2011年9月5日
朝日新聞社は15〜17日、人間と自然が共生した未来のあり方を考える国際シンポジウム「朝日地球環境フォーラム2011」を東京都内で開催する。テーマは「再生する日本」。東日本大震災を経験した日本は、エネルギー政策からライフスタイルに至るまで大きな転換点に立っている。今、何をなすべきか。国内外の参加者を交え、多角的に議論を深める。
◆持続可能な発展目指すとき/朝日新聞論説委員・吉田文彦
米ハーバード大のティモシー・ワイズケル博士(環境倫理)に話を聞いたとき、こんなことを語っていた。
歴史上、さまざまな文化・文明社会が生まれ、盛衰を繰り返した。共通しているのは、下り坂になった文化・文明社会が、人口増加、収奪農業による土壌の悪化、生態系の破壊、食糧不足による争いの続発などで「衰退のらせん階段」を転げ落ちていったことだ。
たとえばメソポタミア、エジプト、ギリシャ、ローマ文明は、食糧供給を地方の農業地帯に頼ったため、地方の環境破壊が文明の衰退を促した。環境破壊の原因には、気候変動説もあるが、人間活動の影響が大きかったと見られている。
盛衰の背後に、人口増加と環境の許容能力の密接な関係がある。人口が増えると環境破壊は進むが、増加規模が許容範囲内だと、文化・文明の崩壊はまぬがれる。しかし、「どこが人口増加の限界点かを正確に知るのはむずかしい」とワイズケル博士は語った。
現在と近未来の世界にあてはめて考えてみよう。
人口はまだまだ増え続け、エネルギー消費も膨らむと予想される。今後豊かになる現在の開発途上国の人々が欧米のような暮らしを目指せば、食糧生産、住宅用木材などのために森林面積が減っていくことも考えられる。人口増加だけでなく、環境と人間がせめぎ合うさまざまな課題で、限界点を見定め、そこに達してしまう前に方策を取らないと繁栄や安定が足元から崩れかねない。
最近まで米国務省で政策企画局長をつとめた米プリンストン大のアンマリー・スローター教授が、国際誌「フォーリンポリシー」の最新号で、人間がこれから直面する問題はグローバルな性格を強め、したがって解決法もグローバルでなくてはいけないと強調している。
スローター教授は、こうした時代のリーダーになれるのは、再生可能エネルギーを活用し、資源の再生・再利用を得意とする国だとし、それは日本だと記している。地震と原発事故、なかなか抜け出せない経済危機に悩む日本にとって、励みになる見立てだ。
中国、インドなどの新興国の台頭。広がるアラブの「民衆革命」の波。出口の見えない先進諸国の通貨危機、財政危機。世界秩序が激変の兆しを見せるなかで、スローター教授が期待を寄せる日本は、どのように再起動するのか。
これからの日本は、「戦後の奇跡」と言われた国内総生産(GDP)成長路線の延長ではなく、新たな発展モデルが必要となる。日本が再生可能エネルギー利用、資源の再生・再利用に磨きをかけ、今後の復興・発展で新たな成功物語を生み出す。その経験をこれから世界史の主人公となりうる新興国、途上国とも共有していく。そんな双方向的なつながりを持つことが、地球環境と人間の共生、持続可能な発展に不可欠だろう。
シンポジウムでは、こうした視点から日本のあり方、豊かさのあり方、文明のあり方について考えてみる。
◇1日目 全体会議
●基調講演 緒方貞子氏(国際協力機構理事長)
東日本大震災では、アフガニスタンやパレスチナなど、自らも困難に直面している地域の人々から、様々な支援が寄せられた。震災後の日本が、国際社会と共に繁栄していくために担うべき役割、課題を考える。
●特別講演 エマヌエル・ゼ・メカ氏(国際熱帯木材機関事務局長)
熱帯諸国での森林の減少と劣化に起因する温室効果ガスの排出量は、エネルギー消費による排出を含む全世界の排出量の2割を占めるという。森林の持続可能な利用と保全に向け、日本に期待する役割とは。横浜に本部を置く国連条約機関のトップが語る。
●ドイツからの報告
東京電力福島第一原発の事故を受け、ドイツのメルケル政権は「脱原発」の姿勢を強めた。その背景などについて、ドイツ有数の工業地帯ルール地方のボトロップ市で、環境や地球温暖化対策の指揮をとってきたベルント・ティッシュラー市長が語る。
●パネル討論1 どう変える、原子力とエネルギー政策
日本は原発政策の大幅な変更を迫られている。しかし、どう変えるのか。ドイツのティッシュラー氏の報告を受け、「日本で原発は存続できるのか」「自然エネルギーの現実的可能性」などを討論する。朝日新聞が提言した「提言 原発ゼロ社会」も議論する。
【パネリスト】田中伸男(前国際エネルギー機関事務局長)、服部拓也(日本原子力産業協会理事長)、飯田哲也(環境エネルギー政策研究所所長)、フランク・フォンヒッペル(米プリンストン大教授)△コーディネーター 竹内敬二(編集委員)
●パネル討論2 環境と文明――新たな発展戦略
いま必要なのは「復旧」でなく、「復興」だと言われる。しかし本当に求められているのは、旧来の国内総生産(GDP)拡張路線から決別した発展モデルの確立、すなわち「新興」ではないだろうか。そうした視点から環境と文明のあり方を多角的に考える。
【パネリスト】福岡伸一(青山学院大総合文化政策学部教授、生物学者)、吉村美栄子(山形県知事)、イアン・ジョンソン(ローマクラブ事務局長)△コーディネーター 吉田文彦(論説委員)
◇2日目 パネル討論会(11分科会)
■どうする「25%」/日本の温暖化政策
大震災と原発事故で経済やエネルギーを取り巻く状況が一変したいま、「2020年に1990年比25%減」という日本の温室効果ガス削減目標をどうするべきか? 震災復興や脱原発などの論議を踏まえながら、気候変動と闘う日本の基本姿勢を考える。【パネリスト】小林光(慶大教授、前環境事務次官)、澤昭裕(21世紀政策研究所研究主幹)、福山哲郎(前内閣官房副長官)=予定△コーディネーター 村山知博(GLOBE副編集長)
■3・11後の農業と環境
東日本大震災は、農業にも大きな影響を与えた。津波に洗われた田畑も、放射能が降り注いだ田畑も、再生は簡単ではない。農業が再生しなければ、地域の環境にも多大な悪影響が及ぶ。被災地で奮闘する農業関係者が話し合う。【パネリスト】大泉一貫(宮城大教授)、長谷川久夫(みずほの村市場社長)、針生信夫(舞台ファーム代表取締役)△コーディネーター 一色清(WEBRONZA編集長)
■暮らし方を変える
大震災後の私たちに問われているのは、暮らし方の見直しだ。地球環境と地球の資源、そして日本の現状を見据えて、無理をしない、持続可能な暮らし方を探し当てなければならない。それはどんなものか。どうすれば実現できるのか。
【パネリスト】稲本正(オークヴィレッジ代表)、牧大介(西粟倉・森の学校代表取締役)、田中淳夫(森林ジャーナリスト)△コーディネーター 高橋真理子(編集委員)
■スマートシティーの可能性
地球環境に配慮した未来の住宅、都市とはどのようなものだろうか。今回の原発事故を機に、太陽光発電や蓄電池など「創エネ・蓄エネ・省エネ」の技術に関心が高まっている。それらの集合体である環境都市を造り上げるのには、何が必要なのか。【パネリスト】大西隆(東大大学院教授)、野呂輝久(パナソニック システム・設備事業推進本部長)、濱隆(大和ハウス工業取締役常務執行役員)△コーディネーター 多賀谷克彦(編集委員)
■自然エネルギーの神話と実力
不安定だし、まだまだコスト高――原発事故の後、太陽光や風力など自然エネルギーが注目を集めるが、そんな懸念も示された。逆に、このままでは世界の潮流に遅れるとの指摘もある。自然エネルギーの実力を知り、大量導入への具体策を探る。【パネリスト】枝廣淳子(環境ジャーナリスト)、永田哲朗(日本風力発電協会代表理事)、原亮弘(おひさま進歩エネルギー社長)△コーディネーター 小森敦司(報道局記者)
■低炭素社会へ、欧州の試み
温暖化を食い止めようとする意欲的な取り組みを紹介する。50年までに石油など化石燃料からの脱却をめざすデンマーク。地元率先で自然エネルギーや省エネを促してきたドイツ。危機に備え社会を維持できる「復元力」を強める地域づくりが特徴だ。【パネリスト】キャサリン・リチャードソン(デンマーク政府気候変動対策委員会議長)、ヨセフ・ペッシュ(ドイツの再生可能エネルギー起業家)、ラス・ノードリィ(ノルウェーのスタトオイル副社長)△コーディネーター 西崎香(フォーラム事務局主査)
■国際森林年特別セッション
今年は国際森林年。森林の資源を、持続可能な形で次世代に引き継ぐ道筋を考える。新たな森林の活用策、人と農山村との共生のあり方、国際社会で日本が果たすべき役割を議論する。国際熱帯木材機関のゼ・メカ事務局長が基調報告する。【パネリスト】井上真(東大大学院教授)、草野満代(フリーアナウンサー)、泊みゆき(バイオマス産業社会ネットワーク理事長)、末松広行(林野庁林政部長)△コーディネーター 末吉竹二郎(国連環境計画金融イニシアチブ特別顧問)
■エコカー利用とスマートグリッドの行方
電気自動車の普及など電動化が進むクルマ社会の将来は、電力の供給システムの姿を抜きには語れない。車と住宅、街が電気を通じてつながってゆくからだ。エコカーの普及と電力供給の新しい形であるスマートグリッドの行方について展望する。【パネリスト】井熊均(日本総研創発戦略センター所長)、鈴木高宏(長崎県産業労働部政策監・EV&ITS推進担当)、友山茂樹(トヨタ自動車常務役員)△コーディネーター 安井孝之(編集委員)
■世界を支える環境技術
世界の人々に安全で効率的な環境・エネルギー技術、商品、システムをいかに発信するか。それが日本の創造的再生とグローバルな貢献につながるだろう。大震災からの復興という課題を踏まえながら、環境ビジネスや技術の新潮流に光を当てる。【パネリスト】金谷年展(慶大大学院教授)、鈴木敦子(環境ビジネスエージェンシー社長)△コーディネーター 小此木潔(編集委員)
■森と生きもの、水の循環
生きものの多様性や生態系を守ることは、人間に多くの恵みをもたらす。その具体例が森林だ。健全な森に蓄えられた水は、海や川の水産資源も育む。荒廃した森をどうよみがえらせ、持続的に利用するか。大震災の復興と森林資源の利用についても考える。【パネリスト】畠山重篤(カキ養殖業)、速水亨(速水林業代表)、中静透(東北大大学院教授)△コーディネーター 神田明美(報道局記者)
■海外メディアが伝えた震災
「ツナミ」や「フクシマ」は世界にどう伝えられ、どんな反応を生んだのか。海外メディアの報道を、現場で取材した記者、ウオッチしたジャーナリストが分析し、「あるべき報道」を論じる。日本メディア報道の検証にもなることだろう。【パネリスト】ポーラ・ハンコックス(米CNNインターナショナル・ソウル支局記者)、ベティナ・ガウス(独taz紙編集委員)、邱震海(香港フェニックステレビ・コメンテーター)△コーディネーター 五十嵐浩司(編集委員)
◇2日目 特別講演
■どうする「25%」/日本の温暖化政策 「節水型社会形成で実現できる水まわり由来CO₂・25%削減」(張本邦雄・TOTO代表取締役社長執行役員)
■暮らし方を変える 「ICTによる持続可能な社会の実現に向けた取り組み」(篠原弘道・NTT取締役研究企画部門長)
■スマートシティーの可能性 「自立・分散型エネルギーネットワークの実現に向けた取り組み」(一色誠一・JX日鉱日石エネルギー専務執行役員)
■自然エネルギーの神話と実力 「太陽光発電の実力と新しい市場の創造」(渕上巌・京セラソーラーコーポレーション代表取締役専務)
■森と生きもの、水の循環 「水を育む森づくり」(山田健・サントリーホールディングス エコ戦略部部長・シニアスペシャリスト)
<福田元首相との懇談会> 1日目夜には、各界のリーダーを招待して懇談会を開く。福田康夫・元首相が「人類とエネルギーの闘い〜3・11が突きつけたもの」をテーマにスピーチした後、若宮啓文・朝日新聞社主筆と語り合う。
<特別メッセージ> 2日目には、南川秀樹・環境事務次官のオープニングスピーチ、来年6月に国連持続可能な開発会議が開かれるブラジルのイザベラ・テイシェイラ環境大臣からのビデオメッセージがある。
◇3日目
17日の「ライブトーク『私たちの進む道』 with 未来授業」では、宮台真司・首都大学東京教授=写真上=が「システム依存からの脱却」、岡田武史・サッカー日本代表前監督=同下=が「日本人と環境 未来を変える覚悟」をテーマに講義します。さらに学生たちと一体となって、これからの日本と私たちの立ち位置について語り合います。4人組ロックバンド「アンダーグラフ」のミニライブも。当日の内容は、TOKYO FMが10月10日に特別番組として放送。ネットでも映像などをポッドキャストで配信します。
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《共催》テレビ朝日
《特別協賛》NTT、京セラソーラーコーポレーション、サントリーホールディングス、JX日鉱日石エネルギー、TOTO、トヨタ自動車
《協賛》パナソニック
《特別協力》国際森林年国内委員会事務局―農林水産省、TOKYO FM
《協力》大和ハウス工業
《後援》外務省、環境省、経済産業省、国土交通省