約2万人の死者・行方不明者を出した東日本大震災の大惨事から半年になる。巨大津波と原発の重大事故は平穏な日々の営みを打ち砕いた。
そこから立ち上がろうと被災者が積み重ねてきた努力に敬服する。それに引き換え、政治も行政も、本来の役割を果たしてこなかった。
「現在進行形」の大災害を乗り越えるため、今度こそ、政治がきめ細かい政策で復興をけん引する番だ。一人一人が被災者を支えていく決意も新たにしたい。
こうした中、鉢呂吉雄経済産業相が東京電力福島第1原発視察後、報道陣に「放射能をつけたぞ」との趣旨の発言をしたことは、政治家としての資格を著しく欠くものだ。辞任は当然であり、政権は危機感と緊張感のなさを猛省すべきだ。
岩手、宮城、福島の3県ではピーク時に2000カ所以上の避難所で40万人以上が生活した。岩手県と福島県では仮設住宅の建設と入居が進んだが、宮城県では石巻市など13市町100カ所以上の避難所に今も3000人近くが暮らす。
仮設住宅の建設遅れだけでなく、不便な郊外など立地上の理由で入居辞退が相次いでいる現状もある。被災者の利便性とどう調整するか、自治体を中心に知恵を絞りたい。
阪神大震災の時に、仮設住宅で孤独死が多数出たことも心に留めたい。特に、高齢者が孤立せぬよう入居者同士が声を掛け合うコミュニティー作りが欠かせない。人々が集う場を設けるボランティアが果たす役割も大きい。
仮設住宅に移れば、食費や光熱費は自己負担だ。就労が生活再建の第一歩となるが、雇用や被災企業の実態に目を向けると、不安が募る。
厚生労働省の集計では東日本大震災の影響で失業したとみられる労働者は3県で7万人に上る。だが、就職したのはハローワークに登録した求職者の2割だ。求人が建設業に偏っているのも一因だろう。失業手当の切れる今秋以降、経済的に困窮する人が続出するとの見通しもある。
野田佳彦首相は、民主党の代表選で、「特区制度を活用し、被災地への企業誘致と雇用創出を目指したい」と述べた。希望職種のミスマッチを克服するよう、積極的に官民の協力の歯車を回したい。
被災地には水産業など中小・零細企業が多い。「進むも地獄。引くも地獄」。事業再開に向け、そんな切実な声が聞こえてくる。二重ローン対策では旧債権の買い取り機関が被災各県にできる。買い取り価格をめぐる立場の違いが早くも表面化しているが、関係者はスピード感のある解決に向け努力してもらいたい。
時間がたつにつれ顕在化するのが心の傷ではないだろうか。特に子どもには目配りが必要だ。阪神大震災の時に兵庫県内に開設された「こころのケアセンター」は参考になる。体を病んでいる人への対応も猶予はできない。大きなダメージを被った医療体制を一刻も早く立て直すよう、政府も手立てを尽くすべきだ。
福島第1原発でも、事故収束のゴールは見えない。1号機と3号機では原子炉圧力容器の下部の温度が100度を下回ったものの、2号機は100度を超えている。政府がめざす「冷温停止」の見通しが立ったとはいえない。
なにより、溶けた燃料の状態や場所、原子炉の損傷状況が、今もってわからず、これが避難地域の解除の妨げになる恐れがある。
たとえ炉が安定したとしても、すでに放出されてしまった大量の放射性物質への対応には長い年月がかかる。住民が安心して暮らすためには、「測定と除染」を着実に進めることが、何より重要だ。
にもかかわらず、政府の対応は後手後手に回ってきた。原発から100キロ以内を2キロ四方に区切って調べた土壌汚染地図を8月末になって公表したが、人々が知りたいのは自分の家の周辺だろう。もっときめ細かい測定が必要だ。
政府の除染基本方針も、今後の生活設計につながるものとは言い難い。住民の立場に立った測定と除染の工程表作りを急ぐべきだ。
除染に伴って生じる汚染土壌などの処理も未解決の大きな課題だ。政府が提案する「中間貯蔵施設」に実現のめどがあるわけでもない。
恒久的な除染と汚染物処理の方法について、早く専門家の知恵を集めて評価し、最良の手段で対策を進めなくてはいけない。
長期の低線量被ばくが健康に与える影響の不確実性にも、住民は翻弄(ほんろう)されてきた。特に子どもを持つ親の心配は、時とともに減じるわけではない。今からでも、被ばくの実態をできる限りさかのぼって調べ、将来の健康管理に生かすべきだ。
食の安全・安心の確保にも心配がある。政府は生産地だけでなく、流通段階での検査をさらに強化する必要がある。
事故発生当初から、政府や電力会社の情報開示が不十分であったことも改めて指摘したい。情報の隠蔽(いんぺい)は、ひいては住民の生活と健康を危険にさらす。電力会社も政府もそれを心に刻んでほしい。
毎日新聞 2011年9月11日 2時30分