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[27783] 白キ本ト魔法少女(NieR Replicant/×魔法少女まどかマギカ)
Name: 七時◆be4643a5 ID:4f872113
Date: 2011/09/07 10:26
雪が降っている。 彼女が気付いた時に見た光景は、降り注ぐ雪と廃墟と化した都市だった。
「ここ・・・どこ?」
はっきりしない意識の中で彼女はそう思った。
建物は荒廃しきっており絶え間なく降り注いでいる雪で辺りは、まるで一面真っ白な絵の具で塗りつぶされた世界だった。

彼女は気が付くと、周りの風景が変わり今度は壊れた建物の中だった。
そこで彼女は自分とそんなに歳が変わらない少年を見つけた。
その少年はコートを羽織っていてが鉄パイプを持ってうつむいて膝を抱えて座っていた。

彼はうとうとしながらも何かを警戒するように建物の外を見つめていた。
彼の近くには不気味な顔が張り付いた本が置いてあったのだ。
「こんな・・・・・・モノ」
彼はその本をじっと見つめると声を出して本を座りながら蹴った。

彼女は声からして彼が凄く衰弱しているのがわかった。すると突然どこからともなく黒い影のような形をした化け物たちが現れてきた。
その黒い影たちは鉄パイプを持った少年に襲いかかってきたのだった。

「来るな!!バケモノ。来るな!」
すると彼はそう叫びながら立ち上がって、持っていた鉄パイプを両手でに持ち黒い影たちに立ち向かっていった。

黒い影の一体が鉄錆のような声を出して彼に迫ると、少年は手にした鉄パイプをその黒い影に向かって振り下ろした。

すると影のような形にしか見えないモノから赤い血が流れたのだった。
黒い影は悲鳴をあげると霧みたいものになり血溜まりを残して消えたのだった

「いったい何なのこれ?」
彼女は目の前でそれが消える瞬間を見ながら呆然としていているなかで、
彼は残り黒い影たちに無我夢中で鉄パイプを振り下ろしていたようだった。

彼女はこの恐ろしい光景を、見ながら彼女はどうして私はこんな夢を見ているのだろうと思っていた。
そう彼女が考えているうちにバケモノたちは彼に倒されていた。
「ケホッ...ケホッ」
すると建物の奥から咳をする女の子の声が聞こえてきた。
彼は血相を変えて建物の奥に走っていった。

今にも崩れそうな建物の奥に彼がそこに行くと、六歳くらいの小さな女の子でとても苦しそうに息をしてそこに座っていた。
「おにい・・・・・・ちゃん」
「大丈夫か? ヨナ」
男の子がそう言いながらに女の子の傍に来ると、
「ごめんね、おにいちゃん。もうすぐおせき止まるから・・・・・・ごめんね」

ヨナと呼ばれた女の子は咳をしながら弱々しく彼に返事をした。

「ヨナのおせきがきこえたらまたまっ黒オバケがでてきちゃう?」

「心配すんなにいちゃんはあんなオバケになんか負けない」

咳をし続けながら女の子がそう言うと、彼は明るい声を出してヨナを元気づけた。
苦しいそうに女の子がずっと咳をしてるのを見た彼は、
「待ってろ、また何か食べられるモノを見つけてくるから」

食料を探そうと彼は、女の子から離れて建物の外に出て行こうとした。
女の子の傍には彼の近くにあったあの不気味な本があった。
彼はその本をまるで忌々しいモノのように見つめながら女の子に呼び掛けた。
「・・・・・・ヨナ」

「・・・・・なあに?」

「何があっても絶対にその本に触るんじゃないぞ。絶対に」

「・・・・・・うん」
少女はか細い声出しながらも素直に頷きました。
彼は女の子を置いて、建物の出口に戻るとそこにはまたあの黒い影たちが現れて来た。
黒い影は、じりじりと彼に近づいていき、手にもっている剣の影ようなもので彼に襲いかかってきた。
「来い! 僕が相手だ」
彼は勇ましくそう叫び黒い影に挑み掛かっていく。
しかし次々と現れてくる黒い影たちに次第に彼は追いつめられいく。
「来るなっ! 来るなっ! 来るなっ!」
彼は力を振り絞って黒い影たちを戦うが、あえなく黒い影に打ち倒され冷たいコンクリートに突き飛ばされた。

黒い影たちは彼を無視して女の子のいる建物の奥に進もうとしていた。
突き飛ばされた彼の視線の先にはあの不気味な本があった。

それは禍々しい装飾が施された表紙から、まるで彼にチカラをやろうと誘惑しているように彼女にはそう見えたのだった。
「チカラを・・・・・・僕がヨナを・・・・・・守るん・・・・・・だ」
彼は意を決して這いずりながらその不気味な本の表紙に触れた瞬間、その本は眩しく光り黒い影たちはその光りをひるんだ。

その時黒い影たちの目の前に大きく、赤黒い腕が飛んできた。赤黒い腕に当たった黒い影は建物の外へ大きく吹き飛ばされた。
赤黒い腕の先には宙に浮かび、彼に付き従うあの不気味な本があった。
「ヨナに・・・・・触るな!」
彼はそう叫びと宙に浮かぶ本の先から赤黒い腕を具現化し、向かってくる黒い影たちを殴り殺した。
「ヨナは・・・・・・僕が守る!」
彼は息を切らせながら、次々と現れてくる影たちを本の力でなぎ倒していき黒い影たちは瞬く間に全滅していった。
「これが<黒の書の力―――。・・・・・・ヨナは?」
とても強大な本の力に彼は、震え上がる心を抑えながらも女の子の安否が気になった彼は建物の中に戻っていった。

「大丈夫か?・・・・・ヨナ!」

「おにいちゃんこそ・・・・・・大丈夫?」
彼が建物の奥まで戻ると彼は女の子の元へ駆け寄って行き女の子に呼び掛けると、女の子は苦しげにしながらも笑顔で彼を出迎えた。
「あんなヤツら、何てことないさ」
「よかった・・・・・・あ、コレ、さっき見つけたの」
彼がそう言うと女の子は近くにあるお菓子の缶箱を持って彼に見せた。
「・・・・・・クッキー? ヨナの大好物じゃないか!」
「うん! おにいちゃんと、はんぶんこ・・・・・・する」
彼は、驚いたように缶箱を見ると女の子は缶箱かクッキーを取り出して彼に差し出した。
「いいよ、僕は」
女の子が心配な彼はクッキーを受け取るのを断った。

「おにいちゃんといっしょに食べたい」
だが心配しているのは少女も同じで、自分もお菓子を食べないと粘り強く彼にクッキーを差し出した。

「・・・・・・じゃあ、ちいさいほうを」
彼は諦めたのかクッキーの半分を受け取ろうとして手を出した。

「ううん。 おにいちゃんは、おとうさんとおかあさんの分までたべ・・・・・・」

女の子はクッキーを彼と分け合おうとそれを差し出した瞬間、彼女の咳が、激しくなりその小さな体が崩れ落ちた。

「ヨナ!ヨナ!」
彼はその小さな体を受け止めると必死に女の子へ呼び掛けた。
「クッキー落とし・・・・・・ちゃった・・・・・・ごめんね」
女の子は辛うじて辛うじて意識は、保っていたものの体は、依然としてぐったりしたままだった。
そして気付けば少女の首筋から黒い紋様の鎖が表れ始めていたのだった。

「そんな・・・・・なぜ?」

彼は驚いたが、女の子の近くにも、あの<黒の書〉が有るのを思い出した。
「ヨナ、いっつもたすけてもらって・・・・・・から」
女の子はそれだけ喋ると意識を失って彼の体に倒れた。

「ダメだっ! ヨナ・・・ヨナッ!」

倒れた女の子に彼は必死に呼び掛けるが、少女の体温はどんどん冷たくなっていった。
「誰か・・・・・・誰かヨナを助けてください! 誰かっ!」

彼は、女の子の体を抱え誰かに救いを求め絶叫する。
彼女は二人の傍に近付こうするが、金縛りにあったように体が動かない。

「助けてください! 誰かっ! 誰かっ!」

彼女はこの悲痛な光景をただ傍観して見ることしかできなかった。

しだいに助けを求め続ける少年の姿が見えなくなり、彼女は目の前が暗くなり、ただ助けを求める彼の声が聞こえ続けた。

彼女は夢から目覚めると、そこはいつも見慣れた彼女の部屋だった。
「夢・・・・・・だったの?」
彼女は何故あんな夢を見たのか不思議でしょうがなかった。

そしてこの夢を見た時から彼女《鹿目まどか》は狂気に満ちた世界に招かれることになる。








[27783] 第一章 鐘ノ音、青イ鳥
Name: 七時◆7fe63cc8 ID:c4ad9fb0
Date: 2011/06/17 21:19
今日も人が賑わせている見滝原市のショピングモールその一つにある清潔なカフェで、鹿目まどかは最近、見るようになった夢の事を親友である二人に話していた。

「変な夢を見るようになってから、最近眠れないって?」
美樹さやかは、とても眠そうな親友から聞かされる悩みに困惑した。
「……うん」
まどかは、あの不思議な夢を見てからと言うものあまり寝付けないでいた。
目蓋を閉じて、眠っていても決まって夢に出てくるのは、あの黒い影やあの少年の助けを求める様子が出て来るだけだった。

その夢を見るたび、まどかは決まって悲しみや恐怖の感情に襲われるのを感じた。

「けどさ、その夢に出て来る黒い影とかさまどかは見たことあるんでしょ。ほら、私達と前にホラー映画見に行った時も滅茶苦茶、怖がってたし」
さやかはおどけてそう言うと、テーブルに置いてあった飲み物を飲んだ。
「……ううん。その夢に出てくる人たちとか光景が全然、私の知らないものなんだ」
まどかは、申し訳ないようにさやかに答えた。
「そっかぁ、確かにそれだとおかしい話だよね。 しかもそんな夢が何回も見るってゆうんだから」
さやかは、げんなりな表情をしてまどかにそう言った。

「そうですわね。 それにまどかさんの話を聞くと、まどかさんの夢なのにまどかさんが出て来ないというのも変な話ですよね」
もう一人の親友である志筑 仁美は、夢の内容に感じた疑問を、まどかに伝えた。
「ごめんね。 さやかちゃん 仁美ちゃん
こんな話を聞いてくれて」
まどかは相談に乗ってくれている二人に感謝した。
「いいって。いいって。最近、まどか凄く疲れてる様に見えたし、相談してくれて凄く嬉しいよ」 「そうですわ。 また何かあったら私達に相談してくれて構いませんわ」
二人は何て事のない様子でまどかを気遣った。

「それよりさ、気分転換にまた今度の休みの日でも、どこか遊びに行かない。パーッとさ案外ストレス解消したら悪い夢なんか見なくなるかもしれないし」

「それ、いいですわね。確かに気分転換は必要ですわよね」
さやかは夢の話題を切り替えて、皆でどこか遊びに行こうと提案した。
仁美も休日の気分転換には大いに賛成なのか、さやかに続いてまどかにそう言った。
「うん……そうだよね。 じゃあ今度の休日が楽しみだな」
まどかは笑顔で親友の誘いに答えた。

「二人とも本当にありがとう。私、今日は先に帰るから」
まどかは席を立ち、家に帰る支度をする。「大丈夫? まどか、ちょっと顔色悪そうだしあたし達も一緒に家まで、ついて行こうか?」
さやかと仁美は顔色が悪いまどかについて行く。
「いいよ。さやかちゃん今日も上条君の所いくんでしょ。それに仁美ちゃんも習い事があるし、私のはただ眠たいだけだし大丈夫だから」
まどかは疲れた顔つきでそう言ってカフェを先に出て行き、二人もまどかの後を、追うようにカフェから出た。

「本当に大丈夫ですか?」
仁美は、歩くのがとてもつらそうなまどかを見て心配そうな表情でそう聞いた。
「大丈夫だよ。それじゃあ二人ともまた明日ね」
「うん。帰りに気をつけて。 バイバイ」
軽く手を振って、二人と別れた後まどかは疲れた身体を引きずりながら活気づいたショピングモールの通路を歩いていた。
そんな時、まどかは鐘のような音が聞こえた。
最初は幻聴かと思ったが、まるで頭に直接響き渡るような音だ。
周りの人達はそれが聞こえなようでまどかだけに語り掛けるようだった。

まどかはその音のする方向に歩いていくとそこは改築中の建物だった。
そして音の出所は関係者以外立ち入り禁止の紙が張り付いている扉の向こうから聞こえているようだった。
「ここまで……来いって?」
その音は、まるでまどかを誘うように鐘の音を響かせる。
まどか何かに導かれるように扉の前で行くと音が止んだ。
そして扉の隙間から眩しい光が溢れ出したのだ。
まどかはその眩しさに目をつむると途端に全身を鷲掴みにされるような感じがした。
私、いったいどうなちゃうの? まどかはそう思いながらだんだん意識が遠退いていくのを感じていた。
「誰か……助けて!」
まどかはそう叫びが、それすらも眩しい光に遮られてしまう。
次第に光が収まった頃にまどかはこの世界から消え失せていた。





ぼんやりとした意識が戻っていく。
まどかが、最初に感じたのは頬に冷たい床が当たる感触だった。
まどかはゆっくりと目蓋を開けると、先程までまどかがいた場所ではなく天井と床が石で作られた見知ら建物の中だった。
「……女の子?」
まどかの視線の先には少年がいた。
銀色の髪に、灰色を帯びた青色の瞳の色をしていて、服装は異国で着るような奇妙な格好で何より異彩だったのは片手にもった古びた剣だった。
少年は茫然とした様子でまどかの方を見ていた。
「いけない――― 君、逃げて!」
「……え?」
すると少年は、はっとして慌てたような表情をしてまどかに叫んだ。
まどかは、呼び掛けられて驚いていると、周囲に小人の形をした、黒い影の化け物が無数に現れた。

まどかは、愕然した表情でそれを見た。
何故なら、今まで夢にしか出て来ない筈の黒い影が彼女の目の前に現れたからだ。

黒い影たちは、まどかの視線に気付くと、奇妙な鳴き声を発して、まどかに向かって近付いていく。
まどかは逃げようとして身体を起こそうとするのだが、思うように足が動けない状態で尻餅をついた姿勢になった。

すると少年は、黒い影がまどかを狙っているのに気付くと、片手に持った剣で黒い影たちに立ち向かった。

「この……コイツら!」
少年はそう言ってまどかに向かっていた黒い影たちを斬りつけていく。
しかし黒い影は、倒してもどんどん沸いてくる。
「クソっ! まだヨナが、あそこにいるのに!」
まどかは後ろを見ると、大きな石像が二体佇んでいて、奥には祭壇があり女の子が其処にいた。
少年は焦った様子で奥に行こうとするのだが黒い影たちは、彼やまどかに襲いかかってくる。

「ヨナ! ヨナ!」
少年は女の子の元に行こうとするが、黒い影たちは彼やまどかに性懲りもなく襲いかかってくる。
少年はただ防戦するしかなかった。
まどかは、何とか逃げなければと思ったが彼だけを置いていくことは出来ない。
いったいどうしたらいいのだろうとまどかは思った。

「ううううううむ……痛い。 痛いではないか!」
突然、まどかのいる場所から声がした。
その声は威厳に溢れた老人の声だった。
「……重い。 重いぞ! 早くそこをどかぬか!」
「……え?」
声は、まどかが座っている床からしたのだった。 彼女は急いでそこから少し動くと其処には一冊の古ぼけた白い本があった。
「……まったく。選ばれし存在である我を尻で踏みつけおって、お主には古代の叡智である我を敬おうとは思わぬのか!」
そして白い本は宙に浮かぶと、なんと人の言葉を発した。

「……本が喋った!」
「ただの本ではない。我は偉大なる〈白の書〉である。そこら辺にある書物と一緒にするでない」
白の書は宙に浮かびながらまどかの言葉にひどく憤慨しながらも答えた。
まどかは、まるでおとぎ話に出て来る驚きながらも何故かこの白い本なら今の状況を救ってくれるかもしれないと思った。

「今、私たち黒い怪物に襲われているの。 お願い助けて!」
まどかは起き上がって白の書に向かって、頭を下げて懇願した。

「……敬いが足らんが、まあ良かろうならば我が〈白の書〉に任せれば、あんな雑魚共すぐにでも一掃してくれよう」
すると白の書はまだ憤慨しながらも彼女の必死の願いに、機嫌を直したのかまどかの傍に来て尊大な態度で彼女に答えた。

「だがお主の力も必要だ。生き残りたくば心してかかるがよい」
「……え? そんな突然そんな事、言われたって」
まどかが心の準備をする暇もなく、黒い影たちの何体かが彼女たちに襲い掛かってきた。
「まずは、雑魚共を我が魔法で一気に皆殺しにしてくれる!」
白の書が勇ましく声を上げると表紙が開き本のページから赤黒い光弾が無数に矢のように飛び出した。
光弾は化け物たちを貫いていき、黒い影たちは、血飛沫をあげ断末魔の悲鳴をあげながら消えていった。
すると白の書は殺した化け物の血を凄い勢いで吸い込んでいった。

まどかはその現実離れした光景におののきながらも、さっきまで黒い影たちと戦っていた少年を探した。
少年は黒い影たちに覆い被さるよう、押さえ込まれ身動きが取れなくなっていた。

まどかは、先まで彼が持っていた剣が落ちているのを見つけた。
少年は丸腰で黒い影たちを相手をしようとするが、服の彼方此方から血が滲んでいた。
「白さん。あの男の子、このままじゃ危ないよ。助けなきゃ!」
「我の名を……略すでない! まあいい往くぞ!」
白の書とまどかは少年を取り囲んだ黒い影たちに向かって無数の光弾を放つと黒い影たちに何発か着弾した。
黒い影が、残りの光弾からて逃げまどう、少年から離れている隙にまどかたちは傷だらけの彼に駆け寄った。

「あの……大丈夫ですか」
「ありがとう―――助けてくれて」
少年はまどかにお礼を言いながら立ち上がった。
「そうだ、ヨナは!」
少年は傷ついた身体を無理に動かし祭壇に向かおうとした。
「無茶だよ。 そんな身体で、あなた傷だらけだよ」
「だけど……彼処にはヨナが、妹がいるんだ。 助けなきゃ!」
少年はまどかの引き留めを聴かず祭壇に向かおうとすると、白の書が彼の前に止まった。
「邪魔だよ! そこをどいて!」
「まったく目の前の課題をひとりでやり遂げようという心がけは立派である。と同時に、実に愚かしい。なぜ古代の叡智に助けを求めぬのだ?」
少年は白の書を無視して進もうとする。

白の書が一気にそう捲くし立てて、彼を立ち止まらせると今度は諭すような声で、少年に語り掛けた。
「あそこには、魔法陣が敷かれておる。奴らを一掃せねば、助け出すのは不可能ぞ」
「じゃあどうしたらいいの?」
少年が、白の書に疑問を投げ掛けると白の書は不遜な態度で彼に答えた。
「我を誰と心得る?  汝らに力を与えし、〈白の書〉であるぞ。見くびるでない!」
彼らが言い争っている時、まどかはあの黒い影たちがいつの間にかいなくなっているのに気付いた。

すると祭壇の奥にいる二体の石像が、唸り声を出して手に持った武器を振るい動き出した。
そして二体の像はまどかたちを見て叫び、大きな足音を立てて、こちらに猛然と襲い掛かってきた。

「あの石像、こっちにくるよ白さん!」
まどかは言い争っているのに、夢中な彼らに危機を伝える。
「あいつら―――とにかく!何とかしなきゃ! お願い助けてシロ!」
「だから我の名を略すでない!」
彼らは言い争いをやめ、少年は剣を拾い直しに行き、白の書は二体の像に無数の光弾を放った。
光弾が二体の像に当たるが、石像たちは多少、動きが鈍くなったがそれでも歩みを止めずに彼らに向かって突き進んでいく。

「いきなり襲いかかるとは、知性の感じられぬ事だ。 とはいえ二匹を同時に相手にするには骨が折れる」
白の書は呟きながら、まどかと一緒に二体の石像から逃げつつひたすら光弾を放ち続けた。

少年は片方の石像に向かって斬りかかる。石像は斬りつけられると血を出し痛みで声を上げたがすぐに少年に武器を振り下ろして反撃した。
少年は辛くも武器を避けまた石像を斬りつけていく。

「血はオト……音はコトバ……コトバは……チカラ……コレはキオク?」
「どうしたの? 白さん!」
白の書は石像から出た血を黒い影の時のように吸いこむと突然、奇妙な音を出し始めた。
「大丈夫? しっかりして白さん!」
「心配いらぬ。それより奴らから目を離すでない」
白の書は彼女の呼び掛けに答え、追いかけてくる片方の石像に見定めて、赤黒い槍状の形を成した物を撃ち込んだ。
赤黒い槍が石像を貫くと石像は痛みで呻き声を出しながら倒れた。

「今ぞ、攻撃の契機だ!」
「わかったよ!」
白の書は彼女にそう言うと今度は巨大な赤黒い槍を出し倒れた石像に撃ち込んだ。
倒れた石像にまた赤黒い槍が突き刺さると夥しい血が流れ、石像は断末魔を上げながら完全に動きを止めた。

少年を相手にしていた石像は片方の石像がやられたのを知ると怒り狂ったように叫びながら、口を開け、そこから複数の赤い光弾を放出した。
「あの石像、怒ってるの?」
「怒りは負のエネルギーなり、おそるるにに足らず!」
複数の赤い光弾は降り注ぐように少年に襲いかかる。
少年は襲いかかる光弾を転がりながら回避していく。
石像は赤い光弾を放出するのをやめると、今度はまどかたちに向かって高速で突進してきた。
「きゃ!」
まどかは石像の突進を滑り込むように避けるが足を擦りむいてしまう。
「お主、大丈夫か?」
「うん、何とか無事だよ」
白の書はまどかにそう聞きながら、また石像に赤黒い槍を撃ち込もうとして周りに複数の赤黒いそれを出現させていた。

石像はそれをさせまいとまた彼女たちに襲いかかろうとするが少年が石像を行かせまいと剣で石像の体を斬りつけていく。
石像は何度も足を斬りつけられたのか足をよろめきながら倒れた。
「今だ、 撃つぞ!」
その瞬間、白の書は複数の赤黒い槍を石像に向けて撃った。
石像は何とか起き上がり手に持った武器で防御するが赤黒い槍はそれすらも貫き、石像の片腕を吹き飛ばし体を貫いていく。

石像は血を流し苦痛で声を上げながら、
ゆっくりと倒れて動かなくなった。
「終わったの?」
まどかは石像が動かなくなったのを確認すると祭壇にあった魔法陣が消えていることに気づいた。
「ヨナ!」
「あ、待って!」
少年は急いで祭壇まで駆け込んでいく。
まどかたちも少年の後を追うと祭壇にいる女の子は眠り姫のように眠っていていた。
「おにい……ちゃん……ごめんね……
ヨナ、また……おにいちゃんに迷惑かけ……た」
女の子は目を覚ますと少年がいるのに気付きか細い声で謝った。
「謝るのは、僕のほうだ。 ごめんね。怖かったね。はやく家に帰ろう、ヨナ」
少年は女の子が無事な事に胸をなで下ろし女の子に謝った。
まどかは、女の子の無事に喜びながらも何故自分がここにいるのかと思い、何かしっているのではと白の書に聞こうとした時、建物が大きな音をして崩れ始めていた。
「なにやら剣呑であるな」
「この神殿、古そうだもんね…… 速く出よう!」
少年はそう呼び掛けて建物から出るように促した。
「えっと……はい!」
まどかも促されるように女の子を背中に抱えた少年についていき崩れ始めた建物から脱出した。

少年について行き急いで建物の外まで来た時、建物がいっそう大きな音だして瓦礫の山が落ちてきて入口を塞いでしまった。
「どうやら間に合ったようだな……」
「……うん」
まどかたちは崩れた建物を見ながら安堵して疲れた体を座って休めた。
「おにい……ちゃん 月の涙……なかった。 おにいちゃんをお金持ちに……してあげたかったのに。ごめん……ね」
「ヨナ……」
女の子は苦しそうに息をしながら少年に危険な所まで来たのを謝っていると女の子の白い肌から黒い模様が浮かび上がってきたのだった。
「なん……だ、これ……」
少年は黒い紋様を見てまるで死神を見つけたかの様に驚いていた。
「これ、夢で……見た」
まどかも黒い紋様を見て驚いた。何故ならその紋様も夢にしか出てこない筈のものだったからだ。、






[27783] 第二章 白ノ書、イニシエノウタ
Name: 七時◆d4740f44 ID:51b53872
Date: 2011/05/19 12:27
「えっと……冗談だよね、白さん?」
「冗談ではない。話を聞くと、どうやらお主は別の世界から来たようだ」
まどかはまだ信じきれないといった表情で白の書を見ていた。
あの後、まどかと白の書は少年に勧められて彼らの住んでいる家で休ませてもらっていた。

そこでまどかは落ち着いてきた事もあって改めて白の書に何故、自分が気付いたらあの場所にいたのか聞いてみたのだった。
彼がまどかの話を聞いている内にわかったのは、彼女がこの世界とは違う場所から来たという事だけだった。

「どうして、別の世界から来たって言うの?」
「お主のいた世界と我らがいる世界ではかなり違いがあると言う事だ。お主自身も気付いている筈だが」
まどかは確かに此処まで見て来た絵空事に出てくる怪物や魔法などを間近で見て確かにそうかもしれないと思っていた。
「そしたら、どうやったら元の世界に帰れるのか、白さんならわかるの?」
「残念だが……それは我にもわからぬ」
「そんな……」
白の書の答えにまどかは意気消沈したが、まだ一つ気になっていた事があった。
「そういえば、白さんあの子って何かの病気なの?」
それは、今二階の部屋にいる少年の妹の事だった。

女の子は黒い紋様が出た後、意識はしばらく失ったものの今は小康状態のようで部屋で安静にしていた。
まどかはあの不吉な黒い紋様がどうしても頭から離れないでいた。

「あれは黒紋病……死に至る病だ」
「……黒紋病?」
まどかはその嫌な響きの名前に嫌悪感を抱きながら白の書の話を聞いた。
「その病にかかった人間は、全身に黒い文字のような紋様がひろがり、やがて死に至る病だ」
「それじゃ、あの子は……」
まどかが言葉の続きを―――もう治らないの?と口に出そうとした時、妹を看病していた少年が階段から降りてきたのだった。
「大丈夫か?」
「ごめん、心配してくれてありがとう。もう大丈夫だから」
少年は辛そうな表情していたが気丈にそう答えた。
「あの……その」
まどかは少年に何と声を掛ければいいのかわからなかった。
助けてくれたお礼を言えばいいのだがうまく言葉に出来なかった。
「ごめんね。君も何か大変そうなのに力になれなくて」
少年にもまどかが気遣っているのがわかったのか済まなさそうな表情してそう答えたのだった。
「そんなことないよ。 あなたが助けてくれなかったら私、あそこで怪物殺されてたかもしれないんだよ。 全然そんなことないよ」

「……ありがとう。それとちょっと一緒について来て欲しいんだ。一度君に会わせたい人がいるんだ」
少年はまどかに励まされて少し有り難いといった表情をしてそう言った。
「会わせたい人?」
「うん、村に入った時に丘の上に大きな建物があったよね」
まどかは確かに村に入った時、一際大きな建物があったのを思い出した。
「それでね、彼処は図書館になっててそこにいる館長さんが凄く頼りなる人なんだ。事情を話せばきっと力になってくれるよ」
まどかは少年が親切にしてくれるのが嬉しかったが彼が無理をしていたのがわかって申し訳ない気持ちになった。
「妹はよいのか?」
白の書にもそれがわかったのか少年に確認したすると少年は首を振って答えた。
「今は少し落ち着いているから大丈夫。それにそっとしておいてやりたいんだ」
「……わかった」
そう言ってまどかたちは家の外に出た。
少年は感情を何とか抑えている状態で家から少し離れると彼は嗚咽しながら叫んでいた。
「どうして……ヨナなんだ……? 何も悪いことしてないのにどうしてヨナが! 僕たち兄妹ばかり、なんでこんな目に!」
少年は感情を爆発させ、妹に降りかかる不幸を嘆いた。

彼を見ていたまどかも気付けば目から涙を流していた。もう家に帰れないかもしれない。
もう大切な家族やかけがえのない友達に二度と会えないかもしれない。
そう思うと彼女は不安でたまらなかった。そして目の前にいる彼も家族を病に奪われてしまう怖さから泣いているのだ。

そんな彼を放っておくことができなかったまどかは泣いている彼の傍まで来て彼の手を握った。
彼は驚いて手をほどこうとするが彼女は手を握ったまま離さない。
「怖いよね。苦しいよね私もおんなじだから、だから一人で全部抱え込まないで」
まどかは泣いている彼の目を見据えて自分が今、感じでいること不安、悲しみなどの感情や彼に言いたいことを吐き出したのだった。
彼はそんなまどかの姿を見て荒れ狂っていた心が落ち着く感じがしたのだった。
白の書は事の成り行きを見守るようにただ泣いている二人の姿を見ていた。

「まだ私の名前言ってなかったよね。
私は鹿目まどか。 まどかって呼んで。あなたの名前は?」
しばらくして泣き止んでから最初に話し掛けのはまどかの方だった。彼女たちはまだお互いの名前さえ知らなかった。
だからまず名前から知るべきだとまどかはそう思ったのだった。

「僕は……僕の名前はニーア……ニーアっていうんだ」
ニーアは、しばらく間をおいてから恥ずかしそうにそう名乗った。
彼は今更ながらに彼女に泣き顔を見られたこともあって気恥ずかしい顔をしていた。「きっと大丈夫だよ、ニーア君。ヨナちゃんの病気だってよくなるよ。
だって喋る本に動く石像があるんだから、病気を治すを方法だってどこかにあるかもしれないんだから、絶対に諦めちゃ駄目だよ」
「そうだよね諦めちゃ駄目だよね。 ごめんね、ありがとう。まどか」
そんなやり取りをして二人は握っていた手を離して笑いあっていると白の書がいつの間にか彼らの傍に来ていた。
「全く……やっと終わったか。もうよいのか」
「……白さん」
白の書は相変わらず不遜な態度でまどかたちに接していたがそれでも二人を心配しているのが彼らにはわかった。
「もう大丈夫。 行こうまどか、シロ」
ニーアは少しだけ元気を取り戻していた。まどかは彼の姿を見て自分も励まされているのだと感じた。

彼に付いていき丘の上にある図書館を目指す途中でまどかの耳に美しい歌声と弦楽器の音が聞こえて来たのだった。
歌声は村にある噴水広場の方から聞こえてきた。

噴水広場で歌っていたのは若い赤い髪の女性だった。
赤い髪の女性は噴水の前に腰を下ろしていて持っている弦楽器を演奏しながらその美しい歌を披露していた。
「ニーア君、あの人って」
まどかはその美しい歌に魅せられ気になってニーアに聞いてみた。

「ああ、あれはデボルさんだよ。デボルさんっていうのは、今から会いにいくポポルさんの双子の姉妹なんだ。デボルさんもとても頼りになる人なんだよ」

彼がまどかにそう話していると弦を爪弾く音と歌声が止んでいた。
赤い髪の女性はニーアたちを見付けると此方に向かって歩いてきた。

「よっ! 無事だったのか!! 東門から出たと聞いて心配……なんだその本は? それに一緒にいるその子、この辺じゃ見かけない顔だけど一体どうしたんだ?」
デボルはニーアの事を見て安堵したように彼に駆け寄ると、次は一緒にいた白の書とまどかを見て訝しんだ。
「あ、これは、その……」
ニーアはうまく言葉に出来ないようで口ごもっていると後ろにいた白の書がデボルの目の前で来たのだった。
「我は偉大なる【白の書】であるぞ。敬ってもらって構わんぞ」
白の書はデボルに向かって偉ぶった声をだして自己紹介をしていた。
「へぇ! 【白の書】って喋るんだな! 知らなかったよ」
デボルは多少、驚いたような顔したがすぐ表情が変わってもの珍しげに白の書を見ていた。
「え? シロのこと、知ってるんですか?」ニーアはデボルが白の書を知っている事にひどく驚いた。
「今歌ってた歌に出てくるんだよ。【白の書】って」
「……歌?」
「そう、村に昔から伝わるイニシエの歌さ古い言葉だからね。何言ってるか判らないだろうけど」
まどかは確かに彼女が歌っていた歌詞が風変わりな物だった事に気付いたのだった。
「その歌……どんな意味があるんですか?」ニーアは歌詞の内容が気になりデボルに聞いた。
「意味、って言われてもな……あんまり、詳しくはないんだが」
デボルはそう言いながらも歌詞の内容を思い出すように言った。
「いつかこの村に【黒の書】が舞い降り、病を撒き散らす。だがそれに抗う、【白の書】と【女神】が世界を救う……って感じかな?」
ニーアは歌詞の内容をじっと聞いて黙ったままだった。
「どうしたんだ。いったい?」
「いや……なんでもないです」
デボルは不思議そうな顔してニーアに聞いたが彼は生返事して何やら深く考えているようだった。

「それで、どうやって【白の書】と【女神】は世界を救う事になってるんですか?」ニーアは歌詞の内容に興味を持ち詳しい内容をデボルに聞いたのだった。

「さあね? ……あたしもそこまで詳しく理解して歌っているわけじゃないし」
「そうなんだ……」
デボルが残念そうにニーアに言うと彼は表情を曇らせ落ち込んだ。
「しょげるなよ。 物知りポポルに聞いてみたらどうだ? 何か知ってるかもしれないし」
「そうですね。どうも、ありがとう!
デボルは落ち込んだニーアを励ますようにそう言うと彼は彼女に明るく返事をして図書館に向けて意気揚々と走り出した。
「まって、ニーア君。えっと素敵な歌、聴かせてくれてありがとうございます。それじゃ!」
「ああ、誉めてくれてありがとう。じゃあまたな」
まどかはデボルに会釈すると彼女は笑顔で返事をしてまた歌を歌い始めた。
まどかはその美しい歌声に惹かれたが先にいってしまったニーアを追いかけるためにその場を後にした。
「白と黒の書…… 女神……病」
「どうしたの? ニーア君」
まどかはニーアに追いつくと彼は何かを思いついたようにぶつぶつと呟いていた。

「ニーア君?」
「あ、ごめんね……まどか、先にいっちゃて
」まどかが再び呼びかけると彼はやっと気付いたようで彼女に謝った。
「どうしたのだ?」
「いや……ちょっと気になる事があって」
白の書も気になって彼に問い掛けてみたが彼ははっきりとしない要領で答えた。
そして、そんなニーアにまどかたちは付いていき丘の上の図書館に入るとまどかが見たのは内壁全体を利用した書架に古くから作られているのにきれいに整理された広い空間だった。
「こっちだよ、ついてきて」
まどかがキョロキョロと部屋を見回しているとニーアに呼びかけられて慌てて彼に付いていった。
図書館にある階段を登って二階まで行くとそこには扉があり、彼は扉が開け部屋に入っていた。 まどかも彼の後に続いて部屋に入ると、そこにいたのは先ほど出会ったデボルにとてもよく似ているが彼女とは違い物静かな印象がする女性がいた。
「……ヨナちゃんのことは聞いているわ。
本当に何て言ったらいいか……あれ、その子は?」
その女性はニーアを見て心配するように言葉をかけているとまどかを見つけて彼に彼女のことを問い掛けた。

「あのポポルさん。この子のことを含めてお願いがあるんです。デボルさんが歌っていた。【イニシエの歌】について教えてもらえませんか?」彼女に聞かれたニーアは事情を説明するように宙に浮いた白の書をポポルという女性に見せた。

「それは……【白の書】?」
「白さんを知ってるんですか?」
「……話が早そうだ」
まどかは彼女が白の書を知っていることに驚いていると彼女は落ち着いた声で話し始めた。
「【イニシエの歌】ね…… 【黒の書】が世界に災厄をもたらした時、【白の書】とそれを携えた【女神】が現れ、【封印されし言葉】で、【黒の書】を降ろし、災厄を消し去る……って言われてるの」

「【封印されし言葉】って?」
「正確な記録が残っていないので、よくは判らないけど、何か魔法のようなもの……らしいわ」
「そうか……そうだったんだ!」
「ど、どうしたの突然」
ニーアは彼女の話を聞くと突然、得心したといった顔で一気に話し始めていた。
「【白の書】と【女神】が病を消し去るってイニシエの歌に書いてあったんですよね? そして【封印されし言葉】……」
「あの神殿で石像を倒した時に、我が吸ったモノが【封印されし言葉】……ということか?」

白の書は思い出したように言っていると彼は話を続けた。
「そうだよ、シロ!シロさえいれば、ヨナの病気は治るんだ! それにまどかだって!」
「……え?」
まどかは彼の話題に自分のことが出て来てびっくりしたように彼を見た。
「【イニシエの歌】に書いてあっただろう? 【白の書】を携えた【女神】ってそれってもしかしたらまどかのことかも知れないじゃないか!」
「確かに伝承の通りなら帰れるかもしれぬな」
「えぇ! 違うよ私【女神】なんかじゃ……」
まどかはそれを否定するように声を上げニーアを見たが彼はまどかを見つめたままだった。
「【封印されし言葉】を集めればまどかだって元の場所に帰れるかしれない!」
「そんな……これは昔の言い伝えなんじゃ……」
「だけど、【白の書】はこうやって実在してるんです。 まどかだってシロと一緒に僕を助けてくれたんだ。病を治す言い伝えも、きっと本当だ」
ニーアは白の書やまどかを指して言い伝えを信じていると彼女に伝えるとポポルは顔を曇らせた。
「しかし、肝心の【黒の書】の在り処がわからぬ」
「それは……記録には書かれていないわ」
白の書は【黒の書】の所在を聞くが博識な彼女でも、そこまではわからないようだった。

「【封印されし言葉】もひとつとは限らないし……」
「だが、マモノ達と【封印されし言葉】は浅からぬ関係があるようだ」
まどかは二人の話を聞きながら、ニーアを見ると何やら決心した面持ちをしていたのを見たのだった。
「じゃあ、僕が手当たり次第にマモノを殺していくよ!」
「そんな、危ないこと!」
「……量をこなして、質を得るつもりか?無謀な策だ」
ニーアの話を聞いたポポルと白の書が彼を諫めているとまどかも彼を止めようと彼に話し掛けた。
「危ないよ、やめたほうがいいよ!」
「ここにじっとして、何もしないよりマシだよ! 僕は行く。ヨナのために」
彼の固い決心を聞いたポポルは少し不安そうな顔をしながらに机の引き出しから地図を取り出していた。
「……そう、なら仕方ないわね。最近、【崖の村】という場所でマモノが出ている、と聞いたわ。もしかしたら【封印されし言葉】はそこにあるかもしれない」
ポポルは地図を広げながら【崖の村】を説明していく。
「北平原の橋の修理が終わったらしいから、そこを渡っていけば行けると思う」
そう言ってポポルはニーアに広げた地図を渡した。

「村長の家を尋ねてみるといいわ。 【崖の村】で一番高い所にある金色の建物よ」
「わかった!」
ポポルの心遣いに感謝しながらニーアは足早に部屋を出た。
「あなたは、ちょっとまって欲しいの」
「あ、はい何ですか?」
まどかも彼の後に続いて部屋を出ようとすると、ポポルはまどかを呼び止めた。
ポポルはその理知的な瞳を光らせながら、まどかに向かって話し掛けた。
「あなたも彼と一緒に【封印されし言葉】を集めにいくの?」
「……はい!」
まどかは、ニーアと一緒に行くつもりでいた。まどかもこのまま、じっとしていてもいつ元の場所に帰れるかわからない。
それなら危険でも彼について行こうと決めていた。
「……もし彼と一緒に行くのなら丸腰のままじゃとても危ないわ。良ければこれを使ってちょうだい」
そう言ってまどかの目の前に出したのは、特異な形をした短剣だった。
その短剣は稲妻のように剣先が曲がっていて不気味な鈍い光を放っていた。
「あの……ありがとうございます。あの私のこと……」
「いいのよ、困った時はお互い様よ。
彼にあんまり無理をしないようにいっておいて、もちろんあなたも気をつけて」

まどかは短剣を受け取りポポルにお礼を言って部屋を出た。
その時に、目に映ったポポルの瞳はどこか悲しみと苦しみの混ざった暗い暗い色していた。
「まどか……もういいの?何か聞けた?」
まどかが図書館の外に出るとニーアが待っていたよう彼女に駆け寄った。
「ううん、特に何も、けど決めたよ。私、ニーア君について行くって、そしたらこれを貸してもらったの」

まどかはそう言ってポポルに貸してもらった短剣を見せるとニーアは驚いた。
彼はてっきりポポルに事情を話して保護を受けるものだと思っていた。
「けど……危ないよ!」
「それだったらニーア君もいっしょだよ。 それに大丈夫だよ。だって私達には白さんがいるんだもの」
まどかはそう言って彼に詰め寄るがまだ完全には納得してない様子だった。
「本当によいのだな?」
「うん、もう決めたことだから大丈夫」
白の書がまどかにそう聞くとそれ以上、
何も言わなかった。
「本当にいいの?」
「うん、本当だよ」
「わかった。 けど絶対に無理しないでね」ニーアもまどかが決心しているの知ると彼もそれだけ言って黙った。
それからニーアたちは家に戻り旅支度をして村の門まで来ていた。
彼が家から出て行く前にヨナと話をしてニーアは絶対、ヨナの病気を治すと約束していた。

ヨナは兄にただ無事で早く家に帰って来てほしい健気に訴えていた。
ニーアはそんな妹に後ろ髪をひかれながらも家を出た。
そして今、ニーアはまどかと白の書を連れて旅に出ようしている。彼はまどかが一緒に旅に出ることにまだあまり乗り気ではなかったが本当は凄く心強く思っていた。
「それじゃあ……いこう!まどか!シロ!」
「うむ、行くか」
「うん、わかったよ」
ニーアは彼女と白の書が居ればどんな困難も越えられるような気がした。
そこから彼らの旅は始まった。
ここからどんなあらゆる危険や苦難が彼らを襲う。 それでも少年と少女は希望に溢れた未来を信じて村の門から【崖の村】に向かって歩き始めた。














































































ゲシュタルト計画 報告書10432

ケース23『緊急時の対応協議』委員会特別会議議事録
議題・崩壊体の増加、亜種の出現経過観察。→承認
議題・復帰スケジュールの前倒しについて。→承認

議題・人類復活スケジュールについてキーコード【黒の書】の使用と【女神】の召還を検討。
議題・上記に伴う復号システム【白の書】」の起動準備。議題・【白の書】起動及び【女神】の発見。ニーアの誘導と解除コードの収集指示。
議題・【女神】の健康状態、精神状態の確認。
監視者021コードネーム「■■■」
監視者022コードネーム「■■■」





[27783] 第三章 心閉ザセシ鉄棺、カイネ/逃避
Name: 七時◆f51a94ac ID:51b53872
Date: 2011/06/19 16:32
今、ニーアたちは広大な平原を歩きながらニーアはまどかに【マモノ】ついて一通りの特徴を教えていた。
まどかはこれから戦い続けるかもしれない敵に内心、怯えながらも真剣に彼の話を聞いていた。

ニーアの話した内容は、【マモノ】というのは姿形は様々あるが黄色と黒色が混じった体色をしていて黒い影に見えるらしい。
【マモノ】は陽の光に弱く陽射しから逃れるように物陰や茂みなどの暗い場所に隠れて活動する。

【マモノ】は人や動物を見ると見境なく襲いかかってくるのだ。
それを見た人間や動物はまるで黒い影に襲われたように錯覚してしまうのだ。

小型の【マモノ】なら普通の人間でも、倒すことも難しくはないのだが、中には大型の【マモノ】も存在してそれは屈強な大人たちが何人、束になってもとてもかなわないらしい。

だがニーアを含めてこの世界の人たちは、【マモノ】がどこから来て本当に生き物なのか、どうやって数を増やしていて何をたべ、知性はあるのかわからないと言った。
今、ニーアたちの世界は【マモノ】とよばれる怪物と蔓延する奇病【黒紋病】によっ人々は脅かされていたのだった。

「そんなの相手に私達だけで大丈夫かな……」

彼の話を聞いたまどかは子供二人だけで危険な【マモノ】たちに勝てるのかと不安になった。

「大丈夫! だってこっちにはシロがいるんだから! まどかもそう言ってくれたじゃないか」
「……うん、そうだよね。ごめんねニーア君、弱気なっちゃて」
弱気なったまどかをニーアが励ましていると白の書が二人に話し掛けた。

「おぬしたち、マモノが怖くないのか?」
白の書が身を案じるように彼らに言うと、ニーアは声を震わせながら答えた。

「こわいよ! こわいに決まってる!でも、ヨナを助けるんだ。絶対に助けるんだ!」
「そうか、ならば我に止める理由もない」

白の書は彼の答えに満足すると次はまどかに向かって話し掛けていた。

「おぬしはどうなのだ? 村に留まり我らを待つこともできたであろうに」

「私も、凄くこわいよ。けどね、ただ待つことだけして知らないふりなんて、できないと思ったから」

まどかはそう答えながら家族や親友たちの顔を思い出していた。
元の世界に帰るためにはただ待っている、ことだけでは駄目で自分も行動しなければいけないと思ったからだ。

「そうだな。虎の子を得たくば虎の穴にいくか。 肝の座った女よ、なればもう何も言うまい」

「……意外とものわかりがいいんだね!
シロってただ口うるさい本だと思ってたのに」
「『意外と』は余計だ。無礼なヤツめ!今後はもっと丁重に扱うがよい」

白の書とニーアのそんなお爺ちゃんと孫のような会話にまどかはおかしくなって笑ってしまった。
まどかが笑っているのを見た二人も自然と笑みがこぼれた。
それからニーアたち平原を歩いていった。幸いな事に今日は陽射しが強く光り、おかげでマモノと出くわすことなく無事に【崖の村】の入り口であると思われるトンネルまでたどり着いた。

「まどか……もし、マモノが現れてたらシロについて僕の後ろから魔法で援護して」
「わかったよ!」

村から出る前にまどかはポポルから歪な形の短剣を貸してもらっていた。
しかしニーアは剣で戦うことにまったく慣れていない彼女が前に出るのは危険だと言って戦うのを反対した。その時、白の書が彼らに提案をしたのはニーアがマモノを惹きつけ、その間にまどかが白の書の魔法で相手を倒すという作戦だった。

その作戦に二人は賛成し、まどかはある程度、【マモノ】が襲われても対処できるように村でニーアに簡単な短剣での戦い方を教わっていたのだった。

まどかは武者震いする心を落ち着かせながら、ニーアたちと一緒にトンネルへと足を踏み入れた。

トンネルの中は採掘用の線路がしかてれおり薄暗いながらもトンネルにつけられた照明の松明が周りを怪しく照らしていた。
周りは薄暗く明るいが陽の光が遮断されてしまっているのでマモノを警戒しながら彼らが進んでいくと、彼らの目に崖の村が見えてきた。

崖の村は白い霧に光を遮れられ、名前の通り断崖にへばり付くように足場や吊り橋が幾つも建てられた奇妙な場所だった。村人が住んでいると思われる建物はカプセル型の小さな家で人が外に一人もいないのかひどく退廃的な雰囲気を出している。

「不思議なところにある村だなあ」

「そうだね、確かに変わった所だね」
まどかとニーアが村の姿を見て、そんな感想を言うとポポルが言っていた、村長の家を捜したのだった。

「……確か村で一番高い所にある金色の建物だったな」
「あそこにある建物が、そうみたいだね」

まどかが村長の家らしき建物を見つけ、ニーアたちが先に進んでいく。
まどかは吊り橋の下から見える、身の竦むような高さに失神しそうになりながらも、彼らの後を追った。

ニーアと一緒に吊り橋を渡り梯子を登っていく内、まどかは今更ながら自分が別の世界に来ているのだと改めて実感したのだった。
「ここが村長の家か……」
「誰だ!」
そして彼らが目的の家にたどり着くとニーアは家の扉を軽く叩いた。すると家の中から年老いた男の声が聞こえてきた。

「あの僕達は……」

「帰れ! ヨソ者は帰ってくれ!」

村長と思われる声の主はまるで何かに怯えるような声色をしてニーア達を冷たくあしらった。それでもニーアは諦めずに村長に話し掛けた。

「あの話を……」

「いいから帰るんだ! この村から出て行ってくれ!」

だが村長は彼の話を聞かずを冷たく追い返し、そのまま押し黙ったてしまった。

「話にならぬ!」

「……しょうがないよ。ニーア君いったんポポルさんの所に戻ろう」

白の書は村長の態度に憤慨し声をあげ、まどかは落ち込んだニーアの肩に手をおいて彼に致し方ないと声を掛けていた。
ニーアは諦めて仕方なくまどかたちと共に村長の家を後にした。 

結局、マモノの姿は見つかず、【封印されし言葉】の手がかりもないので、ニーアたちは村を出るため来た道を戻り村の入り口まで行くと、そこには一人の女性がいた。
その女性は綺麗な服装にとても整った顔していたが、目が虚ろで壊れたように笑みを浮かべたままにじっとニーアたちを見ていた。

ニーアはその女性を見て不気味に思うと、同時に疑問に思った。何故なら村は霧に包まれ村人はマモノに怯えて家から一人も出てないというのに、この女性は危険な筈の外に出ていた。彼が不審に思っていると女性は濁った目でニーアを見つめながら話してきた。
「あなた達は……マモノを探しているの?」
「……えっと、そうです僕達、この辺にマモノの姿が出るって聞いてここまで来たんですけど、何か知りませんか?」

「……ええ、知っていますよ。あるマモノが根こそぎ、他のマモノを皆殺しているのを見ました」

ニーアたちはマモノ同士が殺し合うことに驚いていると、彼女は薄気味悪い笑みを浮かべたまま彼らに向かって話を続けた。

「そのマモノに崖の村の人達はとても困っているんです。 良ければ、そのマモノをあなた達に退治して欲しいんです」

その内容は女性の不自然な表情とは裏腹に深刻な話だった。ニーアたちはその話を、怪しく思いながらも、もしかすると【封印されし言葉】の手がかりが見つかるかもしれないと思い、彼女の話を受けることにした。

「わかりました! 僕達に任せて下さい!」
「……ありがとう。本当に本当に助かります。みんな、あの醜くおぞましいあのバケモノに心底苦しめられていたんです」

女性はお礼を言いながらも濁った目はニーアたちは映っておらずバケモノの事を話す時だけ壊れた笑みが消え、整った顔を怒りでぐちゃぐちゃに歪めた。 まどかはその女性の姿に内心、恐怖しながらもこれからマモノと戦うかもしれないと思い、気持ちを切り換えていた。

「……では私がそのマモノの巣へご案内するのでついて来て下さい」
女性の案内に導かれマモノの巣に向かうニーアたちだったが案内されたのは村の入り口のはずれにひっそりとあったあばら家だった。
「あそこにバケモノが居るはずです。悪いですけれど中を見てきてくれませんか?」
女性はそのみすぼらしいあばら家を差し、気付けば彼女の姿は忽然と消えていた。
ニーアたちは彼女の事が気になったが、女性の言うとおりにあばら家の中を覗くとそこにあったのは、マモノの巣には不似合いのきれいな白い花飾りと色鮮やかに塗られた絵のようなものが置いてあった。

「この花飾り……凄くきれいだね」

「伝説の花だ。 魅力されるのも無理はない」

「え……じゃあこれが、ヨナの集めたかった……」

まどかはマモノの巣にいることを忘れ花飾りに心を奪われているとニーアは白の書の言葉で思い出したように花飾りに触れようとした。

「その花に触るな!」
その時、彼らの背後から鋭い声が響いた。二人は驚いて振り返るとそこにいたのは異様な格好した女性で白銀色の髪に露出の高い下着姿に左半身をびっしり包帯でまいていたのだった。

「わわわっ、あの女の人、下着しかつけてないよ!!」
「ニーア君、不潔だよ!」

「たわけが! もっと他に見るべき場所があろう!」
下着姿の女性はニーアたちを睨み付けながら左手から黒い霧のようなモノを発していた。
「この人……マモノ!?」
ニーアたちが下着姿の女性に釘付けになっていると突然、彼女はニーアたちを睨み付けるのをやめ、視線を背後に向けた。
そこにいたのは先程ニーアたちを案内したあの女性だった。

「憎い。憎い。憎い……私をこんなふうにした忌々しいバケモノが早く殺して……殺せ殺して殺せコロロロ……セセセセセセセ!!!」
女性は狂ったようにぶつぶつと呟くと彼女の全身から黒い霧が溢れて出て彼女を包み込むと女性は黒い人型のマモノへと変貌していた。

それに呼応するかのように小型のマモノが変貌したマモノの周辺に大量に湧いて出てきた。ニーアたちは、マモノが人間に化けていた事に驚いて動けない間に、下着姿の女性はどこからか二振りの鋸状の剣を出し両手にもってマモノたちに斬りかかっていく。
「この#$%*#&が!」

「マモノがマモノを攻撃してる?」
下着姿の女性はマモノたちに罵声を浴びせながら剣の錆にしていく。その豪快な剣の技に二人は圧倒され動けないでいた。
マモノは数が減り残っていたのは人間の女性に化けていたあのマモノだけだった。

マモノは情けない悲鳴をあげ後ずさり、彼女から逃げようとするが、彼女はすぐさまマモノ追いつきに剣を突き立てた。マモノは血を流しなら抵抗し泣き喚いたが、何度剣で切り刻まれ次第に動かなくなり形も消滅した。

「……おい! おまえたち」
下着姿の女性はマモノをあらかた片付けたと思い、剣をしまって血だらけの姿で呆然とするニーアたちに声を掛け、近付こうする。すると突然、とてつもなく大きな地響きが聞こえてきた。

「……これは!」
地響きの音はどんどん近くなり、そして崖の上から、蜥蜴のような形をした巨大なマモノがその醜く大きな尻尾を揺らしてやってきたのだった。

「また……マモノ!?」
下着姿の女性はじっとマモノを見据えるとニーアたちを無視して巨大なマモノに立ち向かっていく。巨大なマモノは口から魔法弾を出し無差別に攻撃してきた。
「どうやら……我らのことは眼中にないようだな」

「そう……見たい」

無差別飛んでくる魔法弾をニーアたちは必死で避けていた。そして下着姿の女性は雄叫びをあげながら半身から黒い霧を発し、それに共鳴するように、彼女の背後から魔法陣が出現しそこから幾つもの魔法の矢が飛び出しマモノを襲った。

「これは……あやつも魔法を使えるとうのか??
マモノの身体に幾つもの魔法の矢が突き刺さるが、多少ひるんだだけで、すぐにマモノは下着姿の女性を見て興奮したような下品な鳴き声をあげながら巨大な拳を振りかざしていた。
マモノの両腕から次々とくる衝撃波に下着姿の女性は完全に翻弄されていた。

「こんな大きいマモノが居るの!?」

「今までの奴とは格が違うぞ! 気を引き締めよ!」
ニーアはマモノの巨体に驚かせられていたが、すぐ剣を持ちに苦戦している下着姿の女性に加勢をするために、マモノに向かっていた。まどかは二度目になるマモノとの戦いに自分の足が震えているのを感じていた。

「大丈夫、今度だっていける。怖くない……アナタなんて怖くないんだから!」

まどかは自分を鼓舞するように声を張り上げながら、マモノに狙いを定めて白の書が生み出す魔力の槍を発射した。魔力の槍は回転しながらマモノを襲う。魔力の塊である槍がその巨体を貫いていく。

「何か吐き出しおったぞ……あれは、何だ?」
するとマモノは口を上を向けて何かを吐き出していく。それは球体の形をしたを黒い影たちだった。球体たちは上空に向けて、大量の魔法弾を撃ちおろしてくる。

「この丸いのもマモノ!?」
ニーアは落ちてくる魔法弾を何とか避けながら球体たちを剣で切り刻んで殲滅していった。

「死ね!死ね!死ね! テメェの汚ねぇ£#*をギタギタに刻んでやる!」

「あの下着女、剣劇だけではなく口の悪さもを突き抜けておるようだな」

「白さん!そんなことより、あのマモノを何とかしないと!」
白の書の軽口にまどかは言葉を返しながら球体に魔力の槍と弾を交互に放ち続ける。
球体を全滅させられたマモノはまどかに魔力の塊を浴びせられ続け、両腕を下着姿の女性やニーアに斬りつけられ続け、段々とその巨体は傷ついていく。そして遂にマモノはバランスを崩し倒れた。

下着姿の女性は一気に決着をつけようと、倒れたマモノに近付いていく。するとマモノは突然に起き上がり、その巨大な拳で彼女を襲った。下着姿の女性の身体に拳が直撃しながらも、彼女は全身の力を振り絞りマモノに向かって剣から渾身の魔力を放ったのだ。

渾身の魔力の矢はそのまま、マモノの左目を貫いていた。マモノは潰れた左目から血を流し、大きな悲鳴をあげ崖の上へと逃げていく。
「ま……て……」
下着姿の女性は剣を落とし地面に倒れながら逃げたマモノを追おうと手を伸ばすが、彼女はその場で倒れ込んでしまった。

ニーアたちはマモノが居なくなったのを確認すると安堵し、急いで意識を失った彼女の元へ駆け寄った。
「……この人、本当に人間だよね?」

「半分はな。いわやる【マモノ憑き】というやつらしい」
彼女は意識を失ったおり、身体の所々に痣や傷が痛々しく刻まれていた。
「……そう。悪いことしちゃたな。僕、てっきりマモノだとばかり……」

「けどこの人、私達をマモノから助けてくれたよ。それより早く助けてあげないと」
「そうだね。まどかの言うとおりだ」
そうしてニーアたちは彼女の身体を二人で抱えて、あばら家の中に彼女を連れていった。
「う……」

「あ、気が付いた!」
しばらくして彼女が目を覚ますと、そこにいたのは彼女の無事を喜ぶニーアたちの姿だった。
「貴様ら……」
彼女は痛む身体を起こしながらニーアたちを睨めつけていた。
「さっきは本当にごめんなさい! 勘違いで私達、あなたをマモノ呼ばわりして……」
「……半分は本当にマモノだ。さっさと出ていけ」
まどかが深々と謝ると彼女はぶっきらぼうに、早くここから立ち去るようにだけ言って黙ってしまった。

「我らはお前を介抱し、謝罪した。名前くらい名乗らぬか」

すると白の書がいつもの不遜な態度で彼女に話し掛けていた。しかし彼女は押し黙ったまま沈黙を保ち続けた。

「いいよ、シロ。あんなに激しく戦ったあとだもの。疲れてるんだ。きっと」

「そうだよ、白さん。それに元はといえば私達がマモノに騙されたせいなんだから」
そう言って二人は女性を庇うと、彼女は天井に向けていた視線をニーアとまどかに向けた。
「カイネ、それが私の名前だ」
彼女は固い態度を崩さないでも、警戒心を解いてニーアたちに名乗った。
「もういいだろう。私に関わってもロクなことがない。帰れ」

カイネはそう言って二人を邪険に扱うと、再び黙ったまま傷だらけの身体を休めていた。ニーアたちは、一度ポポルに巨大マモノの事を相談するために村に戻ることにしたのだった。

「……おい」
ニーアたちがあばら家を後にしようとした時、カイネはニーアたちを呼び止めた。

「奴は、私のエモノだ。絶対に手を出すな」
彼女は苦々しい顔してそう言うと、目を閉じ眠りについてしまった。まどかは、そんなカイネの姿を見て、彼女が儚く繊細な存在の様に見えたのだった。

これが彼らと【マモノ憑き】である彼女と最初の出会いであった。 この出会いが、またまどかやニーアに一つの苦難を与えるのをまだ彼らは知らない。






――――――――――――――――――
8がつ10にち

おにいちゃんたちがかえってきました

まどかさんがヨナにおえかきちょうをく れました 
 そのあとずっといちにちまどかさんやお にいちゃんといっしょに

 たくさんおえかきをしました
またおにいちゃんやまどかさんとおえか きしたいなぁ






[27783] 第四章 魔ノ山、兄弟
Name: 七時◆9b963e4f ID:92275c60
Date: 2011/06/12 00:52
ニーアとヨナが住んでいる村の自慢は、旧世界の遺物と知られる図書館である。その館長を努めているポポルは、様々な知識に精通しており村人たちにとても信頼されている。そんな彼女なら崖の村で遭遇したマモノに対抗する手段を知っているのでは、と思い今、ニーア達は村に戻りポポルに見識を伺っていた。

「……そう崖の村にはそんな大きいマモノが出ているの」
ポポルはニーアの話を聞き、溜め息混じりの声を出した。
「そうなんです。今の僕じゃあ、追い払うのが精一杯でした」
ニーアが悔しがるようにポポルに言うと、次にまどかが彼女に尋ねた。
「それで武器をもっと強くする方法ってないですか?」

「それならロボット山の方で採れる金属で武器を強化出来るって聞いたことがあるわ。 山の入り口にある商店やってくれるはずよ」
ややあってポポルがそう話すとニーアは目を上げ微笑して彼女に答えた。
「わかった。訪ねてみます」

「強化にはお金が必要だから、用意を忘れないでね。確か1000Gくらいだと思うけど
「1000Gか……」
ニーアは若干、顔を曇らせていた。これまでヨナの薬代や自分たちが生活するためのお金で彼にはあまり貯えがなかった。

そんな彼の事情を察してポポルは穏やかな声色でニーアに話し掛けた。

「お金が必要な時は、酒場に行ってみるといいわ。村の人からの依頼なんかが集まってるから」
「わかりました。ありがとう!」

ニーアはポポルの提案にお礼を言って部屋を出た。 まどかも彼女に軽く会釈をして彼の後を追うように部屋を出た。
「ごめんね。ニーア君」
「急にどうしたの。 まどか?」
二人で図書館を出て酒場に向かう途中、まどかは沈んだ顔をして彼に謝った。

「だって私がここに来てから、ニーア君にずっとお世話になりっぱなしだし、お金だって」

「まどか……」

まどかは武器の強化にお金が必要だとわかった時、彼の曇った顔を見逃さなかった。ヨナの薬代だけでも大変なのに自分と言う食い扶持が一人増えたから、只でさえ苦しい暮らしをもっと圧迫しているのではと、彼女は思ったからだ。

「まどかが気にする必要ないよ。僕達、兄妹は村の人達に助けてもらって、暮らしているようなものだし、まどかにはマモノとの戦いで凄く助けてもらっているからこれくらいは当然だよ」

だがニーアはそんな沈んだ顔をした彼女に何てことのないような顔をして答えた。

「ニーア君……」
まどかは彼の優しさがただ嬉しかった。白の書と出会い、マモノと一緒に戦い自分を必要としてくれる。まどかは今まで自分は何にも取り柄もなく、誰かの役に立つこともなく生きているのが凄く嫌だった。だからこそ、こんな自分を認め、頼りにしてくれるニーアの真摯な言葉にまどかはとても救われていたのだった。

「それにこれから仕事も一緒に手伝ってくれるんだから、そんな心配しなくていいよ」 彼は笑顔でまどかにそう言った。

「そうさな一宿一飯の恩義とやらだ。頑張るが良い」
白の書も彼に続くようにまどかに言った。「うん、二人ともありがとう!」
そんな彼らにまどかは本当に感謝をして応えた。

酒場はまだ陽が明るい時なのもあって、人はそれ程いなかった。まどかは酒場特有のアルコールの匂いに、場酔いしそうになった。ニーアは仕事をよくここで貰いに行くのかお酒の匂いに慣れているようだった。
「ようニーア、まどか。飲んでるかい?」
そこには見慣れた姿と歌声があった。
「デボルさん!?」
デボルの顔はほんのりと赤みが出ているどうやら彼女は軽く酔っているようだった。
「僕達はまだ飲めないよ!それにまだお昼だよ?」

彼は呆れ顔でデボルに言うと、彼女は愉快そうに喋った。
「日が沈まないんだから、いつ飲んだっていいんだよ」
大らかにそう話すデボルを見てまどかは、元の世界にいる自分の母親である鹿目詢子の姿が重なった。
(ママもいつも顔真っ赤になるまで飲んでたな。みんな今頃、どうしてるかな)

母親の事だけでなく、まどかが元の世界に思いを馳せていると、デボルは話題を切り替えるように話した。
「それよりニーアと一緒に来ているってことは、何か仕事を探しに来たのかい?」
「はい。そうなんです!」
デボルの問いにまどかは、はっきりと答えた。
「そうか。それならちょうどここの女主人が頼みたいことがあるってさ。よければ、聞いてみるといい」

するとデボルは彼女の威勢のいい返事を聞いて機嫌をよくしてまどかに言った。

「ありがとう。デボルさん」

ニーアはデボルにお礼を言って酒場のカウンターにいる女主人の方まで行った。

それからニーア達は女主人に話を聞きに行き、身よりの老婆によく効く薬を作るための材料を採ってきて欲しいと依頼され、村の中にある、木の下や野原で材料である薬草や木の実を探していた。

「なかなか、難しいね。この仕事」

まどかは使える薬草を見分けながら拙い手つきで袋に入れていた。しばらくしてまどかと一緒に薬草を探していたニーアが、作業をしながら口を開いた。
「ねえ、黒文病に効く薬って本当に無いの?」
「あれに人に作りし薬は効かぬ」
だが白の書は否定するように言った。
まどかも気になって食い下がるように聞いた。
「だけど探せばどこかに一つくらい……」

「一時的に楽になる薬ならあるだろうが、根本治療はできぬ」

ニーアは諦めたように顔を伏せていると、白の書はゆっくりと言葉を続けた。
「だが、伝説が真なら我とまどかがあの娘を救うのであろう?」
彼の優しい言葉にニーアの表情に明るさが戻っていた。
「そうだね。ヨナは助かる。黒文病もきっと治せるはず!」
ニーアは明るい声を出して、てきぱきと薬草や木の実を見付けていった。

「その意気だ!」

まるで親の様にニーアを諭す、白の書を見てまどかは冗談混じりに白の書に言った。
「白さんって、あんまり素直じゃないんだね」
まどかの言葉に白の書は、照れ隠しするよう言葉を彼女にまくし立てた。

「無駄口はいいから。さっさと手を動かさんか!」

そんなやり取りが有りながらも作業は進んでいき、まどかが初めての材料探しに悪戦苦闘しながらも、ニーアたちは無事に頼まれた薬の材料を積み終わり、酒場の女主人の所にいた。
「言われた物全て取ってきたよ!」
ニーアは女主人に材料の入った袋を手渡した。
「これよ、これ。早速薬にするわね」
袋の中身を確認した、そうすると女主人は採ってきた材料を調合し早々と薬を作ってしまった。
「ついでで悪いんだけど、この薬を噴水にいるバアさんに届けて貰えるかしら?」
そう言って女主人はニーアた出来たばかりの薬を手渡した。
「おばあちゃんにだね。直ぐ届けるよ」
ニーアたちは薬を快く受け取り、よく噴水の広場にいる老婆の所までいった。
「おばあちゃん、届け物だよ」
ニーアは老婆と見知った顔なのか気軽に話し掛けた。
「ありがとうございます。これがないと歩くのも辛くてねぇ……」
老婆は座りながらもニーアたちに恭しくお礼を言った。
「あまり無理はしちゃだめだよ」
老婆を気遣うようニーアは言った。そして彼女は懐からお金の入った袋をニーアに渡した。
「ええ、気をつけますよ。あとこれは届けてくれたお礼ね」
まどかとニーアはお礼してその場を後にした。
「お疲れ様、まどか。はいこれ」
ニーアはまどかを労い持っている袋から何枚か銅貨を出し彼女に渡した。
「えぇ!? けど私、全然役に立ってなかったよ」
まどかは貰った銅貨をニーアに返そうとしたが、彼は首を横に振って言った。

「まどかはよく頑張ったよ。これだけあったら二人の武器を強化して貰っても、お釣りが出るくらいだから気にしないで」

「ありがとう。ニーア君」

まどかは彼に心底お礼を言いながら仕事の報酬である銅貨を大事にするようポケットにしまった。
そしてニーア達は、お金の用意が出来たこともあって幾分か余裕ができ、しっかりと旅支度の準備をして村を出た。

「【ロボット山】とはいったいどのような所なのだ?」

平原を歩いて暫くして白の書が目的地に興味を示し、ニーアに聞いてみたのだった。
「昔の遺跡が埋まっている場所何だって。僕達にはよく分からない、鉄クズだらけのところだよ」

ニーアが白の書に話していると、まどかも気になったのか彼に聞いた。
「その【ロボット山】って。どこにあるの?」
「北東の鉄橋を登ったところにあるんだ。
あの橋の上を、昔は大きな鉄の箱が走ってたんだって。ポポルさんが言ってた」

彼が視線の先にある鉄橋を指して話しているとまどかは、その鉄の箱とは、列車の事だろうかと彼女が思っていると白の書が感心するように言った。
「昔の人間は賢かったようだな」

「……本当に賢かったら、滅びかけたりはしないと思うけどな」

白の書の言葉にニーアは何か含むような言い方をして黙って壊れた鉄橋につけられた梯子を登っていった。 まどかも彼を追って梯子を登って進んでいく。

そして鉄橋の上までまどかが着き、彼に付いていくと彼女がそこで見たのは、鉄と油の混じった匂いのする山々とよく解らない鉄の固まりだらけの風景だった。
ニーア達はロボット山を歩いていると鉄をかき集めて作ったガラクタの様な家から男の子と青年の声が聞こえてきた。
「おにいちゃん。 おなかすいたよ―」

「そっか。 ちょっと待ってろよ。 たしかこっちの棚に……」
ニーアたちは気になって家の扉を開けて入って見ることにした。

「こんにちは!」
「あ、いらっしゃいませ!」
ニーアが挨拶して中に入るとそこにはくたびれた服装をした青年と男の子がいた。
「いらっしゃいって……? ここ、お店なんですか?」
まどかは想像していた所とは違う場所で、驚いて青年に聞いてしまった。

「はい!  普段は奥にあるロボット山から金属を採ってきて、加工して売ってるんです」
青年は彼女の失礼な疑問にもまったく怒らず愛想よく答えた。 白の書は疑問に思い青年に訝しむ様に聞いた。
「ロボット山で?」

「ええ、そうです。 昔は軍事基地だったらしくて、良い素材が沢山あるんですよ。 ちょっと危ない場所なんですが、背に腹は代えられないというか……」

青年がそう話しているとまどかはここに来た目的を思い出した。
「あの……武器の強化をお願いしたいんですけど」
まどかは恐る恐る青年に聞くと、久しぶりに客が来たのか彼はとても喜んでニーアたちを歓迎した。
「ありがとうございます!今、強化しますから武器を少し貸してもらえますか?」

ニーアとまどかはそれぞれ持っていた武器を青年に渡し強化が終わるのを待つことにした。青年は手慣れた様子で、短剣や剣を持って家の奥に行き、そこから金属を加工する独特の音が響いた。
しばらくして音が止み、奥から青年が強化し終わった二人の武器を持って戻ってきたのだった。

「はい。お待たせしました。二人ともどうぞ!」

まどかは短剣を試しに握ってみると、前よりも剣が軽く刀身の方も綺麗に輝いて見えた。
「……君たち二人だけでやっているの?」
ニーアは剣を受け取り、青年に代金を支払いながら一つ気になって彼に聞いた。

「……父さんは弟が幼い頃に死にました。 母さんは……仕入れに出かけてます」
青年は重い口調で話すと男の子が、続けて喋った。
「1、2、3 、……7つ。おかあさん。
もうこれだけ かえってきてない」
男の子が日を数えるように言うと、まどか驚いて青年に聞き返すように言った。
「……一週間も帰って来てないの!?」

「最近は奥の方まで行かなきゃ素材が手に入らないらしくて……」
まどかの言葉に青年は、何かをごまかすような曖昧な口調で答えた。

「さびしいんだもん。さびしいんだもん!おか―――さ―――ん!!」

すると男の子は話していて母親の事を思い出したのか泣きじゃくってしまった。
「もうちょっと待ってたら、きっと帰ってくるから! 待っていよう。 な?」
青年はあやすように男の子に言うが、男の子はずっと泣き喚いたままだった。
「シロ……、まどか」
ニーアは兄弟を見て何か思ったのか、白の書とまどかに目を合わせた。

「皆まで言うな! もうわかっておる。
こやつらの母親を探せばいいのだろう?」
白の書が諦めたように言うと、まどかもニーアに肯定するよう首を頷いた。
「い、いいです。 いいです! そこまでしてもらったら、申し訳なくて……」

「そんなの、気にしなくていいよ!」

青年は慌てた口調で、ニーア達を止めようとしたがニーアはまるで苦労を気にしないかの様に言った。
「だけど……あの……母さんは」
青年は暗い表情をしてニーア達に何かを言おうとしたが、彼らが不思議そうな顔しているのを見て青年は首を振り、途中で何かを言いかけるのをやめてしまった。

「いいえ。何でもないです……  いつも母さんは山の奥の方まで入っていっています。エレベーターを使うと思いますから、起動パスコードと道が複雑なので地図を、お渡ししておきます。 どうか……気をつけて」
青年は文字の羅列が書いてある紙とロボット山の地図をニーアに渡し頭を下げた。

「わかった。任せて!」
ニーア達は兄弟の家から出ると奥にそびえ立つ、大きな鉄の山々に進んでいった。

「明るいな」白の書がそう呟く。
ロボット山の中は廃墟の中だと云うのに、人工の照明で周りに光が満ち溢れていた。
「ここはまだ昔の機械が、動いているんだね。僕達には、何がなんだかさっぱりなんだけどね」

彼がに説明するように此処は、これまでまとかが見てきた建物とは、まったく違う金属の異質な造りでできていた。

「旧世界の廃墟か……それを機械達が延々と守っているわけだ」
「まどかの住んでいた場所にも、こういう所ってあったの?」

ロボット達は、まだ活動を停止してない事もあって機械の駆動音が延々と屋内に木霊している。ニーアは彼女がそれ程、この廃墟の中にそれ程、驚いていないのを見て聞いてみた。
「うん。 けど私が知っている場所とは、すこし違うかも」
まどかは廃墟を進みながら彼らに話す。
彼女は、ロボット山を見て自分の世界に、ある工場などを連想したがここまで変わったような場所ではないと思い、自然と首を横に振っていた。

ニーア達は、青年から貰った地図を見て、兄弟の母親がよくいっていると思われるエレベーターに向かって進んでいく。
彼らが進む中、廃墟を防衛していると思われるロボット達がニーア達を侵入者と判断し襲いかかってきた。
「雑魚共が!」
白の書が鬱陶しいようにそう言い魔法の弾をロボット達に放っていく。

まどかは短剣を使いロボット達に斬りかかる。だがロボットは短剣で斬りつけられても装甲が堅いのかあまり壊れてはいないようだった。ニーアと白の書は、そんな彼女を助けるかのようにロボットをおびき寄せ一体づつ魔法で貫き、剣で斬りつけていく。

ロボット達は少しずつ壊れた玩具の様に煙を上げ小さく爆発していく。
「まったく。こんな錆臭いところに我が来ようとは」
「シロはすぐブツブツ言うんだよなぁ」
ニーア達はロボット達をある程度、倒したと思い少し休憩する事にした。まどかは初めて短剣を使っての実戦で疲れたのか、腰を休め息を切らしていた。
「お主は、何故そこまであの兄弟に肩入れするのだ?」
ニーアが辺りに敵が居ないか警戒していると白の書は疑問を持ったよう彼にそう言い放つ。
「お母さんが居ない寂しさは、僕達兄弟も知っているから……」
ニーアは寂しそうな表情をして、白の書にそう言った。
「まどかはお母さんもお父さんも元気?」
彼はまどかにそう聞くと彼女は戸惑ったようにニーアに答えた。

「元気だよ。ママやパパも弟もみんな困っちゃうくらい元気なんだ」

まどかが思い出した様に笑みを浮かべるとニーアは少し顔を暗くした。
「……そろそろ行くか」
「わかった。それじゃ行こう。まどか」

白の書がそう促すとニーアは休んでいる、彼女に向かって呼び掛ける。
「あ、うん!」
まどかも休息を止め、彼の後を追う。
ニーアの物寂しげな横顔を白の書はただ、黙ってじっと見つめていた。





―――――――――――――――――――   
      『涅槃の短剣』
    MAGICA WEAPON STORY
     
ある世界にある一人の平凡な少女がいた。少女は優しい両親とたくさんの仲の良い友達に囲まれ幸せに慎ましく暮らしたいた。
少女のいた世界は幾年に一度、神に選ばれた少女達が神の短剣で己の胸を突き刺し、穢れなき魂を世界に捧げることで世界の均衡を保っていた。

ある時、少女の二人の親友が神の生け贄へと選ばれました。少女は必死に彼女達を止めましたが結局二人の魂は神へと連れ去られてしまいます。

少女は意を決して神に謁見しに行きます。神はお前が私の代わりに世界を支え続けるなら友や今まで捧げられた魂を人の元に、返そうと言いました。少女は一瞬ためらいましたが首を縦に振りました。
その心意気に打たれた神は、少女達の魂を返し消えてしまいました。

そして少女は女神となり親友や世界をいつまでも見守っています。神の短剣は女神の力で刀身は曲がり今では『涅槃の短剣』と呼ばれています。




[27783] 第四章 二節 愚カシイ機械、兄妹
Name: 七時◆864d1cf3 ID:92275c60
Date: 2011/06/07 19:27
機械はただ働きつづける。主人がいなくなった後も命令を延々と、こなして。

機械はただ働き続ける。

誰かが来るたび繰り返し、繰り返し、

機械は動く、動く、動く、動く、動く、動く、動く、
自分の役割を果たすために。

ただひたすら機械はその場所に居続けた。



ロボット山の複雑な通路をニーア達は進んで行き、目的の昇降機にたどり着いた。
まどかが横に付いてあるボタンを、パスコードの通りに入力すると本当に動くのか怪しい音を立てて、昇降機の扉が開いた。

ニーア達は昇降機の中に入り兄弟の母親が居ると思われる、地下に行くためのボタンを押す。
昇降機が古臭い音を出して彼らを目的地まで乗せて降りて行く。

あの後、ニーアは深刻な顔して黙ったままだった。襲いかかるロボット達と戦っている時も、彼はただ黙々と剣を振り回していた。 まどかはあの時、彼に余計な事を言ってしまったのではないかと、ずっと後悔していた。

まどかはニーアに両親の事を聞かれた時、笑って嬉しそうに話した。
そんな自分の姿を見てニーアがどういう風に彼が感じたのか、今更ながらに彼女は気付いてしまった。

両親のいない彼にあんな事を言わなければよかったと、まどかは浅はかな自分を呪った。

気まずい雰囲気が、昇降機の中に流れている。彼女はニーアにどうやって謝ればいいのか、ずっと考えていると昇降機が地下に着き扉が開いた。 彼は先に行くと言わんばかりに昇降機から足早に出た。

まどかも後に続き昇降機から出て彼と一緒に歩んでいく。
二人の間にはどこか、ぎこちない空気が漂ったままだった。
そんな時でもロボット達は依然として彼らを見つけると侵入者と判断し襲い掛かって来る。
「ニーア君!」
「……わかった!」
白の書の力を借りて赤黒い魔力の腕を具現化しロボット達を殴り倒していく。
ニーアは強化した剣がだいぶ使い易くなったのか、軽く飛び上がりロボットの頭上に剣を叩き込んでいく。

ロボット達は連携して彼らを倒そうとするがニーア達が戦い慣れてきた事もあって、連携する暇もなく次々と壊されていった。
そうしてロボット達を倒し奥へ進み続けるニーア達だったが、しばらくして白の書がひたすら先へ歩き続ける彼に話し掛けた。「お主は本当に信じておるのか?
あやつらの母親が本当にこんなところまで来られた、と」

「……白さん!」

まどかが白の書の言葉を遮って止めようとするが、それでも彼は言い続ける。
「一週間以上も、たった一人で素材を探しつづけていると信じているのか?
本当に?」
白の書の淡々と突き刺す言葉にニーアは、答えられずに沈黙している。
「我が思うに、母親はきっともう……」

「生きてるよ!」
ニーアは彼の余りにも現実的な考えを否定する様に言った。
「信じなきゃ、奇跡だっておきない!」
「奇跡、か……」
彼の愚かしい程、純粋な思いに白の書は、ただ小さくそれだけを呟く事しかできなかった。
まどかは彼のひたむきな言葉に正しい事だど思ったが、それをうまく口に出せないままニーアと彼女の距離はどんどん離れていった。
そして彼らは今まで通ってきた通路とはあきらかに違う広いドーム状の場所にたどり着いた。
ニーア達がその場所の中心に行くと、突然けたたましい機械の音とノイズ混じりの音声がその場を埋め尽くした。

  _____基地内侵入者を発見_______

________シンニュウを発見排除シママス

_________防衛プログラムキドウチュ

「何なのこれ?」
まどかがこの異常な事態に叫ぶと白の書も事態を表すかのように呟く。

「非常に不穏であるな」
その言葉の通りに音声は不穏なモノへと、変わっていった。
「人間のいない場所で、機械だけが残っておるのか……」
ニーア達が呆気に取られている中、音声の音が段々と大きくなって彼らの元へ近付いてくる。

_____防えいぷログラムキドウチュウ_____

______ 侵入者をトクていいい________

______侵ニュう者を特定したとミナナシ__
_________排除シます__________

________ シン入しゃ除去しすテム起動__
_______ハイジョします_______

音声の主は、壊れた音と共にニーア達の下からその巨大な姿を表した。 その機械はとても無骨で、人の顔を模した変わった形をしている。 巨大な頭の傍らには、人の手を模した思われる作業用の機械が二つありガシャガシャと指を動かしながら彼らを見ている。
「壊れた機械か……」
白の書が巨大な姿を見据えて言うとニーアも続けて少し怯んだ声を出した。
「ちょっと大変そうな敵……だね」
独特の風貌をした機械にまどかは仰天して声も出せずに立ち尽くしていた。
巨大な頭はニーア達を確認すると機械の手を使い、指先から光線を照射してきた。

「周囲に気を張れ! 気をつけろ!」

白の書の言葉と共にニーア達に光線が迫ってくる。まどかも機械に捕らわれていた、意識を覚醒し目の前から来る光線から逃げる事に専念した。迫り来る光線をニーア達は何とか避ける事に成功したが、機械の手は続けざまに光線を何本も照射してきた。
「……こんなの全部よけきれないよ!」
まどかの言葉通りに光線は幾つもの束に、なりニーア達を襲う。
「僕が囮になる!」
ニーアは機械の前に出て光線の矛先を自分に向けさせていた。光線の束は狙いを変えて集中的に彼を襲った。
襲いかかる光の束をニーアはくぐり抜けたり、ジャンプしながら器用に避けていく。
機械の手は光線を照射するのをやめ今度は彼の頭上まで来て押しつぶそうとした。
「潰されるでないぞ! 逃げよ!」
「わかってる!」
走り続けるニーアに白の書が警戒を促す。彼は自分の頭上に来た巨大な手を辛くも避けた。
「今だ! まどか!」
落ちてきた機械の手をニーアは剣で斬りつけながら彼女に叫ぶと、まどかは白の書の魔法で魔力の塊である槍を大きく具現化し目の前にある機械の手に向かって放った。
魔力の槍は高速回転しながら機械の手を貫く。機械の手は貫かれ壁に張り付けられて大きな火花をあげながら爆発した。

「やった!」
まどかが喜ぶのも束の間に、もう一つ残った機械の手が光線を照射しようと準備していた。
「やられる前に、攻めよ!」
白の書がそれに気付くと彼女に呼び掛け、また魔力の槍を形成させていた。
「来るよ!気をつけて!」
ニーアが言うと同時に機械の手は、指先から光線を照射した。それはまどかと白の書に向かって一直線に伸びてきた。

まどかは光線をニーアの様にジャンプして避けようとしたが、うまく跳び上がれずに頭から地面にのめり込む様な形で光線を避けた。
「大丈夫か!」
「このくらいなら大丈夫だよ!」
魔力の槍を形成するのを白の書はやめて、倒れた彼女を心配する様に言うとまどかは倒れた体を起き上がらせて体勢を立て直した。

機械の手は光線を照射し終わると今度は、まどかを押しつぶそうとして、その巨体を彼女の頭上まで動かして来た。

「ヤツの影を見据えよ!」
指示通りにまどかは、下から映る大きな影に目を配りながら走っていく。
機械の手は移動する彼女を捉えきれずに、無意味にその巨体を落としただけだった。
「所詮は機械、止まっている時を狙え!」 移動しながらまどかは白の書の魔法弾で、落ちてきた機械の手を攻撃していく。

機械の手は遠距離から彼らを攻めようと、その場を離れようとするが、すでに遅く
白の書は魔法で巨大な魔力の腕を形成していた。

まどかと白の書はその腕で機械の手を掴みそれを壁に向けて、投げつける様に叩きつけた。叩きつけられた機械の手は機能を停止しショートしながら下に落ちていく。

機械の頭は攻撃する手段を失ったかの様に見えたが、ニーア達の周りから筒の形をしたリフトが幾つも出てきて、そこから防衛ロボットが大量に出現して来た。
「手のかかる機械だ」
白の書が大量のロボットを見て呆れた様子で呟いた。
「またなんか違うのが出てきた!」
ニーアもそれを見て辟易しながらも剣で、ロボット達を斬りつけていく。
「どんどん出てくる。キリがないよ!」
まどかも魔法弾で襲いかかるロボット達に応戦していくがロボットは、壊されても壊されてもリフトから次々と出てきた。

ロボット達は近付いて攻撃しても無駄に、倒されるだけだと思ったのかニーア達から離れてそれぞれ隊列を組み、マモノが撃つ魔法弾に酷似したモノを撃ってきた。

「雑魚を一掃せねば先は無いようだな」
白の書は喋りながら魔法弾の弾幕を自身の魔法で打ち消していく。

ニーアとまどかも襲いかかる魔法弾を剣でさばいていく。
彼らが魔法弾の弾幕に苦戦しているのを、機械の頭は観察する様に眺めていた。

魔法弾の弾幕を凌ぎきったニーア達は、次の攻撃が来る前に固まって移動している、ロボット達に向けて反撃を仕掛ける。

まどかは魔力の槍をロボット達に向けて、放ちロボットの何体かを貫いていく。
まどかの攻撃で隊列が崩れ始めたロボット達は彼女を先に倒そうと近づくが、その隙にニーアがロボット達の背後に回り込み、剣で破壊していった。

ロボット達はニーア達が仕掛けた挟み撃ちの攻撃に為す術もなく、各個に撃破されていった。
機械の頭は防衛ロボットが壊されていくのを見て、周囲に設置してあるリフトからロボットを出すのをやめ代わりに砲台を出現させた。

周囲から現れた砲台はニーア達に向けて、砲弾を次々と発射していく。

「なんか来たよ……!」
彼が叫ぶと先程の魔法弾とは、比べ物にならない砲弾の嵐が彼らを襲う。

ニーアは周囲にある砲台を破壊するために飛んでくる砲弾を回避しつつ砲台を剣で、斬りつけた。
剣で何度も攻撃された砲台は大きく爆発した後、筒状のリフトに収納され下に消えていった。

彼の援護をするためにまどかは遠くから、魔法弾で周りの砲台を破壊していった。

「残すはあの大頭のみだな」
周囲の砲台がニーア達にすべて破壊された後、白の書が機械の頭を見ながら言うと、機械の頭は彼らに向けてミサイルを連続して発射して来た。

「あぶない、ニーア君避けて!」
空中から来る複数のミサイルはニーアに向けて降り注いで来た。まどかが彼に叫ぶと白の書の魔法で魔力の槍を出現させ空中を飛んでいるミサイルに当てていく。

ミサイルは幾つか魔力の槍に当てられ空中で爆発していく。ニーアは飛んでくる残りのミサイルをぎりぎりに走って回避した。
機械の頭はミサイルが防がれたのがわかるとニーア達に近づき、口と思われる所が開き、そこから太いレーザー線を発射してきた。ニーア達は襲いかかるかかるレーザーを跳び上がって何とか避けきった。


まどかは魔法で機械の頭を攻撃していくが今までの機械とは違い、装甲が堅牢なのかあまり効いてはいない様子だった。

「このままじゃ……」
このままでは危ないと思ったニーアだが、機械の頭は浮かびながらこちらを攻撃して来るので、どうしても此方から攻撃できる手段が少なくなる。

何か打つ手は無いのかとニーアが、考えていると彼の目に映ったのは先程、破壊した筒状のリフトだった。
「……これは!」
リフトの上には爆弾があり、ニーアは機械の顔が此方に近づき口を開いてレーザーを発射するのを思い出した。

機械の顔は口からレーザーを発射しようとして、またニーア達に近付いて来た。
「もしかしたら、これで!」
ニーアはリフトの爆弾を持ち上げて機械の頭の所まで走った。
「ニーア君!?」
爆弾を持って機械の頭に近づく、ニーアにまどかは驚くが、彼は機械が口を開くのをじっと見計らっていた。

「これでも、くらえ!」

機械の頭が口を開けた瞬間、ニーアは爆弾を思いっきり振りかぶって口の中に投げ入れた。
爆弾を口の中に放り込まれた機械の頭は、口が閉まり爆弾が爆発したのか、首がだらんと下がり、彼方此方から火花があがっていた。機械の頭は壊れた音を出しながら、ニーア達から離れてミサイルの発射準備をしていた。
「やったよ、効いてる!」
「口の中か……本当に見たままの弱点なのだな」
まどかと白の書は爆弾が効いたことに、喜びながらも、機械の頭から発射されてくる飛んでくるミサイルを回避していった。

機械の頭はミサイルを撃ち尽くした後、レーザーを放とうとしてニーア達に頭を近付けてきた。だがニーアは、既に他のリフトから持って来た爆弾を抱えて機械の頭を、待ち構えていた。

頭が口を開いていたと同時にニーアは口の中に向けて爆弾を投げ込んでいた。機械の頭は爆弾をくらって、致命的な損害を受けたのか、ノイズ混じりの壊れた音声が流れ続け最後には爆発して、完全にその機能を停止した。

機械の頭が倒れ、一気に脱力したまどかはその場に崩れるように座り込んだ。

「まどか、大丈夫!」
「エヘヘ……ちょっと気が抜けちゃって」
ニーアは座り込んだまどかに駆け寄って、起き上がれない彼女に手を貸した。

まどかが彼に手を貸してもらい体を起き上がらせると、ニーア達の居る場所から機械の橋が掛けられていてた。

ニーア達は疲れた体に鞭を打ち機械の橋を渡って扉の中に入って先に進むと、
そこにはロボット達に殺されたであろう、男女の死体が無惨にも二つ転がっていた。
「女の人……もう死んでる」
まどかは腐敗し始めた死体と悪臭に吐き気を催したのか、両手で口を押さえている中白の書が残念そうに呟いた。

「あやつらの母親で……あろう」

ニーアは男の死体に目を配り震えるように喋った。
「一人じゃなかったんだ」
「男か……」
白の書も男の死体に目が映っていると、
ニーアは死んでいる女性の不自然な姿に、疑問が浮かんだ。
「大きな鞄に、綺麗な洋服、お金もある」

女性の服装は、素材探しをするには余りにも派手な服装で、鞄からは綺麗な宝石や大量の貨幣がばらまかれていた。
「……どうして、こんな所にこんなものを?」ニーアが疑問を口にすると白の書が答える。
「子ども達を捨てて、若い男と逃げるつもりだったようだな」

「そんなのって……」
まどかは無情な現実を突き付けられて、
やるせない気持ちになった。

「奇跡は起こらず、最悪の真実が待っておったな。あやつらには何と言う?」
ニーアは応えられずに沈黙して黙っていると、死んだ女性が大事そうに何かを掴んでいるのに気付いた。
「それって……化粧瓶?」
「バラの匂い……」
ニーアが瓶を手に取ると、かぐわしい薔薇の残り香がした。
「これだけでも持って帰ろう……」
「……うん」
まどかは残酷な現実を目の当たりにして、今まで夢物語の様に思えた世界が途端に、現実味を帯び色褪せていく感じがした。


重い足取りでニーア達はその場を後にし、兄弟の居る店まで戻っていった。
店に入ると無邪気に弟が彼らに話し掛けて来る。
「おかあさんは―――?」
何も知らない男の子にどう伝えればいいのか、まどかが迷っているとニーアが重い口を開いた。
「……お空に登ったよ」
「 え?」
弟が驚く中、彼は話し続けた。
「君達のおかあさんは、別の世界へ旅立ったんだ」
「うそつき。しんじないもん!」
ニーアの話を聞いた弟は顔を怒りで歪めて店の奥へ逃げてしまう。
兄は弟が居なくなったのを確認すると、悲痛な顔をしてニーア達に尋ねた。
「母さんは一人で死んでいましたか?」
「……えーと……」
言葉を濁すニーアに兄は首を振って、喋り続ける。
「……いいんです。わかってます。教えて下さい、母さんは好きな人と死ねたんですか?」
兄の言葉で事情を察した白の書が言いにくそうに話した。
「……遺体は二つあった」
その言葉を聞いた兄は心底、安堵した様子で呟いた。
「よかった……」
「何?」
白の書が聞き返すと、彼はぽつりぽつりと話していく。
「母さんは、もう俺たちの事でイライラしたり、悩まなくてすむんだ」

言葉の端々から彼が母親を本当に心配していたのが伝ってくる。
「これで……よかったと思います」
兄は気丈に振る舞っていたが、無理をしているのが、ニーア達には嫌と云うほど伝ってきた。
「ゆるせるん……ですか?」
まどかが聞くと、彼は声を荒げて言い放った。
「俺は……母さんの子どもだからっ!
俺の母さんはあの人だけだから……だから……」
ニーアは兄の痛ましい姿を見て懐から遺品を取り出して、彼に受け渡した。
「……この瓶……拾ってきたんだけど」
「これは……母さんの、パンの匂いだ……
母さんの、匂いだ……」
遺品を受け取った兄は瞳から涙を流していた。
「こんなの……くそ、なんで涙が出るんだ
泣いちゃだめだ……」
彼は必死で涙を堪えるが、涙は止まらず、瞳から、零れ落ちた雫が遺品である化粧瓶を濡らしていた。
「こんなところ、弟に見られたら……くそっ……くそっ!」
号泣する兄にニーア達は掛ける言葉が見つからずに、そのままロボット山を後にする事となった。
「これで……良かったのかな……」
ニーアが遣りきれない心情を吐くように、言うと店から出てきた兄弟が此方に向かって手を振っていた。

「ありがとうございました!
本当に……いろいろありがとうございました! 」

「これで良かったのだ……きっと」
白の書は物憂いなニーアに語り掛けると、手を振ってくる兄弟の平穏を願っていた。
「ニーア君、ヨナちゃんの所に帰ろう。
お兄ちゃんが帰って来なくて、とても心配してるはずだから」

「うん。早くヨナの所に帰らなきゃ」
まどかが呼び掛けるとニーアはヨナの事を思い浮かべて少しだけ明るくなった。

兄弟の精一杯の感謝にせめて二人が幸せに暮らしていければいいなと思いまどかは、手を振って彼らと別れたのだった。




―――――――――――――――――――
今日もベッドの上でヨナは兄の帰りを待っていた。
「おにいちゃんたち……いつかえってくるのかな」
心配そうに部屋の窓から外を眺めているとそこにはニーアとまどかの姿があった。

「おにいちゃんとまどかさんだ」

ヨナは喜んで階段を降りていって玄関の前に立った。するとドアが開き彼らが帰って来た。
「おかえりなさい。おにいちゃん、まどかさん」
「ただいま。ヨナ」
嬉しそうな笑顔でヨナが二人を出迎えるとニーアは微笑んで妹に応えた。

ヨナはそんな優しい兄の笑顔が大好きだった。



[27783] 第五章 売買ノ街、灯台守
Name: 七時◆0d300714 ID:d8185a60
Date: 2011/07/27 11:21
海の遥か彼方まで見渡せそうな岬の上に、一つの大きな灯台がそびえ立っている。
それは、古くから存在しており船乗り達の道標となって多くの人々に役立っていた。
その灯台に今、一人の老婆がいる。
灯台に付けられた螺旋状の階段を彼女は、息を切らしながら登っていた。

「ふう……どうにも疲れるねぇ」

強い陽射しと潮風に曝させて老婆は額から汗を流している。

「はぁ、この歳で階段を上るのは辛いねぇ
でも……今日こそあの人が戻って来るかもしれん」
灯台を目指す事がまるで義務の如く、重い体を引きずり一歩ずつゆっくり進む老婆。

「灯台の明かりを消したままになんて出来ないよ」

偏に老婆を突き動かすのは、遠く海の向こう側にいる恋人への思いから来ていたのであった。



晴れ渡る青空の下でニーアとまどかは、南平原と呼ばれる所を歩いている。
それはロボット山の出来事から村に帰り、数日後の事。
朝方にヨナが全身の痛みを訴え苦しみだしたのだった。
黒文病が進行していると思ったニーアは、痛み止めの薬でもないかと急いでポポルに訊きにいくと、彼女は【薬魚】と呼ばれる魚が強い鎮痛作用があり痛み止めによく効くと言った。

しかし【薬魚】は海岸の街と呼ばれる港町にしか生息していなく、保存もあまり効かない為、現地で捕ってくるしかない物だ。
ニーアはポポルに寝込んでいるヨナの事を頼み、【薬魚】を入手しに行くと決め家に居たまどか達と一緒に村を出た。

「ごめんね。こんな無理を頼んじゃって」

「ううん。私じゃ家にいても何もできないし、頼りにしてくれると嬉しいな」

隣で歩いている彼女に声を掛けるニーア今回まどか達に同行を頼んだ理由があった。海岸の街は行くために通る南平原には大量のマモノが出没していて、しかもそのマモノ達の中には大型の個体もいるのだ。

それに加えて港町には、ニーアにとって耐え難い程の苦い記憶かあり最近はずっと通っていなかった事もあり、一人では心細いとまどかと白の書に一緒に【薬魚】を穫って欲しいと頼み込んだのだった。

「ヨナちゃん、一人で寂しくないかな?」
「ポポルさんにお願いしたからその辺は心配ないと思うけど、それでもなるべく早く戻らないとね」

ニーアはそう応えつつ悩んでいた事があった。
本来ならまどかに家の留守を頼み、その間に自分がいけば効率が良い話なのだが。
今のまどかを一人にしておくのも、少し心配な気がしたのもあった。
ロボット山の出来事から数日たったものの最初、彼女はあの無惨な死体を見てからあまり眠れずろくに食事も取れずにいた。

白の書がいつもの調子でまどかを励ましたりヨナと遊んでいる内にある程度心の傷は和らいで落ち着いているが、安心はまだできそうになかった。

「そういえば、ありがとう。ヨナの為に落書き帳を買ってくれて。ヨナ、すごく喜んでたよ」

「お礼なんていいよヨナちゃん、あまり外に出れなくて退屈そうだったからこれで気が紛れればいいな思って」

ニーアが笑顔でそう言うと彼女は、照れくさいのか両手をぶんぶん振って恥ずかしそうに喋る。
彼はまどかにとても感謝していた。共に生活をし始めてもう大分経つが、彼女に凄く助けられていたからだ。

家の留守にしてもヨナの世話やお喋りにも嫌な顔を一つせずしてくれるし、
村の人から頼まれる仕事や身の回り事は、まだ色々、不慣れな部分や危なかっっしい所があるもののしっかり手伝ってくれている。
だからこそ危険なマモノ退治に付き合わせることにニーアは引け目に感じていた。

前に彼女は自分を足手まといだと卑下していたが彼はそう思わなかった。

同居人が増えて確かに生活は少し苦しくなったものの、それを補うくらい彼女はとても良く働いてくれる。

「ねぇ、まどか……」

だからこそ、これ以上まどかに負担を掛けるべきではないのかとニーアは迷ってしまい思わず彼女に話し掛けてしまう。

「どうしたの?」

「ごめん、なんでもないよ」

こちらを不安そうに覗くまどかを見て彼は慌てて言葉を取り消して彼女より先に進んで平原を歩いた。

そして時間が経って、陽射しが弱くなり始めマモノが出没して来る時間帯になって来た。ニーア達は襲われない様になるべく陽の明るい所を進み歩いていく。

ニーアは歩きながら自分とまどかの影を見てふと彼女の居た所が、いったいどういった場所なのか想像を膨らませていた。

家に居た時も、興味が沸いてまどかに聞いた事があったのだ。

彼女の話ではまず夜は明るくなく完全な暗闇だと言った。ニーアが暗いとき街の灯りはどうしているのと聞くと、まどかはロボット山にあった機会仕掛けの街灯が沢山、外の至る所に付けられているのだと言う。
それを聞いて彼は、驚いたが少し納得がいった。
もしまどかの世界にマモノがいたら夜は、とても危険で人々は毎日怯えて暮らさなければいけないだろう。

他にも色々と信じられない話を彼女から聞いた。平原にいるあの獰猛な羊が、彼女達の世界では家畜として飼い馴らされていると言ったり、本でしか知らない走る鉄の箱が存在し沢山の人や荷物を乗せて走っていたりと突拍子のないものばかりだった。


ニーアはそれを思い出して、考えるのをやめる。いくら考えた所で自分の頭では、想像もつきそうにない場所なのだと思えてしょうがなかったし、今やるべきことは一刻も早くヨナを楽にしてやらなければと彼は唇を引き締めた。

その後二人は途中、小型のマモノの集団に何度も襲われるもその度にニーアが率先してマモノを蹴散らしていく。
まどかも魔法で戦ったのだが、集中できていないのか狙いが悉く外れマモノには全くと言っていい程当たらず、殆ど彼一人でマモノを倒していった。

マモノを退治した後、二人は少し移動して安全な場所で休息をとり、終わるとまた歩き続け目的の場所へたどり着こうとしていた。

「もうすぐ、海岸の街だよ」

平原の先に大きい洞穴がありそれを指してニーアは言った。
洞穴からは潮気を含んだ風が吹いており、二人は洞穴へ入り中をくぐると其処に大きい港町はあった。

海岸の街は、交易が盛んに行われている所もあってとても大きな街だった。
街には白い家々が至る所に建ち並び通路が複雑に入り組んでいる。
街の向こうには、太陽に照らされた青い海と大きい灯台が見えた。

「【薬魚】か、無闇に探して見つかるわけではないな」

「どうしよう? どんな魚なのかわからないし」

「まず、 お店できいてみようよ。もしかしたら売っているかもしれないよ」

ニーアの心配にまどかはそう言ったが魚屋にいってみたが何故か店仕舞いしていて、街の住人にも尋ねてみたがあまり有力な情報は得られず二人が途方にくれていると、街の漁師だと思われる逞しい体格をした男性がニーア達に話し掛けて来た。

「あんたたち、【薬魚】を探しているのか?」

「あ、はい」
まどかがそう答えると男性は、ばつの悪い顔をして言った。

「今、ソレを扱っている店は全然ないぜ。
最近、黒紋病やマモノのせいで皆こぞって薬に使うからってあっという間に店から全部なくなっちまった」

ニーア達が話を聞いて落胆していると、男性は助け舟を出す。

「そう気を落とすなって、確かに店にはないが釣りで捕れるくらいはある筈だぜ」
男性は指を差して言った。

「あそこにボーっと立っている爺さんがいるだろ。どうしても【薬魚】が欲しいのならあの人に聞けばいい」

指を差した方角には、老人が一人海を見つめながら佇んでいた。

「あの、どうもありがとうございます」

「ああ、それじゃ。無事、手にはいるといいな」

お礼を言うと男性はそれだけ言って立ち去った。
ニーア達は他にアテがないこともあり老人に尋ねてみる事にした。
海辺の方に近付いて見ると老人の他に、肥え太ったアザラシが何匹もいて砂浜で鳴いている。
「あの、すいません」

「何か用か?」

老人は声を掛けられて機嫌を悪くしたのか二人に向かってぶっきらぼうに喋った。

「私達、【薬魚】を捜してるんですど、お爺さんどこで捕れるか知りませんか?」

「何? 【薬魚】? ああ、そんなんならすぐ釣れるだろ。面倒くさいな。竿はやるから自分で釣ってこい」

老人は懐から折りたたみ式の釣り竿を二竿取り出し彼等に手渡した。

「えっと……私、釣りをやるの初めてでそれにどこで【薬魚】釣れるんですか?」

突然、竿を手渡されてまどかは困惑しつつも質問した。

「【薬魚】は砂浜で釣れるぞ。ほらルアーもやろう。釣り方? そんな事も知らないのか」

老人はやれやれと言った風なしぐさをして説明を始めた。
「いいか。魚を釣るときはな、こういう風に……」
それから老人の身振り手振りを使った講釈が始まり、二人は釣りに関して初心者な事もありせっかくだからと大人しく話を聞くことにした。
そして程なくして老人の講釈が終わり、彼にお礼を言った後、砂浜に移動してニーア達は釣りをはじめていた。

「竿が大きく動いた時に体を動かすのだ」

「しっ、魚が逃げちゃう」

白の書は特にする事がないのか口喧しく喋っていたがニーアに注意されてから少し口数が減っていた。まどかは釣りの準備に少し手間取ったものの彼に手伝って貰い何とか海に釣り糸を垂らすことができた。

空には、カモメが飛び回り海には楽しそうにイルカの群れが泳ぎ回っている。ニーア達が釣りをしている砂浜にもアザラシはいて時折、餌が欲しいのかつぶらな瞳で訴えてくる。

「海が凄くきれいだね」

まどかはアザラシを触ってみたいという衝動に駆られたが釣りに集中するため顔を背け海を見てふと呟いたのだった。

「そうだね、凄く綺麗だ。ヨナにも見せてやりたいな」

そう応え彼は垂らされた糸をボーっと見つめてじっとしていた。
ニーアは家で苦しんでいるであろうヨナの事を考えていた。
今頃どうしているのだろうか? 寂しくなって泣いてないだろうか? 早く帰ってやらなければと彼は少し焦っていた。

「また、海藻だよ……」
まどかはルアーに引っ付いているそれを外しながら残念がっていた。釣りは根気だとよく言ったもので釣れるのは海藻ばかりで一向に釣れる気配がなかった。

「うーん、餌には食いつくみたいだから絶対いる筈なんだけど」

ニーアの言った通り餌自体は食いつくものの魚は警戒心が強いのか餌を飲み込もうとせずに逃げてしまうのだった。

「我が思うにすぐに竿を引くからいけないのではないか」

「シロさん。そう言うことは早くいって欲しいよ」

「お主達が大人しくしろと言ったからそうしたまでだ」

まどかの言葉に白の書は拗ねたようにそう返すとニーアの釣り竿が魚が食い付いたようで釣り糸が引っ張られていた。彼は今度こそ魚を逃がしまいと慎重に魚を引っ張るタイミングを狙っていた。

「二人共、ちょつとだけ静かに」
ニーアは二人に小声で喋ってなるべく音を立てないようにした。すると最初は小刻みに餌をつつく魚が釣り針に食い付いたようで竿を引っ張る力がいっそう強くなった。
「よし、このまま!」
そしてニーアは白の書の助言通りに体全体の力を使って竿を引っ張った。すると引き上げた釣り糸から【薬魚】が釣り上げられた。

「これが、【薬魚】?」

魚は小さい大きさだったが活きが良くビチビチと跳ねていた。

「間違いないな。あの老人がいっていた特徴と同じだ」

白の書はこんな事もあろうかとあらかじめ魚の特徴を老人に聞いていたのだった。
「やったね、ニーア君」

「うん、早くこれをヨナに持って帰ろう」

魚が無事手に入った事をニーアは喜び袋に【薬魚】を入れた。そうして二人は砂浜を離れ入江から街に戻ろうとすると彼らを呼ぶ声がした。
「ちょっと」

ニーア達が振り返ると其処に一人の老婆が佇んでいた。
「ちょっと、ここだよ!」

彼女は細身の体から出たとは思えない程、威勢のいい大きな声を出して騒いでいた。
「こんな老婆が大変そうにしているのに、見てみぬふりかい!あ~あ、まったく最近の若い子ときたら、血も涙もありゃしない」
「え? 僕達のこと?」
ニーアは老婆に近付こうとすると白の書が制止した。

「よせ! 足を止めるな!こういう手合いは無視が得策であるぞ」
まどかはいくら急いでいるとはいえ冷たい対応に文句を言おうとすると老婆が大袈裟に痛みを訴えだした。
「いた! いたたた! アイターッ!」

「おばあちゃん!? どうしたの?」
ニーアが慌てて駆け寄ると彼女は白の書に指を差して言い始めた。

「喋る本なんて奇怪なものを見たせいか、持病が悪化して……」

「我が奇怪だと? 失敬であるぞ!」

白の書は侮辱をされて怒り狂い表紙をガタガタと震わせて叫んだ。まどかは改めて宙に浮かんで喋る本なんて普通の人からみたらとても奇天烈な物なんだと思っていると彼女はふんと鼻をならし喋った。

「何が失敬なものか! 気味が悪いから『奇怪』って言ったまでだよ!」

「この……言わせておけば……貴様!」

老婆は白の書以上に口が達者のようであまりに険悪な雰囲気になるのも不味いので、二人は両者の間に入って仲裁をした。

「ちょ、ちょっとシロ!」

「おばあさん、ごめんなさい!ちょっとこの本ちょっと口が悪いだけなんです。許して下さい!」

二人は白の書を捕まえ老婆に謝り、その場を立ち去ろうすると。しかしそれで彼女が納得する筈もなかった。

「ちょっとお待ちよ! かわいそうな老婆を放っておく気かい?」

「可哀想なものか!」

ニーアとまどかは早くヨナの元に帰らなければいけないのだが根がお人好しな二人は結局この気難しい老婆の頼みを断りきれなかった。

「ふう、もうちょつと早く助けてくれてもいいんじゃないのかね?」

「「ご、ごめんない……」」

溜め息をつきながら老婆は嫌みを言うと、二人は声を揃って謝った。白の書はまだ怒っていて彼女を睨みつけながら皮肉を含めて喋った。

「それだけ口がまわれば、たいていの用事はこなせそうだか…… 我らに何を頼みたいのだ?」

「郵便局まで行って、あたし宛ての手紙をさっさと届けるように言ってくれないかね?」
ニーアはその話を聞いてほっとして胸をなで下ろした。老婆からいったいどんな無理難題を振り掛けられるかと冷や冷やしていたからだ。
「そのくらい自分で……」

「あいたたたたたた」

「わ、わかった!行く行く行きます!」
これ以上ややこしい状況になるのはごめん被るので二人は文句を垂れる白の書を捕まえて郵便局に向けて走っていった。

「まったく、何故我があのような老婆にこきつかわなければ……」

「まぁまぁ、人助けと思ってさ」

「そうだよ、あのおばあさんだって悪気があっていったんじゃないんだし」

ニーアとまどかは機嫌が悪い白の書を宥めながら路地を歩いていた。郵便局は街の港に通じる橋を渡りそこから階段を降りたところにあり機会仕掛けのポストが目印の大きい建物だった。

「やあ、いらっしゃい!

「あの……海岸で会ったおばあちゃんが、自分宛の手紙が来ているハズだって……」
郵便局にニーア達が入ると受付にいた郵便配達員の男性が愛想良く挨拶をした。建物の中には彼しかいないようでニーアが躊躇いがちに配達員に用件を言うと彼は溜め息をついた。

「ああ、灯台のばあさんか」

「いかにも。あのうるさい老婆に、さっさと手紙を届けよ!」

白の書が半分怒声の混じった声を出すと、配達員はすまなさそうに謝った。

「……届けたいのは山々なんですが、ちょっと足を怪我してしまって」

「そうですか……それって大変ですよね。あっ、わたしいいこと思いついた!」

まどかが何かをひらめいたように手を上げたが白の書は考えていることがわかって猛烈に反対した。
「やめろ! 口に出すな! 『いいこと』なわけがない。絶対違う。我はわかっておるのだぞ!」

「私達が配達員さんの代わりに届けます!」
白の書はニーアに無言で訴えたが彼自身も元々そうするつもりだったので反対する理由はなかった。

「すまないね。気をつけるんだよ。あのばあさん、一筋縄ではいかない性格だから」
「……知っておる」

配達員が心配して老婆宛ての手紙を渡してニーアとまどかに警告すると白の書がうんざりしたように応えた。
「……あ、」
配達員は突然声をあげ、ニーアをまじまじと見つめ始めた。

「今度はなんだ?」

「君達は、ポポルさんの村からやって来たのかい?」

「そうだよ。どうして分かったの?」
配達員に聞かれてニーアが素直にそう応えると彼は首をうんうんと頷いた。

「服がちょっと違うし、ここらの人とは雰囲気が違うからさ。けどそこの女の子は他の村でも見ないものだけど君もポポルさんの村から?」

「えっと……そうです」
まどかの服装はこちらの世界に迷い込んだ時のままで、最初デボルとポポルがそのままでは色々と不便だろうといって、服を買ってくれようとしたのだがそこまで世話になる訳にはいかないと思い断っていた。

とはいえこちらに来た時の学生服や下着を自分で洗濯している間や寝る時の服は、村の人に貰ったボロボロの古着で過ごしていたのだが。
「そうか。もし良かったら、村に戻った時にこの手紙をポポルさんに渡してくれないか?」

「もちろん!」

「全く……この調子なら、郵便配達員に転職した方が良いな」

配達員に手渡された手紙は重要な用件が書いてあるものか普通のものより高級そうなものだった。ニーアが大事そうに服のポケットに入れている中、白の書が呆れたように言った。そしてニーア達は老婆がいた砂浜に戻ったのだが彼女はもういなかった。
「居ないようだな、あの老婆」

「確か『灯台のばあさん』って言ってたから……」
ニーアが配達員が言っていた言葉を思い出し岬にある灯台を見た。

「灯台に行ってみようよ」

「まったく……面倒な話だ」

ニーア達はその後、灯台に入り螺旋階段を登っていくと老婆がベッドに腰をかけくつろいでいた。

「あのう……」

「……なんだ、あんたたちかい。何しに来た?」

「望みどおり、手紙を届けに来たのだ」

老婆がニーア達を見て意外そうな顔した。どうやら本当に手紙を届けにくるとは思わなかったらしい。
配達員さん、怪我しちゃったらしくて……」
「怪我……? ふん!まったく使えない配達員だよ! 道理で手紙が来ないはずだ」

憎まれ口を叩きつつ彼女は、受け取った手紙を大事そうに開け文面を読んでいた。
「手紙をくれる相手がおったとはな」

「大事な人だよ。あたしの、大事な人さ……」
二人は切なげだが優しく言う老婆を見て、手紙を届けて良かったと思い灯台から出ようとする。すると手紙を読み終わった彼女が服から通貨が入った袋をニーアに突き出した。
「ま、届けてくれたお礼だけはやろうかね」
「え! そんなの悪いよ」

「人の好意は素直に受け取っておきな」

老婆はしかめ面をしていたが素直に感謝を表していた。遠慮がちにニーアが袋を受け取ると二人は部屋から追い出されてしまった。
「これでようやく帰れるね」

「随分と遠回りになってしまったがな」

時刻は既に日暮れでこうして予定よりも、かなり遅くなってしまったが『薬魚』を手に入れたニーア達は急いでヨナの下へ帰った。
「おにいちゃん……いたいよう」

家に戻るとヨナは苦しそうに咳を繰り返し兄の名前をずっと呼んでいた。

「もう大丈夫だよ。今、薬を飲ませてやるから」
まどかは薬魚の身を取り出し飲み込み易いようにすり潰して容器に入れた。
「ちょっと苦いけど……良く効くお薬だからね」

「おにいちゃん……ヨナ、にがくてもへいきだよ」

「ヨナは強いなぁ」

妹を励ましながらニーアは、飲み水と一緒にゆっくりと飲み込ませていった。それから少し時間が経ちヨナは薬を飲んで痛みが引いてきたのか咳が止み小さな寝息を立てて眠っていた。

「ニーア君、もう眠ってもいいよ。あとは私が様子を見てるから」

「うん。ごめんね、何かあったらすぐ起こして」

ニーアは旅の疲れでうとうとしながらも、ヨナの看病をしていると先に休んでいたまどかに声を掛けられてやっと寝床にありつけた。疲労がかなり溜まっていたのかニーアはベッドに吸い込まれる形で倒れた。

睡魔に襲われながらニーアは早く大人になりたいと願った。
成人すれば今より仕事の幅は広がり出稼ぎもできる。力も強くなってどんなマモノにも負けない。そうすればヨナを救える。まどかを元の場所へ返してあげられるそんな気がした。ニーアは大切な妹と初めての友人のことを思いながら静かに思考の闇へと落ちていった。

――――――――――――――――――

おにいちゃんへ


ヨナは おにいちゃんとまどかさんがしんぱいです。
ヨナの くろいびょうきのせいで おにいちゃんやまどかさんがくるしんでいると
ヨナは かなしいです。

おにいちゃん ヨナの びょうきのことは もういいから、

あんまりがんばらないでねヨナのびょうきはくるしいけど おにいちゃんたちが くるしいことのほうが ヨナはもっとくるしいです。


ヨナ





[27783] 第六章 オバアチャン/復讐ノ果テ
Name: 七時◆ad7d089f ID:51b53872
Date: 2011/09/07 19:23
彼女は夢を見ていた。崖に囲まれた村に雨が降っている。そんな中、村の外に一人の子供がいた。雨で濡れた子供の姿は中性的だが花のようなな可憐な美しさがあった。
だが子供の顔に生気はなく、ただ虚ろに村にある風見鶏をじっと見ている。すると突然、何処からか石が飛んできて子供の頭に当たった。

子供は痛みでぬかるみのある地面に手をつき息をしていた。石を投げたのは村のガキ大将とその取り巻きだった。

彼女は知っている。これはまだ自分が幼い頃の出来事だ。彼女はこの世の中から疎まれていた。両親が早くに死に、この特異な体のせいで村の子供達から虐められ大人達も彼女を気味悪がって今、行われている虐めを見てみぬふりをして傍観していた。

ガキ大将達は、その場から立ち去ろうとする幼い彼女を取り囲み押さえつけた。これから男か女か確かめる為だと得意げにガキ大将そう言い、取り巻き達と一緒に服を剥ぎ取ろうとした。

幼い彼女は雨と共に降りかかる残酷な仕打ちに目を瞑りながら心の中で半ば諦めていた。子供は自分は呪われている。呪われているからこそ味方などいないのだと悲観していた。

しかし何時まで経っても想像していた苦しみはやって来なかった。

服を掴んでいた無数の手が、離れていて不思議に思って閉じていた目を開けるとガキ大将が頭を抱えて倒れ、とり巻きが顔面を蒼白にしてたじろいでいた。

彼女が後ろを振り向くと其処には、線の細い老婆が精一杯に力みがらガキ大将達に凄んでいた。

そう彼女は、あの頃たった一人だけ味方がいた。とても頼もしく優しい家族が。



「……夢か」

気付けばカイネは夢から覚めていた。粗末な寝床から起き、傍にあった双剣を握り締めた。懐かしい記憶を呼び起こされると同時に彼女は言い知れぬ気持ちが沸くのを感じた。

「こういう時は、憂さ晴らしにかぎる」
カイネは、表へ出て辺りを見た。最近崖の村にマモノが大量に発生するようになり、かなりの犠牲者が出ていた。夢に出てきたガキ大将もその一人だった。

辺りには、霧が立ち込みいつマモノが襲ってきてもおかしくない空気だった。しかしカイネの顔に恐れはなく、嗜虐的な笑みで満ち溢れていた。

「……お出ましようだな」

すると彼女を待っていたかのように霧の濃い場所からマモノ達が姿を現し、襲いかかってきた。カイネは、鳥のように空高く飛び上がり地上へ落ち様にまもなくマモノを双剣で一閃していった。

しかしマモノ達の数も尋常ではなく、彼女が幾ら叩き潰していっても焼け石に水だった。

「くたばりやがれ、この%#&が!」

カイネは悪態を突きながらマモノに剣を突き刺していく。その美しい顔は返り血で赤く染まり、濃い霧の所為もあってか視界は最悪だった。

賢しいマモノ達は霧に紛れ彼女を少しずつ追いつめていく。あるものは、遠くから魔法弾で狙い、またあるものは足音も立てずかまいたちのように標的を斬りつけていった。

「鬱陶しい手を使いやがって、畜生が!」
カイネは右足を深く傷つけられ膝をつき倒れるが、片手で剣を杖替わりにして起き上がった。

「まだだ、まだ終われない、おまえら全員ぶっ殺してやる!」

彼女は、憎悪がこもった声を出して威嚇したが圧倒的に不利な状況だった。

(こんなところで終わってしまうのか?)
(おばあちゃんの敵もとれずに本当に?)
カイネの脳裏に誰よりも優しくたくましかった祖母の顔が、浮かび上がった。あの異形のマモノに虫けらのように殺された。大切な彼女の家族。

殺される最期の瞬間まで自分の身を案じてくれた人。

マモノ達は傷だらけ彼女に向かって一斉に襲いかかる。

カイネは、ここで諦めるつもりなど毛頭なかった。アイツを殺すまでは、絶対に生き延びてやると彼女は、双剣を持つ両手をいっそう強く握り締めた。

その時、何処からか赤黒い色をした魔法の槍が飛んできてマモノを貫き、少年が剣を持ち黒い群れの中心に勇ましく飛び込んでいた。

その姿にカイネは、見覚えがあった。数週間前に仇のマモノに遭遇した時に、出会った変わった二人組の片割れだった。

「あの、大丈夫ですか!」

そして茫然としている彼女に近付いてくるものがいた。桃色の髪を両側二つに結った可愛らしい髪型に白い長袖の服にスカートを履いた大人しいそうな少女で、彼女もまたその時に出会った一人だった。

「何しにきた!?」

出血している腕を押さえながら、カイネは言った。前き彼らが村から去る時に忠告した筈だった。奴は、私の獲物だと。

すると少女の傍らにいる宙に浮かぶ奇妙な本が偉そうに返事をした。

「助けに来た。これで満足か? 感動するのは後にしろ」

「感動なんか、するかっ……!」

皮肉混じりの言葉にカイネは、思わず反論してしまっていたが内心、動揺していた。今までマモノと戦っていく中、彼女を助ける村人は、まるでいなかった。

むしろ村の住人の殆どは、黒い影のバケモノより得体のしれないカイネを疎み、恐れていた。彼女は孤独に晒され、他人に心を許すことができなくなっていた。

「何で、こんなに急にマモノが?」

沈んでいるカイネにあの少年も此方に近付いて来た。マモノ達は、どうやら分が悪いと判断して姿を消してしまって霧もすっかり晴れていた。

「判らない。 村の方にも出ているんだ」

「助けに行こう! 『封印されし言葉』も見つかるかもしれない」

少年がそう言って村に続く坑道を進んでいく。 カイネとって村人がどうなろうと知ったことではないが、忌々しいマモノを殺せるならどちらでもいいと思い、少女と一緒に彼に続いていく。霧がどんどん濃くなる中、隣にいる少女がオドオドと話し掛けて来た。

「カイネさん、怪我してる。今すぐ手当てしないと」

確かにカイネの身体には、所々に痣や切り傷が出来て酷く痛々しかった。

「これくらい平気だ。唾でもつけとけば治る」

「……けど」

「さっさと行かないと、手遅れになる」

カイネは、強引に話を切り上げ村に向かってひたすら歩いていく。心配や気遣いに慣れていない彼女は、こういった無愛想な反応しか返せなかったのだ。

暫くしてカイネ達が崖の村に辿り着くと、村は異様に静まり返り曇り空の所為で薄暗くなっていた。周辺に目をやるとマモノどころか人間すら一人も、おらず生暖かい風だけが吹いている。

少年が、村人の生存を確認しようと、先につり橋を渡ろうとした時、辺りの雰囲気が一変し空気が振動するように震えていた。
「……これは!」

やがて、その原因の元が崖の遥か下から現れてきた。それは、蜥蜴の形をした巨大な黒い影で、まるで本当の蜥蜴の様に足を四つん這いに動かし断崖をのそのそと歩く怪物だ。
(やっと見つけた。とうとうアイツを!)
カイネの中で、仇を見つけた高揚感と凄まじい怒りの感情が混じり合うのを感じていた。彼女の憎悪に呼応するように、マモノが侵食している左半身から暗い闇が吹き出していた。

蜥蜴のマモノが村の中心にある広場にのそのそと飛び降りる。マモノは、最初からカイネ達の存在に気付いているようで雄叫びを上げて彼女達を挑発していた。

「油断するでないぞ!

「大丈夫、油断してる余裕なんてないよ!」
少年は、剣を構え広場に続く長いつり橋を渡っていく。それに続く様に少女の方も慌てた様子で片手に刀身が歪に曲がった短剣を持ち後に続いていく。

蜥蜴のマモノは、少年達が広場につくと低く呻り前足を大きく上げて、彼らを踏み潰そうとする。しかしカイネは、それを許さなかった。彼女は、怪物の目掛けて勢いよく走り隙だらけ身体に剣を振り下ろした。
「死ねっ! *&%%££*#△!!」

「なっ? 何? 今、何て言ったの?」

カイネの暴言は、およそ女性が吐き出されるものではなかった。思わず近くにいた、少年が言葉の意味も解らずに聞き返してくる。だが彼女は、そんな事はお構いなしに剣に込めるを強くしながら言葉を吐き続けた。

「貴様の△#£*%&を裏返して、蹴っ飛ばしてやるよ!」

「おい……品がないにもほどがあろう。見ろ、小娘の顔が茹でだこみたいになっているぞ」

偉そうな本が言うとおり少女は、遠目から見ても顔が羞恥で林檎みたいに真っ赤になっていてカイネはウブな奴だと薄く笑っていると、蜥蜴のマモノは大きく口を開き前に戦った時と同じように魔法弾を吐き出そうとした。

「シロさんは、いつもいつも……一言多いよ!!」

少女は、からかわれて怒り心頭のご様子で魔法で巨大な赤黒い腕を具現化してマモノの胴体に向かって叩きつけた。

怪物の身体は、大きく吹っ飛び崖に付けられたタンク型の小屋に直撃した。小屋は衝撃でバラバラに砕けてしまったが蜥蜴のマモノはまだ健在で他の小屋を蹂躙しながら他の広場に移動していた。カイネ達が後を追おうするとまるで示し合わせたかの様に小型のマモノが群れをなして往くてを阻んできた。

「私はボスを押さえてるから、おまえ達は雑魚を頼む!」

そう言ってカイネは、飛び上がり空中を移動して崖を飛び移りながら広場を目指していった。先程の戦いを見てもあの二人ならあの程度の雑魚に苦戦する訳がないと確信していたからだ。


彼女がが蜥蜴のマモノが居座る広場に到着すると鉤爪の形をした尻尾にタンク型の小屋を一つ掴んでいて其処から球状のマモノを排出していた。

カイネが、それを阻止しようと魔法を撃とうと集中していると、小屋に引きこもった村人達の陰気な声や罵倒する声が響いて来た。

―――忌まわしきモノは去れ。


――オマエが、マモノを呼んだんだろう!

―――オマエは呪われているんだ!


―――オマエがいる限り、この村に平和など来ない!

カイネ達が懸命に戦う中、未だに村から逃げずに身勝手な理由で彼女を否定する村人達に二人は、広場を目指して必死に走りながら声を荒げて反論した。

「何言ってるんだ!! カイネはみんなの為に……」

「そうだよ!! ひどいよ……こんなの絶対おかしいよ!」

「うるさいっ!」

しかし村人達は耳を貸さずまるでカイネの方が危険な怪物と評して容赦のない言葉の暴力で彼女を弾圧し続ける。


―――おぞましい姿のマモノ憑きめ!


―――オマエなど人間じゃない!


―寄るなバケモノ! さっさと出ていけ!


「ひどい言われようだな……」

「カイネ、お待たせ!」

少年達が広場にいるカイネと合流すると、蜥蜴のマモノはタンクからマモノを排出する量を一層、苛烈にしていく。

「奴が掴んでいるのは何だ?」

「あそこからマモノを出してるの?」

「まずは、あのタンクから壊そう!」

少年達もマモノが掴んでいるモノがわかったのか魔法で遠距離からタンクを攻撃していく。

「村の人達は、どうしてあんなひどい事を……」

「いいんだ。すべて事実だからな」

カイネは、否定する気もなかった。事実、村人達を助ける為に戦っているのではないのだから。

まるで悟りきった様にさっぱりとそう答える彼女に、少年達が釈然としない顔をする中、蜥蜴のマモノがタンク小屋を掴んだ尻尾を振り下ろしてきた。二人は、すぐ様それを避け、マモノは地団駄を踏み悔しがっていた。

「おい! 行くぞ!」

「わかった!」

カイネは少年と共に、蜥蜴のマモノに対して反撃を仕掛けた。 まず彼女は、意識を集中し背後から魔法陣を形成して其処から紫色の矢の形をした魔法弾を放ち、まるで流星の様に、動きマモノの尻尾に当たっていく。


怪物が血を流し痛みで小型のマモノの排出を止め尻尾をカイネ達から、引き離そうとした時、追い討ちをかけるように少年が傷ついた尻尾に向かって剣を思いっきり突き刺した。


蜥蜴のマモノは、悲鳴を上げじたばたとし彼は反動で飛ばされてしまったが、尻尾が掴んでいたタンク小屋は壊れ、マモノは素早く後退り崖の断面にへばりついていた。
「くそっ! 逃げてばかりだ」

「カイネ! 僕達が追いつめるから、カイネはあっちで待ち伏せして!!」

カイネが埒があかないと舌打ちをすると、少年は、マモノがへばりついている崖に付けられた木製の通路と、その先にある広場を指差して彼女に提案した。

「……わかった。 無理はするな!」

「カイネさんも気をつけて下さい!!」

カイネは、軽く頷き彼らとは別の橋から、広場に向かった。村を走る途中、彼女の心は大きく揺らいでいた。

村人達の罵倒や嘆きは未だに鳴り響いているが、その所為ではない。

あの二人を本気で気にかけ始めている自分に驚いていたのだ。仲間とも呼べる存在に出会い彼女の心に今までに感じたことのない感情が芽生えていた。

そしてカイネが広場に到着すると、少年達に誘導された蜥蜴のマモノが虫の様にずるずると彼女の眼前に姿を現した。

「ここで、終わりだ!」

蜥蜴のマモノは傷を負い、肉の腐った様な臭いを撒き散らしながら襲ってくる。カイネは、それらを避け、怪物の腹に潜り、剣を振り、魔法を撃つ。マモノは、血を流し獲物だと思っていた人間に狩られ始めていた。

「もう逃がしはせぬぞ!」

「一気に畳みかけよう!」

更に少年達も加わり蜥蜴のマモノは、完全に追い詰められ、痛手を負ったマモノは、身体から緑色の閃光を放ち近くにいた二人に向かって突進して来たのだった。カイネは、剣をしまい彼らを両脇に抱えてその場を離れた。

「えっと、ありがとうございます」

「カイネが居てくれると、心強いよ!」

「……世辞は嫌いだ」

彼女は、二人を広場から少し離れた足場に降ろし蜥蜴のマモノはカイネ達を殺そうと無差別に建物や足場を壊していく。

「共倒れはごめんだぞ!」

「全力で頑張るよ!」

カイネ達はこれ以上村を破壊されるのを防ぐ為、蜥蜴のマモノの元へ急いで戻る。マモノは、彼らを見ると周りの物を壊すのを止め、じっと睨み付けていた。

トドメを差そうとして頭を切り落とそうとカイネが不用意に近付いた時、蜥蜴のマモノは、彼女に向かって霧状の息を吐き出した。

霧を浴びたカイネは、猛烈な倦怠感に襲われその場に立ち尽くしてしまう。そんな時彼女に向かって語り掛けてくる声が聞こえてきた。

『カイネ……あたしだよ……おばあちゃんだよ……おおきくなったねぇ』

有り得ない事だとカイネは、無意識に首を振ったが間違いなく祖母の声だ。声は依然として彼女に向かって優しい口調で話し続ける。

『ひさしぶだねぇ。カイネに会えておばあちゃんは嬉しいよ』

「おばあ……ちゃん……」

カイネは、祖母の声に導かれて無防備に蜥蜴のマモノの頭へふらふらと歩いていく。
「カイネ、どうしたんだ!」

「危ないです、離れて下さい!」

少年達は、カイネの様子がおかしいことに気付いたのか必死に呼び掛ける。しかし今の彼女には、まったく声は届かなかった。
『どうだい、カイネ? おばあちゃんのところに来ないかい? 』

(……おばあちゃんの所?)

祖母の声は、優しい口調のままだったが、死への誘惑をしてくるのだった。

『誰にも頼れず、何処にも属せず、ずっとずっと独りで、つらい仕打ちと怒号の中、生きていたって仕方ないだろう?』 

蜥蜴のマモノは、カイネを丸呑みしようして口を大きく開き、欺き続ける。しかしその誘惑こそ彼女の意識を覚醒するものとなった。

『ね……カイネ……』

「……それだけか」

『……?』

「話はそれだけか?」

カイネの、怒りは当に限界を越えていた。祖母を殺しただけでは飽きたらず、その存在すらも汚されたからだ。

しかし蜥蜴のマモノは、まだ欺き通せると思っているのか、彼女に話し掛けてくる。
『何にいっているんだい。 カイネ? おばあちゃんは……』

「話が終わったんなら……その臭い口で、もう二度と*%#%£§出来ないように」
カイネは力を振り絞り魔力を使って周囲の霧を吹き飛ばしながら叫ぶ。

「#%%△◇○粉々に刻んでやるって言ってるんだ。この☆*&&野郎!」

霧が晴れると蜥蜴のマモノは、祖母の声と下品な獣の声が合わさった笑い声を出し彼女の傍から離れた。

「おばあちゃんは……絶対に言わない」

そうマモノが放ったあの一言が、彼女を淡い夢から現実へと引き戻したのだった。

「『生きていたって仕方ない』なんて、死んだっては言わない」

蜥蜴のマモノの腕をカイネは、容赦なく切り刻む。少年達は、尋常でない程の怒りに息を飲むも彼女を助けようと魔法で援護した。

「だから、私はどれだけ死にたくても、おばあちゃんの仇を討つまでずっと……この醜い体を晒して生きてきた!」

叫び続けながら仇に向けて剣を乱舞するカイネ。

「その時間がどれほど長く耐え難いものだったか……おまえに判るかっ!あぁ!?」
彼女の気迫が凄まじいのかマモノの右腕は完全に切断され、切り落とされて奈落に落ちていく。同時に、マモノはバランスを崩し彼らに頭を差し出すように倒れた。

「いまだ!」

「……これでおしまい!

本の掛け声と共に少女は魔法の拳を複数、具現化しそれらを束ねまるで自分の腕の様に操る。

蜥蜴のマモノは悪あがきをする暇もなく、巨大な拳に何度も殴られ最期には、首を引きちぎられ残った胴体は大量の血が吹き出し絶命した。

終わったとカイネ達が思った瞬間、広場が戦いの影響で崩れ始めた。少年と少女の二人は、橋を渡ったものの其処に彼女は居なかった。

足場は完全に崩れマモノの亡骸が落下していく。それと一緒にカイネの身体も落ちていった。

(おばあちゃん……もういいよね?疲れちゃった……)

彼女の意識は、深い闇の中にいた。やっと祖母の無念を晴らせた。その気持ちに浸りながらこのまま永遠に眠ってしまおうと思ったからだ。

そんな時、一筋の明るい光が闇の中を照らしてきた。其処から少年の純粋でしかし強さに溢れる声がしてきた。

――――カイネ!こっちだよ!

―――諦めちゃダメだよ!生きるんだよ!
――――絶対に諦めちゃダメだ!

次にあの少女と本の声が響いてくる。

――――カイネさん! 戻ってきて!

―――まったく……手間の掛かる女だ。

カイネは、光に向かって腕を伸ばした。そしてその向かうから彼女の手を握り返すものがいた。

――――捕まえた!

目覚めると其処は、崖の村の広場で少年達がカイネの手を握り締め呼び掛けていた。
「死んじゃダメだ。カイネ」

「生きる……何のために?」

「それは……」
カイネが、そう聞き返すと少年は顔を曇らせ隣にいる少女も黙ってしまった。

「私の復讐は……もう……終わったんだ」

握られた手を払い彼らから顔を背けていると彼女の前に偉そうな本が躍り出た。

「まったく!御託の多い女ほど扱いづらいものはない!」

「シロ!」

少年達がシロと呼んだ本は、此方にお構いなしに言葉をまくし立てる。

「我らに復讐を手伝わせておいて、終わったらサヨナラか? あれほど俊敏に戦うくせに、頭の方はてんで回らぬようだな」

お節介な本は、カイネを貶しているのか、誉めているのか判らない言い方をしていたが彼もまた彼女を心配していた一人だ。
「仲間の為に死ぬ事こそ、剣士の本望であろう」

「……仲間?」

カイネが鼻で笑おうとした瞬間、二人はその言葉に反応して彼女に向けて熱心に話し掛けてくる。

「仲間……そうだよ! 僕たち、もう仲間だよ!」

「ニーア君の言う通りですよ! もう私たち仲間じゃないですか!」

気弱そうな少女まで大声を出しているのを見てカイネが少したじろいでいると本はしどろもどろになって反論する。

「べ、別に、我はそういう意味で言ったわけでは……」

「じゃあ、どういう意味でいったの?」

「それは……」

偉そうな本が少年に押されていると、隣にいる彼女が笑顔で頼み込んできた。

「カイネさん、とっても強くて格好良かったです!良ければ私たちと一緒に戦ってくれませんか?」

「バカモノ! 単刀直入すぎるぞ!ここは、もっと段取りというか、手順というか、なんというか、言葉を尽くして交渉に当たるのが由緒正しき……」

少年達と本のじゃれ合いが繰り広げている中、カイネの顔には自然と笑みがこぼれていた。この二人と一冊を見ている先程まで死の誘惑に捕らわれている自分が馬鹿らしくなったからだ。

「……そこの本」

「我をモノのように呼ぶでない! 我が名は白の書、深淵なる英知の……」

モノ扱いされて怒る白の書に彼女は、親しみやすい名で彼を呼んだ。

「では、シロ」

「だから、なぜ皆、略すのだ!」

あちこち飛び回る白の書を見てとても凄い本には、彼女には見えなかったが素直に感謝を述べようと立ち上がった。

「……貴様の言うとおりかもしれないな。復讐以外の、自分……」

「一緒に……着てくれるよね?」

少年達が真剣な眼差しで彼女を見つめている。この二人と旅をしていてればいつか、自分にも本当の居場所ができるかもしれない。そんな小さなな希望が今の彼女には芽生えていた。

カイネは、手元に落ちていた自分の相棒とも言える双剣を拾い鈍く光る刀身を見ながら彼らに言った。

「……この剣の使い道が判るまでは、そうする事にしよう」

いつしか村を覆った霧は晴れ、曇り空がなくなり太陽の光が差し込んで綺麗な空だった。奇しくもそれは、カイネと祖母が初めて打ち解けた日と同じ空の色だった。



―――――――――――――――――――
『半陰の双剣』

    MAGICA WEAPON STORY

彼女は壊れた音が聞こえる。心の壊れる音身体が壊れる音、様々な負の音。
彼女は孤独、周りの人間は皆口を揃え、彼女を失敗作と呼ぶ。誰もが彼女を怪物と呼ぶ。それは彼女が半分この人間だから。


そんな彼女にも友や愛しい人が見つかる。一人は、彼女の全てを愛すと誓った青年。もう一人は、彼女と同じ呪わしい力を持ってしまった男の子。彼女は守る。友や仲間を、例え自らが壊れても。

彼女は、友や愛しい人を守り続ける。しかし彼女はとうとう壊れてしまう。彼女は恐れた。愛しい人を守れなくなることを。しかし愛しい人は、ただ壊れた彼女を抱きしめ泣いた。彼女は、小さい幸福を得て止まる。

彼女は、壊音。彼女は 壊音。 彼女は、壊音。

業苦の中で真実の愛を見つけ出した女性。


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