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[29478] 俺と狐の二鬼夜行   (妖怪退治ラブコメ)
Name: 大石志々雄◆25e3c4b7 ID:d2134302
Date: 2011/08/27 16:29











「のう、そこの御主。ちょいと儂に力を貸してくれんか」


時は平成、場所は九州の山奥。湿気の無い美しい森で、俺は、一匹の雌狐に出遭った。

金色の尻尾をたおやかに振り回し、前足は招き猫のように曲げている。木の上で太い枝に乗っているので、微妙に影になっている。流れるような胴体は、正しく獣。図鑑などに載っているそれより、漫画的な印象を受ける、つぶらな瞳。

紛う事なき――狐。

キツネ

フォックス

お稲荷様

人を化かす、動物。

というか――

「え……おたく、なんで喋ってんの……?」

幻聴ではなく、はっきりと、狐が喋るところを俺は見た。鈴を鳴らしたような、高音のつやのある声。それは確かに、狐が発したものだった。

「ふふん、どうやら儂が何者か気になっとるようじゃな」

そういって狐は笑った。――いや、笑うも何も、狐の笑い顔なんて知らないが。とにかく、嬉しそうな雰囲気で、狐は高らかに宣言する。

威風堂々とした立ち居振る舞いからか、金色の粒子が辺りに飛び散ったようにも見える。そんな、自信満々の宣言。


「儂は、齢一万を超える大妖怪にして、妖狐の女王――九尾の狐じゃ!」


………………。

……………………。

「ダウト」

「なんでじゃ!?」

狐は大声で唾を飛ばしてツッコむ。

俺は呆れて、呆れかえって顔を顰める。

なんというか、表情の豊かな狐だ。まったく顔は動いていないのに、感情だけはありありと伝わってくる。しかし、こともあろうに九尾を名乗るとは、恐れ多い狐だ。中国の古代王朝を一つ潰した大妖が、こんな辺鄙なところにいるはずが無い。

「全部嘘とは言わねーが、どう考えても、猫又程度の低級お化けだろ」

喋るしか能が無さそうだ。

「ぬぅ、天下の九尾様に向かってよくもそんな口を叩けたものじゃ」

尻尾を乱暴に枝に叩きつけて、狐は体勢を丸める。見るからに不機嫌そうだ。こころなしか、頬が膨らんでいるようにも見える。

「というか御主、どうしてそんなに冷静なんじゃ。普通は驚いて逃げ惑うじゃろ。まあ、逃げられても困るのじゃが」

「別に、喋る動物ぐらいなら、今までにも何度か見てきたんだよ。幸か不幸か、俺は陰陽師とやらの家系なんでな」

陰陽師といえば聞こえは良いが、実際は祈祷師みたいなものだ。やれ人形の髪が伸びるだの、やれ心霊写真だのと、気にするまでも無いようなことを気にして、我が家に押しかけてくる臆病者を、それっぽい用語で言い包め、適当な儀式をして金を巻き上げる、ぼろい商売だ。

うちはそんな詐欺みたいなことはしていない、とババアは言い張っていたが、真実だろうと虚偽だろうと、結局は同じだ。祈祷をした、という事実だけを、依頼人は欲しがっているのだから。

「んん?」

狐はずい、と身を乗り出して、俺の顔をまじまじと眺めた。それ以上前に出たら落ちるんじゃないだろうか。むしろ落ちろ。

「ほう、儂はとうにツキに見放されたと思っておったが、くく、存外、運が良い」

前足で口を隠すようにして笑い、狐は木から飛び降りた。五メートルほどの高さだが、そこは流石に動物、くるりと身を翻し、音もなく着地した。近くで見ると、実に見事な体毛だ。リンスでもされているような、潤いのある毛。なんとなく、自慢げな顔をしているのが腹立つ。

「儂は、今までに無いほどの危機に陥っておる」
「危機?」
「うむ、クライシスじゃ」
「いやピンチでいいだろーが。なんでわざわざそっちだよ。英単語習いたての高校生かよオメーは」
「ところでクライシスって、暗い死すって書くと意味が覚え易いぞ」
「たしかに危機っぽいけども、それを聞いてどうしろというんだよ。しかももう死んでるっぽいし」

そんな血なまぐさい覚え方、使えるか。ますます九尾というのが胡散臭くなってきた。中国の妖怪が英語使うなよ。そもそも日本語完璧じゃねーか。

「まあとにかくじゃ。儂は見ての通り九尾なわけじゃが」
「どこからどう見てもネコ目イヌ科のアカギツネにしか見えねーよ。……さっきから言いたかったんだけどよ、お前、九尾どころか一尾じゃねーか」

喋れなければ、妖怪かどうかも怪しい。いや、妖怪だから怪しくないのか? 怪しいいから妖怪? ……よくわからん。

「じゃから、一尾なのが問題なのじゃ」

一尾なのが問題? 俺は聞きなれない問題点を、頭の中でほぐす。

……いや、駄目だ。魚屋で起こった分量詐欺しか思いつかない。おばさん辺りが鯵が一匹足りないとか騒いでいる光景しか浮かばない。
そんな風に頭を悩ませている俺を見かねたのか、狐はやれやれと言った様子でまた話し始めた。

「つまりじゃ、儂の九尾のうちの八本が、いつの間にかなくなっておったんじゃ。九尾である儂にすら気付かせぬほど、いつの間にか。じゃから、一緒に取り返してくれ」

「なくなった?」

口ぶりからして、どちらかというと盗られた、とでも言いたそうだが、しかし、そんなことが可能なのか? 

九尾は確かにこの世のどこかに存在している。それは否定しない。だが、九尾は全ての化物の頂点だ。そんな化物の中の化物から、尻尾を奪う。それは、中国とインド、そして日本の陰陽師全てを超える、歴史上誰一人として成功させたことの無い――神業だ。更に、正面からぶつかり合ったならともかく、気付かれずに盗むなんて、もう夢物語の域だ。

そして、そんないるかもわからない化物から、尻尾を奪い返せと言う。答えは、考えるまでも無い。

「お前な、冗談にしたってもう少しましなもん考えろよ。本物の九尾に殺されても知らねえぞ? 今すぐ土下座してこい」
「じゃから儂が本物じゃと言っておろうが!」
「あーわかったわかった、謝ってあげるから、お母さんも一緒に謝ってあげるから。だから、な? 意地張るのはよそうぜ。きっと九ちゃんも許してくれるって」
「お母さん!? しかも九ちゃんってなんじゃ! ちょっと可愛いじゃろうが!」

長い犬歯を光らせながら、狐は騒ぐ。見れば見るほど、九尾だとは思えない。威厳も年の功も、まったく見受けることが出来ない。

「あきらめろコンちゃん。お前は九尾にはなれないよ。精々島根県あたりのゆるキャラになるぐらいさ」
「なんで島根なんじゃ! ちょう地味じゃろうが! せめて北海道にせんか!」
「北海道はだめだ。まんべくんがいるから」
「なんでそんな道民しか知らんようなキャラを知っておるんじゃ!?」

いや、お前がゆるキャラとか知ってることのほうが驚きだ。このなんちゃって女子高生妖怪め。――因みに、まんべくんは長万部出身だからまんべくん。噂によるとツイッターとかやってるらしい。ほたてなう、みたいな。

「ふん、まあええわい。どっちにしろ、儂に遭ってしまった時点で、御主は巻き込まれておる」
「ああ? そりゃどういう――」

詰め寄ろうとしたその時――じゃり、と後ろから音がした。

次いで、どすん、という鈍い音。間違いない、後ろになにかがいる。それも、とんでもなく大きな何かが。大気の揺らぎとも呼べる、包み込むような威圧感が、背中を撫で上げる。

狐が、見上げる。俺の背中のなにかを――見上げる。

そして、笑う。幾星霜の時を感じさせる、凄惨な笑みで。


「さあ、振り向け、覚悟を決めろ。これが御主の、最初の仕事じゃ」


――風切音。――地の底から響くような咆哮。そして、聞いたことも無いような爆発音。俺の後方から、十メートルはあろうかという大木が、高速で吹っ飛んできた。大木は、他の樹木をなぎ倒し、砂埃を立てる。

「ん――な! なにィィいいいいいいいいいいい!!」

慌てて振り向くと、丸太のような棍棒が俺の頭を目掛けて振り下ろされるのが見えた。

「ぐっ!」

考えるよりも先に、俺の身体は大きく横に飛び跳ねていた。一瞬遅れて、棍棒が地面にクレーターを作り出す。飛び散った土が、炸裂弾のように木々にぶつかり、葉っぱが無数に落ちてくる。視界が緑に覆われ、鬼の姿が一層際立つ。
急速に高鳴る鼓動の音を聞きながら、俺は息を呑んだ。
一本の角。
巻き毛の頭髪。
彫刻のような頑強な筋肉。
三メートルは悠に超える体長。
焦点のない、血走った鋭く紅い瞳。
そして、絵本でよく見る――虎縞の腰布。

「鬼……か」

伝承や物語なんかでよくみる鬼、そのままの姿でそいつは森の中で佇んでいた。動作がゆっくりとしているのは、いつでも殺せるという自信からか。威風堂々とした立ち姿に、思わず足が震える。重く巨大な石の塊があるような、凄まじいプレッシャーだ。

「ふむ、牛頭鬼――じゃな。地獄の獄卒にして、殺害中毒の筋肉馬鹿じゃ。なんでも、出遭った生き物はことごとく殺すらしいぞ」
「――っ、暢気に説明してんじゃねーよコノヤロー! なに? あんな化物と闘えってか? 死ぬわ! ミンチになって美味しく頂かれるわ!」
「御主こそ、暢気にくっちゃべっとる場合か?」

狐が前足で指差した方向を見ると、鬼が二発目を放とうと振りかぶっているところだった。明らかに筋肉が隆起しており、下半身はミサイルの発射台のように感じる。
リーチと攻撃範囲が人間とは段違いなのをいいことに、防御もコントロールも考えずに思い切り振れる。なんとも厄介だ。

「くそっ!」

横薙ぎに、力任せに振われた棍棒は、しゃがんだ俺の背中をぎりぎり掠めていき、草刈りでもするよう、にあたりの木々を一掃した。工事現場の鉄球を振り回したって、これほどの破壊は見ることができないだろう。刀で切られたように、切断面の上下は動いていない。喰らえば、人間などミンチどころか消し飛ぶだろう。

振り切られた腕を戻すようにして、返しの一撃が目の前を掠める。踏み込んできたのか、間合いがさらに伸びている。風圧で前髪が泳ぎ、空気が焦げる臭いが鼻を突く。木で威力と速度が遮断される分、地の利は俺にある。けれど、基本的な能力が、人間と鬼では違いすぎる。

懐に飛び込めば、何発か殴ることは出来そうだが、あの強靭な筋肉の鎧は銃弾でも貫けない。拳のほうがおしゃかになってしまう。

「くっくっく、どうしたどうした、呪符は使わんのか、九字は唱えんのか」

狐はいつの間にか木の上に昇っており、文字通り高みの見物を決め込んでいた。

「うわ、なにこいつ超殴りたいんですけど! 俺は山にきのこ採りに来てたんだよ! 札なんて持ってきてるわけねえだろうが! そもそも、俺の流儀じゃねえんだよ!」

呪文なんて唱えている暇は無い、攻撃できる道具も無い、あるものといったら、郵便物ぐらいのものだ。手紙でどう攻撃しろと。
懐を探っている間に、また棍棒が振るわれる。
振ってから再度担ぎ上げることはなく、鬼は手首を返して何度でも振り回す。子供の喧嘩のようだが、型にはまっている分、随分始末が悪い。

リズムがついたのか、どんどん連打が速くなる。捕まるのも時間の問題だ。
俺は一度大きくバックステップし、距離をとる。速くなったとは言え大振りなので、離れてしまえばそれほど恐怖は無い。とはいえ、相手も機械のように留まってはくれない。気を抜けば、直ぐに距離を詰められてあの世いきだ。
上着を脱ぎ捨て、靴を捨て去る。熱くなっている頭を冷やし、もう一度後方へ跳ぶ。

「おい、狐」

視線は動かさず、声を飛ばす。

「なんじゃ」

「もうテメーが九尾だろうとそうじゃなかろうと――関係ねえ」 拳を鳴らし、地面に叩きつける。 「こいつぶっ倒したら、お前を絶対泣かす!」

何が面白かったのか、狐はにやりと笑い、鼻で鬼を指した。
鬼は地面を揺らしながら走ってくる。
俺は敢えて目を切り、土に埋め込んだ手に神経を集中させる。

――集中しろ
――精神を研ぎ澄ませ
――できなきゃ、死ぬぞ

一気に頭が重くなり、細胞がはじける。久しぶりの感覚に、意識が飛びそうになる。踏ん張り、開いていた掌を、思い切り握りしめる――


「――掌握する!」


叫ぶと同時、鉄骨が落下したような金属音が葉を揺らす。

棍棒は寸分の狂いもなく、俺の頭部に炸裂した。余りの威力に、棍棒は形を保てず折れ曲がる。

ぱらぱらと、破片が地面に落ちていき、俺は倒れこんだ。狐が大声を上げて、息を止めるのが聞こえる。自分で巻き込んだくせに、心配だけはしてくれたようだ。

まあ、もはや心配はいらないが。

「ご、げえあ……」

腹を空かせた金魚のように口を開けた鬼が、膝を付く。巨体はゆっくりと前のめりに倒れこむ。

そして――

「ご、ふ、がああああああああああああ!!」

どん、と、花火のような音が鳴り響き、鬼は紙くずのように吹き飛んだ。

腹は空洞になり、口からは涎と血を撒き散らせて、既に絶命した鬼は森を荒らしていく。木を押し倒しながら、見えなくなるほどまで飛んでいってようやく、鬼は静かな眠りに付いた。まるで、森という草原に、大きな獣道が出来たかのようだ。

俺は吐き気をこらえながら身体を起こし、傍にあった木に寄りかかる。

「おぇぇ……あ、あんの野郎、でかい音立てやがって。鼓膜が破れるかと思ったぞ、くそったれ」

棍棒の衝撃音で、頭を揺らされてしまった。視界が曲がっているようにも思える。歪んだ視界のなか、荒れた道を狐が走ってくるのが見える。

「お、御主、一体なにをしたんじゃ……!」

せわしなく俺と遠くの鬼を交互に見て、狐は目をぱちくりとさせた。

俺は軽くえずいて、息を吐く。そして、狐の目を見て言う。

「――だるいから説明したくない」

「このっ!」

「げふっ」

尻尾で殴られた。すげえ痛い。くそ、この狐野郎。後で絶対殴る。

「はぁ、まあいい。説明してやるよ。……俺は、陰陽師だが、生憎由緒正しいお家柄ってわけじゃない。平安時代より前に、朝廷に楯突いて歴史から消えた、分家にも劣る本家だ」

溜め息をつき、頭を振る。まだくらくらする。

「当時の陰陽師は、揃って仏の力を使って闘っていた。どちらかというと、仏教の戦闘部隊みたいなもんだ。仏に祈り、力を借りた。だけど、俺の先祖は違った。陰陽五行を守り、自然を味方にしていた。自然と契約し、自然を掌握した」

それ故に、多くの陰陽師に煙たがられ、最終的には消されることになったわけだ。世知辛いとは思うが、同情しようとも思えない。

天皇に直談判しようとした馬鹿先祖だ。消えたほうが歴史にとって有益だっただろう。

「それが、今俺が使った技の正体だ。なんのこともねー、ただ単に、土を操って攻撃を防ぎ、風を集約させて台風のように放った。それだけのこった。靴を脱いだのは、肌が出てる方がやりやすいから」

「……信じがたい話じゃな」

「まあ、ここ何百年は使用者がいなかったからな。時代は戦闘より祈祷が主流になったし、いつまでも陰陽師として落ちぶれてるわけにもいかねーから、お馴染みの呪文とお札を使うお坊さんになったってわけだ」

因みに俺は、壊滅的に呪術の才能が無かったから、仕方なく現代日本では意味の無い戦闘技術を身につけた。おかげで今日は助かったが。

「ふむぅ」

狐は難しい顔をしてなにやら考え込んでいたが、俺は気にせずに立ち上がり、服に付いた砂を払った。脱いだ服と靴も拾わなければならない。というか、何故俺はいつのまにか完璧に巻きこまれているんだ。なんか秘術の説明までしちまったし。まあ隠そうが明らかにしようが、真似できるものじゃないが。しかし、いい加減潮時だろう。いや、引き時か。

「んじゃ、俺はもう帰るぜ。用事も済んでるし、長居する必要はねーからな」

狐に背を向けて、俺は歩き出す。突発的に筋肉を使ったせいで、筋が痛んでいる。早いとこ、下山したい。

「む、そうか。確かにそろそろ日も暮れるしの」

狐がなにやら言っているが、無視して歩いていく。道なりに歩いていって、街まで三時間といったところか。

日帰りの予定だったが、ビジネスホテルにでも泊まることにしよう。疲れてしまって新幹線に乗りたくない。ゆっくり休みたい。
いや、けど帰るのが遅れたら、ババアにどやされる可能性もある。そうしたら余計疲れることに。玲に頼み込んで、適当に言い訳してもらうべきか?
むしろどうあがいても絶望な感じになりそうだが、ホテルの誘惑も凄まじい。あー、どうすっかな。

「儂はビジネスホテルより、大浴場つきの旅館を希望するがの」

「……」

「やっぱり九州といえば温泉じゃ。足湯もいいのう。美肌効果は見逃せん」

立ち止まり、振り向く。

「……お前、なんでいんの?」

「………………ん?」

「オラァ!」

「ぎゃふん!」

いい感じに叩き易い位置にある脳天に、思い切りチョップする。

「な、なにするんじゃ!」

「なんか、え? 何言ってるのこの人? ……みたいな首の傾げ方がとてもイラっときた」

「なんじゃ御主、儂を置いていくつもりじゃったのか!?」

「いや、だって化物とか正直闘うとかだるい。俺は出来ればソファと一体化して、究極のダラクゼーションを開発したい」

「新しい妖怪にでもなりそうな駄目人間っぷりじゃな……」

なるとしたら、暇虫入道、みたいな名前になるんだろうか。今の日本の現状を鑑みるに、その妖怪はすでに存在してそうだが。

俺が現代日本の現状に憂っていると、狐は一鳴きして、尻尾を振る。

「まあしかし、どっちにしろ、御主は儂に遭ってしもうた。そして、儂を助けてしもうた」

狐の言葉に、俺は背筋が寒くなるのを感じた。意味を理解し、目じりが震える。どうやら、俺は甘かったらしい。

流石は一万歳の老獪だ、完璧にはめられてしまった。

「これから、弱体化した九尾を討とうとする妖怪が、山ほどくるじゃろう。そやつらは、儂を助けた御主を、敵と認識したはずじゃ。ついでに言えば、儂は御主が何と言おうと、御主に付きまとう」

それは、つまり。

俺が、妖怪に命を狙われるということに、他ならない。

「この、狐野郎……っ!」

歯軋りし、口端を苦く吊り上げて、俺は恨みがましく狐を睨む。

だが、狐は楽しそうに、傍若無人に笑みを浮かべた。愉快そうに、嬉しそうに――笑うだけ。


「くっくっく、知らんかったのか? 妖怪は――人に迷惑をかけることが仕事じゃぞ?」




――そんなこんなで、”一人と一匹の尻尾を取り返す物語。はじまり、はじまり。”













今回のエピローグ



「ところで狐」

山を下りながら、隣の狐に声を掛ける。

「なんじゃい」

相変わらずの、口調に似合わぬ高い声で、狐は返す。

「お前さん、完全に妖術は使えなくなってんのか? 喋れるところを見ると、完全にただの狐に戻っちまったってわけでも無さそうだが」

「ふむ、そういえば試したこともなかったの」

得心いった様子で、狐は鼻を鳴らす。

「出来れば人間の姿で居てくれ。狐引き連れてチェックインとか、動物愛護団体も苦笑いだろ」

「姿を消すことも出来んしのう……。そんじゃ、いっちょやってみるとしよう」

「葉っぱを頭に乗せるべきか?」

どっちかというと狸っぽいが。

「阿呆。九尾の狐様はそんな儀式など不要じゃ。見ておれ」

自尊心を傷つけられたのか、狐はあっちいけと追い払うように前足を振り、足を止めた。そして、渋い顔で唸りだす。

「む、むむむむむぅぅ~~…………変化っ!」

狐が叫んだ途端、全身が金色の光に包み込まれ、シルエットが見る見る変化していく。俺は目を見開き、変化を見守る。
猿の進化を早送りで見るように、四足歩行から二足歩行へと、頭の位置が徐々に上がっていく。
身体から体毛が失われていき、代わりにワンピースのような服が出来上がる。
丸っこい手は、白くほっそりとした人間の手になり、足にはサンダルまで履かれていた。

赤ん坊のようだったそれは、どんどん成長し、だんだん人間に近づき――

そして、光が消えた時、そこには見事に変身した――

「………………」

「おおっ、成功じゃっ。どこからどうみても人間にしか見えん」

――金髪の可愛らしい幼女が、いた。

・ 









「チェェェェンジッ!!」

「なんでじゃァァァああああああああああ!?」

「狐よりむしろ危ねえだろうがァァあああああああ!!」










――――――



初めまして、大石志々雄と申します。

ラブコメ7、ストーリー3みたいな感じで書いていけたらなあと思っています。

なんだか一話目は色々説明不足ですが、ゆっくり謎を明かしていきます。



それでは最後に一言

爺言葉の女の子って、すばらしい発想だと思う。



[29478] JOJOJOJOしい幕開け
Name: 大石志々雄◆25e3c4b7 ID:d2134302
Date: 2011/08/30 23:42
今回のプロローグ



「のう御主」

「なんだ狐」

「ジョジョはやはり五部が一番熱いと思わんか?」

「……いろいろ言いてーけど、俺は、どっちかっつーと四部が好きだな。あの日常に潜む悪って感じとギャグがいい」

「トニオの料理は美味そうじゃったが、四部は岸辺露伴のキャラが強すぎてあまり覚えとらん」

「それを言ったら、五部なんざほとんどブチャラティが主人公だったじゃねーか。チャックがあんなに格好いい漫画初めてだわ」

「儂はプロシュート兄貴が主人公じゃと思う」

「お前……、本当に五部が好きなのか……?」











いつの間にやら日が暮れて、森にはフクロウの笛を吹くような鳴き声が響き渡っていた。街灯は当然なく、月は厚い雲に隠されて、その姿を見ることは出来ない。
ただでさえ舗装も何もされていない獣道だと言うのに、暗さのせいで足元さえ見えない。道を外れないように歩くだけで精一杯だ。

空を見ると、木々の隙間をコウモリが飛んでいくのが見える。空を飛ぶ黒い影は、暗闇が切り離されて、意思をもって飛びだしたかのようだ。

「狐さんよ」

「ん、どうかしたのか?」

「いや、結構歩いたが、足は大丈夫なのか? 疲れてないか?」

「くくく、なんじゃ御主、心配してくれとるのか。意外と優しいんじゃな」

狐は意地の悪い笑みを浮かべて、膝を突付いてきた。女子中学生か。

「うるせー、だれがテメーを心配するか。お前を心配するくらいなら、ヘキサゴンファミリーの今後を心配した方がましだ」

くそ、失敗した。

見た目は小さな女の子だから、つい素で声を掛けてしまった。よく考えてみれば、狐が一時間や二時間山道を歩いた程度で疲労するわけが無い。

なにせイヌ科の生き物だ。スタミナは人間の比ではないだろう。むしろ、疲れているのは俺のほうか。一歩一歩気をつけて歩くというのは、存外体力を消耗する。

「しかしあれじゃのう、御主、風を操れるんじゃから、空でも飛んでいけばいいのではないか?」

少女らしからぬ額に皺を寄せた表情で、狐は手を空に泳がせた。飛行機を表しているのか。

「別にやってもいいけどよ、人に見つかったら面倒だろ。今時、世界中どこだろうと人工衛星で監視されてんだ。仮にNASAに見つかったら、俺は解剖されるかもしれん」

人間にキャトルミューティレーションされるなど、俺のプライドが許さない。

「前半は同意できるが、後半はまったく同意できん。せいぜい、九州の山奥に天狗が出ただのなんだのと言われて、マスコミが騒ぐ程度じゃろ」

まあ確かに、仮に見られたとしても幻覚か気のせいだと思われるだろう。しかし、それでも、あまり空を飛ぶということはしたくない。
足元になにもない浮遊感が、子供の頃から苦手なのだ。同様に、エレベーターもあまり好きではない。

「のう、御主」

「なんだ狐」

「ジャージャー麺ってあるじゃろ?」

「ああ、北京あたりの料理だったか?」

「うむ。あの食べ物を儂が食べたら、なんかもうそれだけですごい宣伝効果を生み出しそうではないか?」

なにを言ってるんだこいつは……ああ、口調の話をしているのか。語尾に基本『じゃ』ってついてるから、確かにぴったりだ。キャッチコピーはうまいんじゃーじゃー麺、みたいな。

「でも駄目だな」

「じゃ?」

じゃ? ってなんだ。

どっちかと言うと蛇っぽいぞ。

「お前にはドアラに変わる中日ドラゴンズのニューカマー、コドラちゃんにならないといかん。ジャージャー麺のマスコットキャラクターなど願い下げだ」

漢字で書くと『狐ドラちゃん』。

「なんで御主は、ドラゴンズファンぐらいしか知らんマスコットキャラクターを知っとるんじゃ!? しかもコドラちゃんってなんじゃ! 爬虫類っぽさが前面に押し出されとるじゃろうが!」

「それでいて、なぜかドラゴンっぽさが消えたな」

名案だと思ったが、これでは駄目だ。そもそも、ドアラの後釜としてバク転が必要不可欠なのに、ワンピース姿の狐少女がそんなことしたら、大きいお友達が増えるだけだ。主にパンチラ的な意味で。


閑話休題。


「おい狐」

「なんじゃい」

「その尻尾と耳は、隠せないのか?」

狐は、見た目は北欧美少女な感じだが、なぜかぴこぴこと尻尾と耳が動いている。振り回すたびに尻尾が膝に当たって、鬱陶しいことこの上ない。

猫パンチレベルのダメージがどんどん蓄積されていく。

「隠せることは隠せるんじゃが、尻尾がないとバランスが取りづらいしのう。それに、耳の位置が違うと音の聞こえ方に違和感があるんじゃ」

意外と真っ当な理由だ。実際、人間と大きく違うパーツはその二つぐらいのものだから、必要なのはわかる。

「ま、動きを抑えておけば、アクセサリーとして通せるか。しっかし、田舎のおばあちゃんが見たら、狐憑きと勘違いされそうだな」

「コックリさん全盛時代なら、確実にそう言われるじゃろうなあ」

狐は冗談めかしてそう言い、また尻尾をぴこぴこと動かし始めた。

コックリさんは、正式には狐狗狸さん――つまり、身近な動物の低級霊を呼ぶ、初歩的な降霊術だ。手軽さに反比例して、危険度はすこぶる高い。

降りるのは、なにも動物霊とは限らず、場合によっては怨霊を呼び寄せる可能性もある。コックリさんが流行った当時、うちにも除霊の頼みごとが殺到した。そして、その殆んどが、実際に憑かれた人たちだった。

「儂から言わせれば、あんなちゃちな儀式で呼ばれるほうも呼ばれるほうじゃがな。もっと我が眷属としての自覚を持てと言いたいわい」

「おお、コンちゃんも偶にはまともなこと言うじゃなねえか」

「コンちゃん言うな、なんちゃって陰陽師めが」


もういちど閑話休題。そして本題。


「しかし、森を抜ける頃にもう一匹ぐらい妖怪がでると思ってたんだが、こねーな。ぬ~べ~にでもやられてるんじゃねえか?」

「儂はぬ~べ~より玉藻が好きじゃな」

「お前は本当に人を飽きさせない狐だよ」

俺は地図を開き、辺りを確認する。県道まであと少し、そろそろ山道ともおさらばだ。最後に気合を入れようと思った時、狐が急にきょろきょろと辺りを見回し始めた。

「どうした? 便所か?」

「たわけ。もしそうじゃったとしても、間違っても御主には言わんわい。この辺りに、美味い水が流れとる川があったはずなんじゃが、どこじゃったかのう」

「川か。ちょうどいいじゃねーか、俺も喉が渇いてたところだ」

地図上にも、徒歩圏内に川が記されている。流石に一万歳、地形はよく把握しているようだ。俺は林の中に入っていく狐に、遅れないようついていく。

道をそれた途端、方向感覚が狂う。

山にはよく来ているが、暗すぎて経験がまったく生かせない。そんな俺とは対照的に、狐はくんくんと鼻を鳴らして真っ直ぐに進んでいく。

「ふむ、川の匂いが近づいてきたのう」

「狐って鼻がきく動物だったか?」

「比喩表現じゃよ。自然の中に長年おると、雰囲気である程度わかるんじゃ」

年の功じゃ、と狐は笑って、器用に草を掻き分けながら進んでいく。雑草よりすこし高いくらいの身長の癖に、服は殆んど汚れておらず、歩きなれているのだと分かる。

そうして数分もせずに、人間の俺の耳にもはっきりと川の音が聞こえ始めた。

「――ん? 待てよ。これ、川の音か?」

「言われてみれば、なにか妙じゃな。砂利道を歩いておるような、米を研いでおるような、なんじゃこの音は」

川の音は確かに聞こえる。だが、それに加えて、何かを洗っているような謎の音が混じっている。

じゃらじゃらと。しゃりしゃりと。

川に近づくたびに、音は大きくなっていく。

――そして、不意に音が止む。水の流れる音以外、何も聞こえない、山の静寂が訪れる。


『――小豆洗おか――人取って喰おか』


「っ!」

狐と俺は、ほぼ同時に後方へと跳躍し、臨戦体制に入る。しかし、敵の姿が見えない。眼球を忙しなく動かして探そうとするが、暗闇ではどうしようもない。

「狐、見えるか?」

ちゃっかり俺の後ろに隠れている狐に、問いかける。人間の俺より、狐のほうが夜目が効くと思ったのだ。

「駄目じゃ、見当たらん。それに、木の陰にかくれとる可能性もある」

お手上げじゃ、と狐は頭を振る。俺は歯軋りし、目を細める。ファンタジーのように、妖気を感じ取ることができれば楽だが、これほど自然物が多いと、森に妖気がまぎれてしまってまったく分からない。

いっそのこと、森全体を吹き飛ばすべきか? いや、駄目だ。自然をいたずらに壊すのは、胸糞悪い。

ならば――どうする。


「――って、うおおお!?」

「なんじゃあああ!?」


ばちちちち、と全身に何かが当たり、体勢を崩しそうになる。小さな粒が当たったような、いや、これは、エアガンかなにかか?

皮膚を見ると、球状の跡が出来ている。そして、痛いだけでさほど芯にはこない攻撃。ガキのころに受けたBB弾の痛みにそっくりだ。

弾の飛んできた方向に目をやる。川の横、見えづらいが、明らかに人影があった。小さめの、ちょうど昔の日本人ほどの身長だ。

そいつは見つかっていることに気付きながらも、隠れようともせずに突っ立ていた。そして、口を開いた。


「……小豆ってよぉ~~~、小さい豆って書くだろぉ~~~?」









「……は?」

「それはよくわかる……すげーよくわかる。大豆に比べりゃちっちぇからな……。だが『大納言』って品種はどういうことだぁ~~~~~っ!? 小さいのか大きいのかどっちなんだよぉ~~~!! ナメやがって、この言葉、超イラつくぜぇ~~~~!! 大きかったら大豆になっちまうじゃねーか、チクショー!!」

「な、なんだこいつ……! なにを言っているんだ……!!」



┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・

え、なんだこの擬音は……。


「このイラつきぃ、テメーらで晴らしてやるぜぇ~~~!!」

本来ならば、最初の台詞で気付くべきだった。

右手に小豆の入ったざる、左手には握られた小豆。間違いない、奴は――!

「小豆洗いかっ!」

「その通りだぜダボがあ~~~!」

ビシュウ! と目にも留まらぬ速度で小豆が飛来し、全身に叩きつけられる。一発一発は大したこと無いが、一瞬動きが止まり、その隙に二撃目が投擲される。

鬼の連打とは、比べ物にならないほど速く、鋭い。

「――だが、こんな真正面からの攻撃なら、簡単に避けられるんだよ!」

半身になり、目の前を掠める小豆を見送る。暗いとはいえ、狙いは俺なのだ。腕の振りを見てから避ければ、充分に避けられる。

多少腕に当たるが、この程度屁でもない。

「くっ! 小豆の一発は軽い! それを知っての被弾覚悟かっ! まずい!」

振り切った後は、隙だらけだ。仮に何度投げられようと、避けてしまえば問題は無い。

怯んでいる小豆洗いに一気に詰めより、拳に風を圧縮する。限界まで手加減した小規模の台風を、直接顔面へと叩き込む。

その時――


「なんて言うと思ったかよ――――ッ このウスラボケッ!」

小豆洗いがそういった瞬間、小豆の動きが止まる――!

「なにっ! 小豆の軌道が変わっただと!?」

完全に避け切ったと思った小豆が空中で曲がり、全ての小豆が身体を襲う。衝撃で俺は吹き飛び、川に飛び込んだ。

「カカカカカカカ! 甘い、甘いんだよ!。そう、まるで『じっくり煮込んだぜんざいのように』なぁ~~~~!」

小豆洗いは腰をモデルのように横に曲げ、掌で顔を覆った。妙なポーズではあったが、そこからは自信に溢れたオーラが滲み出していた。

「そして~~~、こうだっ!!」


バァ ̄ ̄ ̄ ̄Z____ ン!!


「!? や、やろう、なんてことを思いつくんだ……!」

小豆洗いはざるを地面に置き、両手に小豆を持った。そう、今まで片手で放っていたものを、両手で放つ。単純に考えて攻撃力が二倍だ。そしてさらに、範囲が広がる。

やろう、ここで決める気かっ!

「喰らえい! これが攻撃力二倍、”アズキ・スプラッシュ”だ!」


ド バ ア  ̄ ̄ ̄ ̄Z____ ン !!


「く、くそったれ!!」

小豆がまるでショットガンのように、マシンガンのように飛来する。逃げようにも、水に足を突っ込んだままでは満足に動けない。

小豆洗いは大きく振りかぶって、渾身の力を込めていた。腕は鞭のようにしなり、左右から同時に小豆が放たれる。

迫る小豆が、スローモーションのように感じられる。必死に足を動かし、跳ぼうとするが、間に合わない。

駄目だ、直撃――する!

「ぐ、ああっ!」

当たらない部位の方が少ないほどの、広範囲の攻撃。一粒一粒が肉を押し込み、骨を打つ。急所だけは防いだが、それでも余りある強烈な一撃。俺は倒れこみ、水しぶきが顔にかかる。

小豆洗い。まさか、ここまで厄介な妖怪だったのか。

「へっ、口ほどにもね~~たぁこのことだぜぇ~。どお~れ、九尾はすぐに殺れちまうし、お前から殺すか~~!」

高笑いし、小豆洗いはざるを空中に放り投げた。小豆が飛び散り、まるで兵隊のように中空で整列し、一本の太い数珠のようになり、俺を囲む。

浮かんでいる小豆の量からして、奴の持っている全ての小豆を攻撃に回したのだと分かる。正真正銘、最大の攻撃だ。

「く、まずい……。おい、狐! いないのか!」

一縷の望みを託して、どこかにいるはずの狐を呼ぶ。

……だが、その必要はなかった。

「目にっ! 目に小豆がぁぁ……!!」

狐は最初に攻撃を受けた地点でうずくまり、目を押さえて叫んでいた。俺が色々やっている間、ずっと痛がっていたのか。なんて……なんて使えない奴なんだ……っ!

「カカカカカカ! 頼みの綱も切れちまったようだなぁ~~。――そして、我が小豆の結界はッ! 既にお前の周り半径二メートル! お前の動きは手に取るように探知できるっ!」


バァ ̄ ̄ ̄ ̄Z____ ン!!


俺は腰まで水浸しのまま、冷静に現状を把握することに努めた。

――”小豆結界(ハイエロファント・ブラウン)”

逃げようとして小豆の数珠に触れれば、容赦なく発射され、かと言って何もしなければ狙い撃ち。完璧な結界に、俺は周囲を固められてしまっていた。

勝利を確信した小豆洗いは、三日月形に口端を吊り上げて俺を見下す。


「…………」


━┓¨━┓¨━┓¨━┓¨━┓¨━┓¨
━┛ .━┛ .━┛ ━┛ .━┛. ━┛


「……モハメド・アリに」


「? なに?」


「数秒間に、一ダースのパンチを受けた相手は」
「『殴られたことにも気付かず』虚空に向かってパンチを数発打って、糸の切れた人形のように、倒れた」
「そいつは試合後、確実に当たると思って打った拳が、突然重くなったと話したらしい」

「……なにを、言っている」

小豆洗いは、眉根を寄せて眼光を鋭く光らせた。

俺は答えず、話し続ける。

「ドイツ軍の『ゴリアテ』と言う戦車は、世界最小の戦車といううたい文句で、実戦に導入されたが……」
「その進行速度は人の歩きより遅く、逆に敵に捕まって、分解された」
「なんとも、間抜けな話だ……」

「テメーはっ! テメーはなにが言いたいんだよぉーー! 時間稼ぎのつもりかコラァーー!!」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・


「――『分からないか?』 どれほど威力のあるパンチも、どれほど画期的な兵器も、欠点に気付かなければ、それはただのガラクタになるんだよ」

「俺は何も無抵抗に攻撃を受け続けたわけじゃあないッ! 手から離れたざるに、宙に浮いた小豆に――水を浴びせ続けていたんだよッ!」

それも、集めた熱で暖めた、温水を。たっぷり十分近くだ。自由に操れるとは言え、小豆は小豆。小学生レベルの化学反応だけで――容易く封じることが出来る!

小豆洗いは額から汗を滝のように流して、後ずさる。その顔に――さっきまでのような余裕の色はない。
 
「ま、まさか! テメェッ!」

「――『小豆はとっくにッ! 茹で上がって柔らかくなっているッ!』」


ド ォ  ̄ ̄ ̄ ̄Z____ ン !


「もう防御も攻撃も不可能ッ! そして俺には、風を纏った拳がある――!」

拳を固め、あんこになった小豆を振り払いながら突き進む。これで、終わりだ――ッ!

「おおおおおおおおおおおおおお!!」


「ち……!」

「ちくしょーォオおおおおお!!」











今回のエピローグ



「――という夢を見た」

「……御主、ジョジョが好きにも程があるじゃろ」

狐は哀れんだような目で俺を見て、深く溜め息を吐いた。

狐の願った大浴場つきの旅館の椅子で、俺は、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

「今何時くらいだ?」

眠い目を擦りながら、狐に尋ねる。

「夜の十時近いの。御主、飯を食って直ぐに眠りこけよった」

と言うことは、二時間近く眠っていたのか。しかし、まさか気付かないほど早く眠ってしまうとは、久しぶりの掌握能力は、どうやら思っていた以上に身体を疲れさせたらしい。

「んじゃ、俺は風呂にでも入ってくるわ」

立ち上がり、備えつきのタオルと浴衣を持つ。着替えがなかったので、丁度いい。そういう点では旅館にしてよかったとも言えるかもしれない。

「儂もいくぞい。温泉に来たからには、なんども入らねばもったいないしの」

「人の金で宿泊しておいてよく言うぜ。ったく。……っと、忘れる前にメール打っておくか」

まだ泊まっていく事を連絡していなかったので、適当に放っておいた携帯電話を手に取り、開く。画面を見ると、予想通り、玲から帰りが遅いことを心配するメールが来ていた。
明日の昼前には帰るというような旨の文を送り、別のメールにも目を通す。と、下手な打鍵をしていると、狐がじっとこちらを見ていた。その視線は、携帯電話へと注がれている。

「どしたよ。ケータイが珍しいのか?」

「うむ、その通りじゃ」

狐は何故か自慢げに頷く。

「あれ? でもお前普通に漫画とか読んでるのに、見たこと無いのか?」

古い漫画だったら、当時まだ普及していない可能性もあるっちゃあるが。

「あー、いや――儂はフリック派じゃから」

「スマフォ使いだったのお前!?」

「最近は画面を見ずに文章を書けるようになったんじゃ」

「フリックでブラインドタッチ!? お前すげえなおい!」

「アプリは囲碁や将棋が入っておる」

「そこまでいったらソリティアとかやれよ! なんでそこだけ和風なんだよ!」





そんなこんなで1日目終了。


――――









あれ? 腕が勝手にジョジョってる……? ちなみに擬音の表現方法はある人からパク……まねしたものです。



返信です。基本返信はここで行わせていただきます。

とおりすわり様

服を着せようか着せまいか迷って、むしろ少女は服着てたほうが可愛いということに気付きました。いやべつに俺ロリコンではないですけどね?


PE様

あざといですね。もうあざとすぎます。だから尻尾も耳も残してやりましたよ。もっふもっふです。


茸飯様

狐は少ないですからねー。応援感謝です。


三龍様

陰陽師だからツッコミがうまいんですね。基本陰陽師はツッコミです


乗りのり様

基本ゆるゆるですが、そういっていただけると嬉しいですね。頑張らせていただきます。





一言


ブチャラティの奇妙な冒険というタイトルでスピンオフして欲しい。



[29478] 巫女さんに会いに行こう! の巻
Name: 大石志々雄◆25e3c4b7 ID:d2134302
Date: 2011/09/03 11:24
今回のプロローグ


脱衣所にて

見た目は幼い少女である狐と、男湯の脱衣所で一緒に着替える俺。

設置されているロッカーに服を入れ、鍵をかける。

……

……


「な、あ……うあああああああああ!!」

「ひゃあ!? な、なんじゃ突然……。チャックで挟んだのか?」

「ち、違う……。こ、このロッカー……」

「ろ、ロッカーがどうしたんじゃ?」

「このロッカー……、百円が返ってこないタイプだ……っ!」

「御主、意外とけちくさいのう……」







露天風呂にて



「おお! 大浴場じゃ、貸切じゃ!」

「ん? 他に客がいないのか。ずいぶんラッキーだな」

「うむ。もう我慢できん! 儂は先に入ってくるぞ!」 

「元気だなお前は。……ん、看板か?」

これ見よがしに立てられた看板には、泉質やら含有物などの見慣れない名前と、温泉の効能が書いてあった。

――神経痛・筋肉痛・関節痛

――皮ふ病・五十肩・妖怪退治

――くじき・うちみ・疲労回復

ふむ、筋肉痛に効くと言うのはありがてー、な?。

……あれ?

……妖怪退治?


「なんだこれ、どういう意味だ?」


不審な表記に首を傾げていると、突如狐が叫び声をあげた。


「――う、うわあああああああああああああ!!」


「!? ど、どうした!?」

「お、温泉に襲われるー! ヘルプッ! ヘルプフォックスー!」

「緊急事態なのは伝わるが、その英語の使い方は間違ってるぞ!?」











「なんだか、御主の弁当のほうが美味そうじゃな。交換せい」

「一生油揚げ食ってろバカ。稲荷バカ」

適当に乗り込んだ新幹線で、運良く自由席に座れた俺と狐は、少し遅い朝飯を食べていた。食べるものは当然駅弁。
狐はお稲荷さん弁当とやらを買い、俺は黒豚しょうが焼き弁当を購入した。ここでも金は俺の支払いであり、新幹線の代金も含めて、たった二日で財布はすっかり軽くなってしまった。

「儂は別に油揚げが好きなわけではない。油揚げが儂を好きなのじゃ」

「うるせーよ。勝手に油揚げとフィーリングカップルでもしてろよ。赤いキツネの中にゴールインしてこいよ」

暢気な掛け合いをしている間も新幹線は進み続け、到着まであと数十分ほどだ。俺の実家は、愛知県の尾張地方にある。手付かずの自然に囲まれた、田舎の巨大な寺だ。にもかかわらず名古屋がすぐ近くにあるため、物資の調達に苦労しない好条件の土地だ。

売る気は無いが、売れば結構な値になるだろう。

「――ところで、お前は寺に入って大丈夫なのか? 大抵の妖怪は近づくことも出来ないぞ?」

「悔しいが、今の儂の力では結界に引っかかることすら出来ん。普通の人間以下じゃ」

「小さすぎて網目を潜り抜けてしまうようなもんか。不便っちゃ不便だが、今回は良い方向に働いたもんだな」

「まあ、力はあくまで身を守る為のものでしかないからの。普通に生活するのであれば、問題は殆んどないといっていいじゃろ」

「普通にって、お前野生の動物を取って喰ってたのか?」

「いや? 普通にシュークリームとサーティーワンアイスクリームを食っておったぞ?」

「よし、”普通”って言葉について話し合おうぜ」

肉どころか主食ですらない。どれほど甘党の女子高生だろうとそんな暴挙はしないだろう。そして自身の食生活について一抹の疑問も抱いていない辺り腹が立つ。
クリームしか食ってねーじゃねーか。アメリカの小学生も裸足で逃げ出すわ。

「うるさいのう。若いうちから細かいところを気にしとると、コゲるぞ」

「まあ、焦げたらハゲるだろうけどよ……」

噛んだのかわざと間違えたのか、小さい口に目一杯大好物を詰め込んで、狐は嬉しそうに目を細める。箸を器用に使いこなしているところを見ると、大妖の時からちょくちょく人型になっていたのだろうか。それにしたって、現代人よりよほど上手い。

「儂は精密動作性がAじゃからのう。箸で豆を取るぐらいならお茶の子さいさいじゃ」

「成長性はEだろうけどな」

「ほう、よく分かったの。儂は史上最強じゃからE(完成)なんじゃ」

「ああ? スタープラチナと同じとか、おこがましいわアホ幼女」

内容の無い雑談を続けているうちに、いつのまにやら新幹線は減速しはじめ、窓の外の景色がはっきりと目に映る。
見下ろすことが出来る高架から、見知った駅前を眺める。見慣れた景色も、こうして見ると面白い。人間というものの存在が、強く感じられる。
意味のわからない現代アート展をやっている暇があれば、窓から見える景色を写真に収めたほうがよほど芸術性があるようにも思う。それほど、車窓の景色と言うものは味わい深い。

思わず見入ってしまっていると、狐が服を引っ張ってきた。

「のうのう、あの桃色の西洋の城のような建物はなんじゃろう? ホテルの様じゃが」

「……台無しじゃねえか」
















名古屋駅から電車に揺られること数十分。俺たちは、改札も無い無人駅に到着した。外に出ると同時に、倦怠感や悩みを吹き飛ばしてしまいそうな、爽やかな日光が降り注ぐ。
特殊な地形の為、湿度は殆んどなく、嫌味のない暑さが体に染み込む。呼吸をするたびに感じる、土と草と風の匂い。どこか安心する田舎の空気だ。このまま道に倒れこんで、眠ってしまいたくなる。

太陽を見上げ、深呼吸してから、二人で歩き出す。狐はどこから取り出したのか、麦藁帽子を被っていた。長い金髪に、大きすぎる帽子がよく似合っていた。

「そこにある階段を上っていけば、俺の家――つまり寺がある。一応近くに神社もあるけど、寺が本業だ」

「寺も神社もやっておるのか?」

「神仏習合ってな。比叡山だって延暦寺と日吉大社があるだろ。そこらへん、日本人はいい加減なんだよ」

昔は仏教と神道の間でひと悶着あったらしいが、今や寺と神社の差など、分からない人も多いだろう。まあ、宗教戦争なんて愚かな真似をするよりは、よっぽど平和的で合理的だ。

「ふ~む」

狐は顎に手を当てて、神妙な顔をしていた。今の話に、なにか感じるものでもあったのだろうか。

――などと思っていると。

「疲れた。階段が長い。抱っこ」

と言って、短い腕を差し出してきた。

「そうか。結界で燃え尽きて灰になれ」

俺は狐を置いていくことにした。

第一部完ッ!










一週間は経過したように思われる長い道程を経て、遂に俺たちは石段の最上段――寺の入り口までたどり着いた。
平日の昼間では参拝者もおらず、広場は閑散としている。木枯らしでも吹きそうな雰囲気だった。

「立派な寺じゃが、名前はあるのか?」

結局俺に抱きついてきた狐が、腕の中で声を出した。動き回る尻尾がくすぐったい。あと重い。男して口には出さないが、重い。おんぶなら良いが、抱っこは人を運ぶには辛すぎる。

「戦で死んだ魂を清めるって意味で、『浄城寺(じょうぜいじ)』だ。仏なんて信じていない寺だから、名前にそれほど仏教的意味はねーんだ」

気だるそうに説明すると、狐はさして興味があったわけでもなかったのか、ふーんと言って姿勢を変えた。勝手に腕の中で動き回られると、とても邪魔くさい。

枝毛の一本も無い金色の髪の毛が、風にそよいで腕を撫ぜる。

「神社のほうはなんて名前なんじゃ?」

荒れてしまった息を整えていると、狐が神社の方向を尻尾で指差して、また尋ねてきた。

「あっちは『白道神社』って名前だ。ちなみに、白道ってのは俺の苗字と一緒だ。俺の家の神社なんだから、当然っちゃ当然だけどな」

「御主、白道なんて洒落た苗字だったんじゃな」

「古い家系だからな、それなりに厳しい名前でもおかしかねーだろ」


話を切り上げて、境内を歩き出す。散らばった落ち葉が、本殿までの一本道を緑に染めている。落葉の季節ではないが、瑞々しい緑色の落ち葉が風に吹かれていくのも、風情があるように思えた。

静かだが、無音ではなかった。セミの声がどこか遠くから、潮騒のように耳に届く。木々のざわめきと風の音とが相まって、心地よさこそあれど、うるさいとは感じない。

実家は寺の裏手にあり、築百年以上の骨董品のような木造一戸建てだ。けれど異常なほど頑丈で、リフォームもほとんどしていない。

本殿の前は綺麗に掃除されていた。参拝者が居ないのが残念だ。心の中で「ただいま」と呟き、裏手に回る。

その時だった。


「――遅すぎます、白道様。せっかく昨夜は貴方のベッドで待ち受けていたというのに、酷い待ちぼうけです」


少し長めの髪の毛を、小さく二つに纏めた髪型。無表情な顔。日焼けを知らない白い肌。そして肌よりも更に白い、巫女服。

気配をまったく感じさせることなく、俺の背中に、耳と尻尾の生えた犬娘がくっついていた。腹に腕を回されるまで、微塵も気付かなかった。

「玲……お前くのいちかなにかか?」

「くのいちでも忍者でもありません。私は白道様に仕える巫女です」

「何度でも言うけどよ、寺に巫女はいねーからな?」

「神仏習合です。別におかしいことではありません」

「違うと言いきれないところがまたむかつくなコノヤロー」

一見コスプレにしかみえない犬巫女ルックの少女の名は、『白道玲』。

人間ではなく、犬の妖怪が人間化した姿だ。耳も尻尾も正真正銘本物で、鼻も効く。恩着せがましい言い方ではあるが、昔俺が、危険なところを救ってやった妖怪だ。

それ以来俺に懐いたのか、やたらと付きまとってくるようになり、今では巫女服姿で寺の雑用や家事をこなしてくれている。

苗字が同じなのは、妖怪ゆえに名が存在しなかったので、俺がそのまま自分の苗字を付けたからだ。

「遅れるなら遅れると、もっと早くおっしゃってください。いくら白道様といえど、許せません」

しゅんと尻尾をうなだれさせて、玲は少しだけきつく抱きしめる。

「それは悪かったと思ってるっての。ただ、俺自身気持ちの整理をする時間が欲しかったんだよ」

「気持ちの整理とは、なんのことで……」

言葉の途中で、玲は俺の腕の中のものに気付いた。鉄仮面のような無表情が、かすかに驚きの色に染まる。確認するように俺の前に回り、まじまじと狐を見た。

「白道様……私たちに子供はまだ早いかと……」

顔を赤らめて、玲は下を向いた。

「……俺もいらないから、お前もろとも東京湾に沈んでこい。コンクリートとドラム缶貸してやるから」

「御主なんと恐ろしいことを言うんじゃ!?」

狐も玲も無視して、俺は肩を落とす。本当に、最後の最後で厄介な問題が残っていたものだ。

説明――面倒くさいな。







――――――




今回のエピローグ


「なあ玲、お前って妖怪だろ?」

春ごろ、境内を掃除していた玲を見かけたので、ふいと疑問をぶつけてみる。

「はい、そうですが、それがなにか?」

「いや、巫女服なんて着たら浄化されて成仏しちまうんじゃねえの?」

神社御用達の老舗で作られた、神父服に匹敵するような神聖な服装だ。並の妖怪相手なら、攻撃を跳ね返す鎧にすらなりえる。

「ん、少し、何と言うのでしょう、麻の服を着てるようなちくちくとした感じはあります」

服を摘まんで、玲は言う。

「それは、地味に嫌だな。つーか、それなら別に無理に着る必要はねーんだぞ?」

むしろ巫女さんがいる寺や神社のほうが珍しい。そう言うと、玲は俺にしか分からない程度に顔を赤らめて、胸を張った。

「この服は、白道様に貰ったものです。だから脱ぐことはできません。タンスにしまいっぱなしなんて、もったいないではないです」 

かすかに微笑んだ玲に、俺は少し嬉しくなる。そこまで言うのなら、文句は無い。

「それと」

「へ? それと?」

「このくすぐったい痛み、白道様に虐められているみたいで興奮します」

「…………」


新しい服を買って来よう、そう誓った春の日だった。







――――



新キャラ登場。クーデレ巫女服ワン娘。

装備は竹ぼうき。



それでは返信です



蓬莱NEET様

ふふ、あまり私を見くびらないで下さい。今回の話を見てもらえれば分かるとおり、狐巫女化計画の伏線はすでに実践投入されているのですッ!。

しかし、そう、しかし。焦るのはよくありません。誰かに着せられているのでは駄目なのです。自分から着たいと言うその時まで、お楽しみはとっておこうではありませんか。


コゲチビ様

私はやはり4部ですね。岸部露伴と吉良、そして億泰がいるだけで、四部は最高傑作だといえます。ただ、五部もいいですね。リゾットは大好きです。そしてギアッチョも最高です!。

狐の成長は、微妙なところですが、多分好きに身体を変えられるようになるだけですので、基本は幼女姿です。


通りすがり六世様

当初は格好いい小豆洗いが書きたいなぁ~程度だったのですが、私の中では格好いい=JOJOという方程式が成り立っていました。今もJOJOネタしか思い浮かびません

……もしやっ、これはスタンド攻撃かっ!?


pe様


いいえ、神は狐娘を作った御方のことです。そして祈りましょう。狐を擬人化してくれてありがとう、と。

トニオは良いですね。あの料理なら、万単位の金を出せます。個人的には娼婦風スパゲティーが好きです。説明の適当さ加減がまた面白い。

SANA様


バンザイ!!


乗りのり様


いいんですか? もう突っ走っちゃいますよ? JOJOネタだらけになりますよ?

……わかりました、どんどんJOJOネタを出していきましょう。

いや、JOJOネタを出す――では駄目だ、JOJOネタを出すと思ったときッ! 既に行動は終わっていなければならないッ!

そして四部が好きとは、気が合いますね。自分も四部が大好きです。







今日の二言


1 えー、狐は○○で想像していいですか、という質問がこれからも来ると思いますが。勘違いしてはいけません。

あなたが想う狐娘が、あなただけの狐娘です。狐娘は、一人一人の心の中に、その数だけ存在しています。

キツネ・フォー・オール!!



……俺はなにを言ってるんだろう。

 
2 小豆は十分で柔らかくなるのか、痛くないのか、と言う質問ですが、なります。なぜか? その答えは簡単です。

”凄み”

です。

”凄み”があれば基本なんでも通ります。足が吹っ飛んでも馬に乗りながら糸で治すことが出来ます。身長がいつのまにか小さくなっていても、凄みがあれば気になりません。

ラスボス戦で突然空を飛ぶことだってできます。



[29478] キツネギアソリッド2 (タイトルに意味はなし)
Name: 大石志々雄◆25e3c4b7 ID:d2134302
Date: 2011/09/07 23:58
今回のプロローグ




「おい狐」

「なんじゃい」

「いま話題のコク○コ坂ってのは、お前となにか関係あんのか?」

「……確かに響きがコックリさんに似ておるし、それっぽいのは分かるが、なんの関係も無いわ」

「そうか。ところでジブリは何が好きだ?」

「儂はやはり、ト○ロかのう」

「意外と子供っぽいな。ナウシカとかだと思ってた」

「いや、あいつ儂の知り合いじゃし」

「まじで!? お前ト○ロと知り合いなのか!? つーかあいつ妖怪だったの!?」

「ネコバスの定期券もあるぞ」

「そもそも定期券が存在してたのがびっくりだ……」





――――――




「――つまり、尻尾を取り返したいと――力を、取り返したいと言うことですか」

「うむ。しかし残念ながら、儂だけでは力不足じゃ。じゃから、そこの陰陽師に頼んだんじゃ」

「なかば無理やりに巻き込まれただけだけどな」


本堂のなかで、仏に見守られながら狐と玲は膝をつき合わせていた。面倒だと思っていた説明は全て狐がしてくれたので、手持ち無沙汰な俺は少し離れた場所で胡坐をかいている。

玲と狐は正座をしていたが、よくもまあ木の板の上で座布団も敷かずに正座が出来るものだと、感心してしまう。畳の上なら一時間程度は出来るが、床に直はきつい。

ふいと外を眺めると、沈み始めた太陽に、黒い点が見えた。黒点という奴だろうか、それとも、ただの鳥の影か。俺は眩しくて目を逸らす。夏もそろそろ終わりかという時期だが、太陽の元気さだけは変わらない。

「簡単に取り返すと言いますが、尻尾がどこにあるのかはご存知なのですか?」

「それは俺も気になってたな。当てもなく彷徨ったところで、見つかるとは到底思えねえよ」

玲の疑問に、俺も乗っかる。

何より恐ろしいことは、妖怪は無限の寿命を持っているため、時間さえかければいいと思っていることが多々あるのだ。人間にそんな無茶を押し付けられても困る。

「心配はいらん。尻尾は儂の一部――どこにあるかなど、だいたい見当がつく。儂が受信機だとすれば、尻尾は送信機。GPSみたいなものじゃ」

自慢げに、狐は尻尾を振り回して説明する。

なるほど、なんとも便利だ。

「そんなもんなのか? だったら、とっとと場所を教えてくれよ」

正直、自分の仕事もある以上、あまり長いこと付き合ってやるわけにはいかない。寺の雑用や、陰陽師としての依頼もあるのだ。社会人は暇ではない。

「う、うむ。それがなんじゃが……」

急かすように詰め寄ると、狐は面目無さそうに頬をかいた。

「儂は、今やその受信機としての力すら失っとるような有様じゃ。今のところ、わかるのはたった一本だけじゃ」

力を取り戻せば多分分かるのじゃが、と言って狐は俯いき、床にのの字を書き始めた。伝説の妖怪として、自分の不甲斐なさに多少悔しさを感じているのだろうか。

出来ていたことができなくなると言うことは、案外人の自尊心を傷つける。それが当たり前のことだったのなら、尚更だろう。

そんな狐を見かねた玲が、優しく狐の手をとった。

「大丈夫です。きっと白道様が解決してくれるはずです。なにも心配は要りません」

淡々とした口調ではあったが、玲にしては心が篭っていた――ように思う。とても断定的な言い方だ。人を何でも屋扱いされるのは困るが、信頼されているようだったので、素直に嬉しかった。

間違っても表情には出さないけど。

「気は進まねーが、俺は陰陽師だからな。尻尾はともかく妖怪退治が仕事だ。安心して背中に隠れてろ」

苦笑しながら俺は言う。こうなってしまった以上、途中で見捨てるなんてことは出来ない。それに、狐は案外良い奴だ。話の合う面白い奴だ。

これも、間違っても言いはしないけど。

「御主ら……」

狐は戸惑っているような、困っているような、それでいて笑っているような、複雑な表情で俺たちを見た。そして相好を崩して、尻尾をぴんと立てる。

「ありがたい。そして、借りは必ず返す。じゃから、儂の命運は御主らに任せる」

狐の言葉に、俺は少し驚いた。伝説の妖狐が、素直に人に頭を下げるなどとは思っていなかった。同時に、なんともいえない気分のよさが、胸の奥からこみ上げてきた。

自然、微笑む。

「借りなんて、返さなくていいさ。テメーはいつもどおり尊大に笑ってろ」

そう言うと、玲も嬉しそうに尻尾を振りながら、頬を綻ばせた。

「その通りです。好きでやるのですから、お礼はいりませんよ。微力ながら、私もお手伝いさせていただきます」

がっちりと狐と握手を交わし、決意を固める。俺はもう、殆んどの妖怪たちにとって敵だ。どこにいっても命を狙われるだろう。
――だが、それを不幸だとは思わない。陰陽師は、もとから妖怪の宿敵であり、天敵だ。いまさら、妖怪を敵に回して恐れることなどなにも無い。

「それじゃ、善は急げだ。一本は位置が分かってるんだろ? 明日にでも行こうじゃねーか」

「うむ、了解した」

狐は威勢良く手を叩き、ワンピースのポケットから小さな日本地図を取り出した。今朝キヨスクでごそごそやっていたのは、このためか。

「詳細は着いてから調べるとして、大まかな位置はここじゃ」

と言って、狐が指差したそこは。

「東北地方、秋田県じゃ」


………………。

「チェンジで」

「なんでじゃ!? ていうかまた!?」

狐は思い切り床に尻尾を叩きつけて、ムキー、といった風に歯をむいて犬歯を光らせた。だが、俺も黙ってはいられない。

床を踏みつけ睨みを利かせ、狐に怒鳴る。

「お前ふざけんなコラ。秋田ってお前、東北ってお前……九州と真逆じゃねーかっ!! 電車賃だれが出すと思ってんだコノヤロー!!」

「なんじゃけちんぼ!! さっきまで格好いいことぬかしとったくせに!!」

「うるせーバカヤロー!! 陰陽師なんてなあ、ほとんどボランティアみてーなもんなんだよ! かつかつなんだよ! アイハブノーマニー! アーユーオーケー!?」

「五月蝿いわボケナス!」

「なっ! て、てめえ言うに事欠いてナスだと!? 歯ぁ食いしばれコラァ!」

「黙れ若造がッ! この九尾、容赦せんッ!」

双方共に、乾坤一擲とばかりに構えを取る。

「はああ!! 喰らえっ! 奥義陰陽師パンチ!」

「甘いッ! 必殺きつねカウンターァァあああああああ!!」

ドガッ!

ボゴッ!


「「ぎゃふん!」」











閑話休題。

春の話。


「うん? お前何やってんだ?」

喉が渇いたので麦茶でも、と台所にいくと、玲がなにやら難しい顔をして包丁を握っていた。

端から見ると人を刺しそうな雰囲気で、正直恐ろしい。まな板に転がっている野菜が不気味だ。

「ああ、白道様。実は、創作料理の研究をしているのですが、なかなか上手くいかなく、行き詰まっているところです」

「ふ~ん、創作ねえ。お前さんの料理、やたら美味いなとは思っていたが、そんな努力をしてたのか」

普段から料理の腕前には目を見張るものがあったので、俺は何も考えずそう言った。

「っ……そ、そうですか。美味しかった、ですか。ありがとう、ございます」

玲は何故か俺から目を逸らして、頬を赤く染めた。目を合わせようと覗き込むと、さらに赤くなる。褒められて照れているのだろうか。だとしたら、案外可愛い奴だ。

――ならば、もうすこし意地悪してやろう。

「おう。俺はお前の料理が大好きだ」

言った瞬間、空気が変わった。

どんな顔で照れるかと思っていると、玲は驚愕の顔(玲にしては)を浮かべて、おずおずと口を開いた。

「――っ! ……す、すみませんが『の料理』のところを無くして今の台詞をいってください」

ものすごい力で包丁を握り締めながら、妙なオーラを放っている玲に戦慄を覚える。有無を言わさぬ雰囲気だ。

「お、俺はお前が大好きだ?」

「疑問系ではなく」

「……俺はお前が大好きだ」

「~~~~っ!」

ダンッ! と包丁をまな板に突き刺し、玲はぷるぷると震えじめた。

……いやいや、怖い怖い怖い! 何やってんだよ玲さん!。血の気が多いのか、顔が真っ赤なのがまた怖い。耳まで赤い。つーかなんでちょっとにやついてるんだ。無表情が売りじゃなかったのか。

「と、ところで、創作料理ってのは例えばどんなのを作ってるんだ?」

一歩後ずさり、強引に話を変える。しかし返事は無い。後ずさった分近づき、肩に手をかける。

玲は「ひゃあ」と小さく声を上げて、こちらを振り向いた。

「……え? あ、ああ、そうですね、料理ですか。基本的には、白道様の好みに合いそうなものを作っていますが」

「俺の好みって、ラーメンとか?」

中華系だろうか。というか、そもそも好きも嫌いもあまりないんだけどな。

「いえ、ビーフストロガノフ的なものを作ってます」

なんで!?

「ビーフストロガノフ的なものって、それもうビーフストロガノフだよね!? 紛う事なきビーフストロガノフしか出来ないよね!? つーかなんでロシア料理っ!?」

「じゃあパンナコッタでも作りましょうか」

「お前それ完全に語感の良さだけで言ってるだろ。あれスイーツだから。思っくそデザートだから」

もはや創作ですらないし、俺の好みに関係ない。

「じゃあ肉じゃがでも作りましょうか」

「最初からそうしてくれ……」











――なんやかんやあったが、ひとまずリセット。

渋々ながら俺はコンビニで貯金を下ろし、明日に備えて早めに風呂に入ることにした。東北で見るものなどないし、出来れば日帰り旅行にしたいところだ。

着替えをタンスから取り出し、タオルを掴んで脱衣所に入る。歴史があるだけあって、風呂は上等な檜風呂だ。温泉と比べるとどうしても物足りなく感じるが、足を伸ばして入ることが出来れば、上出来だ。

「――ところで、なんでテメーはそんなところで覗いてるんだ?」

ズボンに手をかけたところで、扉の隙間からこっちを見ている玲に声を掛ける。玲は「ばれていましたか」などと舌打ちして、扉を開けた。なにしてるんだこいつは。隙間から覗くとは、無駄に妖怪っぽいことしてるな。

「――いえ、着替えをお忘れではないかと思いまして」

「そもそもお前が俺に着替えを渡しただろーが」

「――私をお忘れではないかと思いまして」

「初めての修学旅行並みに忘れ物チェックしたから大丈夫だ」

荒っぽく扉を蹴って閉めて、置いてあった木刀を立てかけて鍵代わりにする。なぜ木刀があるのかはさっぱりわからないが、これからはいつも置いておこう。

扉に背を向けてパンツを脱ぎ、念の為に腰にタオルを巻く。妖怪が本気を出せば、木刀程度、爪楊枝のように折ることが出来るのだ。セキリュティは完璧にしておかなければならない。

肌寒さに体を震わせて、風呂場に入る。入った途端、湯気が全身に張り付き、視界を曇らせる。早く湯船に入ろう、そう思っていると――。

「おお、先にはいっておるぞ」

狐がいた。

本気でひっくり返った。

貴重な体験をしてしまった。

「……お前、人を驚かせて楽しいか?」

「かかか、人を驚かせるのも妖怪の仕事じゃよ」

ただでさえ潤っている髪を濡らせて、狐は浴槽の中で快活に笑った。色々と言いたいことが頭の中を渦巻いているが、とりあえずタオルを巻いておいてよかった。

一応きっちりと巻きなおして、椅子に座る。

一人では――少女にとっては大きすぎる湯船で、狐は体操座りのような格好で浮いていた。身長――というか座高が低いため、ふちに手をかけると勝手に浮いてしまうようだった。

「お前、ちゃんと身体洗ってから入っただろうな」

「たわけ。淑女たる儂が、身を清めないわけがなかろう。御主こそしっかり洗え」

「へーへー、わーってますよ」

舌を出して狐をからかい、スポンジを取る。俺とて常識ぐらいある。玲がいるのだから、汚いまま湯船に入るわけがない。

シャワーからお湯を出し、ボディソープをつけたスポンジを何度も握って泡立てる。俺はへちまのたわしが好きなのだが、玲が勝手に取り替えてしまったのだ。おかげで少し物足りない。

「入るから、少しどけてくれ」

「湯をあまりこぼすでないぞ」

纏った泡を洗い流して、ゆっくりと湯船に浸かる。水位がぐんぐんあがって、狐の顔が沈みそうだ。そのまま溺れてしまえ。

「ふうむ、気持ちのいい風呂じゃが、ぬるいのう」

俺に背中を向けている狐から、不満そうな声がする。

「精神的に疲れているときは、ぬるめの風呂でゆっくりするのが一番なんだよ」

「なるほどのう。風呂一つとってもいろいろ研究されとるもんじゃな」

そこからは、言葉を交わすこともなく、静かな時間が流れ始めた。目を閉じて力を抜くと、お湯と一体化したような気分になる。お湯がじわじわと侵食してきて、ため息が漏れる。

今日はいつにもまして涼しいので、いつまでも入っていられそうな気分になる。のぼせ始めた頭が、不思議な幸福感を分泌する。重力からの開放感を噛み締めて、俺は口まで浸かってくつろいだ。

長くて短い時間が、過ぎていく。

――気付くと、狐が俺の腹の上に乗っていた。髪の毛が目の前で浮かんでいる。浮力とあいまって、殆んど狐の体重を感じない。

「随分と、リラックスしてるな」

「風呂の気持ちよさだけは、どれほど時が経とうと変わらんからの」

狐の背中と、俺の胸が接触する。吸い付くような肌だった。

「のう、ひとつ聞いてもよいか?」

狐は俺の腕を支え代わりに掴んで、囁くように尋ねた。

「どうしたよ。お前にしちゃ真剣な口調じゃねーか」

茶化すように俺は言うが、狐は反応もせずに言葉を続けた。

「御主は、どうして儂を助けてくれるんじゃ? ……いや、違う、どうして――憎まないんじゃ?」

俺は意味を図りかねて、頭を捻る。

「憎む? どうしてだよ」

「儂は嫌がる御主を、強引に巻き込んだんじゃぞ。だというのに、御主は面倒くさがりながらも、儂に力を貸してくれる。嫌ったりせずに、話してくれる。儂にはそれが――不思議なんじゃ」

とつとつと、言葉を選ぶように狐は話す。なんというか、不安そうな調子だ。傲慢で能天気なバカ狐だと思っていたので、つい呆気にとられてしまった。はっとして、意識を戻す。

どうにも、ふざけてはいられないようだった。

「よく、わからねーけどよ。少なくとも、俺はお前を憎んでもいないし嫌ってもない。ただの、話の合う友達だとしか思ってねえ」

「とも、だち?」

「ああ。普通に話せて、遊んだりしてる相手を友達といわないで、なんて呼べってんだよ」

他に言い方はあるだろうが、俺の語彙力ではそうとしか呼び様がない。そうとしか思えない。

「友か。数百年は聞いたことのない呼び名じゃの」

遠く昔に思いを馳せて、狐は呟いた。俺はなにも言わず、軽く狐の胴に手を回した。何千年という年月は、人間の俺には想像できないが、狐が辛かったであろうことは、自然と伝わってきた。

狐は、「少しだけ、時間をくれるか」と言い、深く息を吐いた。

「儂は、生まれた時から九尾じゃった。狐が化生したわけでもなく、最初から。悪の思念が集まって、儂は形成された。じゃから、儂は妖怪の王として、古代のアジアで暴れまわった。それこそ――子供のようにじゃ。……じゃが、ある日突然、今の儂が目覚めた。夢から覚めたように――悪夢から逃げ出したように、唐突に現在の性格になった。それが何故かは、未だに分からぬ。じゃが、儂にはそれが恐ろしくてたまらんかった」

ぎゅ、と俺の腕を掴む力が増した。少しだけ、震えているようにも見えた。

「以後何百年も、儂は自分のしたことが怖くて怖くて――狂いそうじゃった。悪を吐き出しつくしてしまった儂は、もはやただの力ある狐に過ぎぬ。そんな儂にとって、自らの罪は大きすぎた。そして――重すぎた」

狐の身体が縮こまり、俺に更に密着し始めた。まるで子供が、安心を求めて親に抱きついているようだ。

声を震わせ、唇を噛み締めながらも、独白は――続く。

「罪を忘れたくて、人間に化けて生活したりもした。子供となってはしゃぎまわったこともあった。――じゃが、儂は人間として生きるには寿命が長すぎる。……どれほど女子達と仲良くなろうと、みんな老いて死んでいってしまう。儂を置いて、死んでいってしまう。寂しさで、死んでしまいたくなった」

俺は、そこで初めて合点がいった。狐がやけに人間の文化に詳しいのは、そうした寂しさを埋める為だったに違いない。生身の人間はいつか消えてしまうが、漫画や映画ならば、消えたりはしない。風化しない限り、いつまでも存在し続ける。

狐は能天気だったのではない。陽気さを武器に、必死に恐怖と戦っていたのだ。何年も、何百年も。

「本当は、九尾の力が抜けた時に、死んでしまおうと思っていたんじゃ。強すぎて自殺もできないという呪縛から、やっと逃れられたと喜んでおったんじゃ
「――じゃが、情けないことに、儂は死ぬことも怖かった。幾度となく死を見続けてきたが、それでも死ぬのは怖かったんじゃ。そして御主に助けを求めた。
「自分で自分に胸糞悪くなる。生への執着の、なんとあさましいことか」

情けない、情けない、と呪文のように狐は漏らし続けた。横から見える頬が濡れているのは、お湯のせいだけではないだろう。

俺はどうしたものかと頭をかく。正直な話、こういった話は苦手だった。

なんと声を掛ければいいのか、とんと見当もつかない。不甲斐ない限りだ。

――だから

何も考えることなく、俺は狐を抱き寄せた。

「……な、んじゃ」

鼻を啜りながら、嗚咽交じりに狐は突き放すように言葉を吐く。……少し傷ついた。

「特に、なにか言うつもりはねーよ。というより、なにも言えねーよ」

「……」

「――ただ、一つだけ文句がある」

俺には分かったような口をきく頭はないし、気のきいたことを言うような甲斐性も無い。

ひたすら、素直に思ったことを言うことしか出来ない。

「勝手に俺がお前を嫌ってるとか思ってんじゃねーよ。お前の過去がどうだろうと、お前の罪がなんだろうと、俺は気にしねえ。テメーが何と言おうと、俺は無視して仲良くする」

倫理とか道徳とか、そんな崇高なものは、はなから持ち合わせてはいない。

「お前はむかつく奴だ、適当な奴だ、理不尽な奴だ――けどな、お前は面白いんだよ。俺にとっちゃ、それだけで充分だ」

歯軋りが聞こえた。

狐が泣きじゃくりながら、言葉を紡ぐ。

「儂は、何万人も殺してきたんじゃぞ……?」

「そうかい、けど、今のテメーは人を殺したいとは思わないんだろ」

それならば、なんの問題も無い。今は普通の狐なのだから。

「儂のせいで、御主に面倒をかけるかもしれないんじゃぞ?」

「面倒じゃない女がいたら連れてこい。そいつ多分妖怪か詐欺師だから」

妖怪退治程度の面倒ごとなら、屁でもない。陰陽師としての仕事もできるだろうし一石二鳥だ。

「本当は死にたがりの、根暗な奴なんじゃぞ?」

「はっ、せっかく出来た友達死なせてたまるかよ。そんで、力取り戻した暁に礼をたっぷりふんだくってやらあ」

声を上げて笑い、狐の肩を叩く。

全く――くだらない。なんとも俺はしょうもねえ。結局、狐の悩み事の一つも解決できていやしない。そもそも、狐の苦しみの一割も理解していやしない。

ばかばかしすぎて、笑えてくる。

けれど、まあ

「御主は馬鹿じゃ……、大馬鹿じゃ……」

「馬鹿でいいんだよ。人間も妖怪も、馬鹿なぐらいがちょうどいいさ。難しいことは気にすんな。だから、そうだな、うん。……狐さんよ――これから、よろしくな」

丸っきり馬鹿な笑い顔で、俺は狐に手を差し出した。

過去も未来も、どうでもいい。今、この瞬間だけでも俺と狐が楽しく喋っていられれば、それでいい。

そんなことを思っていると、狐は呆れたように吹き出した。

「く、くくく、どうやら、儂も馬鹿だったようじゃの。御主に相談した――儂が馬鹿じゃったわ」

そう言いながらも、しっかりと、狐は俺の手を握り返す。

涙の後のついた顔はほんのりと赤く、そして、やさしく微笑んでいた。






――――



「のう、御主」

「なんだ狐」

「この風呂はぬるくてたまらん。……じゃから、もう少しくっつけ」

「なんだそりゃ。熱い湯が好きにも程があんだろ」

「いいから、儂を暖めろ阿呆……」

「はいはい、のぼせてもしらねーぞ」

「……ん」



――――









すみません、時間がないので返信は次の話でまとめてします。時間なさすぎて推敲すらできませんでした……



そして一言


どれだけシリアスだろうと狐の頭では耳がぴょこぴょこ。


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