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早期更迭にしくはなし 鉢呂経産相

ジャーナリスト 萩谷 順 公式ブログ
 野田佳彦内閣が発足してわずか一週間、 施政方針演説すらまだなのに、早くも手痛いボロが出ました。鉢呂吉雄経済産業大臣です。野田首相に随行して福島県の東京電力福島第一原発事故現場と周辺を視察したあと、「市街地は人っ子一人いない、まさに死の街という形だった」と発言したのです。

鉢呂

●「批判されるべきなの?」という疑問もあるが   この発言については、「それほど批判されるべきなのか?」という疑問を持つ人が少なくなかったようです。悲しいことですが、原発周辺の市街地に人っ子一人いないのは事実です。また、まったく人がいないわけではなくても、人影のまばらな町を「ゴーストタウン」に例えることはあります。そんな感覚でしょうか? しかし、原発事故の被災者たちが置かれた環境をよく理解するよう努めれば、それは違うということがわかってくるでしょう。

●被災者の希望を打ち砕く心ない発言   大震災・原発事故の被災者は、家を追われ、家を遠く離れたところに疎開せざるをえなくなっています。家族がばらばらになったり、日頃助け合ってきた隣近所からも切り離されたり、さらには職場をも失ったりした人が多いのです。人は、一人では生きていけません。家族や友人の絆、隣近所の絆、そして職場関係の絆の中で、助けたり、助けられたりして生きています。大震災の被災者はそれが根こそぎにされました。昨日のテレビ朝日「スーパーJチャンネル」では、避難所から仮設住宅に移った高齢のご夫婦を取り上げていました。ご主人は大震災以降、寝たきりに近くなりました。奥さんはいいます。「311日以来、何もやることがなくなったからね」と。もし、震災がなかったら、このご主人にも家族や隣近所の長老として、期待もされ、さまざまにやることもあったでしょう。周囲に期待されているということは、その人にとって「希望」になります。原発被災者の場合はふるさとの放射能汚染が長く続くという点で津波の被災者よりはるかに深刻です。原発に近いところの住民たちは、いつ帰れるかわからない不安にうちひしがれていますが、それでも、「いつかは帰れるだろう」という希望にすがっています。鉢呂経産相の発言は、その人々の希望を踏みにじるような発言なのです。だから批判されるのです。思えば、菅直人前首相も「東日本がつぶれる」「20年は帰れない」と発言したとして批判されました。どんな人々にもやさしい政治を主張していたはずの政治家集団に属する鉢呂氏(旧社会党系横路グループ)や菅氏(市民運動出身)が、そろいもそろって心ない発言をするのですね。  

●謝罪も心伴わず   鉢呂発言については、さすがに野田首相は直ちに「不穏当な発言だ。謝罪して訂正してほしい」と不快感を表明しました。これは正常な反応です。これを受けて、それまで四の五のいっていた鉢呂氏は「思いはみなさんにご理解いただけると思うが、被災地のみなさんに誤解を与える表現だった。真摯(しんし)に反省し、表現を撤回したい。大変申し訳ありませんでした」と陳謝しました。しかし、これとて、かつて民主党が批判してきた自民党の暴言大臣の謝罪の様式を踏襲したものです。ことばは丁寧ですが、「お前たちは誤解したのだ」と宣言しています。野田首相の意さえ理解していないのがありありです。

● 新しい暴言も暴露される   そのためでしょう。今度は足下から火がつきました。鉢呂氏は視察から帰京した8 日夜、都内の議員宿舎で記者団と懇談中、記者に防災服の袖をすりつけるしぐさをし「放射能をうつしてやる」などと発言したことが判明したのです。これがなぜけしからんかは、説明する必要もないでしょう。それよりも重大なのは、この発言が行われたとき、現場には大臣と記者しかいなかったことです(ひょっとしたら、秘書もいたかもしれませんが)。当然、情報源は「鉢呂番」の記者です。鉢呂氏は国対委員長も務めていますから、記者団との付き合いも昨日今日始まったものではありません。普通の政治家なら記者団との関係も親密あるいは、情の湧く関係になるのが普通ですが、記者の中に「大義親を滅する」行動に出た人がいたのです。そして、興味深いことに「放射能をうつしてやる」という発言そのものに、新聞によって「ほら、放射能」とか「放射能をつけちゃうぞ」とかの細かい相違があるのです。通常、自宅での懇談はメモなしが原則です。その記者たちが一斉に書いたということは、すでにこの大臣が就任した瞬間から「要注意」とみられていたことをうかがわせます。

野田首相 

 ● 早期に辞任させなければ、累は野田首相にも及ぶ   福山哲郎前官房副長官は10日のTBS番組で「発言は不適切だ。これからいろいろなことが起きてくる」と述べ、進退問題に発展する可能性に言及しました。「これからいろいろ出てくる」というのは意味深長です。wikipediaによると、鉢呂氏はこれまで、昨年起きた北朝鮮の韓国・延坪島砲撃について、「砲撃戦は民主党にとって神風だ」と発言したとか、昨年末の正副国対委員長会議で「野党の質問があまりにも低俗だ。答弁者は質疑者の低劣さに合わせなければ答えようがない」と発言したとか、芳しくない言行を残しています。民主党幹部が「自発的辞任が望ましい」と表明したのは、放っておけないということなのでしょうか。しょせん、この大臣は力量、適性というより派閥力学で選ばれた人のようです。早期辞任で火消しができればともかく、今週の週刊誌に様々な過去が出てくるようでは、野田首相の任命責任も次第に大きくなってしまいます。

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