絶望者の王国
| 作者 | 林田力 | 状態 | 完成 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| カテゴリー | 恋愛 | 価格 | 100円(税込) | ページ数 | 7ページ |
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崇拝するほどの最愛の恋人と喧嘩別れしてしまった望琉が落ちた先は「絶望者の王国」であった。新築マンションだまし売りの裁判闘争を描いたノンフィクション『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』や『二子玉川ライズ反対運動』『東急コミュニティー解約記』『小説インターネットプランナー』の著者・林田力による恋愛ファンタジー小説。
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激怒
羅美は怒っていた。聖母のような表情を険しく一変させていた。容貌が秀麗なだけに一度殺気を帯びると、表情は凄絶なものになる。怒気の顕わになった眼光は、ナイフより鋭く心の奥まで刺し通す。雷さえ尻尾を巻いて逃げ出し、軟弱な人ならば簡単に打ち据えられてしまうだろう。魂さえ持っていかれかねない。
「ふくれ面をするものじゃない。折角の美貌が形無しだよ」
最初、望琉は事態の重大性を認識しておらず、すさまじい圧迫感に耐えつつも、気楽に流していた。それでも唇を笑う形に動かすのにかなりの努力が必要だった。
「満月も敵わない、貴女の美しさが損なわれてしまう」
そのように言ったものの、どのような表情であっても羅美は美しかった。生気に満ち、怒りをたたえ、負けん気を溢れさせた羅美の何という美しさ。意地悪な表情をしていても、つい見とれてしまうほど美しい。
「それで、あなたは高潔な人物になるってわけ?それとも卑劣な人間になっちゃうのかしら」
「僕達、こうして話しているのは何故だ。羅美は何を言いたいの。僕は羅美の言ったどっちにもならないよ。僕が何かを言うのは僕がこういう人間だからさ」
望琉は立ち上がって羅美に歩み寄り、肩に手を置いた。しかし羅美は、その手を振り払ってしまった。
「もし羅美がありのままの僕を好きでなくなったのならばこれは大変な問題だよ」
望琉は穏やかな声を出すように努めた。
「僕はありのままの羅美が好きだ。羅美の考え方も行動も好きだ。僕は羅美を愛している。愛する人を好きになるのはいいことだよ」
「……」
「そう怒るな。怒らないでくれ」
「最低」
「そうさ。でも貴女は僕を愛している」
「さあね」
「何が悪かった。僕ら、相性が悪かったか。好きな映画が違ったから?君の好みが中華で僕の好みが和食だったからか?何なんだ、一体?」
羅美は何か言いかけたが、無理に口をつぐんだ。そして、「その手には乗らないわ」とでも言うように顔をしかめて首を振った。
「羅美、僕は君に話している」
「あら、それは失礼」
羅美はキッと振り向いて言い返した。
「私はあなたの召使いではないのよ。返事しろと命令されるいわれはないわ」
羅美は本気だった。苛烈なエネルギーが秀麗な表情を打ち消すように噴出し、美しい唇は、わなわなと震え、言葉の矢が次々と繰り出される。あの上品で落ち着いた羅美からは想像もつかない不敬語が美しい口から次々と飛び出す。矢は一ミリグラムの容赦もなく、望琉の心の奥底に突き刺さり、胸をかきむしる。
望琉は呆然とした。空気が音を立てて氷結したような気がした。砲兵の射撃のように正確に計算された猛攻に打ちひしがれた。今や答えるすべを知らず、頭がまるで働かなくなっていた。そして望琉が最も恐れていた言葉が遂に発せられた。
「出ていけ!」
音楽的なまでの美声は、この場合、落雷に等しかった。どうしてこんなに美しい唇から、これほど残酷な言葉が出されるのか不思議だったが、考えている余裕はなかった。望琉はすぐに羅美の足元にひれ伏して、叫んだ。
「許してください」
声は裏返り、涙声の哀願に近かったが、そんな自分を卑しいとは思わなかった。自己の非を認めて相手の前に跪くなら、それは卑しい真似ではありえない。
「羅美は僕の唯一の慰め、たった一つの憩いなのです」
望琉は最早懇願しているだけではなかった。泣いていた。その目には苦悩と恐怖が浮かんでいた。
「頼むよ」
望琉は繰り返した。
「すまないと思っている。それだけは分かって欲しい」
「当然よ」
「うん。本当に悪かった」
それでも羅美はいつものように笑って許してくれなかった。望琉の惨めな狼狽など気にもとめなかった。望琉は出て行きたくなかったが、何を言うべきか分からなかった。適当な言葉を探してみても何も思いつかない。
「本当に出て行って欲しいの?」
「だめよ」
「でも……」
「考え直すことはないよ。あなたに出て行って欲しいの」
羅美は望琉を引きずって家から追い出してしまった。二人の愛の巣から。
「ふくれ面をするものじゃない。折角の美貌が形無しだよ」
最初、望琉は事態の重大性を認識しておらず、すさまじい圧迫感に耐えつつも、気楽に流していた。それでも唇を笑う形に動かすのにかなりの努力が必要だった。
「満月も敵わない、貴女の美しさが損なわれてしまう」
そのように言ったものの、どのような表情であっても羅美は美しかった。生気に満ち、怒りをたたえ、負けん気を溢れさせた羅美の何という美しさ。意地悪な表情をしていても、つい見とれてしまうほど美しい。
「それで、あなたは高潔な人物になるってわけ?それとも卑劣な人間になっちゃうのかしら」
「僕達、こうして話しているのは何故だ。羅美は何を言いたいの。僕は羅美の言ったどっちにもならないよ。僕が何かを言うのは僕がこういう人間だからさ」
望琉は立ち上がって羅美に歩み寄り、肩に手を置いた。しかし羅美は、その手を振り払ってしまった。
「もし羅美がありのままの僕を好きでなくなったのならばこれは大変な問題だよ」
望琉は穏やかな声を出すように努めた。
「僕はありのままの羅美が好きだ。羅美の考え方も行動も好きだ。僕は羅美を愛している。愛する人を好きになるのはいいことだよ」
「……」
「そう怒るな。怒らないでくれ」
「最低」
「そうさ。でも貴女は僕を愛している」
「さあね」
「何が悪かった。僕ら、相性が悪かったか。好きな映画が違ったから?君の好みが中華で僕の好みが和食だったからか?何なんだ、一体?」
羅美は何か言いかけたが、無理に口をつぐんだ。そして、「その手には乗らないわ」とでも言うように顔をしかめて首を振った。
「羅美、僕は君に話している」
「あら、それは失礼」
羅美はキッと振り向いて言い返した。
「私はあなたの召使いではないのよ。返事しろと命令されるいわれはないわ」
羅美は本気だった。苛烈なエネルギーが秀麗な表情を打ち消すように噴出し、美しい唇は、わなわなと震え、言葉の矢が次々と繰り出される。あの上品で落ち着いた羅美からは想像もつかない不敬語が美しい口から次々と飛び出す。矢は一ミリグラムの容赦もなく、望琉の心の奥底に突き刺さり、胸をかきむしる。
望琉は呆然とした。空気が音を立てて氷結したような気がした。砲兵の射撃のように正確に計算された猛攻に打ちひしがれた。今や答えるすべを知らず、頭がまるで働かなくなっていた。そして望琉が最も恐れていた言葉が遂に発せられた。
「出ていけ!」
音楽的なまでの美声は、この場合、落雷に等しかった。どうしてこんなに美しい唇から、これほど残酷な言葉が出されるのか不思議だったが、考えている余裕はなかった。望琉はすぐに羅美の足元にひれ伏して、叫んだ。
「許してください」
声は裏返り、涙声の哀願に近かったが、そんな自分を卑しいとは思わなかった。自己の非を認めて相手の前に跪くなら、それは卑しい真似ではありえない。
「羅美は僕の唯一の慰め、たった一つの憩いなのです」
望琉は最早懇願しているだけではなかった。泣いていた。その目には苦悩と恐怖が浮かんでいた。
「頼むよ」
望琉は繰り返した。
「すまないと思っている。それだけは分かって欲しい」
「当然よ」
「うん。本当に悪かった」
それでも羅美はいつものように笑って許してくれなかった。望琉の惨めな狼狽など気にもとめなかった。望琉は出て行きたくなかったが、何を言うべきか分からなかった。適当な言葉を探してみても何も思いつかない。
「本当に出て行って欲しいの?」
「だめよ」
「でも……」
「考え直すことはないよ。あなたに出て行って欲しいの」
羅美は望琉を引きずって家から追い出してしまった。二人の愛の巣から。
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著者紹介
●著者紹介
東京都中野区生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科民事法学専攻修士課程修了。
2003年6月、東急不動産(販売代理:東急リバブル)から東京都江東区のマンション・アルス301号室を購入するが、売主が把握していた不利益事実(隣地建て替えなど)を説明されなかった。隣地が建て替えられれば部屋は真っ暗になり、作業所になるため騒音も発生する。
2004年12月、消費者契約法第4条第2項(不利益事実の不告知)に基づき、売買契約を取り消す。
2005年2月、消費者契約法を根拠に売買代金の返還を求めて東急不動産を東京地方裁判所に提訴。
2006年8月、東京地裁判決で勝訴(東京地判平成18年8月30日、平成17年(ワ)第3018号)。
2007年以降、インターネット新聞上で自身のマンションだまし売り体験を中心に多数の記事を発表。
●著書一覧
林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年
林田力『二子玉川ライズ反対運動』マイブックル、2010年
林田力『東急コミュニティー解約記』マイブックル、2010年
林田力『小説インターネットプランナー』マイブックル、2010年
東京都中野区生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科民事法学専攻修士課程修了。
2003年6月、東急不動産(販売代理:東急リバブル)から東京都江東区のマンション・アルス301号室を購入するが、売主が把握していた不利益事実(隣地建て替えなど)を説明されなかった。隣地が建て替えられれば部屋は真っ暗になり、作業所になるため騒音も発生する。
2004年12月、消費者契約法第4条第2項(不利益事実の不告知)に基づき、売買契約を取り消す。
2005年2月、消費者契約法を根拠に売買代金の返還を求めて東急不動産を東京地方裁判所に提訴。
2006年8月、東京地裁判決で勝訴(東京地判平成18年8月30日、平成17年(ワ)第3018号)。
2007年以降、インターネット新聞上で自身のマンションだまし売り体験を中心に多数の記事を発表。
●著書一覧
林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年
林田力『二子玉川ライズ反対運動』マイブックル、2010年
林田力『東急コミュニティー解約記』マイブックル、2010年
林田力『小説インターネットプランナー』マイブックル、2010年
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