●asahi.com配信記事 asahi.comは5日、《特捜部捜査は「でっち上げ」 自殺?の柴野元議員が手紙》という見出しで次の記事を配信した。
未公開株をめぐる詐欺事件などで判決を受ける予定だった5日に、東京都内で自殺したとみられる柴野多伊三・元衆院議員(60)は、朝日新聞など報道各社に手紙を送り、自らを逮捕・起訴した東京地検特捜部の捜査を「でっち上げ」と批判していた。
手紙の消印は4日付、A4の用紙4枚に印字されていた。「命をかけて告発したい件がある」と前置きし、「逮捕容疑よりも自民党幹部への不正献金の調べに長期間を要し、勝手なシナリオの押しつけにあきれ果てた」「認めなければ保釈されないと脅迫され、断腸の思いで供述調書に署名した」などと訴えた。
また、懲役6年、罰金2200万円を求刑されたことから、「長期実刑という悲惨な判決が予想される」としたうえで、「いたずらに長い人生を歩もうとの気持ちはありません」と自殺をほのめかす内容もあった。
東京地検の八木宏幸次席検事は「このような事態となり大変残念に思っています。心からご冥福をお祈りします」とコメントした。
●鷲見一雄の視点 戦後の「検察」は占領政策をバックにした「検察優位」で行われた。法を守らせるのが優先の時代だったからだ。
だから、その後に作られた刑事訴訟法や検察庁法もタテマエは立派だったが、ホンネは検察優位と解釈されてきた。それが村木事件まで崩せなかった。崩せたのは前田元検事のお陰である。前田元検事は「本人は犯罪者となったが、歴史的には検察改革の大功労者」なのである。
私が50年以上に亘って「検察官と政治家の被疑者」をみてきていえることは「調べる方の事実認定の論理」と「調べられる方の供述する事実」が違うということだ。造船疑獄で佐藤栄作逮捕延期の指揮権が発動されたのも、日通事件の池田正之輔にせよ、ロッキード事件の田中角栄、リクルート事件の藤波孝生にせよ、本当のことは検察官に供述していない。すればそのときそのときの政治構造が壊れてしまったからだ。言いたくても死ぬ以外に言えないのである。
だから大物政治家が起訴された案件は100%有罪となった。検察が優れていて政治家が馬鹿だったわけではないのである。ここを間違えている専門家と称する人があまりに多いのは嘆かわしい限りだ。
「検察は政治なり」の時代だったのである。これは検察庁法14条と明らかに矛盾する論理である。
柴野も取り調べられた検事に本当のこと供述していなかっただろうし、よしんば供述してもほかの証拠と符号せず、録取してもらえなかったと私は分析する。それが政治家事件なのである。政治家は検察に疑いを持たれたら現行のままでは助かる道はない。帝人事件は戦前の事件、堀江貴文の弁護に援用していた弁護人がいたが、私は「時代錯誤も甚だしい」と思っていた。
ここがわからないと特捜案件の正確な評論・解説はできない。検察・政治の側にも正義より秩序を守り、政権基盤を守らなければならないという優先すべきものがあったのである。真相解明など検察にとっても政治家にとってもどっちでもいいことであった。問題は起訴するのか、しないか、なのである。佐藤栄作は起訴されなかったが、田中角栄は起訴された。ごちゃごちゃ言う人が今だにいるが、後の祭りに過ぎない。
もうこういうまやかし捜査は止めるべき時期が到来した。
それには政治家の事件だけでも検察官の取り調べ全過程の可視化を実施する以外に解決策はない。私は柴野が絵空事を新聞社などに訴えてきたとは思わない。(敬称略)