力を持つ和輝。

まるで俺達みたいな、本来居ない筈の異物を元の世界に戻そうとするために、誰かが仕込んだようにも思えるではないか

考えすぎであることは自分でも分かる。だが、俺は昔から一度こういうことを考え出すと止まらない悪癖がある。

だから、和輝が俺を何度も呼んでることに今まで気付かなかった。





「おーい?聞いてるか?」

「ん?ああ、スマン考え事してた」

照月は一度考え事を始まると、延々と一人で難しい顔して、誰が何を言っても聞こえていないことがある。

歳を取っても行動が変わらない友人が、なんだかおかしくて笑ってしまった。


「それにしても、いよいよか・・・これで、もうしかしたら帰れるんだな俺たち」

「・・・お前にちゃんと話してなかったが、俺はいいよ。帰る気はあまりないんだ」

「は? なんで!? 帰りたくないのかよ?」

照月は何故かもう帰る気がないと言う。

「元々、俺はもう帰る気は無かった。俺は未来を見て、お前が望むなら返してやりたいって思った。だけど俺はいい」

「なんで?」

「歳を・・・とり過ぎた。そしてこちらで色々なものを作りすぎた。それにこの歳で向こうへ帰って親に何ていえばいい?」

確か似そうだ。帰宅した息子が老人になってましたなんて誰が信じるだろうか。下手をすれば向こうに居場所がないかもしれない。

でも・・・生まれた世界なんだ、自分の世界なんだ、家族が居るんだ、帰りたいんじゃないのか?

「最初は帰りたかった。前にも言ったけど、俺達はこの世界では異邦人だ。俺たちの世界じゃない・・・ずっと孤独だった。

だから仕事の合間に戻れる方法を調べたり、色々努力はしたよ」

「なら・・・!」

「けどな・・・こっちの世界でも、俺と友人になってくれた人達が居た。仲間として迎えてくれた人が居た。そして・・・

俺は本当に好きな女(ひと)が出来てな・・・結婚したんだ」

「そうか・・・って、え!?おまえ結婚してたの!?」

「ああ。でも彼女は体が弱くて、彼女との間に子供は出来なかった。だけど幸せな人生だった。その頃には既に自分が帰ることなど

考えなくなった。こっちの世界で守るべき女(ひと)が出来て、もうこの世界で最後まで生きようって思えた」

「その・・・奥さんってのは・・・」

照月の部屋に仏壇があったのは知っていた。そして奥さんに今日まで会ったことはない。

という事は・・・

「ああ、亡くなったよ。3年程前か・・・幸せな人生だったと言ってくれた」

「そうか・・・」

「俺は元々、お前と再開するために地球へ行くつもりだった。彼女も元は、地球出身でね。老後は地球で暮らすのは賛成だった」

「・・・」

「それから穏やかだった。幸せだった。だから俺はもういい。こっちで好きなもん見つけて、骨を埋めようって決めたからさ・・・」

「照月・・・」

「でもお前はまだ若いままだろ? この先、色々なことがあると思うし、何より・・・帰りたいんだろ?」

「・・・ああ。帰れるなら帰りたいよ」

「だからお前は帰れ。その為に俺は力になる。それを成さないと俺は安心して妻のとこへ行けないんだ。

だから・・・絶対成功させよう」

「分かった。よろしく頼む」

そして数日後。推測通り、アニメのシナリオと同じように、ジュエルシードを輸送中の船が襲われて21個のジュエルシードが散らばった。

「じゃあ言ってくる」

「おう、気をつけて行って来い」

まるで、ちょっとコンビニへ出かけてくるという風な軽い挨拶。

緊張したって仕方ない。やるべきことは全てやった。後は俺の努力次第。

自分に気合を入れるため、両手で頬をぽんと叩くと俺は反応がある方へ駆け出した。






[29659] 3話目
Name: ヨフカシ◆03fa09d9 ID:4922c304
Date: 2011/09/08 05:12
3話





その日、フェイト・テスタロッサの心は死んだ。

あまりに重い真実。それは彼女の心を壊してしまうには十分すぎるものだった。

自分が、実の娘ではない・・・そのクローンであると。

自分の存在の否定。今まで信じていたもの、心の拠り所を失い、少女の心は完全に死んだ。

そこにあるのはただの肉の塊。魂のない入れ物だった。じきに体も死んで朽ち果てるハズだった。

だが、そこへ、なんの偶然か、別の魂が入りこんでしまった。そして・・・彼女の瞳に光が宿った。





プレシア・テスタロッサは苛立っていた。

まさかあのクローンがここまで無能であったと思わなかったからだ。

怒りのあまり、散々罵って体罰を加えた後に、自分の娘、アリシアを見せた。

そして、全てを知ったフェイトは壊れた。


アリシア。彼女はプレシア・テスタロッサの実の娘である。とあることで死んでしまい、

その死が、彼女を修羅へと変えた。なんとしてでも娘を取り戻す。その為に、違法とされるクローンにも手をだした。

最初は成功だと思ったが、クローンは外見だけしか似ておらず、性格が異なっていた。

愛しい娘の外観を持つだけの偽者。それが彼女を苛立たせた。

やはりクローンでは限界がある。ではどうすれば?

そんな時に知ったジュエルシード。願望を叶えるロストロギア。これでアルハザードへ行けば・・・

アルハザード。またの名を「忘れられし都」。

古代ベルカよりさらに昔に存在したといわれている世界で、そこには時を操り、死者さえも蘇らせる秘術があるという。

今までは伝説の存在とされており、誰もその場所を知らなかった。

だがジュエルシードがあれば・・・

それからクローンをプロジェクト名から名前を取り、フェイトと名付け

使い魔のリニスに教育を任せ、魔法を習わせた。ジュエルシード探索の捨て駒にするために・・・

だが、問題が発生する。ある程度は使えると思っていたフェイトが全く使い物にならなかった。

あれから、かなりの日数が経過してるが、まだジュエルシードを1個も持ってこれずに居た。

本来の正しい世界であれば、フェイトは回収出来ていただろう。だが本来、居ないハズの者が存在し、

フェイトが集めるハズだったものを既に回収してしまっているのだ。

無論そんな事実を誰一人知ることは無く、結果、『フェイトは無能で使い物にならない』とプレシアは判断したのだ。

(まさかここまで使えないなんて・・・)

プレシアは考える。これからを・・・自分で出向くか、新しい使い魔を作るか、外部の人間を雇うか・・・

自分で出向くのは、体のこともあり厳しい。プレシアの体は病に犯されており、直接出向いての探索などは厳しい。

新しい使い魔を使役するのも、また一から作るのは手間が掛かる。

外部の人間を雇う場合、自分がやろうとしていることを外部に感知され、そこから逮捕に繋がる可能性もあるのだ。

病の進行具合から考えても自分に残された時間はあまりない。失敗は許されない。絶対に。

何か・・・何かあるハズだ・・・そう思案してる時、部屋の扉が開いた。やってきたのは、彼女が忌み嫌う娘のクローンのフェイト。

事実を知り、てっきり使い物にならなくなったと思っていたのに、まだ動けて、口を聞けるとは思わなかった。

恨みでも言いに来たのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

「母さん・・・お願いします。もう一度チャンスをくれませんか」

あれだけされて、まだ自分の為に動くと言うのだ。それほどまでに母親を求めているのか。

事実はどうあれ使えるのなら、希望通り動いてもらおう。

それが、憎悪の対象のクローンでも・・・結局のところ、今の手駒はこのクローンしか居ないのだ。

「いいわ。もう一度チャンスをあげる。今度しくじったら・・・分かってるわね?」








ジュエルシードを感知して急いで現場に向かうと既に白いバリアジャケットに身を包んだ少女が来ていて、

恐らくジュエルシードから生まれたであろう怪物と戦っていた。

照月から聞いた情報をまとめたメモ帳を懐から取り出す。

(え~と・・・彼女が・・・高町なんとかって言う主人公の子か・・・不味いな出遅れた)

今、俺は戦闘中の場所から少し離れた場所で隠れて戦闘を見ていた。

昼間の河川敷で人は多いが、結界のおかげで戦闘に気付かれることは無い。

どうする?彼女がバケモノを倒して封印する時に強奪するか? 出来れば相手に姿を見られたくないし、会いたくない。

今、こちらの存在を知られてしまえばどうなるだろうか・・・?

そうなれば今後、向こうは自分達以外にも探索、回収をしている者が居ることを知り、尚且つ、

非協力な態度から、回収して、良からぬ事に使う、悪い奴みたいに思われて警戒されるだろう。まぁ事実自分の欲の為に使うわけだが。

しかし、このまま持っていかれても不味い。外見年齢から推測すれば相手はまだ小学生だし、普通であれば午前中は学校のハズだ。

なら今後は、小学生が学校へ行ってる時間帯に集中して回収すれば鉢合わせはない・・・ハズ。

憶測だが、まさか学校をサボってまで来るということはないだろう・・・ならば今強奪して、8個目で・・・だが・・・




そう悩んでる内に、戦いは白い少女が押され始めた。

植物のようなバケモノの触手のように無数に襲い掛かるツタに翻弄されていた。

(聞いた話じゃかなり強いってハズだけど・・・物語で言う序盤だからまだ慣れてないってことか?)

ついに白い魔法少女はツタに捕まり、身動きが取れなくなる。

考えても仕方が無い。元々頭使って策を練るのは得意ではない。

目の前に1個あるのに・・・なるべくこちらの目的や情報を与えないように行動すればいいと判断した。

一気に加速してデバイスを剣型に。近接モードへ展開。ツタを切り裂き、そのまま本体を切り裂く。

そのまま空中で姿勢を変えて、間、髪容れずに魔法弾をほぼゼロ距離で最高出力で打ち込む。

それで怪物は粒子になり消えた。ツタから開放された少女は、空中で姿勢を立て直すとこちらを見て驚くような声を上げる

「あなたは誰ですか?」

質問に無視してジュエルシードの前に降りるとすぐに封印する。ジュエルシードはデバイスに吸い込まれるように保管された。これで8個目。

「あの!さっきは助けてくれてありがとう」

「君は一体誰なんだ?なんでジュエルシードを回収してる!? それは危険な物なんだ!分かってるのか!」

白い少女と彼女の肩に乗ってるフェレットが話しかけてくる。特にフェレットの方は敵愾心をむき出しにしていた。

(コイツがジュエルシードを発掘して、運搬してたウーノだったけ?・・・人なんだよな?イタチにしか見えないが・・・)

無視することに若干心が痛んだが、彼女達を無視して宙へ浮かび上がり、高速で移動。その場を後にした。

後ろから「待って!話を聞かせて!」と女の子の声が聞こえてちょっと罪悪感が沸いた。




「・・・誰だったんだろう・・・今の人」

自分達を助けてくれた少年。彼は最後まで一言も口を聞かなかった。

手足の自由を失い、どうしようかと思っていたら、どこからともなく現れて怪物を倒し、ジュエルシードを回収して

あっという間に去っていった。まるで嵐のような人だった。

「今の人ってユーノ君が言ってた管理局の人?」

「違うと思う。何者なんだろう・・・なんでジュエルシードを・・・」





その日の晩。

俺は照月宅の居間で今日会った白い少女の話をしていた。

「会ったのか」

「ああ、でもまだ慣れてない感じ? なんか手こずってたな」

「そりゃ物語で言うところの序盤だし、まだそこまで戦いなれてないんじゃないのかね」

「あのさ、今8個あるわけだが・・・これだけじゃ発動できないのか?」

正直、8個もあればもういい気がした。意外とめんどくさいし。

「出来ないことはないと思う。俺は管理局に入ってそれなりに仕事して地位もそこそこだった。

けど、ロストテクノロジーの情報ってのは閲覧できない物もあってな・・・詳しいことは分からない。

うろ覚えのアニメの記憶だと沢山あったほうが成功率は高いとかだったような気がするんだが・・・

まだ8個。せめて半分以上、15個くらい集めてからにしたらどうだ。万が一でも暴走して吹っ飛んでも困るだろ?」

「・・・そっか。じゃあもうちっと頑張るかねぇ・・・!?」

来た。発動したのを感じた。魔法を習い、扱えるようになってからこういう魔力を感じるようになった。

こういうとき便利だけど、なんか自分が人間離れしていく感じがした。

「・・・来たな。反応はそう遠くないな」

照月も感知したらしい。

「ああ・・・じゃあ行ってくるわ」

そういうと和輝は走って部屋から出て行った。

と思うとすぐ戻ってきた。

「その柿ピー後で食うから取っといて」

「・・・行くなら、はよ行け」








現場に着くと鳥のような怪物が居た。

周りは神社。人も居ない。いつも通り結界を貼る。

「さっさと終わらせて帰るか」

鳥は空へ飛翔し、こちらめがけて爪を立てて急降下してくる。

後ろへジャンプするように交わし、そのまま足でステップして反転、デバイスを体に押し付けて、

いつものようにゼロ距離で砲撃。遠距離砲撃は数学的なロジックを使うのか、数学の成績は万年1でテストも1ケタな

数字がダメな俺には、コントロールがまだ上手く出来ないために、ゼロ距離~近距離で直接当てるスタイルを取っている。

今の砲撃で鳥の怪物は、ジュエルシードに取り付かれて変化する前の元の野鳥へ戻った。

さぁ封印するかと思ったその時、背後から軽く殺気を感じてとっさに避けた。

黄色い魔法の矢による攻撃。

「誰だ!!?」

見ると木の枝の所に少女が居た。黒いバリアジャケットに身を包んでいる。

(誰だ?・・・いや・・・照月の話だと黒いライバルが出るって・・・コイツか?ファイトとか言う奴は)

「すいません。だけどそのジュエルシードは渡しません」

「そうか。だが、こっちも渡すわけには行かないな!」

黒い少女はジャンプし、そのまま速度を付けてこちらへ飛んでくる。

手に持つのは、黄色い魔法の刃が出たデバイス。まるで鎌のような外見だ。

こちらもデバイスを振り上げる。

激突する2つのデバイス。金属音が周囲に響いた。

「え・・・?」

どうしたのだろう。少女の様子がおかしい。

「そんな・・・まさか・・・」

俺の顔を見て驚いている? 何だ?

デバイス同士で鍔迫り合いをしてたが、同じタイミングで双方後ろへジャンプして引く。

「いや・・・ありえないよね・・・顔は似ているけど年齢が違うし・・・和輝のワケがない」

え? なんだ? 何故俺を知っている!!?

一瞬の油断だった。その隙を突かれ、攻撃魔法をもろに喰らった。とっさにシールドで防いだものの吹っ飛ばされてしまった。

その隙に少女はジュエルシードを封印してしまったようで、宙に浮きこちらを見ていた。

「ごめんね」

そういい残し彼女は夜の空へと消えていった。

「なんだってんだ・・・」








やった。ようやく手に入れた。

ジュエルシード。まだ1個だけどこれからもっと集めればいい。

そうすれば母さんは・・・

それにしても・・・さっきの少年。あれは・・・彼に似ていた。

自分が大好きで、自分を救ってくれて、感謝している無二の親友に・・・

(そんなハズはない・・・他人の空似だよね・・・)



家に戻るとアルフが迎えに出てきてくれた。

アルフ。自分の使い魔だ。本来は狼のような獣なのだが、今は人の格好をしている。

人の年齢で20歳前後に見える。明るい赤茶色の髪の毛が綺麗な活発そうな女性だった。

「お帰りフェイト!どうだった?」

「うん・・・1個手に入れたよ」

ここは都内のマンション。母から潜伏先として用意された場所だ。

「今、晩御飯作っちゃうね」

「うん!フェイトの料理おいしいから好きさ」

「あはは。ありがとうアルフ」

晩御飯はすぐに出来た。そんなに手の込んだものは作ってない。

冷蔵庫のあまりで作ったモノだから名前なんてない。

それでもアルフは美味しい、美味しいと食べてくれるので作りがいがあるもんだ。

「あー美味しかった。ご馳走様でした!」

「お粗末様でした。そこまで喜ばれると作ったかいがあるよ」

「本当に美味しいんだもん。でもフェイト、何時から料理なんて作れるようになったんだい?ここ数日まるで別人みたいだよ」

「え?そう?」

あながち間違いではない。私はフェイトであると同時に■■であり、言うあれば別人でもある。

「悪い意味じゃなくてだよ?私はフェイトが幸せそうならそれでいいんだ。後はジュエルシード集めて鬼ババァに渡せば・・・」

「もう、アルフ。鬼ババァなんて言っちゃだめだよ」

アルフは不満そうだが「分かったよ」と返事をした。

フェイトはその態度がおかしくて笑う。アルフもきょとんとしていたがやがて笑い出す。

つかの間の休息だった。










[29659] 4話目
Name: ヨフカシ◆03fa09d9 ID:4922c304
Date: 2011/09/09 04:56



4話




現在ジュエルシードは手元に11個。

最近まったく反応がないことを見るに、他10個は2人の魔道師の少女の手中にあるのだろう。

自分としては11個で発動してもいいと思ったが、照月が慎重にと言うので

とりあえず15個以上集めてからと決めてある。

(しかし・・・こう反応がないってことはやっぱ21個全て俺と高町とファイトの3人で持ってるということか)

となると譲って貰うか、奪うしかないワケで・・・どうしたものか。




高町・・・たしか照月のうろ覚え記憶情報だと、なんか有名なケーキ店だかの娘だったか・・・なんとか探れないかな。

ネットでこの町の名前、ケーキ、等のいくつかのキーワードで検索したら意外と簡単に特定できた。

チェーン店等ではなく、個人経営の店。評判はいいらしい。

で、そのケーキ屋に来たはいいけど、高町なんとかに会って何を話せばいい?くれって言って簡単に出すもんでもないだろうし。

やっぱ来たのは不味かったかな・・・でももう席着いちゃったし・・・

このまま何も注文せず帰るのも気まずいので、とりあえずコーヒー1杯とケーキ食ってくことにした。

場所は分かったし、忍び込んでコッソリ奪うか?とバカなことも脳裏に浮かぶが、それを第三者に見られて警察に通報とかされても困る。

そうこうしてる内に、注文していたコーヒーとケーキが来た。



持ってきたのは男性だった。20代くらいに見える。

「おまたせしました」

そう言って品をテーブルに置くが、何故か男はその場を離れずにこちらを見ていた。なんだろうか?

「失礼だけど・・・君、小学生だよね? 学校はどうしたのかな?」

学校?言われてみれば時計の針は1時半を指していて、小学生ならまだ学校に居る時間だ。なので不振に思われたのだろうか。

「実は・・・新作のゲームしたさに仮病使って休みまして・・・」

昔、実際にやったことがある。バレて怒られたが・・・でも小学生の悪ガキならこういうことも珍しくないだろうし、無難な言い訳だろう。

「こらこら・・・ダメじゃないか」と男は苦笑した。

「ええ、祖父にバレて怒られました。明日からは学校行きますよ」

そう言ってコーヒーを一口。美味い。

「美味しいですねコレ」

「ありがとう。しかし、君・・・その歳でブラックかい? 渋いね・・・」

確かにブラック飲む小学生ってのは、殆ど居ないだろう。普通の小学生なら。

こんな体になっているのに、味覚や味の好みはあまり変わっていなかった。

俺が本当に10歳の頃はブラックのコーヒーは勿論、ワサビすら駄目だったものだが。

「邪魔して悪かったね。ゆっくり・・・しちゃ不味いのか? 明日からきちんと学校行くんだよ」

そう言って男は戻っていった。高町なんとかの兄だろうか? お人好しっぽいなと言う印象だった。

そろそろ帰ろうかと思ったとき、ちょろちょろと、どこからかフェレットが現れた。



ああ、あの使い魔か。コイツに聞いてみるか。

フェレットはこちらをじっと見て念話を送ってきた。

『魔道師の気配がするから来てみたけど・・・君はあの時の人だね・・』

『そういう君はあの白い子の使い魔か』

『・・・使い魔じゃない。僕はユーノって名前がある』

(ユーノ?ウーノじゃないのか・・・照月。間違って覚えてるぞ)

『君はなんで、ジュエルシードを集めているんだ!あれがどんなに危険な物か分かってるのか!』

『知ってるし、理由は話せない。けど事が済めば全部返すよ』

『一体君は・・・何をする気なんだ!暴走すればどうなるか分かって・・・』

『それは置いておいて、お前たちは今いくつ持っているんだ?』

『・・・それを聞いてどうするんだ』

『質問だよ。答えてくれたらひとつだけお前の質問に答える』

『・・・4個だ』

(とういうことは・・・あと6個どこかにあるか、あの金髪が持ってるってことか・・・どうする?

またサーチャーとかいうの飛ばすか? でも俺のあれ苦手だし、面倒なんだよな・・・)

『4個ね。さっきの質問にひとつだけ答えてやるよ。目的は帰ること。以上だ』

『・・・帰る?どういう?』

「すいません。テイクアウトでいくつか欲しいんですけど」

レジに居た女性に声を掛ける。こちらもかなり美人で、この店、実は店員が美男美女で有名なんじゃないかと思ってしまった。


『ちょっと待って!話はまだ終わってない!』

『約束だろ。一つだけ応えた。もう俺は用は済んだし。なんつーか今の俺が自分勝手なのは自覚してる。悪ぃな』

まだ何かを言っていたが、気にせずに出た。

それからプラプラしながらサーチして探したが反応は無かった。

(やはり、残り6個はあの金髪が持ってる可能性が高いな・・・どこに居るかも分からないし探しようがない。疲れたな・・・一度戻るか)

これ以上どうしようもないので、一度帰ることにした。






高町なのはは、帰り道に偶然、どこかで見た顔を見た。

一度、自分を助けてくれた少年。そして危険なジュエルシードを持っていった人。

最近、まったく見つからないことを考えると彼か、この前会った黒いバリアジャケットの少女が持ってるのかもしれない。

なのはは、何かを決意したような顔になると、家には帰らず少年を付けた。

聞いた話だとジュエルシードは危険な物だ。実際に回収して危ないものであることは十分理解したつもりだ。

話をしたい。話をすれば分かってもらえるかもしれない。分かり合えるかもしれない。

気がつくと少年の家まで来ていた。少年がただいまと言いながら入っていったので間違いなく、ここが彼の自宅なのだろう。

首元に下げているデバイス、レイジングハートを確認する。大丈夫。話をするだけ・・・

そして意を決してインターホンを押した。




「和輝~ お客様だぞ」

2階の自分用に宛がわれた部屋でくつろいでいると下から照月が俺を呼ぶ。

客?この世界で照月以外は知り合いなんて居ないぞ? 誰だろうか?

「誰?」

「主人公様だよ。なんでこの場所分かったのかしらんが」

この家のインターホーンにはカメラがついている。モニターには高町なんとかの姿があった。

「何故ここが・・・?」

まさか・・・付けられた?

「とりあえず出て来い」

「ああ」



彼女を自室に通す。

「まぁそこらへんに座ってよ」

「うん・・・じゃあ」

「で?何?なんの用?」

「やっぱりあの時の男の子なんだね」

「・・・・・・・」

やはりバレてるらしい。当たり前か。顔隠しているわけじゃないし。

「なんでこの家が分かった?」

「ごめんなさい。たまたま帰り道に見つけて・・・」

「それで付けてきたのか」

迂闊だった。こんな子供に付けられて気付かなかったのか・・・。

「まずはありがとう」

「は?」

「前に助けてくれたでしょ その時のお礼」

最初に会った時のことか・・・

「今日は話をしたいと思って・・・」

「話?」

「なんでジュエルシードを集めてるの?」

「・・・・・・」

彼女の目はまっすぐで、真剣だった。

「あれはすごい危ないものなんだよ?」

「・・・らしいね」

「だったらなんで?」

「話さなくちゃダメなのか?」

この少女はジュエルシードが危ないから回収してるワケで、こういう理由で使いたいとか

言えば止めるしだろうし、邪魔しに来るだろう。



「話さなくちゃ何も分からないよ」

「分かり合う必要ある?」

「ちゃんとお話すれば分かり合えると思うの」

「分かり合ってどうする? 俺がどうしてもやりたいことがあって、それが君達の意に沿わないことでも分かり合えるとでも?」

「それは・・・話してみないと分からないよ。それと・・・高町なのは」

「はい?」

「私の名前」

高町なのはと言うのか・・・高町しか知らなかったが・・・

「そうか」

「あなたのお名前は?」

「・・・・・・」

一瞬偽名でも使おうと思った。けど思いつかず名乗ってしまった。

「和輝だ。山城和輝。別に覚えなくていいよ」


それから1時間くらいだろうか? 彼女が言うところの、話し合いをしたが一向に話は進まず、もう時間が遅いので

家に帰るようにように言い追い出した。

ようやく終わったので安堵したが、「ちゃんと話してくれるまで、また来るから」の一言で安堵は疲れへ変わった。










「え?じゃあお店に来たの?」

「うん。ジュエルシードを何個持ってるかって聞かれたよ」

「何か分かったの?」

「何も。目的は帰る為だって言っていたけど、どういうことなのか・・・」

夜。高町なのはは、自室でユーノと今日の出来事を話していた。

「私は家まで行ってきたよ。お話したけど和輝君が何でジュエルシードを集めているか分からなかった」

「今度は僕も行くよ」

「ありがとう。でもいいよ。暫くは私一人で行って見る。和輝君は悪いことする人に思えなかったし理由があるんだと思う」

「・・・僕はまだ良く分からないや」

「だから・・・しばらく和輝君と会ってお話して、理由を聞いてみたいんだ」

「・・・分かった。じゃあなのはに暫く任せるよ」

最近はジュエルシードの発動反応もない。恐らく今集めているのは・・・なのは、和輝、黒い少女の3人の手の内にあるのだろうと推測する。

3人の手中にあり、デバイス内に封印されている状態であれば、動物や人に反応することもない。

和輝と呼ばれる少年が何の目的で集めているかは分からないが、居場所が分かり、なのはが行くので何かあっても対応は出来る。

なら話し合いでなんとか返してもらえれば穏便に済む。ユーノは、なのはに任せてみることにした。

問題はもう一人の方。黒い少女。彼女の目的も分からないが、どこの誰かも分からない。もしも彼女がなんらかのことに

ジュエルシードを使用して、それが暴走でもしたら・・・そっちの方が気がかりだった。







それから1週間、ほぼ毎日、高町なのはは家に来る。

どうせ、話し合いが進展するわけでもないのに・・・当初、和輝はもう無理やりでも高町なのはが持っている

ジュエルシードを奪うかとも画策した。相手が同年代の男子や、そこらのオッサンならそれで済んだだろう。

だが相手は、自分より年下の(自分も外見の肉体年齢は変わらないが)小学生。しかも女の子ときている。

彼のプライドが、そんな子供から無理に奪うなんて男のすることじゃないと邪魔をした。

高町なのはも、話し合えば分かってもらえると、強く思って居て、お互い実力行使で奪うのではなく、会話により解決をしようと

変な意地が働いて、両者が意固地になっていた。



そんなワケで今日も定例どおりやってきて、話は平行線。何故か途中から、高町なのはの学校の話やら関係のない話を聞かせられた。

時計が17時を過ぎた頃、これから夕食の買出しとかあるからと理由を付けて彼女を家に帰した。

「なんか、めんどくさいことになってるな」

「全く。どうしてこうなったんだか・・・とりあえず晩御飯の買いだし行って来るよ」






商店街のスーパー。見覚えのある奴を見た。

金髪の髪。赤い目。あの容姿・・・間違いない・・・ファイトとかいう奴だ・・・

じっと見ていると向こうもこちらに気付いた。

お互い無言。

「なんでここに居る」

何か喋ろうとして第一声がそれだった。俺は何を言っているんだと、思ったが向こうは応えてくれた。

「・・・晩御飯の買いだしです」

「・・・あと・・・なんで俺の名前を知っている?」

「え?」

何故か向こうが少し驚く。

「アンタ、あの時、俺の名前を口にしたよな?和輝って。なんで俺が山城和輝だという名前だって知ってるんだ?」

すると彼女は目を大きく見開いた。何か驚いてるようだった。

「和輝?山城和輝?」

「ああ」

「本当にあの和輝?」

『あの』が何を指すか分からない。同姓同名の誰かか?少なくても、この少女と以前あったなど記憶は無い。

「○×高等学校、3年Dクラスの山城和輝?」

「いや・・・なんで・・・知っている・・・」

なんなんだコイツは・・・

すると彼女は泣き出した。何がなんだか分からなかった。買い物中の主婦が何事かと、こちらを見ていた。

「信じられないかもしれない・・・僕だよ・・・」

「・・・?」

「榛名。高間 榛名なんだよ僕は」

「・・・え?・・・・ええ!!?」

今目の前に居る少女が親友の!? あの時、俺と照月と一緒に撥ねられたもう一人の親友。

どこにいるか分からなかった榛名。だが・・・何故そんな姿に?

「本当に榛名なのか?」

「うん!榛名だよ!信じられない!また会えるなんて!」

とにかく今度は俺が驚く番だった。

俺たち2人はさっさと買い物を済ませ、とりあえず俺の家に来て貰うことにした。





後書き


ご感想ありがとうございます。全て目を通しております。大変励みになります。
あまり書きなれていませんので、文章が変なところ等もあるかもしれません。
生暖かく見守って頂ければ幸いです。


>こいつはフェイトの頭を書き換え、乗っ取った奴だと読めましたがそれだと「母さん」と呼んでいるのが違和感あり過ぎです。中身赤の他人でしょう?

この辺はおいおい作中で説明しますのでしばしお持ちください。

既に無印はプロットが出来ていて、私生活と兼ね合いもございますが、
9月中に完結できるかと思っております。

では失礼します。






[29659] 5話目
Name: ヨフカシ◆03fa09d9 ID:4922c304
Date: 2011/09/10 01:59
5話




「まさか・・・榛名が女の子になってるとは・・・しかもライバルの子・・・」

「和輝、このお爺ちゃんは誰?」

「聞いて驚け。照月だ」

「ふ~ん。・・・ってえ!?ええええええ!?」

あれから家に来てもらい、お互い何があったか話をすることにした。



「そっか・・・じゃあ照月は70年も前に飛ばされたんだ」

「ああ、そうだ。それで苦労したんだ」

「しかもコイツ結婚してやがったんだぜ」

「えええええ!?」

さっきからフェイト・・・榛名は驚いてばかりいる。

ちなみに名前はファイトじゃなくて、フェイトだった。

「で和輝はなんで、子供になってるの?」

「分からん。気がつくとガキになってて孤児院に居た。だから逃げてきたら照月に拾われた」

「に・・・逃げたって・・・大丈夫なの?捕まらない?」

心配そうな榛名。

「大丈夫だよ。今は、俺が身元引受人になってる。だから登録上は・・・孫?」

「なんで疑問系なの?」

こっちの世界の法的に、俺は照月の家族として登録されてるようだった。

身分など色々でっちあげたようだ。照月は管理局に籍を置いていたことがあり、

その時の人脈を頼ったらしいが、詳しくは良く分からない。



「それでなんでお前は幼女になっているんだ」

まず一番の疑問を聞いてみた。

「あの時、わ・・・僕がネコを助けようとして飛び出したのは覚えてるよね」

「ああ、もちろん」

当然だ。あれのせいで、アニメだかのよく分からない世界へ迷い込んでしまったのだから

「まずは、そのことで謝りたい。2人まで巻き込んで本当にごめんなさい。謝って許されることじゃないかもだけど・・・でも・・・」

「いや、いいよ。もう」

「え?いやいや・・・そういうわけにもいかないよ!」

「たしかにこんなことになっちまったけど、みんな生きてるし? まぁ、こうなっちまったもんは仕方ないだろ」

「ああ、俺も和輝も体が反射的に動いて飛び出したワケだし。自己責任だ・・・俺達は気にしてないよ」

まだ榛名は納得してないようだけど、話を進めてもらうことにした。



「あの後、なんかずっと宙を漂っていたんだ。上も下もなくて、よく分からない感じ。自分の体を感じなかった。

たぶん、自分は死んだんだろうって思ってた。その時、何かガラスが砕けるような、悲鳴のような音が聞こえて、

何かスッと吸い込まれるような感じがして・・・気が付くとこんな感じになってたんだ」

「よく分からないけど幽体離脱体験みたいなもん?」

「どうだろう?」

「・・・あんまり心霊とか、霊魂とか信じるタチじゃないんだが・・・想像として思いつくのが・・・あの時、俺と和輝と榛名は事故の衝撃か、

何か分からない力が働いて、この世界へ飛ばされた。俺と和輝は、後から飛び出したからダメージが少なくて、肉体的には無事だった。

だが、こちらへ来る過程で何故か幼児化して、それぞれこの時代と、70年前に飛ばされた。だけど榛名はモロに衝撃を受けたせいで

肉体が死んでしまったとは考えられないだろうか? それで魂だけになってこちらへ来て、フェイトと言う少女に憑依したと」

と照月が語る。

「魔法やら使ってる時点でファンタジーだし、現実感ないけど、ますます俺らって変なことになってんのな」

「あくまで想像だよ。本当の所、理由なんて誰にも分からないだろうな」



実のところ自分達は神様でもなんでもない。変な体験してるが、元は普通の高校生だ。

こんな突飛な、本来あり得ない状況を、何が起きたか正しい理由を知る術はないし、

分かる人間も居ない。何か、理解しがたい偶然が重なって、今の状況があるにすぎない。だから想像による憶測しか出来ないのだ。





「でも、なんで和輝達はジュエルシードを集めてるの?」

「照月の話だと、ここが魔法少女のアニメの世界らしい」

「・・・え? どういうこと?」

ここが以前、照月が兄から見せられたアニメの世界か、それに近い世界である可能性が高いと詳しく話した。

「それでジュエルシードを集めて、俺たちの世界へ戻れるんじゃないかってな」

「なるほど・・・ちなみに今、何個持ってるの?」

「11個。そっちは?」

「6個」

「残り4個は持ってる奴がいるから、俺たち3人の手の内に21個あるわけだ」

「そうなんだ・・・どうりで最近見つからないわけだ」

そう言うと榛名はため息を付いた。

「で?榛名。お前はなんで集めている?お互い話しておこうぜ」

「そうだね・・・まず、フェイトは母の為に集めていた」

「ああ知ってる。照月からアニメの大体の流れは聞いたし。うろ覚えで間違ってるとこも多いけど」

「うるさいな。きちんと見たわけじゃないんだから完全に覚えてるわけ無いだろ」

照月が後ろで、不満の声を上げる。だがコイツのうろ覚え情報は本当に適当すぎる・・・

聞いてた名前がほぼ全て間違っていたほどだ。



「・・・わ・・・僕になる前のフェイトはね、母の為にジュエルシードを集めに来た。だけど1個も見つけられなくて、母の怒りを買ったんだ」

「そうか・・・! 俺が集めていたから、本来、アニメでフェイトが集めるハズの物が無くなっていた・・・? ということ・・・なのか?」

「そう・・・なるのかな? そして今まで、母の娘だと思っていたけど、それが誤りであると教えられる。アリシア。母の本当の子供。

フェイトは違法技術を使って、アリシアから生み出されたクローンだった。その事実を知りフェイトの心は死んだんだと思う。」

「つまり・・・? その魂が死んだ肉体に、お前が偶然入り込んだと言う事か?」

「多分」

「でもさ、お前がなんでジュエルシードを集める?お前には関係ないし、逃げればよかったんじゃないのか?」

「ダメなんだよ和輝・・・わた・・・僕は・・・榛名だけどフェイトでもある。フェイトだけど榛名なんだ」

俺と照月は顔を見合わせる。いまいち要点が得ない。



「どういうことだ?」

「わた・・・僕は、フェイトと同一の存在であるってことかな・・・?」

「・・・?」

よく分からない。

「フェイトとしての記憶も、榛名としての記憶もあるんだ。だから、フェイトであって榛名であり、榛名であってフェイトでもある。

別々の存在じゃなくて一つの存在になっているのかな? だからフェイトとして今までやってきた記憶、想いもあるし、

自分がフェイトであることに違和感を感じない。けど、同時に、自分が榛名であり、榛名として生まれて今までの記憶も持っているんだ。

だから・・・元の世界の、友人や家族と同じくらい、フェイトの母へ大しても愛情がある・・・だから裏切れなかった」

「え~と・・・つまり、心が死んだフェイトの肉体を、榛名の魂で蘇生させたってことなのか? そんなことが現実で起きるのか?」

「確かに不可思議で、非現実的ではあるが、既にアニメの世界に居るわけだしな・・・今までの常識で考えるべきじゃないんじゃないか」

と照月が言う。

「自分で言ってても、よく分からない。でもわた・・僕は、榛名だよ。本質は・・・。そこにフェイトの記憶と意識を引き継いで、

今の僕が生まれた。榛名もフェイトも死んで、2人で一人になったのかな・・・足りない部分を補って今の新しい自分が生まれたんだと思う」

「・・・まぁ難しい話は俺には分からん。だけどオマエが榛名であることは分かる。それでいいじゃん」

「・・・まぁ、和輝の言うとおりだな。どういった理由かなんて、それこそ神様にしか分からんだろ」

「わた・・僕もうれしいよ。また2人に会えるなんて・・・もう和輝達に会えないと思ってた」

それから3人で話し合った。久しぶりに戻った、かつての日常。

少年と老人と少女と・・・みんな容姿は変貌しているが、その時間は、かつてと同じ心地よい時間だった。








「で・・・どうしようか?これから」

俺が切り出す

「たしか、アニメだとフェイトの母が、ジュエルシード使ってアルハザード?だかに行くのが目的で、

最後は要塞みたいなとこに殴りこんでいたと思うが」

「和輝、私は・・・僕は・・・母さんの望みを叶えてあげたい・・・だけど和輝もジュエルシードを使って、帰りたいんだよね?」

「・・・確かに最初は帰ろうと思ってたけどな・・・まぁ元より可能性があるかもっ・・・て話だったし、照月と再会して、

そういう話を聞いて、ひょっとして行けるかも!じゃあ、やるかって感じだったしさ・・・だからお前がそういう目的で使いたい

っていうなら俺はそれでも言いと思う。お前がさ、こんなに何かしたいって強く言うことって滅多にないしな」

「和輝・・・ありがとう」

「でも。良いのか?当てにならない照月情報だとその母ちゃんは割れた時空だかに落ちて、

アルハザードだかに行けるか分からないらしいぞ?」

「当てにならないは余計だ」

「・・・母さんはさ、病魔に侵されていて、もう、そんなに長くは無いんだ。もっと早く適切な治療を受けていれば・・・

どうにかなったかもしれない。けど手遅れだった。どんなに長くても持って半年。もうしかしたら、明日にでも逝ってしまうかもしれない・・・

もうどうしようもないんだ。だから・・・最後は願いを叶えさせてあげたい。それが今生の別れだとしても・・・最後の時間は母さんの好きにさせてあげたいんだ」

「そうか・・・分かった。じゃあ母ちゃんに全部くれてやるって方向でやるか」

「・・・本当にいいの?」

「くどい。良いって言ってんだろ。お前こそ・・・」




元の世界へ戻りたくはないのか?と言おうとして辞めた。

榛名は・・・俺達の想像が正しいならば、魂だけの存在になってフェイトと融合し一つの存在になった。

では元の榛名の体は? あの元の世界にあるのか?

魂がない体。それは死んでいるのではないのか? そしてその、死んでいる体はまだ存在しているのか?

既に火葬されて、存在しない可能性もある。それに・・・仮にもし戻れたとしてどうする? 

今の少女の姿のまま戻ってくるのか? それとも、魂だけ離れて、戻って、体が無くて、今度こそ死んでしまうのか?

全ては想像の域。それは実際にやってみないと誰にも分からない。どっちにしろ良い結果にはならない気がした。

「・・・・・・・」

言いかけて辞めた俺を、榛名は優しい顔で見ていた。まるで、何で言うのを止めたか分かってるかのように。

昔から、人の顔色を伺う奴だった。俺はなんだか照れくさくて目を逸らした。

「ありがとう。でもさ・・・わた・・・僕は戻れなくていい」

「え?」








榛名の家には姉が3人居た。母と合わせて4人の女。一家の大黒柱の、父親の立場は弱く、女性が強い家だった。

そんな中、ついに待望の男の子が生まれた。榛名である。

上に3人も娘が居た事と、赤子の成長は早く、洋服などは、すぐに大きくなるので着られなくなり、新しく買うのも経済的に負担になると

榛名は幼い頃・・・5歳くらいまで姉のお下がりの服を着せられていた。また、遊び相手が姉や、姉の友達で、近所に同年代の友達は

女の子しかおらず、榛名は自然と女の子の中で育った。また、物心付くまでは自分を女だと思っていた程だ。



やがて小学生になり、男物の服の違和感にもなれたものの、今までの経験から男より、女の子との方が話が合い、女の子とばかり遊んでいた。

小学生の頃の男児といものは、『男の癖に女と遊んでる』などと異性と遊んでる同性をバカにする傾向がある。

単に生物の本能なのか、自分以外の同性が異性を囲っている、遊んでいるのが面白くないというのもあるのだろう。

もっと単純に本人ですら自覚出来ていない嫉妬かもしれない。

まだ、そういう気持ちが自分でも理解できないので、からかうという行為に出ることが多いのだろう。


ついでに榛名も線が細く、まるで女の子みたいな容姿だったこともあり、『女男』などと、からかわれる対象になってしまった。

なんで、自分は何も悪いことをしてないのに、こんな目に合うんだろう。もっと男らしくなりたい、

そうじゃないなら女として生まれてきたかったと悩んでいた。



そんなことが続き、小学校5年生になった時、クラス変えをして和輝と照月と一緒になった。

この2人は評判がよくなかった。中学生に喧嘩をふっかけて相手に大怪我させたとか、家がヤクザとか、そんな悪い噂話を聞いたことがあった。

間違いなく、関わりたくない人種のひとつだろう。特に和輝は、当時は人を寄せ付けない雰囲気を持っていて、榛名には恐ろしく感じた。

だから、絶対に関わるのはよそうと思っていた。



そんなある日、またからかわれた。クラスの男子だろう。しょうもないイタズラだ。筆箱を隠されたのだ。探しても見当たらない。

たぶん筆箱を隠したであろう、自分を苛めている連中がニヤニヤしてこちらを見ていた。すごい悔しかった。なんでこんな目に

合うのかと、自分が何をしたのだと、泣きたくなった。その時である。

「くだらねー真似してんじゃねーよハゲ」

そう言って関わりたくないと思ってた、あの評判がよくないとされる和輝が、自分を苛めている連中が隠していた筆箱を取り返した。

「ああ? 山城!てめぇに関係ないだろ!部外者は引っ込んでいろ!」

「うるせぇなぁ・・・くだらねぇイジメしてんじゃねぇよ・・・見てるとイライラすんだよ。二度とするな、次やってるの見たらボコす」

助けてもらって失礼な話だけど、その時の和輝はすごい怖かった。まるで今にも殴りかかるのではないかと言う迫力だった。

後ろには、彼の親友だという照月。恐怖を感じたのは苛めっ子達も同じようで、誰一人反論せず、逃げるように教室を出て行った。



「ん」

と筆箱を投げてくる和輝

「あ・・・ありがとう」

無愛想だけど悪い人じゃなさそうだ。そう思った。

「なんで助けてくれたの?」

「別に・・・ただ、ああいうのが気に入らないだよ。お前こそなんでやり返さないんだ男の癖に」

「・・・無理だよ。喧嘩とか僕には出来ないし・・・きっと僕が男らしくないから・・・イジメら・・・」

そこまで言ったところで頭が揺れた。殴られたようだ。

えええ!?この人やっぱ悪い人だ!怖い人だ!と思った。

「そうやってウジウジすんな!ウゼェ・・・お前さ、友達居ないだろ」

確かにそうだ・・・以前は居た友達も、女の子ばかりだし、最近は遊んでない。クラスでも孤立していた。

「・・・うん。僕、友達居ないや」

「・・・・・・・・・・・・マジで?悪い」

なんか謝られた。いい人が悪い人か分からなかった。

「・・・そうやってウジウジナヨナヨしてっからダチの一人も出来ねーんだよ。

まぁ俺も、今じゃ友達ってか親友って言えるのコイツしか居ないけどな!」

と言うと隣に居た照月の肩をポンポンと叩いた。



「じゃあさ、俺達が今日からお前のダチになってやるよ」

何を言ってるか分からなかった。友達になってくれる?僕の?

「でも僕と居てもつまらないよ。僕みたいな奴なんて・・・」

また頭に振動が走る。殴られたらしい。2回目だ。

「そういう言い方すんな。めんどくせー もういいから、今日から友達だ、いいな!」

当時の気弱な自分には、反論できない一方的な友人宣言。

「俺は山城 和輝。こっちが・・・」

「霧島  照月だ」

でも嫌じゃなかった。

悪い奴と聞いていたが、人の噂なんて信用できないものだ・・・

この人達は良い人だと思った。

「で?お前、名前なんだっけ?」

「おいおい・・・同じクラスメイトだろ。名前くらい・・・なんだっけ?」

「・・・・・・・・・」

たぶん。







だいぶ後から、照月から聞いた話だと、当時、和輝の家は父親が事故で亡くなり、

父が、かなりの財産を持っていた為に、若い母親一人で和輝と和輝の弟を2人も育てるのは大変だろうから、

一人を家で引き取ろうかなど、財産目当てで欲に目がくらんだ親族が、毎日のようにやってきては追い返していたそうだ。

今まで、良い人だと思っていた親戚の、人間の醜悪な部分を見てしまい、和輝は一時期、人を信じられなくなり荒んでいたらしい。

そのせいで、彼から友人が一人、また一人と離れていき、最後は小さい頃から一緒だった照月しか和輝の元に残らなかったそうだ。

結局僕も、和輝も、周りに馴染めなかった、似た者同士だったのかもしれない。




友達になってから3人でつるんだ。まともに男友達と言うモノが、今まで居なかったので全てが新鮮だった。

毎日、毎日、日が暮れるまで遊んで、毎日が楽しかった。

そんな毎日が続き、何時しか3人は親友と呼べる間柄になっていた。

クラスメイトからは不良3バカなどと言われていたようだが、どうでも良かった。

僕は和輝に救われた。あそこで友達になろうって誘われて、毎日が変わった。

そんな関係が高校生まで続いた。

この頃からだろうか、あるいはもっと前か・・・自分の心にある気持ちが生まれた。

自分は、あろうことか、同性である和輝に惹かれて居たのだ。恋をしていた。

無論、同性同士だ。普通の状態ではない。一次の気の迷いだ、自分はおかしいんだ。と自分に言い聞かた。

そして、この気持ちを隠し続けて親友を続けていた。この社会に置いて、大多数に異常とされるこの気持ちは、

絶対に隠しておかないと行けない。それこそ和輝に知られれば・・・それが怖かった。




そしてあの日。ファミレスで文化祭の打ち上げの後。

ネコが道路へ飛び出すのを見て咄嗟に飛び出した。後ろで和輝と照月が叫んでる。ネコを抱き、悪いと思いつつ

車の当たらない距離へネコを放り投げた。これで大丈夫。そう思ったとき世界が揺れるのを感じた。

車に跳ねられたのだろう。痛いはずなのに、痛みを感じない。宙へ引っ張られる感じがして気が付くと何も無い空間に居た。

上も下もない。無。そして何かが割れる音が聞こえて、気が付くと今の体になっていた。

今思えば、あの嫌な音はフェイトの心が砕けた音なのだろうか?

自分は・・・フェイト、フェイト・テスタロッサ・・・クローンだった・・・母さんの娘じゃなかった。私はいらないんだ・・・母さん・・・アリシ・・・

そんな思いが頭に流れてくる。今まで、フェイトが見た記憶、知識、そして感情・・・それが自分の中に入ってくる。

自分は誰?私は誰?僕は誰? グチャグチャと色々なモノが混じってひとつになっていく・・・

自分の記憶はちゃんとある。でもフェイトの記憶もある。フェイトであり、榛名である自分。

男から女になったのに違和感を感じない。むしろ、むしろ・・・これが本来の正しい状態に思えてしまう。

―――ああでも・・・

「これなら・・・女の子なら・・・和輝を好きになってもいいんだよね・・・」

自分でも知らないうちに無意識にそんなことを呟いていた。















戻れなくていい・・・突然そんなことを言い出す榛名。

「どうしたんだよ榛名」

「別に戻れなくていい。それと・・・『僕』はもう榛名じゃない。榛名だけど、こっちの世界では『私』は『フェイト』だよ和輝」

「・・・? あ?・・・何を・・・? しかし、いきなり名前を変更ってもなぁ・・・しっくり来ないし、榛名は榛名だろ」

「フ・ェ・イ・ト」

「いや・・・」

「フ・ェ・イ・ト」

「あ・・・うん。フェイト」

なんか鬼気迫るものを感じたので、とりあえず従った。

フェイト、フェイト、フェイト、よし大丈夫覚えた。榛名はフェイトと・・・

照月は、何をアホなことしてるんだと顔してこちらを見ていた。

何故今更、榛名という元の名前ではなく、フェイトと言う名前を名乗りたがるか分からない。

そう言えば・・・さっきからコイツは自分を「私」と言おうとして「僕」と言い直していた。

ファイトと榛名。2人が一つになって今のフェイトが居る。だから思考も女の子よりに変化しているのだろうか?

よく分からない。だが、本人がそう呼んで欲しいと言うならそれでもいいかと和輝は思った。






「で、今後の方針だけど、高町なのはにも来て貰おうと思う。そこで、もう一度話し合いたい」

「高町なのは?誰?」

榛名・・・フェイトは名前を知らないのだろか。

「白い魔法少女だよ」

「・・・ああっ! あの・・・」

何か納得した用で手をぽんと叩いた。まるで昭和のマンガみたいなリアクションだった。

「だから、明日みんなで話し合いたい。どうするハ・・・フェイト。泊まってくか?まだ色々話したいし」

榛名と呼ぼうとしたら何故か睨まれたので言い直す。

「私も、もう少し居たいし、話したいし、泊まってきたいけど・・・家に待ってる子が居るから明日出直すよ」

「待ってる子?」

「アルフって言う、私の使い魔で、友達で・・・妹みたいな子」

「そっか、じゃあ明日の夕方5時くらいかな?その時間に」

「うん。じゃあその時間に」

そう言ってフェイトは帰っていった。




フェイトが帰ってから暫くして照月が話しかけてきた。

「本当にいいのか?ジュエルシードを帰還に使わなくて」

「うん?いいよ別に。どうせ帰れる可能性低いんだろ?他にすることもないし、目的も目標もないからやってただけだし・・・」

「帰るのは諦めるか?」

「分からん。色々なことがありすぎてさ・・・何故か子供になってるわ、実はアニメの世界でしたとか、親友が爺さんになってたり、

幼女になってたり、魔法使いが居たり、俺も魔法使いになったり・・・突っ込みたくなるような非現実体験のオンパレードに少し疲れた」

「そうか・・・どんな道を選ぶにしても、後悔しないようにな。色々な」

「分かってるよ」






後書き

少し長いですがお許しを

感想下さる方、何時もありがとうございます。
フェイトと榛名は憑依というより、融合という感じになってます。
フェイトの魂が死んで、そこへ榛名の魂が入り、2つで一つに再構成されたという感じでしょうか?
性格や意識は榛名がベースなんですが、フェイトの記憶、感情、知識、経験もあるので自分がフェイトであるとも感じています。
なので、以前感想で頂きました「他人がなりすましてアルフをだましてるのでは?」とのことですが
フェイト本人はそういうつもりは一切ないんです。
微妙に表現が違いますが、ドラゴンボールのピッコロと神様とかピッコロとネイルとかの融合と近いかもしれません。

榛名は男性であったころから、和輝に恋愛よりの好意を持っていました。
それは彼が育った環境や、今までの状況から来る一時の錯覚かもしれません。

精神が不安定な未成年の内は男女問わず、ライクとラブの境界がはっきりせず、
友人に恋愛の愛情に近い気持ちを感じてしまう人もあまり珍しくないらしいです。
ただ、普通は社会的な常識から、そういうことは表に出さず、歳を重ねていくと
やがてはなくなるそうですが、榛名の場合、そういった感情を持ったままで
女性の体と意識を有してしまったので、その感情はさらに加速していってしまいます。

TSと言っても「異性と恋愛はねーよ」とか「そこはTSして女の子と恋仲でレズでしょ」とか色々な人が居ますので
「ないわー」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。TSと言うジャンル自体ニッチで
理解して頂ける方はそんなに多くはないでしょう。どうか、そっと見守って頂けると嬉しいです。

また、読まれて気付かれたと思いますが、戦闘らしい戦闘は一切していません。
1期が完結するまで恐らく戦闘はないでしょう。割と淡々と進んでいく感じになります。
そのせいで、本来はアニメ無印で完成させたスターライトブレイカーやらの技をまだ生み出せていませんし、
和輝、なのは、フェイトは戦闘経験を積んでいません。
本来の時間軸であるならば有していたハズの戦闘力を得ていないんです。
そのせいで後に・・・とか色々考えていますがASはまだ考えてる途中なので、お披露目は少し先になりそうです。

私事で、明日辺りから少しドタバタ忙しいので、次回更新は来週中になります。
話自体はラストまで出来ているのですが、修正やら誤字チェックやら書き足しで少し時間がかかります。

それでは、失礼いたします。


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