野田総理が散髪代1000円のQBハウスに行ったことはデフレに貢献している、もっと高い普通の散髪屋を利用しろという考え方をしている人がいます。誤解しやすいのですが、QBハウスの料金が安いこととデフレとは直接関係がありません。
たとえばこちらのブログです。どじょう内閣の総理は1000円床屋でデフレに貢献、厚労相はタバコを700円にインフレさせる!? - 経済的自由を実践する男のブログ - BLOGOS(ブロゴス) :
この問題は同志社大学の浜教授の『ユニクロデフレ』という摩訶不思議な本が出たときに、その間違いを池田信夫さんが比較的わかりやすく書いていらっしゃいました。別に野田総理はデフレに加担したわけでも、貢献したわけでもありません。
しかし、おなじ問題でも池田信夫さんのこちらのほうはひっかっかります。
おそらく違います。賃金の安さで低価格が実現できているのではなく、しくみを変えたことで、生産性が高まったから低料金が実現でき、また低価格なので競争力が増し、客数が増え、高収益が実現できるのです。
しかも、ユニクロやしまむらなどでは非正規社員を使うことで人件費をある程度は下げることはできても、QBハウスの場合は理容師にしても美容師にしても資格をもった人たちしか使えないので、賃金はそれなりの相場で決まってしまいます。
QBハウスのホームページを見ると、むしろ堂々と業界最高水準の給料体系だと掲げているくらいです。また洗髪しないので、シャンプーやリンスによる美容師や理容師の人たちの職業病ともいえる手荒れがないこともインセンティブになっているようです。
設備投資を行って清掃作業の合理化をはかり、洗髪せず刈った髪は吸い取る、洗髪はご自宅でと客に選択肢を与え、使ったクシも客が持ち帰ることができます。散髪する時間を短縮し、一人でこなせる客数が増えたから売上も、利益もあがるのです。もし、衛生面で問題があれば、QBハウスのブランドは一瞬で崩壊します。それは自己責任の世界です。
安い賃金だけでは低価格は実現しません。価格破壊といわれる価値革命は、日本よりも欧米で先行して起こってきたことで、もちろん製造は賃金の安い途上国を使うとしても、それぞれの国の賃金が下がったから実現したわけでもありません。
もうひとつの盲点があります。もっと生活者やビジネスの視点で考えてみましょう。日本の物価は下がり続けてきました。しかし下がり続けてきたことと、実際に安いかどうかは別問題です。
例えば映画館の料金は日本の料金の平均は1200円程度ですが、アメリカでは500円程度です。フランスも800円程度と料金差があります。映画はそうそう簡単に新規参入できませんが、先進国間で価格差がある分野では当然、価格破壊を行うチャンスがあります。映画でなくとも、たとえば、ワインの価格も日本は非常に高いのです。国際的には500円未満のワインが市場の7割とか8割を占めています。
高級ワインのビジネスは別として、低価格でいかに美味しいワインを提供できるかが世界のワインの競争の焦点になっています。しかし日本ではそういった価格のワインもあるとしても選択肢は少ないのです。そこで価格破壊をすればチャンスになります。実際それを実現した北海道でコンビニ首位のセイコーマートは500円ワインで成功しています。
北海道コンビニ首位守るセイコーマートの独自性(1) | 企業戦略 | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン :
そのような分野は決してすくなくありません。液晶テレビでもウォルマートやベストバイなどの通販サイトを一度覗いてみてください。日本も価格下落が激しいと言っても、まだあちらのほうが安いのです。まだまだ日本には、低価格による「価値革命」を起こすチャンスはさまざまな分野でのこっています。問題はそれを実現するビジネスのしくみを生み出せるかどうかです。
低価格だから品質が悪い、低価格だから低収益だ、賃金を下げないと低価格は実現できないなど、すべて現実とは違っています。また、池田信夫さんが、「日本の1/10の賃金で働く中国の労働者が生産すれば、衣類のような労働集約的な製品の価格が1/10になるのは当たり前」と書いていらっしゃいますが、それも違います。価格は縫製にかかる賃金だけで決まるものではありません。
日本にとって重要なのは所得を上げることです。所得が上がれば消費も伸びます。しかし所得を上げるためには、途上国と同じ土俵で競争していては話になりません。より効率のよい、高付加価値なビジネスを伸ばすしかないのです。
欧米がこれからはどうなるかわかりませんが、これまでは少なくとも欧米も日本と同じようにモノの価格はどんどん低下してきました。しかし日本と違ってデフレに陥らなかったのは、野口悠紀雄教授が指摘されるように、新興国の工業化の影響を受けにくいサービスが支えてきたこと、高い賃金を提供できる高付加価値サービス業の経済全体に占めるウエイトが高いからでしょう。(第36回)相対価格の変化がアメリカを豊かにした(1) | 日本の選択 | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン :
QBハウスに野田総理が訪れたことでもうひとつ、面白いことがわかってきます。洗髪しないから、不潔だ、それで安いのはけしからん、だから規制せよという人がいることです。嫌ならご本人がいかなければいいので、別に野田総理が利用することに文句をつける必要もありません。野田総理は身だしなみを整えることと、時間の節約を買っただけのことです。
つまり片方では規制緩和こそが必要だと声高に言っている人でも、各論になると規制すべきだという人もいるということです。また実際に洗髪台を設けないといけないという馬鹿馬鹿しい条例を出している自治体まであるようです。でおそらくそれが日本の縮図でしょう。結局は、既得権を守る、弱い業界を守る、そうして効率的な産業、稼げる産業が生まれる機会を刈り取るメカニズムを断ち切れないのです。規制すべきは政治家やお役人と業界の癒着のほうです。
【残念な地方自治】10分1000円ヘアカット店に未使用の洗髪台があるのは規制のせいだった!(1/2) - ガジェット通信 :
弱いものを守るという正義心も、それが規制の強化になると、経済を停滞させ、かえって失業者を増加させたり、所得を上げる経済のダイナミズムを阻害し、さらに所得を下げる結果を招く悪循環を生むこともあるのです。
たとえばこちらのブログです。どじょう内閣の総理は1000円床屋でデフレに貢献、厚労相はタバコを700円にインフレさせる!? - 経済的自由を実践する男のブログ - BLOGOS(ブロゴス) :
この問題は同志社大学の浜教授の『ユニクロデフレ』という摩訶不思議な本が出たときに、その間違いを池田信夫さんが比較的わかりやすく書いていらっしゃいました。別に野田総理はデフレに加担したわけでも、貢献したわけでもありません。
そもそもタイトルの「ユニクロ型デフレ」というのが名辞矛盾であることに彼女たちは(編集者も)気づいていない。デフレーションというのは一般物価水準の下落であり、ユニクロの価格が下がるのは特定の財の相対価格の変化である。前者は通貨供給量によって起こる貨幣的な現象だが、後者は実体経済の変化で、両者はまったく原因が違う。デフレと相対価格 - 池田信夫 : アゴラ - ライブドアブログ :
しかし、おなじ問題でも池田信夫さんのこちらのほうはひっかっかります。
新興国との競争で貿易財の価格が下がると、国内の労働需要が減って賃金が下がり、非貿易財の価格も下がるのです。実際に日本の実質賃金も下がっており、これによって散髪の料金を4000円も取らなくても、1000円で採算が合うようになり、客が増えて利益も上がるわけです。野田首相がQBハウスに行ったわけ : アゴラ - ライブドアブログ :
おそらく違います。賃金の安さで低価格が実現できているのではなく、しくみを変えたことで、生産性が高まったから低料金が実現でき、また低価格なので競争力が増し、客数が増え、高収益が実現できるのです。
しかも、ユニクロやしまむらなどでは非正規社員を使うことで人件費をある程度は下げることはできても、QBハウスの場合は理容師にしても美容師にしても資格をもった人たちしか使えないので、賃金はそれなりの相場で決まってしまいます。
QBハウスのホームページを見ると、むしろ堂々と業界最高水準の給料体系だと掲げているくらいです。また洗髪しないので、シャンプーやリンスによる美容師や理容師の人たちの職業病ともいえる手荒れがないこともインセンティブになっているようです。
設備投資を行って清掃作業の合理化をはかり、洗髪せず刈った髪は吸い取る、洗髪はご自宅でと客に選択肢を与え、使ったクシも客が持ち帰ることができます。散髪する時間を短縮し、一人でこなせる客数が増えたから売上も、利益もあがるのです。もし、衛生面で問題があれば、QBハウスのブランドは一瞬で崩壊します。それは自己責任の世界です。
安い賃金だけでは低価格は実現しません。価格破壊といわれる価値革命は、日本よりも欧米で先行して起こってきたことで、もちろん製造は賃金の安い途上国を使うとしても、それぞれの国の賃金が下がったから実現したわけでもありません。
もうひとつの盲点があります。もっと生活者やビジネスの視点で考えてみましょう。日本の物価は下がり続けてきました。しかし下がり続けてきたことと、実際に安いかどうかは別問題です。
例えば映画館の料金は日本の料金の平均は1200円程度ですが、アメリカでは500円程度です。フランスも800円程度と料金差があります。映画はそうそう簡単に新規参入できませんが、先進国間で価格差がある分野では当然、価格破壊を行うチャンスがあります。映画でなくとも、たとえば、ワインの価格も日本は非常に高いのです。国際的には500円未満のワインが市場の7割とか8割を占めています。
高級ワインのビジネスは別として、低価格でいかに美味しいワインを提供できるかが世界のワインの競争の焦点になっています。しかし日本ではそういった価格のワインもあるとしても選択肢は少ないのです。そこで価格破壊をすればチャンスになります。実際それを実現した北海道でコンビニ首位のセイコーマートは500円ワインで成功しています。
北海道コンビニ首位守るセイコーマートの独自性(1) | 企業戦略 | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン :
そのような分野は決してすくなくありません。液晶テレビでもウォルマートやベストバイなどの通販サイトを一度覗いてみてください。日本も価格下落が激しいと言っても、まだあちらのほうが安いのです。まだまだ日本には、低価格による「価値革命」を起こすチャンスはさまざまな分野でのこっています。問題はそれを実現するビジネスのしくみを生み出せるかどうかです。
低価格だから品質が悪い、低価格だから低収益だ、賃金を下げないと低価格は実現できないなど、すべて現実とは違っています。また、池田信夫さんが、「日本の1/10の賃金で働く中国の労働者が生産すれば、衣類のような労働集約的な製品の価格が1/10になるのは当たり前」と書いていらっしゃいますが、それも違います。価格は縫製にかかる賃金だけで決まるものではありません。
日本にとって重要なのは所得を上げることです。所得が上がれば消費も伸びます。しかし所得を上げるためには、途上国と同じ土俵で競争していては話になりません。より効率のよい、高付加価値なビジネスを伸ばすしかないのです。
欧米がこれからはどうなるかわかりませんが、これまでは少なくとも欧米も日本と同じようにモノの価格はどんどん低下してきました。しかし日本と違ってデフレに陥らなかったのは、野口悠紀雄教授が指摘されるように、新興国の工業化の影響を受けにくいサービスが支えてきたこと、高い賃金を提供できる高付加価値サービス業の経済全体に占めるウエイトが高いからでしょう。(第36回)相対価格の変化がアメリカを豊かにした(1) | 日本の選択 | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン :
QBハウスに野田総理が訪れたことでもうひとつ、面白いことがわかってきます。洗髪しないから、不潔だ、それで安いのはけしからん、だから規制せよという人がいることです。嫌ならご本人がいかなければいいので、別に野田総理が利用することに文句をつける必要もありません。野田総理は身だしなみを整えることと、時間の節約を買っただけのことです。
つまり片方では規制緩和こそが必要だと声高に言っている人でも、各論になると規制すべきだという人もいるということです。また実際に洗髪台を設けないといけないという馬鹿馬鹿しい条例を出している自治体まであるようです。でおそらくそれが日本の縮図でしょう。結局は、既得権を守る、弱い業界を守る、そうして効率的な産業、稼げる産業が生まれる機会を刈り取るメカニズムを断ち切れないのです。規制すべきは政治家やお役人と業界の癒着のほうです。
【残念な地方自治】10分1000円ヘアカット店に未使用の洗髪台があるのは規制のせいだった!(1/2) - ガジェット通信 :
弱いものを守るという正義心も、それが規制の強化になると、経済を停滞させ、かえって失業者を増加させたり、所得を上げる経済のダイナミズムを阻害し、さらに所得を下げる結果を招く悪循環を生むこともあるのです。
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