原発行政見通し不透明 高速増殖炉「もんじゅ」どうなる
産経新聞 9月7日(水)3時22分配信
発電しながら消費する以上の燃料を生み出すため、「夢の原子炉」とうたわれた日本原子力研究開発機構(原子力機構)の高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)。ナトリウム漏れ事故から14年ぶりに昨年5月に運転を再開したが、重大なトラブルが発生し復旧作業が進められている。福島第一原子力発電所の事故を受け、原発行政の先行きが不透明な中で廃止論も浮上し、もんじゅへの風当たりは強い。存廃の正念場を迎えたもんじゅの現場を取材した。(浅山亮)
■過酷な現場
若狭湾に突き出た敦賀半島突端の緑地に、ひときわ目立つ近代的な建物が姿を現した。文殊菩薩(もんじゅぼさつ)がその名の由来のもんじゅだ。他の原発と同様、正門は厳重な警備がしかれている。元副所長の鈴木威男特別広報監(66)は「高速増殖炉は資源小国の日本にとって夢の原子炉だ」と説明した。
迷路のように通路が入り組んだ原子炉建物内を歩き、蒸気発生器の部屋へ案内されたが、かなり熱い。鈴木広報監は「ここは今、ナトリウムが流れていないのでまだ涼しい。過酷な環境だが、現場の作業員は誇りを持って作業している」と語った。
もんじゅが一般の原発と決定的に違うのは、原子炉で発生した熱を取り出したり、燃料を冷却したりするために水を使うのではなく、熱伝導率がよい液体の金属ナトリウムを使う点。原子炉の熱を1次系ナトリウムが運び、中間熱交換器を通じて2次系ナトリウムへ熱を伝え、蒸気発生器を流れる水を沸騰させ、その蒸気がタービンを回し発電する。
もんじゅに欠かせないナトリウムだが、水や酸素と激しく反応するため、管理が難しいのは、漏洩(ろうえい)事故でも明らかだ。
■使用済み燃料再利用
「もんじゅは核燃料サイクルで、高レベル放射性廃棄物を減らす役割を持ち、意義深い」と話すのは福井大付属国際原子力工学研究所の竹田敏一所長(65)=原子炉工学=だ。
国内の一般の原発(軽水炉)で使用する燃料のウランは海外からの輸入に頼っている。使用済み燃料の中には、燃えずに残るウランと発電中に生まれたプルトニウムがあり、これを再処理して作った燃料が混合酸化物(MOX)燃料と呼ばれる。高速増殖炉はMOX燃料を使い、燃えないウランを燃えるプルトニウムに変化させることで消費した以上の燃料を生む。天然ウランのうち燃えやすいウラン235は0・7%程度で、埋蔵量は残り90年とされる中、高速増殖炉を使うと資源を2500年以上使える計算という。
竹田所長は「日本は高速増殖炉の研究では世界トップクラスだが、研究成果を世界に向けてPRしなければ取り残されてしまう」と研究継続を訴える。
■資源ない国の選択は
もんじゅが立地する敦賀市の白木地区で計画が具体化したのは昭和45年2月。高速増殖炉研究のため茨城県に建設された実験炉「常陽」の後継として開発が決定し、原子力機構の前身の動力炉・核燃料開発事業団の幹部2人が同地区に説得にきた。
地元の区長を務めていた橋本昭三元敦賀市議(83)は当時を振り返り、「2人は『ここに高速増殖炉を整備させてほしい』と言った。地区の全戸立ち退きが条件だった」と語る。住民は「墓を動かすのはダメだ」と突っぱねたが、条件を地域振興に変更し建設を了承した。
昭和60年に着工し、運転開始にあたる初臨界は平成6年4月だったが、翌年12月にナトリウム漏れ事故を起こして停止。昨年5月に運転再開したが、2カ月後に停止した直後、原子炉容器内に燃料交換用の炉内中継装置が落下するトラブルに見舞われた。運転期間は初臨界以降、通算わずか2年ほど。今年6月に中継装置の引き抜きに成功し、現在は40%出力試験の実施に向けた復旧作業が進められているが、運転再開にはストレステスト(耐性検査)や地元同意など課題は山積している。
また、中川正春文部科学相が今月2日、専門家による検証組織を設置し、もんじゅの存続を「政治判断になる」と述べるなど、存廃自体も正念場。開発に約9千億円、停止中も年間約200億円が投じられてきたもんじゅの命運は民主党政権に委ねられている。
「今は緊急安全対策の実施に徹する」という、もんじゅの近藤悟所長(60)は「今の状況だけ見て、数百年後の日本の将来を判断していいのか。資源のない国が生き残る方法を冷静に考えるべきだ」と提言した。
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■過酷な現場
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迷路のように通路が入り組んだ原子炉建物内を歩き、蒸気発生器の部屋へ案内されたが、かなり熱い。鈴木広報監は「ここは今、ナトリウムが流れていないのでまだ涼しい。過酷な環境だが、現場の作業員は誇りを持って作業している」と語った。
もんじゅが一般の原発と決定的に違うのは、原子炉で発生した熱を取り出したり、燃料を冷却したりするために水を使うのではなく、熱伝導率がよい液体の金属ナトリウムを使う点。原子炉の熱を1次系ナトリウムが運び、中間熱交換器を通じて2次系ナトリウムへ熱を伝え、蒸気発生器を流れる水を沸騰させ、その蒸気がタービンを回し発電する。
もんじゅに欠かせないナトリウムだが、水や酸素と激しく反応するため、管理が難しいのは、漏洩(ろうえい)事故でも明らかだ。
■使用済み燃料再利用
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竹田所長は「日本は高速増殖炉の研究では世界トップクラスだが、研究成果を世界に向けてPRしなければ取り残されてしまう」と研究継続を訴える。
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もんじゅが立地する敦賀市の白木地区で計画が具体化したのは昭和45年2月。高速増殖炉研究のため茨城県に建設された実験炉「常陽」の後継として開発が決定し、原子力機構の前身の動力炉・核燃料開発事業団の幹部2人が同地区に説得にきた。
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昭和60年に着工し、運転開始にあたる初臨界は平成6年4月だったが、翌年12月にナトリウム漏れ事故を起こして停止。昨年5月に運転再開したが、2カ月後に停止した直後、原子炉容器内に燃料交換用の炉内中継装置が落下するトラブルに見舞われた。運転期間は初臨界以降、通算わずか2年ほど。今年6月に中継装置の引き抜きに成功し、現在は40%出力試験の実施に向けた復旧作業が進められているが、運転再開にはストレステスト(耐性検査)や地元同意など課題は山積している。
また、中川正春文部科学相が今月2日、専門家による検証組織を設置し、もんじゅの存続を「政治判断になる」と述べるなど、存廃自体も正念場。開発に約9千億円、停止中も年間約200億円が投じられてきたもんじゅの命運は民主党政権に委ねられている。
「今は緊急安全対策の実施に徹する」という、もんじゅの近藤悟所長(60)は「今の状況だけ見て、数百年後の日本の将来を判断していいのか。資源のない国が生き残る方法を冷静に考えるべきだ」と提言した。
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最終更新:9月7日(水)3時22分
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