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【芸能・社会】

昭和の絵師 上村一夫の世界 没後25年「豪華本」15日発売

2011年9月9日 紙面から

多いときには月産400枚描いたという上村一夫さん(1975年ごろ、東京・駒場の事務所で)

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 1970年代に一世を風靡(ふうび)した「同棲時代」や「修羅雪姫」などで知られる劇画家、上村一夫さんのバイオグラフィーと作品を網羅した豪華本が15日に出版される。没後25年、今なお新たなファンを生んでいる上村さんの全作品リストなど豊富な資料を基に、個々の作品が生み出された背景やエピソードが細かに解説された労作。劇画5編も復刻して収録される。

 「リリシズム 上村一夫の世界」(まんだらけ出版部)は、A4サイズで、336ページハードカバー布装幀(税込み3990円)。昨年の生誕70周年に向けて企画されたが、執筆・資料整理にあたった劇画研究家森田敏也さん(43)やスタッフの強いこだわりなどから作業が延び延びになり、ようやく出版にこぎつけた。

 武蔵野美術大学出身の上村さんは、大学4年の時、アルバイト先の広告代理店で、たまたま隣の席だったのが深田公之さん(後の阿久悠)。阿久さんが、後に、初めて他人に才能を見たと語る運命的出会いだった。

 そんな上村さんのデビューは、1967年。当時、鳴り物入りで創刊された雑誌「月刊タウン」にパロディー漫画「カワイコ小百合ちゃんの堕落」を描き下ろした。その後、「平凡パンチ」にイラストを連載。初めて自分の名前がクレジットされた。これをきっかけに阿久さんと約5年ぶりに再会。同誌に共作の「PUMCH MANGA NOVEL パラダ」を連載して、交流を深めてゆく。青年劇画誌の台頭とともに、上村さんの快進撃は続く。特に女性の情念を描く技量、独特のタッチは他の追随を許さず、“昭和の絵師”と称された。

 本には、上村さんのエッセーやインタビュー記事も再録。72年に大ヒットした「同棲時代」について、米映画「愛の狩人」がヒントになったことや「赤色エレジー」(林静一)のパロディーとして始めたことなどが記されている。

 「ひとつの時代を表現できるのは『女のしぐさ』だと思っている。今に生きている女のしぐさを見つめ描いていれば、それは私の小さな歴史を自分に刻み込んでいることになるのかもしれない」(「すみれ白書」まえがき)といった上村流の矜持も興味深い。

 また、これまで素顔はほとんど知られていなかったが、酒と歌を愛し、人を喜ばせることが大好きだったこと、フラメンコギターが得意で、駆け出し時代にはクラブで弾き語りをして稼いでいたエピソードなども明かされている。

 編集に携わった一人娘の上村汀さん(45)は、「家族としては大満足の内容ですが、いまだに把握できないほどの作品を残していることがあらためて分かり、がくぜんとしました。最近は海外や女性ファンの増加など、父が生きていた時代には考えられなかった形での復刻もあり、作品の力というものを感じずにはいられません。いつか作品を常設できる場所をつくることができたら」と話している。

 なお、本は15日に東京・まんだらけ中野店で発売後、順次全国の書店に並ぶ予定。

<同棲時代> 「漫画アクション」1972年3月2日号から80回連載され、一大ブームを巻き起こした。広告会社に勤めるOL今日子とイラストレーターの卵・次郎が、ふとした出会いから同棲生活を始め、美しくも甘い不確かな生活の中で、愛の喜びや哀しみを知る。上村が作詞、都倉俊一作曲、大信田礼子の歌でレコード化されたほか、73年に梶芽衣子・沢田研二でドラマ化(TBS、山田太一脚本)。その後、由美かおる・仲雅美主演、山根成之監督で映画化され、由美の後ろ向きヌードが大反響を呼んだ。

<上村一夫(かみむら・かずお)> 1940(昭和15)年3月7日、横須賀市生まれ。父・浅次郎は日露戦争時、軍医・海軍大佐で、一夫が生まれた時60歳を過ぎていた。12歳の時父が死去、母や姉と品川に移り住む。64年武蔵野美術大学デザイン科卒。イラストレーターとしてサントリーや資生堂の広告を手掛けたこともある。劇画の代表作「修羅雪姫」「同棲時代」「しなの川」「蛍子」「関東平野」など。下咽頭(いんとう)がんを患い、86年1月11日、45歳で死去。

 

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