医療を受ける権利の法制化を目指す福岡県弁護士会は、県内の現状と課題を探るため自治体や医療機関を調査した報告書をまとめた。国民健康保険料の滞納により、医療費の全額をいったん自己負担しなければならない「資格証明書」や、有効期間が短い「短期保険証」の交付率が、全国の政令指定都市で福岡市が最も高いことを指摘。受診を我慢して病気が悪化した例も挙げ、貧困が及ぼす深刻な影響を指摘した。担当した弁護士は「より良い医療をつくるために考えるきっかけにしてほしい」と話す。
約20人の弁護士が「救急」「小児」「貧困」など7分野で6月から聞き取りをした。
報告書によると、福岡市は、国民健康保険料を1年以上滞納した人への「資格証明書」を1万2618件(2010年5月末現在)交付し、国保加入の全世帯に対する比率は5・8%。1年未満の滞納者が対象の「短期保険証」は3万312件(同)と同13・8%。いずれの比率も政令指定都市で最も高く「低所得世帯にとっては、保険料の負担が困難」と背景を説明している。
福岡市内の病院への聞き取りから、50代の女性が保険証がないために10カ月間受診せず乳がんが悪化したことなどを紹介し「貧困のため、重症化するまで受診を我慢する人が数多くいる」とも指摘した。
一方で救急医療については、福岡県は搬送時間が全国で最も短く「体制は高水準」と評価、救急医療機関の地域による偏在など課題も挙げた。小児医療では、虐待の発見や精神的な問題への対処、育児不安を抱えた母親への対応など小児科の役割は増大しているのに、医師不足などで現場の労働環境は相変わらず厳しいと現状を報告。ここでも貧困が子どもの健康に影響を及ぼすことがあるとして「子どもの権利に配慮した先進的な取り組みが必要」としている。
■福岡市で10日 シンポを開催
福岡県弁護士会は10日午後1時半から、福岡市博多区千代1丁目のガスホールでシンポジウム「患者の権利の法制化を目指して」を開く。報告書を弁護士会が説明し、薬害C型肝炎訴訟の原告団代表を務めた山口美智子さん、ハンセン病問題に取り組む九州大名誉教授の内田博文さんなどが討論する。参加無料。県弁護士会=092(741)6416。
=2011/09/07付 西日本新聞夕刊=