要約:新宿のとある高層ビルの館内案内標識が話題に。後学のために、仕様・問題点を整理、改善案の作成を行ってみました。
Twitterで、あるサイン(案内板)のことが話題になっていました。新宿のあるビルの案内図のようですが、わかりづらいことが問題になっているようです。
…確かにこれはわかりません。トイレを探している時に遭遇したら結構辛いと思いますね。でも、なぜわかりにくいのか、どういう改善案が考えられるのか、もう少し考えてみることにしました。
仕様
まず、この図から読み取れる情報だけでは何が「正解」かわからないので、実際の現場に足を運んでみました。そして、館内をぐるっと見学してみて、大体の施設の配置を把握してきました。(ちなみに、ビルの中をウロウロしてると普通に不審者だと思うので、警備員の方に目的を伝え、撮影可否についても尋ねましたが、撮影はNGとのことでした)
それで、記憶を頼りに書いてみた館内図がこちらになります。案内板Aが問題となる案内板を指しています。なお、階層は1Fです。
案内板にある施設と階層・配置を整理しますと、以下のようになります。つまり、1列ごとにまとまっていると考えると良いようです(2階の情報についてはまとめてよいか微妙ですが)
- 1F
- (サイン右側)
- エスカレータ
- (サイン左側;正確に言うと左側→直進)
- 防災センター
- AED(自動体外式除細動器)
- 化粧室
- (サイン直進側;正確に言うと直進→右側)
- 車いす用エレベータ
- 2F
- エレベータ
- 多機能トイレ
時間がある方は、この情報を基に問題点と改善案を考えてみてください。
問題点・その原因
さて、仕様を整理したところで観察できる問題点をまとめましょう。
案内板Aの問題点
問題点1:矢印と案内標識との対応関係がわからないため、各施設がどこにあるのかわかりづらい
例えば「化粧室」はどこにあるでしょうか?
近接している矢印に対応していると考えるならば、「右方向(→)」あるいは「直進(↑)」の2つの可能性があります。一方で、この標識が1列に1つの矢印があることから、各列ごとに矢印とそれに対応する案内標識がある、という風に考えると化粧室は「左方向(←)」にあることになります。
このように、対応関係が一意に決められないため、各施設がどこにあるかわからず利用者は迷ってしまうことになります。両者の対応関係がうまくついていないことが原因と言えるでしょう。
問題点2:種類が大きく異なる情報が十分に区別されていないため、各パネルの意味が一見して読み取りづらい
書かれているものは違うものの、9枚のパネルの形状・色などは全て同様で特に区別されていません。しかし、これらには矢印と案内、1Fの情報と2Fの情報という異なる情報が書かれてしまっています。よって、各パネルがどういう種類のものか一見して読み取りづらくなっています。
同じ種類の情報のまとまり、違う種類の情報との区別がうまくなされていないことが原因と言えるでしょう。
問題点3:エスカレータの案内表示は、この場面での必要性が低い
館内図を見ても分かる通り、案内板Aとエスカレータはかなり近い場所にあります。というより、どの出入口から入ってもエスカレータの存在に気づくので、わざわざ案内を設けて示す必要性が薄いと思います。むろん、あることによって直接的に問題を起こしているわけではありません。
ただ、わからないからこそ案内が必要なわけで、案内板の役割を考えて、掲載・非掲載を考えたほうが良いのではないかと思います。
案内板A以外の問題点
館内を見てまわると、施設案内という目的に対して生じている問題が、案内板A以外にもあることが観察できます。
問題点4:方向指示が不十分であるため、各施設にたどり着きづらい
お気づきの方もいるかと思いますが、このサインから直進するだけでは車椅子用エレベータにはたどり着けません。そこから右に折れる必要があります。
ただ、これはこのサインの問題ではありません。人間の記憶力はそんなに良くないですから細かい経路まで覚えてられませんし、そうしたものは進んだ先で理解できればいい話です。
かし、先に進んだ案内板Bでは車椅子用エレベータに関する指示はありません(防災センターや化粧室の情報はあります)。実は側にある案内板Cには車椅子用エレベータの方向指示があるのですが、案内板Bに比べて目立たず、見落としやすいように感じられました。方向指示が不十分なことが原因と言えるでしょう。
問題点5:2Fの多機能トイレの位置がわかりにくい
多機能トイレは2階にあると書かれています。しかし、それに従ってエスカレータで2階に上っても、多機能トイレの位置を示す案内がフロアの隅のほうにあるため、気づきづらくなっています。2階に行ってから、どこに多機能トイレがあるのか何らかの指示があると期待していた利用者にとっては、案内を見つけるまで、少し不安になってしまいます。
2Fに上ってから、案内がパッと目につく場所にないことが原因と言えるでしょう。
デザインの意図
改善策を考える前に、現在のサインにどういう利点があるのか、デザイナーがなぜこうしたのか想像して考えてみましょう。
…と思いましたが、あまり浮かびませんでした。格子状の配置は複数の独立した情報を並列的に表示するには情報量がパッと把握できて(セルの数だけ見出しが立っていると捉えやすい)一つの良い方法かと思いますが、今回のように、パネル同士の意味のまとまりを持たないといけないケースでは、デメリットしか考えられません。
と思っていたんですが、Twitterを見たら面白い指摘をしている方がいました。
【新宿案内図2】この案内図は矢印と絵文字のパネルを分割し3×3の大パネルに再構成することで、設置場所を選ばない且つ低コストを実現している点は評価できる。ただ絵文字と矢印の相関関係が分かり難く、案内板の用をなしてないのは論外。http://t.co/LI5LRAK
思いつきませんでした。確かにコストメリットはありそうですね。拡張性や工事などで場所が変わった時の柔軟性もありそうです。ということで、改善案はこうしたコスト性・柔軟性に優れた案と、そういうことを気にせず作ってみたわかりやすい案の2案になりますかね。
…でも、Togetterで前者の案はわんさか出てますし、(仕事なら別ですけど)前者までやっちゃうと疲れちゃうので、今回は後者だけで考えることにします。
改善案
実を言うと、Togetterでのディスカッションを見てから考えてしまったので、結構その案に引きづられている面があります。これは失敗しました。。
問題点1への対応(矢印と案内標識との対応関係がわからないため、各施設がどこにあるのかわかりづらい)
矢印と対応する案内標識を近接させてまとまりをつけてみましょう。また、ここで左・直進・右という位置関係の整理も同時に行っています。
問題点2への対応(種類が大きく異なる情報が十分に区別されていないため、各パネルの意味が一見して読み取りづらい)
矢印と案内標識とにそれぞれ背景色を付けて区別してみました。また、1Fと2Fの情報に見出しを添えて区別してみました(現在の階層がどちらかはまぁわかるとは思いますが、1Fを大きく取って強調しています)
問題点3への対応(エスカレータの案内表示は、この場面での必要性が低い)
エスカレータの表示を削除しました
プラスアルファの改善
1Fと2Fの位置関係を考慮して、縦に再配置しました。また、案内標識のそれぞれの意味に沿って、トイレを水色に、緊急時に利用する施設を赤色に、移動系を緑色(これは無根拠)にしてみました。
…とだいたいこんなもんでしょうか。ただ、私自身インフォグラフィックやサインシステムに興味はあれど、得意ではないので、こうするともっと改善できるよって意見をお待ちしてます。ちなみに今私が引っかかっているポイントは以下です。ちょっとまだ答えが出ていません。
- 各施設を誰がどのように求めているのか、という視点でまとめ直したほうがわかりやすいのではないか?…と考えてみたけど、軸がバラバラで文字も多くなってかえって超わかりづらいですね。だいたい各軸が排他関係でないと、複数の軸に当てはまる人が混乱するし…。
- 多機能トイレという文言はこれで良いのか?多目的トイレ、だれでもトイレ、いろいろ呼称はあるんですが、結局誰がどう嬉しい施設なのかピンと来ない文言です。ただ、これを主に利用する人にとっては、あぁアレね、みたいな常識的な文言なのかもしれず、調査してみないと判断できないですね。
- 車椅子用エレベータのピクトグラムの上下マークと直進マークが近接してしまっており、直進マークが2Fに上るマークとして誤解されないかが不安。ただ、ピクトグラムはできれば現在の国際標準の形状を利用したいし、矢印に「直進」など文字を付け加えることも避けたい(多言語併記により、表示が複雑になることを懸念)
- 1Fにエレベータはないから、3F以降に用がある方は、2Fに上ってからエレベータを利用してくれ、という意図がすぐに伝わるかが不安。エレベータを探している利用者が、この案内板には1Fにエレベータの表記がないが、それは単純にエレベータがこの案内板から離れているからではないか、と考えないか?
ちなみに、今回は労力上、1つのサインだけ取り上げましたが、最終的には単独ではなく、サイン全体がどうあるべきかという視点も併せて語られないといけないと思います(そういう意味ではこの記事はかなりの片手落ちなんですが)。
なんにしろ、とりあえず上記のように考えを整理してみるだけでもいい勉強になりました。サイン計画サインを作られたデザイナーさん、話題を提供していただいた@sekoguchiさん、ありがとうございました。
参考URL
今回、直接参考にしたわけではありませんが、サインシステムについて知る上で有用なリソースだと思いましたので、書き残しておきます。
- サインシステム – Wikipedia
- サイン計画入門 – Aboc社
- サインシステムコレクション
- インフォグラフィックス―情報をデザインする視点と表現 – Amazon.co.jp(サインシステムについてはそれほど記載されていませんが、インフォグラフィックス分野の視点を養うには良い一冊です)
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