ゴビンダさんの再審はかなうか〜東電女性社員殺害事件の新展開 - どん・わんたろう
2011年09月07日20時05分
「ゴビンダさん」という名前を聞いても、ピンとこない方が多いかもしれない。1997年に起きた東京電力女性社員の殺害事件で無期懲役が確定したネパール人、と説明すれば、「ああ」と納得していただけるだろうか。
ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)は、捜査、裁判の過程で終始一貫して冤罪を訴えてきた。2003年に最高裁で刑が確定して横浜刑務所で服役しているが、05年に再審を請求し、東京高裁で審理が行われている。
静かに続いていた再審請求審が最近、一躍注目を集めていることは、マスコミ報道でご存じだと思う。事件現場の遺留物などのDNA鑑定が実現し、7月に新たな事実が判明したのだ。8月末、「無実のゴビンダさんを支える会」の客野美喜子・事務局長らの話を聞く機会があり、ただちに再審を開始すべきだとの思いを強くした。
今回のDNA鑑定に触れる前に、事件と裁判の経緯を振り返っておこう。被害者の女性が売春を繰り返していたことから、センセーショナルな取り上げられ方ばかりがされ、肝心の法律的な問題点がきちんと伝わっていない印象があるので。
事件は97年3月19日、東京都渋谷区のアパートの無施錠の空室で、被害者の女性(当時39)が首を絞められた遺体で発見されて発覚した。顔に殴打の跡があり、財布からは4万円がなくなっていた。女性は3月8日に常連客とホテルで性的関係を持ち、別れた後、深夜に現場のアパートへ男性と入るところを目撃されていた。そのまま帰宅せず、捜索願が出ていた。
ゴビンダさんは隣のビルに住んでいて、事件現場の空室のカギを預かっており、さらに被害者を買春したことがあった。疑われていることを知って、自ら警察に出頭。不法残留で逮捕され、2か月後にこの事件の強盗殺人容疑で再逮捕される。ゴビンダさんが犯人と示す直接的な物証はなく、状況証拠を重ねて起訴された。
裁判でゴビンダさんは、以前に被害者をこの部屋で買春したことを認めたうえで、「被害者はその時に部屋にカギがかかっていないと知っており、別の男性と来た可能性がある」と主張した。また、現場の部屋にはゴビンダさんの陰毛が落ちており、トイレにあったコンドームの精液はDNA鑑定でゴビンダさんのものとわかったが、「最後に会ったのは2月の終わりで、その時のもの」と反論した。
1審の東京地裁は、遺体のそばにゴビンダさんと被害者以外の陰毛が2本落ちていたことからも、「第三者がこの部屋に入って犯行に及んだ疑いが払拭しきれない」と指摘。「状況証拠にはいずれも反対解釈の余地があり、ゴビンダさんを犯人とするには合理的な疑いが残る」として、2000年に無罪を言い渡す。
無罪判決を受ければ、身柄は解放される。しかし、検察はゴビンダさんが故国に帰ることを阻止するため、控訴審の審理に影響が出るなどとして再勾留を要請し、東京高裁はこれを認めてしまう。最高裁も3対2で追認した。無罪になった被告が身柄を拘束され続けるという、何とも異例の展開をたどった。
2審。わずか3か月間の審理で、東京高裁は1審と全く逆の証拠判断をした。「被害者が、この部屋が空室で施錠されていないと知って売春客を連れ込み、あるいは、ゴビンダさん以外の男性が被害者をこの部屋に連れ込むことは、およそ考えがたい事態である」と断じ、無期懲役を言い渡した。1審と同じ状況証拠が「すべてゴビンダさんの不利に解釈された」と客野さん。ちなみに、高裁の裁判長は、無罪判決後の再勾留を認めた当人だ。最高裁も上告を棄却した。
で、再審である。足利事件、布川事件と再審無罪が続いたことや、検察の証拠改ざん事件などの影響もあって、弁護団の要求を受ける形で東京高裁が今回のDNA鑑定を決定し、東京高検が専門家に依頼した。対象は、現場で採取された精液や陰毛など42点。過去の再審請求審では、検察側が証拠開示や再鑑定に応じる可能性は極めて低かったから、それに比べれば順調な推移だったと言えるかもしれない。
ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)は、捜査、裁判の過程で終始一貫して冤罪を訴えてきた。2003年に最高裁で刑が確定して横浜刑務所で服役しているが、05年に再審を請求し、東京高裁で審理が行われている。
静かに続いていた再審請求審が最近、一躍注目を集めていることは、マスコミ報道でご存じだと思う。事件現場の遺留物などのDNA鑑定が実現し、7月に新たな事実が判明したのだ。8月末、「無実のゴビンダさんを支える会」の客野美喜子・事務局長らの話を聞く機会があり、ただちに再審を開始すべきだとの思いを強くした。
今回のDNA鑑定に触れる前に、事件と裁判の経緯を振り返っておこう。被害者の女性が売春を繰り返していたことから、センセーショナルな取り上げられ方ばかりがされ、肝心の法律的な問題点がきちんと伝わっていない印象があるので。
事件は97年3月19日、東京都渋谷区のアパートの無施錠の空室で、被害者の女性(当時39)が首を絞められた遺体で発見されて発覚した。顔に殴打の跡があり、財布からは4万円がなくなっていた。女性は3月8日に常連客とホテルで性的関係を持ち、別れた後、深夜に現場のアパートへ男性と入るところを目撃されていた。そのまま帰宅せず、捜索願が出ていた。
ゴビンダさんは隣のビルに住んでいて、事件現場の空室のカギを預かっており、さらに被害者を買春したことがあった。疑われていることを知って、自ら警察に出頭。不法残留で逮捕され、2か月後にこの事件の強盗殺人容疑で再逮捕される。ゴビンダさんが犯人と示す直接的な物証はなく、状況証拠を重ねて起訴された。
裁判でゴビンダさんは、以前に被害者をこの部屋で買春したことを認めたうえで、「被害者はその時に部屋にカギがかかっていないと知っており、別の男性と来た可能性がある」と主張した。また、現場の部屋にはゴビンダさんの陰毛が落ちており、トイレにあったコンドームの精液はDNA鑑定でゴビンダさんのものとわかったが、「最後に会ったのは2月の終わりで、その時のもの」と反論した。
1審の東京地裁は、遺体のそばにゴビンダさんと被害者以外の陰毛が2本落ちていたことからも、「第三者がこの部屋に入って犯行に及んだ疑いが払拭しきれない」と指摘。「状況証拠にはいずれも反対解釈の余地があり、ゴビンダさんを犯人とするには合理的な疑いが残る」として、2000年に無罪を言い渡す。
無罪判決を受ければ、身柄は解放される。しかし、検察はゴビンダさんが故国に帰ることを阻止するため、控訴審の審理に影響が出るなどとして再勾留を要請し、東京高裁はこれを認めてしまう。最高裁も3対2で追認した。無罪になった被告が身柄を拘束され続けるという、何とも異例の展開をたどった。
2審。わずか3か月間の審理で、東京高裁は1審と全く逆の証拠判断をした。「被害者が、この部屋が空室で施錠されていないと知って売春客を連れ込み、あるいは、ゴビンダさん以外の男性が被害者をこの部屋に連れ込むことは、およそ考えがたい事態である」と断じ、無期懲役を言い渡した。1審と同じ状況証拠が「すべてゴビンダさんの不利に解釈された」と客野さん。ちなみに、高裁の裁判長は、無罪判決後の再勾留を認めた当人だ。最高裁も上告を棄却した。
で、再審である。足利事件、布川事件と再審無罪が続いたことや、検察の証拠改ざん事件などの影響もあって、弁護団の要求を受ける形で東京高裁が今回のDNA鑑定を決定し、東京高検が専門家に依頼した。対象は、現場で採取された精液や陰毛など42点。過去の再審請求審では、検察側が証拠開示や再鑑定に応じる可能性は極めて低かったから、それに比べれば順調な推移だったと言えるかもしれない。
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