鉢呂吉雄経済産業相が東京電力福島第1原発の視察を終えた8日夜、東京都内で報道陣の一人に近寄って防災服をすりつける仕草をし、「放射能をつけたぞ」という趣旨の発言をした。鉢呂氏は9日午前の会見でも福島第1原発の周辺市町村を「死の町」と発言し、同日午後にこの発言を撤回して陳謝した。
原発を所管する担当閣僚として不適切な言動との批判が出るのは必至で、政府・与党内からは「辞めざるを得ないのではないか」との見方が出ている。閣僚の一人は「こういう話が続くと厳しいかもしれない。救いようがないかもしれない」と語った。
報道陣は、鉢呂氏の福島第1原発視察の見解などを聞くため、8日午後11時過ぎに東京・赤坂の議員宿舎で取材していた。10人程度の記者が鉢呂氏を取り囲み、鉢呂氏はたまたま近くにいた毎日新聞記者に近寄り、防災服をすりつける仕草をした。鉢呂氏はすりつける仕草をした後、報道陣に「除染をしっかりしないといけないと思った」などと語った。
鉢呂氏は8日、野田佳彦首相に同行して、福島第1原発や原発から半径20キロの警戒区域を視察した。その後、帰京し、防災服を着替えないまま、議員宿舎に戻り、報道陣の取材に応じていた。
鉢呂氏は9日夜、報道陣に対し、「放射能をつけたぞ」との発言について、「(記者に)近づいて行って触れることもあったかもしれない。そういうこと(放射能をつけたぞ)は言っていないと思う」と釈明した。
鉢呂氏は9日午前の閣議後会見で、8日に福島第1原発などを視察した際の印象について「残念ながら周辺市町村の市街地は人っ子一人いない、まさに死の町という形でした」と発言した。野田首相は9日、訪問先の三重県紀宝町で記者団に「不穏当な発言だ。謝罪して訂正してほしい」と要求。これを受け、鉢呂氏は9日午後、「被災地に誤解を与える表現だった。軽率だった。被災をされている皆さんが戻れるように、除染対策などを強力に進めるということを申し上げたかった」と釈明した。
藤村修官房長官は9日の会見で、鉢呂氏が佐藤雄平福島県知事に謝罪の電話をしたことを明らかにした。「ただちに(経産相としての)適格性につながるとは思わない」と閣僚を辞任する必要はないとの認識を表明。一川保夫防衛相の「素人だが文民統制」など問題発言が続いていることを踏まえ、近く各閣僚に発言に注意するよう求める考えを示した。
一方、野党からは鉢呂氏の自発的な辞任や更迭を求める声が相次いだ。自民党の石破茂政調会長は「経産相としてではなく人間として不適格で、間違いなく辞任だ」と批判。公明党の斉藤鉄夫幹事長代行は「大臣として不適格で自ら辞意を表明すべきだ。首相の任命責任も問われる」と語った。鉢呂氏は衆院北海道4区選出で当選7回。大蔵政務次官や民主党国対委員長などを歴任している。
毎日新聞 2011年9月10日 2時30分