つっこみどころ満載の中国の『平和発展白書』
2011年09月07日13時30分
中国が6日、『平和発展白書(中国的和平发展白皮书)』を発表しました。
白書の言うところでは、「今後も覇を唱えたり、特定の地域を勢力圏にしようと追及したりしない(中国不谋求地区霸权和势力范围,不排挤任何国家)」と強調しています。また、「世界で唯一、核兵器を先制使用しないと公式に宣言する国家(中国是唯一公开承诺不首先使用核武器、不对无核武器国家和无核武器区使用或威胁使用核武器的核国家)」であることを誇り、「どの国とも軍拡競争をする意思がない、どの国に対しても軍事的に威嚇しない(中国不会也无意同任何国家搞军备竞赛,不会对任何国家构成军事威胁)」んだと明言しています。
ん〜、確か、中国は2005年にも同様の白書を発表しているのですが、その後は必ずしも「平和的」とは言えない振る舞いが多かったように記憶しています。
まあ、「平和的台頭」という看板は、それなりに効果のある謳い文句でした。中国が平和を希求しているなどと鵜呑みにする人は少なかったものの、それでも一定程度の割合でこれを「信じたい」人がいて、それが日米欧の政策決定者や指導者層の中にもいた(いる)のは事実です。軍事力の増強や周辺国との軋轢をごまかすのにうってつけのキャッチフレーズでしたから、中国にとってはあっさりと捨ててしまうには惜しい看板なのでしょう。
多くの人にとってはジョークのような白書の内容ですが、それでも大真面目にやってみせるところが中国のしたたかなところなのかもしれません。
『The Diplomat』でいくつかつっこみがはいっていたので、白書原文を抜き出しつつ紹介いたします。
China’s ‘Peaceful’ White Paper (The Diplomat)他にも注目点をいくつか。
By Trefor Moss
- 「中国は侵略や領土拡大に従事せず、覇権を唱えず、地域と世界の安定のためのくさびとなる(中国积极为世界和平与发展作出自己应有的贡献,绝不搞侵略扩张,永远不争霸、不称霸,始终是维护世界和地区和平稳定的坚定力量)」
フィリピンやベトナムは、南シナ海における中国の振る舞いを明らかに「侵略」であるとみなし、インドは国境紛争での中国の姿勢を「侵略」だととらえている。これらの国が必ずしも正しいというわけではないが、中国は南シナ海で平和と安定に寄与するための努力をしていると言えるだろうか?中国の船舶によって引き起こされた緊張については慮外のことなのだろうか?
- 「中国は毎年7,500億ドルの輸入をし、輸出国や地域に1,400万人の雇用を創出してきた(为世界经济稳定发展作出重要贡献。2001年加入世界贸易组织以来,中国年均进口近7500亿美元商品,相当于为相关国家和地区创造了1400多万个就业岗位)」
「米国内の雇用を中国が “盗んだ” 」というような論調に対して、これはなかなかいい切り返しだ。おそらく来年の大統領選挙においても、中国の経済発展による米国内の「雇用なき経済回復」は争点となるだろう。アメリカがかつて擁護した自由主義的市場原則を、中国は享受しているのだ。
- 「中国は、実質的に防御的な防衛政策を堅持する(坚持奉行防御性的国防政策)」
戦力投射能力を持つ空母のように、防衛的ではない兵器を導入していることからも、この文言はもはや適切ではない。白書は、「中国は他国に軍事的脅威を与えない」と主張するが、空母やその他の兵器がそれほど穏やかなものだと受け止める人はハノイにもマニラにもシンガポールにも、そして東京にもいないだろう。中国は、「強者が弱者を欺き、いじめ、パワー・ポリティクスを強制する(反对以大欺小、以强凌弱,反对霸权主义和强权政治)」ことに反対すると言うが、これぞまさに南シナ海の小国が中国の振る舞いに対して示している姿勢である。
- 「中国は他国の内政に干渉しない(尊重各国人民自主选择社会制度和发展道路的权利,不干涉别国内部事务)」
不干渉主義は中国外交政策の基盤であるが、舞台裏で介入していることは公然の秘密と言える。先週、中国がリビアのカダフィ政権派に武器売却をしていたのではないかという事案が浮上したことは、2008年に中国がジンバブエのムガベ大統領に武器輸出をしていたことを想起させた。アフリカ、アジア、ラテンアメリカで中国が十分な影響力を行使していることはもはや一般に広く知られている。
- 「中国人民は完全な民主的権利を有し、我々は今後も民主選挙を継続する(继续依法实行民主选举、民主决策、民主管理、民主监督,保障人民的知情权、参与权、表达权、监督权,扩大公民有序政治参与)」
地方レベルでの選挙が試されているというのは事実だが、中国の民主活動家を刑務所に押しやっておいて国家の民主化達成とはお世辞にも言えない。新疆やチベットにおける問題も同様だ。
他国への内政干渉をしないと宣言していることについては上記のとおりですが、同時に、白書では「中国への他国による干渉もまた拒否する」としています(中国人民坚持自己选择的社会制度和发展道路,不允许外部势力干涉中国内政)。
他国への不干渉は言葉だけですが、中国が自国への干渉に対しては激しく反発するのはご存じのとおりです。
他にも、「南シナ海での領有権紛争を棚上げし、係争国に共同開発を求め、海域の維持と安定に尽力する」(坚持通过对话谈判处理同邻国领土和海洋权益争端,以建设性姿态提出“搁置争议、共同开发”的主张,尽最大努力维护南海、东海及周边和平稳定)と白書は明言します。
これは、以前当ブログでも取り上げた中国得意の「棚上げ論」式領有権獲得手段ですね。中国による領有が前提の議論で、領有権の保有と共同開発とがセットになった棚上げ論(参照)のことです。
加えて、核心的利益の中に領土完整と国家統一が含まれています(中国坚决维护国家核心利益。中国的核心利益包括:国家主权,国家安全,领土完整,国家统一,中国宪法确立的国家政治制度和社会大局稳定,经济社会可持续发展的基本保障)。
つまり、領有権の維持と台湾統一が、中国の核心的利益であると明言していることがわかりますね。
◇ ◇ ◇
中国は美しい文化や歴史を持つ大陸だと思いますし、現在の中国政府がこうした白書をぬけぬけと書いてしまうあたりも嫌いではありません(笑)。一方で、油断できない国であり、概して我が国の外交・安全保障にとって「平和的」でないことは改めて言うまでもありません。
注目のテーマ
BLOGOS アクセスランキング
- 日本人が大人になるチャンス・・・タバコの危険性 - 06日17時10分
- 読売新聞が社説で堂々と「核武装のための原発推進」論を展開 - 07日08時10分
- ぴーかんテレビの問題を再度検証する - 06日19時07分
- さようなら大江健三郎 - 07日01時42分
- NPO法人が暴力団と関係して改善命令が出たでござるの巻 - 06日20時34分
- 米国に日本の内部情報をすべて伝えていた売国奴前原誠司 - 06日10時33分(242)
- 自民党の子育て長期計画が怖い - 06日23時20分(108)
- 怒れ、怒れ、もっと怒れ - 07日06時01分
- 米ヤフー社のキャロル・バーツCEOが、電話一本でクビに - 07日10時54分
- 中二病の文化誌(最終回) 中二病と「成長」 - 06日21時00分