2011年9月11日 8時55分 更新:9月11日 9時9分
東日本大震災から半年が経過、被災者の多くは避難の場を仮設住宅に移した。復興の先行きが見えず、仮設住宅暮らしが長期化する可能性もある中、コミュニティーづくりや生活環境の確保は大きな課題だ。被災者は厳しい生活を送るが、過去の震災で指摘された孤独死や健康悪化を防ぐため、独自の取り組みも始まりつつある。
岩手県大船渡市猪川町の総合公園仮設住宅団地。県内最多の308戸が建ち並び、市外からの入居者も多い。
「どこに誰が住んでいるんだか、訳が分からない」。市内で被災した新沼枝美子さん(82)はため息をつく。部屋は団地の出入り口から遠く「歩くだけで疲れてしまう」と話す。
夫と入居する陸前高田市の門間サツキさん(67)は「夫しかしゃべる相手がいない」。たまにバス停で知った顔を見かける程度で、「都会のマンションみたい」と苦笑する。
市は当初、同じ地域の住民がまとまるようにしていたが、次第に個別の申し込みに応じて空いた部屋を割り振るようになった。自治会もなく、市の担当者は「作るかは住民が決めることで、こちらはきっかけ作りをするしかない」と話す。
一方、大槌町の安渡(あんど)地区にはわずか7戸の仮設住宅団地がある。入居者は全員、同じ安渡地区の住民で顔見知り。小国勇さん(69)は妻と長男との家族3人で暮らし、「大人数よりまとまりがいいんじゃないの。知っている人ばかりだから、話もしやすい」という。【市川明代、神足俊輔】
行政が民間賃貸住宅を借り上げる「みなし仮設住宅」の入居戸数が8200戸と、仮設住宅入居戸数の6倍以上に達する仙台市。市内各所に点在するみなし仮設で暮らす住民らは自ら、コミュニティーを保つ方法を模索している。
被害が大きかった同市若林区荒浜地区。自宅を失った会社経営、河野哲さん(46)らは地区を離れてみなし仮設に入った住民向けにブログを開設した。仮設住宅であるイベントや復興への動きを紹介し、県外からの問い合わせも多い。
河野さんは4月、父親の介護のため避難所からみなし仮設のアパートへ。物資配給や医療などの支援情報を得る機会を失い、情報を求めて仕事の合間に避難所や仮設を回った。「同じように孤立している人がいるはず」とブログを思いついた。
住民でつくる荒浜復興まちづくり実行委員会が地区の全737世帯中507世帯から回答を得たアンケートでは、入居先は仮設が2割、みなし仮設が6割。ブログは好評だが、ネットに縁遠い高齢者もいる。河野さんは「荒浜から遠いマンションに入り、顔なじみがいる仮設になかなか足を運べない高齢者もいる。復興への思いを一つにできる場にしたい」と話す。【堀智行】
福島県では原発事故のため、住み慣れた土地を離れ、気候風土が異なる地域に建てられた仮設住宅に多くの住民が入居している。同じ自治体内での入居に比べ、不安や孤独感が増す可能性もあり、自治体もコミュニティー維持に腐心している。
全町避難する大熊町は、21の行政区ごとにまとまって入居する形式にした。だが、沿岸部の大熊町と違って雪が多い会津地方で冬を迎える不安などから、入居のキャンセルが続出。住民が他地方に流れて分散し、コミュニティー維持が懸念される事態になった。
市内23カ所に仮設住宅を建設した南相馬市は、各仮設住宅に自治会設立を呼びかけた。13自治会が発足し、会長を中心に市への要望や意見をとりまとめたり、持病を抱えた高齢者の薬を手配して被災者の孤立を防ぐ。
県が16カ所で進める高齢者サポート施設整備も住民交流を促し孤独死を防ぐ取り組みだ。5日に富岡町と川内村の約300世帯が暮らす郡山市の仮設住宅に第1号がオープン。県は支援強化のための連絡会議を設置、対策の検討を始めた。【福永方人、神保圭作】
内陸部の高台に建つ仮設住宅では、車を運転できない高齢者が「交通弱者」に追い込まれている。
宮城県塩釜市伊保石(いぼいし)の仮設住宅で避難生活を送る女性(70)の悩みは、約2キロ離れた中心部の病院へ往復で約3000円かかるタクシー代だ。2カ月に1度の障害者年金約10万円のうち、5万円以上を占める。「こんなギリギリの生活が続くのだろうか……」
36歳の時に遭った交通事故の後遺症に苦しみ通院が欠かせない。震災前に住んでいた同市新富町のアパートは病院も近く、3万5000円の家賃は月約4万円の生活保護と障害者年金で賄えた。だがアパートは被災。中心部で家賃が同程度の物件はなく、仮設住宅に入るしかなかったが、入居に伴い生活保護は打ち切られた。障害者や介護が必要な高齢者向けにタクシー代の一部補助制度があるが、仮設入居だけでは対象にならず、市長寿社会課は「助成拡大は財政的に難しい」。タクシーの領収書を保管する女性は「どうにか補助してほしい」と話す。
一方、岩手県釜石市は東京大と連携し、高齢者ケアや医療体制を充実させ、商業施設も設置する先進的な仮設住宅を同市平田の平田総合公園に設置した。玄関が全て同じ方向を向いている一般的な仮設住宅と異なり、玄関を向かい合わせにするなどコミュニティーづくりを促す工夫もされている。
高齢者が入る「ケアゾーン」60戸▽子連れ世帯が入る「子育てゾーン」10戸▽「一般ゾーン」170戸--の大型仮設住宅。中心には高齢者の通所施設があり、民間介護事業者が24時間の見守り態勢をとる。診療所も月内には開設予定だ。
3人の子供と子育てゾーンに入居した上野里恵さん(30)は「通所施設が始まったら職員として働きたい」と話す。ただ、9月の予定だったスーパーの開店は11月にずれ込んだ。妻と入居した柏木功好(かつよし)さん(68)は「生活にはスーパーが欠かせない。買い物に行く足が無く、車を買った」と少し不満そうだ。
東大高齢社会総合研究機構の小泉秀樹准教授は「仮設住宅にもある種の『豊かさ』が必要。医・職・住がある『仮設の街』として、まちづくり協議会があるとよい」と自治組織設立を提案。9月中にはブロックごとにリーダーを選ぶという。【宇多川はるか、池田知広】
岩手、宮城、福島3県の沿岸37市町村と原発事故で避難措置がとられた5市町村の計42自治体に対する毎日新聞の調査では、予定の93%にあたる計4万6627戸の仮設住宅が完成した。ただ、入居戸数は4万467戸で入居率は87%にとどまる。完成率、入居率とも福島県が最も低く、古里から離れた地域での整備や入居の困難さを表している。
今回の震災では、被災者が入居した民間賃貸住宅の家賃が一定以下の場合、仮設住宅として扱い、行政が費用を負担する制度が実施された。
42市町村のみなし仮設住宅は計3万9346戸に上る。宮城、福島では「みなし仮設住宅」入居者が、通常の仮設住宅入居者よりも多くなった。
仮設住宅の設置は原則2年3カ月まで。それまでに自宅再建が難しい被災者のために、恒久的な災害公営住宅(復興住宅)の建設が必要になる。だが、現時点で42市町村で建設の計画があるのは2205戸にとどまっている。【北村和巳】