【赤木智弘の眼光紙背】放射性物質を遠ざけられれば、それでいいのですか?
2011年09月10日10時00分
赤木智弘の眼光紙背:第192回
野田内閣でも原発事故担当相として再任された、細野豪志が8月に、放射性物質を帯びたがれきなどの処理の付いて「福島を最終処分場にすべきではない」とした理由について、後日「福島の皆さんには一番つらい思いをさせてしまっているので、そこを分かち合う部分が必要」と述べた。この発言が、なぜか評判が悪い。
最終処分だと言っているのに、なぜか「福島の県外に汚染を広める!」などと言っている人たちがいるのが不思議だ。中には「人殺しだ!」などとヒステリックに叫ぶ人も見受けられる。
しかし、放射性物質が降った地域の除染は、国民の多くが望んでいることである。放射性物質を比較的多く含む土やがれきを一箇所に集めれば、放射性物質の濃度は上昇し、リスクは増大する。除染を推し進め、土やがれきを集めれば集めるほど、それを分散して処分できるだけの複数の最終処分場が必要となる。
それを全国に作り、リスク分散をしていくことは当然の考え方であるといえよう。
しかし、そうした考え方に反発する彼らは、果たしてどこで放射性物質を含む土やがれきを処分しろというのだろうか。確かに中には「具体性を欠く発言をするべきではない」というまっとうな批判もある。しかし大半の本音は「福島で処分しろ」ということだろう。「福島から出た放射性物質なのだから、福島が引き受けるのが筋だ」「もう福島は汚染されているのだから、いっそのこと全部押し付けてしまえ」。彼らはそう考えているのではないか。それはすなわち「意図的に福島に放射線リスクを集約する」ということになる。
しかしそれは、かつて日本の原発行政が原発建設を推進するためにやってきたことと同じではないのか?
人口が少なかったり、財政的に厳しいような地方に原発を押し付ける一方で、都市は電気というベネフィットを一方的に享受する。もちろん原発を建てた地域には、電源三法交付金や電力会社による都市開発でジャブ漬けにされた。しかし結局のところ、ハコモノ建設は地元のためにはならず、原発城下町の多くは発展を果たすどころか、原発なしには経済が成り立たず、まったく自立できなかった。(*2)
このことに対して「交付金をうまく使えなかった地方が悪いのではないか」という反論もすることはできるだろう、しかし私が問題にしたいのは、その関係性にある権力構造である。
給料をもらう会社員と、給料を支払う会社が、決して単純には対等に成り得ないように、そこには必ず権力構造がある。たとえ地方が自ら原発を誘致したとしても、それを「地方の責任」と切って捨てるべきではないはずだ。
こうした権力構造の中で危機にさらされるのは、いつも末端の労働者である。JOCの臨界事故では、規定外の濃度の濃縮ウランをバケツで扱わされた労働者が圧倒的な量の放射線に晒された。それはけっして不幸な事故ではない。作業員に対して十分な教育を行わず、彼ら自身が危険を認知できなかったのは、労働者たちの地位を低く押しとどめる権力構造が肯定されるがゆえである。
そして、原発のある土地や、そこで働く労働者からは、電気を大量に使う都市から遠ざけられる。今後はなおさら原発や最終処分場のある地方で子育てをしたいという親は現れないだろう。遠ざけられ、補助金漬けになって、住民だけではなく地方そのものが、どんどん年老いていく。
「福島から出た放射性物質なのだから、福島が引き受けるのが筋だ」「もう福島は汚染されているのだから、いっそのこと全部押し付けてしまえ」という、分かち合い発言に対する反発は、私にはそうした突き放しの最たるものに聞こえる。
除染して、私たちの町からは放射性物質が消えました。放射性物質は全部福島に捨てました。それで何かしら問題が解決したと言えるのだろうか?
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