[外交・領土問題]多面的な交渉カードを

2011年9月7日 09時26分このエントリーを含むはてなブックマークLivedoorクリップに投稿deliciousに投稿Yahoo!ブックマークに登録
(1時間2分前に更新)

 守りが堅い、と評される野田内閣だが、これは内政面に限ってのことだろう。外交面の不安は拭えない。

 「A級戦犯と呼ばれた人たちは戦争犯罪人ではない」とする2005年の質問主意書の見解が中韓などの反発をかい、野田佳彦首相は就任早々、「タカ派イメージ」の払拭(ふっしょく)に追われた。一方で首相は近く発売される月刊誌「Voice」で、「東アジア共同体構想」に否定的見解を示し、「領土を守り抜くための備えをしっかりしておく必要がある」と強調している。

 野田首相も玄葉光一郎外相も外交手腕は未知数だ。官僚のシナリオに乗っかるだけで無難に対処できるほど国際環境は甘くない。とりわけ厳しいのは領土問題だろう。

 想起されるのは、ちょうど1年前に起きた尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件だ。この際、日中関係がおかしくなることはない、という外務省の当初の読みは大きくはずれた。情勢認識の甘さは致命的で外交力の低さを露呈した。

 中国人船長の逮捕後、中国は日本人会社員4人を拘束、レアアース(希土類)の対日輸出を事実上停止、日中首脳会談を拒否するなど矢継ぎ早にカードを繰り出した。

 これに対し、当時の前原誠司外相は、クリントン米国務長官との会談で「尖閣諸島は日米安保条約の適用対象だ」との見解を引き出すのがやっと。日米の軍事的結束を示す戦略以外にカードをもたない日本は腰砕けになった。

 那覇地検は処分保留のまま中国人船長を釈放したが、政治介入との批判も高まった。

 この失態から日本は何を教訓とするのか。非常時こそ平時外交の蓄積がものをいう。いざというとき、安保カードにしがみつく発想は、稚拙というだけでなく危うい。

 クリントン長官は昨年の前原氏との会談で、尖閣問題の対話による早期解決も同時に要求した。しかし、中国側が招請した菅直人前首相の訪中も実現に至らなかった。菅前政権は、領海侵犯の阻止にどう対処するのか、対話によって対中関係の立て直しを図るのか、具体的な方針と軸足が定まらないまま退陣した。

 中国も領有権を主張する以上、日本が「領土問題はない」と宣言するだけではおぼつかない。トラブル回避のため「海上危機管理メカニズム」の構築に向けた日中協議が急務だ。が、自衛隊の先島強化といった、内向きの政策プランが先行しているのが実情だ。このこと自体、「外交不在」を象徴している。

 日韓では竹島をめぐる摩擦が再燃し、ロシアとの北方領土交渉も進展の糸口は見えない。北朝鮮の拉致、核問題への取り組みも喫緊の課題だ。

 日本の「交渉下手」は政治力の欠如と表裏一体だ。現状維持しか頭にない官僚の振り付けで、空念仏のように「日米同盟重視」を唱えるだけでは、手詰まりの領土問題や拉致問題を打開できないのは必定だ。外交の停滞を打ち破る政治指導力が問われている。民主政権としての外交実績は今のところゼロに等しい。ここでも崖っぷちであることを自覚してもらいたい。

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