野田佳彦首相は「手堅い」印象である。しかし、手堅いだけでは日本の未来は切り開けない。「なでしこジャパン」は守りもいいが、得点力があるから勝ち進んでいる。経済政策も同様である。「攻め」の姿勢が問われている。
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は米国や豪州、ベトナム、マレーシアなど環太平洋地域の9カ国の成長戦略であり、自由貿易圏づくりを核心とする。
日本の戦後の経済発展は「貿易自由化」で実現した。今回がその例外であるわけがない。しかし、自由化の目標が非常に高いため、「日本農業が壊滅する」などという恐怖宣伝が浸透し、民主党も自民党も参加をためらっている。木を見て森を見ない議論である。
逆に問いたいが、TPPに参加しなければ日本農業は再生するのか。農業生産は増加するのか。農家の手取りは増えるのか。そんな展望はどこにもない。
TPPに参加しなければ、企業は海外移転をやめ空洞化の動きに歯止めがかかり、製造業の国内雇用は増加に転じるのか。ライバルの韓国や中国の企業に競り勝てるのか。話はまったく逆であろう。
日本が自由貿易協定のネット作りに立ち遅れたため、日本企業は海外市場で不利な競争を強いられつつある。アジア諸国とくらべ法人税も高い。円高も進む。これらがあいまって大企業だけでなく中小企業も海外移転を進めつつある。
中国や韓国、東南アジア諸国は優遇税制や補助金を整備し、世界シェアの高い日本の部品・素材企業を誘致しつつある。日本製造業の宝物ともいうべき企業群である。応じるところも増えている。日本市場の魅力を高めなければ、空洞化は進展する一方だろう。法人税を下げ、TPPに加わって、日本を自由で活力のある市場にしなければならない。
TPP交渉は難航しており、11月のハワイ会合での基本合意は難しそうだ。しかし、それを理由に交渉参加を先送りするようなことがあってはならない。それは「手堅さ」ではなく「無気力」である。
農業の自由化は確かに高度なものを要求される。しかし、明日からというわけではない。発効から10年あるいはそれ以上先のことであり対処の時間はある。自由化の例外品目も交渉次第で設定できるだろう。
TPPはコメの輸出を展望できるほどの強い日本農業にするチャンスなのである。戸別所得補償制度の充実などで混乱を避けつつ農業も「攻め」に転じるのは可能なはずだ。
毎日新聞 2011年9月10日 2時35分